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笑わぬ虎は、青瞳を愛する。
episódio.5 ロイヤルファミリーのゆくすえ
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タイラント国王の正妻、モーティナ王妃は魔女であった。
あまねく対象物の姿形を、霊薬でもって変化させることができる。驚嘆すべき才能であろう。
だが、ことさら現実主義者なタイラント国王にはそのファンタジックを疎まれ、彼女の美技は無用の長物と化している。
当日、モーティナ王妃は天守塔の小窓から下界の様子を、やわらぎつつある喘息に胸をおさえながら気慰みついでにじっくりと眺めていた。
なにげともなく厩舎が目にとまったので、かねて蹄洗場も見やる。すれば、あのオリエンタル将帥が、またもや小娘連中からおいしそうな麵麭を頂戴しているではないか。
モーティナ王妃は、切歯した。
さして二枚目でもないのになぜあやつはこんなにも人気絶頂であるのか、思えば妻には無愛想な夫からも相当にもてはやされており心底うらやましい。
キドンを見ると、みずからの孤立する境遇を再認識させられて寂しくなる。寂しくなるのに、どうしてか取り巻く空気が心なしか甘く感ぜられる。
モーティナ王妃はそこはかとなくに、いだいてはならぬ欣慕を払拭しようとかぶりを振った。
そうして、今日こそは夫に同衾をねだるべく、タイラント国王の臥所へと向かうのだった。
ところで、最近の夫婦仲は冷めていた。
婚姻して長年にわたるが、いまだにコウノトリは赤子を運んできてはくれない。純血の後継者をほぼ断念していたタイラント国王は、腹いせのすえ不妊の妻に匙を投げることもしばしば、いつしか寝床も別室になっていた。
それでも王妃という富貴にあやかるため、女房は必死になって亭主を愛していたのである。
さて、かつて枕を分かち合ったワイドキングサイズの布団にてのびやかに寝転がってくつろぐ夫へ、モーティナ王妃はかような堕落者にはほとほと嫌気がさすといらだちながらも、ひさびさの夜這いを懇願した。
さればタイラント国王からは、初産にも至らぬ女を抱く趣味はないと、無下な皮肉が返ってきた。
「ほれ、そこらへんのどぶネズミでも赤ん坊に変えれば良かろうが」
あげくには、野卑にもほどがある非情な文句を小便のように注がれる。
彼にとっては、ほんのちょっと妻をからかうつもりで口をすべらせただけなのかもしれない。だが、この一言はしおらしい女神の忍耐の糸を切らせた。
モーティナ王妃は、愕然として口をつぐむ。
父なる神がお許しになるのなら、己が身代わりになって赤子を顕現させよう。さすれば自分もろとも、夫は愛してくれるだろうか。
しかしこの悪漢、産ましめる愛らしい天使を「そこらへんのどぶネズミで代用しろ」とつぶやいた。
————どぶネズミ。
その用語が、どんなに彼女の心傷をえぐったかわからない。
夫婦の子宝をどぶネズミから授かろうとは、人間の尊厳を軽々しく侮辱するいけぞんざいな発言である。この男に言わせれば、子供なんぞ王位継承権を持ち合わせるだけの畜生なのだ。
モーティナ王妃は、涙液で満杯の涙腺が崩壊せぬうちに、寝室を飛び出した。
かたく封印した戸口にすがるようにして座り込み、声をおしころしてむせび泣く。
獣畜を用いた魔法などではなく、夫に孕ませられたヒトとしての子供が欲しかった。これではもはや、女性として生きる甲斐もない。
あまねく対象物の姿形を、霊薬でもって変化させることができる。驚嘆すべき才能であろう。
だが、ことさら現実主義者なタイラント国王にはそのファンタジックを疎まれ、彼女の美技は無用の長物と化している。
当日、モーティナ王妃は天守塔の小窓から下界の様子を、やわらぎつつある喘息に胸をおさえながら気慰みついでにじっくりと眺めていた。
なにげともなく厩舎が目にとまったので、かねて蹄洗場も見やる。すれば、あのオリエンタル将帥が、またもや小娘連中からおいしそうな麵麭を頂戴しているではないか。
モーティナ王妃は、切歯した。
さして二枚目でもないのになぜあやつはこんなにも人気絶頂であるのか、思えば妻には無愛想な夫からも相当にもてはやされており心底うらやましい。
キドンを見ると、みずからの孤立する境遇を再認識させられて寂しくなる。寂しくなるのに、どうしてか取り巻く空気が心なしか甘く感ぜられる。
モーティナ王妃はそこはかとなくに、いだいてはならぬ欣慕を払拭しようとかぶりを振った。
そうして、今日こそは夫に同衾をねだるべく、タイラント国王の臥所へと向かうのだった。
ところで、最近の夫婦仲は冷めていた。
婚姻して長年にわたるが、いまだにコウノトリは赤子を運んできてはくれない。純血の後継者をほぼ断念していたタイラント国王は、腹いせのすえ不妊の妻に匙を投げることもしばしば、いつしか寝床も別室になっていた。
それでも王妃という富貴にあやかるため、女房は必死になって亭主を愛していたのである。
さて、かつて枕を分かち合ったワイドキングサイズの布団にてのびやかに寝転がってくつろぐ夫へ、モーティナ王妃はかような堕落者にはほとほと嫌気がさすといらだちながらも、ひさびさの夜這いを懇願した。
さればタイラント国王からは、初産にも至らぬ女を抱く趣味はないと、無下な皮肉が返ってきた。
「ほれ、そこらへんのどぶネズミでも赤ん坊に変えれば良かろうが」
あげくには、野卑にもほどがある非情な文句を小便のように注がれる。
彼にとっては、ほんのちょっと妻をからかうつもりで口をすべらせただけなのかもしれない。だが、この一言はしおらしい女神の忍耐の糸を切らせた。
モーティナ王妃は、愕然として口をつぐむ。
父なる神がお許しになるのなら、己が身代わりになって赤子を顕現させよう。さすれば自分もろとも、夫は愛してくれるだろうか。
しかしこの悪漢、産ましめる愛らしい天使を「そこらへんのどぶネズミで代用しろ」とつぶやいた。
————どぶネズミ。
その用語が、どんなに彼女の心傷をえぐったかわからない。
夫婦の子宝をどぶネズミから授かろうとは、人間の尊厳を軽々しく侮辱するいけぞんざいな発言である。この男に言わせれば、子供なんぞ王位継承権を持ち合わせるだけの畜生なのだ。
モーティナ王妃は、涙液で満杯の涙腺が崩壊せぬうちに、寝室を飛び出した。
かたく封印した戸口にすがるようにして座り込み、声をおしころしてむせび泣く。
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