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笑わぬ虎は、青瞳を愛する。
episódio.24 匕首②
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おかわりをねだろうと大口を開けた啸風子の、鋭く尖った太い大牙が小さく縮んで人間大の犬歯と化す。次いで、長尺のマズルが引っ込んで獅子鼻になり、スリット状であった瞳孔がただの切れ長の細目に変化した。
漆黒の頭髪が生え、頭頂部に近かった両耳の位置もこめかみあたりへとくだるに、縦縞模様の体毛もすべて禿げ落ちてすっぴんがあらわとなった様形こそは、武骨性を帯びた黄肌の矮躯であった。前足の鉤爪は扁爪となりてタコだらけの手指に変わり、後ろ足も同様にホモ・サピエンスのごとく膝皿のある直立二足のヒトが顕現する。
いましがた、前兆もなきままの予期せぬことに、啸風子は硬骨漢キドンへと容姿が戻ったのである。
アルコは、まさか啸風子が現下即席で人間に復活しようとは奇想天外の違算で、匕首の握らんとしていた手掌がこわばって固まる。
対するキドンは、自身の異変なるに、みずからの体中を、啸風子にあらずをたしかめながらさすり、あきらかにトラの呪縛の解除したることを理解する。
されば、啸風子のキドンなる実態を目の当たりにして凍りついているアルコと一瞬視一視するに、己もまた口の半開く絶句した顔面で硬直した。
双方、「なぜに今」とばかりに目をしばたたかせてしばし見合う。
その寸暇で、キドンはあわただしく黙考した。
啸風子であった身体の人間に戻ること嬉しくもありながら、反面アルコの、かくもさまがわりした自分への心証の好悪が懸念される。なにしろ、己はシェメッシュ小邦にとっての敵国ルンブランの武人で、しかも塩梅悪くもアルコの射損ねた将帥なのだ。
かようなごとき毛皮をかぶった親友たる啸風子のまことの姿形を正視したアルコが、一人のかたきなるぞと謬見したればこそ、キドンに対する好感はたちどころに崩れ去って怨恨殺気へと豹変するであろう。
キドンは、青ざめた。
従来つちかった友情の糸が切断されるのを危惧し、とりわけて死を怖がるわけではないが、ことさらには心より恋するアルコから殺されるのを恐れた。
されば両手を挙げて、降伏の姿勢をとる。
なおも絆は途切れざる旨、敵意のない潔白たる心境を、盟友アルコに両瞳で訴えた。
するとアルコは、キドンの全身の足から頭までを一往して、舐めずるようなまなざしでいかがわしく眺めるに、白日の下の見覚えのある肖像なるぞと思うてか、目算の錯誤なきアクシデントにほのかに笑う。
そして、一言このように言い放つのであった。
「知っていたよ、きみのことは。敵将でしょ?」
このフレーズが、キドンの顔色をいっそう蒼白にさせた。
アルコに啸風子の真相を知られていた事実を悟ったキドンは、しかし観念する余裕を示すどころではなかった。
アルコが自分の正体を周知していたということは、シェメッシュ小邦によるルンブラン公国へのスパイ活動がおこなわれていたという現実であり、キドンはそれをアルコの前述で把握した。だが、現時点ではこれについて憤慨するゆとりもない。
アルコと啸風子は、ともに誓い合った親友であった。
そのはずが、啸風子が啸風子でなくしてキドンという敵将に変貌した途端、この関係性はにわかに敵仲へと転換した。かかることへの絶望的悲観のほうが、よほどキドンの心を支配し銷魂に暮れる。
アルコいわく、啸風子の本性はすでに把捉していたというが、いったいなんどきに公然となったのであろうか。
この欺瞞を容認した上で、いつ刃傷沙汰になってもおかしくはない親友を演じ、この間柄を持続してきたのであろうか。啸風子が敵国将帥であった件について、アルコがいかなる情動を秘めているのか、キドンははかりかねた。
漆黒の頭髪が生え、頭頂部に近かった両耳の位置もこめかみあたりへとくだるに、縦縞模様の体毛もすべて禿げ落ちてすっぴんがあらわとなった様形こそは、武骨性を帯びた黄肌の矮躯であった。前足の鉤爪は扁爪となりてタコだらけの手指に変わり、後ろ足も同様にホモ・サピエンスのごとく膝皿のある直立二足のヒトが顕現する。
いましがた、前兆もなきままの予期せぬことに、啸風子は硬骨漢キドンへと容姿が戻ったのである。
アルコは、まさか啸風子が現下即席で人間に復活しようとは奇想天外の違算で、匕首の握らんとしていた手掌がこわばって固まる。
対するキドンは、自身の異変なるに、みずからの体中を、啸風子にあらずをたしかめながらさすり、あきらかにトラの呪縛の解除したることを理解する。
されば、啸風子のキドンなる実態を目の当たりにして凍りついているアルコと一瞬視一視するに、己もまた口の半開く絶句した顔面で硬直した。
双方、「なぜに今」とばかりに目をしばたたかせてしばし見合う。
その寸暇で、キドンはあわただしく黙考した。
啸風子であった身体の人間に戻ること嬉しくもありながら、反面アルコの、かくもさまがわりした自分への心証の好悪が懸念される。なにしろ、己はシェメッシュ小邦にとっての敵国ルンブランの武人で、しかも塩梅悪くもアルコの射損ねた将帥なのだ。
かようなごとき毛皮をかぶった親友たる啸風子のまことの姿形を正視したアルコが、一人のかたきなるぞと謬見したればこそ、キドンに対する好感はたちどころに崩れ去って怨恨殺気へと豹変するであろう。
キドンは、青ざめた。
従来つちかった友情の糸が切断されるのを危惧し、とりわけて死を怖がるわけではないが、ことさらには心より恋するアルコから殺されるのを恐れた。
されば両手を挙げて、降伏の姿勢をとる。
なおも絆は途切れざる旨、敵意のない潔白たる心境を、盟友アルコに両瞳で訴えた。
するとアルコは、キドンの全身の足から頭までを一往して、舐めずるようなまなざしでいかがわしく眺めるに、白日の下の見覚えのある肖像なるぞと思うてか、目算の錯誤なきアクシデントにほのかに笑う。
そして、一言このように言い放つのであった。
「知っていたよ、きみのことは。敵将でしょ?」
このフレーズが、キドンの顔色をいっそう蒼白にさせた。
アルコに啸風子の真相を知られていた事実を悟ったキドンは、しかし観念する余裕を示すどころではなかった。
アルコが自分の正体を周知していたということは、シェメッシュ小邦によるルンブラン公国へのスパイ活動がおこなわれていたという現実であり、キドンはそれをアルコの前述で把握した。だが、現時点ではこれについて憤慨するゆとりもない。
アルコと啸風子は、ともに誓い合った親友であった。
そのはずが、啸風子が啸風子でなくしてキドンという敵将に変貌した途端、この関係性はにわかに敵仲へと転換した。かかることへの絶望的悲観のほうが、よほどキドンの心を支配し銷魂に暮れる。
アルコいわく、啸風子の本性はすでに把捉していたというが、いったいなんどきに公然となったのであろうか。
この欺瞞を容認した上で、いつ刃傷沙汰になってもおかしくはない親友を演じ、この間柄を持続してきたのであろうか。啸風子が敵国将帥であった件について、アルコがいかなる情動を秘めているのか、キドンははかりかねた。
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