裏切られた霊力使いの最強剣士は、拾った魔物付きの少女を弟子にしたら育てすぎてしまった〜二人は幻の理想郷を目指して旅をする〜

わんた

文字の大きさ
42 / 47

何を謝っているんですか?

しおりを挟む
「貴族の命令に逆らうとは良い度胸だな! 後でまとめて処罰してやる!!」

「それが嫌なら、あの男と魔物付きを殺せ!!」

「すぐに動けば、今までのことは不問にするぞッ!」

 貴族どもが次々と身勝手なことを言い放った。

 さすがに権力者からの圧力には勝てず、護衛たちはお互いの顔を見ながら悩む。

 ここまでしても動き出さないことにイラ立ちを感じた一人が、妙案を思いついたといった顔で叫ぶ。

「先に魔物付きの女を殺せ! 子供なら情けないお前らでも何とかなるだろ!」

 視線がメーデゥに集まった。

 見た目はか弱い少女だ。背は低く体の線は細い。しかも今は武器を持っていないのだから、集団で襲えば勝てそうだと判断してしまうのも当然である。

 貴族とハラディンという間に挟まれた護衛たちは、辛い状況を抜け出すために少女を殺すための計画を話し合う。

「ガキを殺そうとしても、あの男が邪魔するんじゃないか?」

「だな。足止めが必要だ。しかも大勢いた方がいい」

「だったら俺一人でガキを殺す。残りは男を足止めしろ。逃げまくれば時間ぐらい稼げるだろ」

「……それしかないか。反対するヤツはいるか?」

 誰も否定しなかった。

 これで方針は決まる。

「早くヤれよ」

「当たり前だ。数秒で終わらせてやるぜ」

 メーデゥを殺すために商人の護衛が一人飛び出した。武器は小型のハンドアックスだ。携帯性に優れているので小回りが利く上に威力も高いため、メーデゥの肉を裂き骨を砕くだろう。

 当たれば、の話しだが。

「遅い」

 既に平均的な兵よりも強くなったメーデゥは攻撃を目で追えていた。霊力によって強化された肉体で斧を横に叩いて弾くと、腹を殴りつける。

 防具はなくタキシードのみしか着けていないため攻撃をもろに受けてしまい、胃の中身をまき散らしながら後ろに数メートルほど吹き飛ぶ。

「ゴホッ、ゴフッ、ガハッ」

 せき込みながらも護衛の男はかろうじて生きていた。助けを求めるため、仲間を見る。

「なっ……」

 全滅していた。細切れになって肉塊になっている。床には血の海が作られていて、その中を刀を抜いたハラディンが歩いていた。

「残りはお前だけだ」

「もう手を出さない! 助けてくれ!」

「断る。俺の弟子に手を出したのだから、相応の報いを受けろ」

 護衛の男の周りに白い霊力がまとわりつく。まるで触手のように足、腕、体、首などを締め付けていく。もう声は出せず近づいてくるハラディンを見るしかできなかった。

「仲間を殺そうとした相手は決して許さない」

 刀を振るう価値すらない。霊力で作られた触手が強く締め付けると、骨の折れる音がパーティー会場内に何度か響き渡り、護衛の男は絞め殺されてしまう。触手を解除すると力なく倒れた。

「さて、残ったヤツらはどうする?」

 ぎろりと貴族、そして商人や上級平民たちを見る。

 一瞬にして護衛らが殺されてもなおハラディンと戦おうとする人はいない。死にたくないと叫んでパーティー会場から逃げ出してしまう。

 残ったのは平民たちだが、彼らも同様に出口に向かって走っている。

「追う?」

 青い剣を回収したメーデゥが聞いてきた。例え相手が貴族であっても、ハラディンが命令するのであれば喜んで殺すつもりだ。

「放置で良いだろう。それより持っていても大丈夫なのか?」

「うん」

 青い剣の呪いは人間にのみ効果を発揮する。

 同族である魔物付きに悪影響はない。

「そうか。ならいい」

 暴走する危険が無いと知りハラディンは安堵した。死ぬ危険が無いのであれば使い続ける価値はある武器だ。引き続き持たせると決めた。

「いやぁ。大変なことになりましたねぇ」

 表舞台に立つ計画が破綻した上に、これからお尋ね者になるかもしれないのにペイジは笑顔を浮かべている。

 それが逆に恐ろしいし、罪悪感をかき立ててくる。

「すまない」

「何を謝っているんですか? ハラディン様は悪いことをしたのでしょうか?」

 ニコニコと聞いてきているが、目だけは鋭い。

「実は襲撃の主犯と顔見知りだった」

「なるほど、なるほど。それは戦いにくいですよね。逃がしてしまうのもわかります」

「…………」

「五年もの時間をかけて実現しそうだった計画が破綻し、お尋ね者になっても仕方がないですよね?」

「…………すまん」

「謝っても現実は変わりません」

 ペイジはハラディンの前で立ち止まると、顔を近づける。

「ならどうすればいいんだ?」

「計画を変えなければいけません。もちろん、協力してくれますよね?」

「そうしたいのだが我々には目的がある」

 先約があるため即答はできない。

「それは何ですか? まさか教えられないなんて事、無いですよね」

 答えるか悩んでしまい、メーデゥの方を見た。

「師匠の好きにして」

 小さい依頼主からの許可は得た。これでペイジに目的を伝えても問題はない。

「魔物付きだけの村を探している」

「そんな場所……確かにあるかもしれませんね」

 ないと否定しそうになったペイジだが、パーティー会場で死体になっている成人した魔物付きを見て考えを改める。

 彼らはどこで生まれ、育ったのか。少なくともバックス港町周辺ではあり得ない。住民が必ず排除してしまう。

 誰にも知られずに住む場所があると、ペイジもハラディンの結論に納得した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽
ファンタジー
人気ダンジョン配信チャンネル『勇者ライヴ』の裏方として、荷物持ち兼カメラマンをしていた俺。ある日、リーダーの勇者(IQ低め)からクビを宣告される。「お前の使う『重力魔法』は地味で絵面が悪い。これからは派手な爆裂魔法を使う美少女を入れるから出て行け」と。俺は素直に従い、代わりに田舎の不人気ダンジョンへ引っ込んだ。しかし彼らは知らなかった。彼らが「俺TUEEE」できていたのは、俺が重力魔法でモンスターの動きを止め、カメラのアングルでそれを隠していたからだということを。俺がいなくなった『勇者ライヴ』は、モンスターにボコボコにされる無様な姿を全世界に配信し、大炎上&ランキング転落。  一方、俺が田舎で「畑仕事(に見せかけたダンジョン開拓)」を定点カメラで垂れ流し始めたところ――  「え、この人、素手でドラゴン撫でてない?」「重力操作で災害級モンスターを手玉に取ってるw」「このおっさん、実は世界最強じゃね?」とバズりまくり、俺は無自覚なまま世界一の配信者へと成り上がっていく。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

処理中です...