浮気した婚約者を地下室に閉じ込めました。愛人とずっと一緒にいられて幸せだね。

Hibah

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袋からベンジャミンを出した。ロープで口を縛っているから、ふがふが言っているだけだ。後ろ手に縛られた腕とくっつけるようにして縛られた足をバタバタさせながら、悶え苦しんでいる。

ベンジャミンのことを愛していたけど、さらに愛しいと感じるようになった。苦悶の表情を浮かべ、時に目をつむり諦めたような顔をする。そうかと思ったらまた生き返ったように縄を解こうとし始める。無駄だというのに、必死で現実に抗おうとする姿は、美しくさえあった。

私はベンジャミンの口のロープだけを切った。口を開けられるようになった瞬間、ベンジャミンは「助けてくれ!!! 誰か!!!」と叫んだ。

私はベンジャミンに言った。
「無駄よ。ここは地下室なの。窓もないし、出入り口はひとつだけ。余計な酸素を使わないでちょうだい」

ベンジャミンはさっきまでの苦悶の表情を変え、眉間にシワを寄せて怒り始めた。
「イブリン、お前はどういうつもりだ? こんなことをして許されると思っているのか?」

私は答えた。
「許されるもなにも……。ベンジャミン、あなたのためよ。あなたがガーネットとずっと一緒にいられるように、こうして地下室まで連れてきてあげたんじゃない?」

「お、お前は……狂っているのか!?」

「私はまともよ。あなたのほうが狂っているわ。結婚する前から愛人を連れてきて、私を裏切るなんて」

「それとこれとは話が別だろ! これじゃあまるで閉じ込められているみたいじゃないか! 悪いことは言わないから、すぐに僕とガーネットを解放してくれ」

「嫌よ」

ベンジャミンは側頭部を牢の床に打ちつけはじめた。

「じゃあどうすればいいんだよ!? イブリンの目的は何なんだよ!?」

「私はね、ベンジャミンの恋を応援しようと思ったの。で、ベンジャミンがガーネットに飽きたら、私を愛してもらおうと思って」

「どうかしてるぞ……?」

「あなたはガーネットのことを、駆け落ちしてもいいほど好きだそうね」

「……そうだよ。彼女のためなら命なんて惜しくない」

「知り合って半年なんでしょ? いれこみすぎじゃない?」

「君にはわからないんだよ。恋の電撃が。君は……恋をしたことがないのか?」

「ベンジャミン。あなたに恋してるわ」

「であればわかるだろう! 好きで好きでしかたない気持ちが!」

「そうね。だから私はあなたとガーネットをこうして地下室に連れてきたのよ。駆け落ちする必要なんてない。逃げ回る必要もない。この地下室で、ガーネットと暮せばいいのよ。私、優しいでしょ?」

「嫌だよ……こんな地下室にいたくないよ……」

「どうして? 好きな人とはどこにいても幸せでしょ? 私だったらそう思うわ」

「君は完全におかしくなっている……。どうかしている」

「何度も言うようだけど、私はまともよ。あなたはガーネットと、この地下室で暮らしなさい。恋の電撃とやらが続くまでね。私があなたたちの恋を見届けるの。そして最後にあなたは、私の大いなる愛に気づくのよ」

ガーネットの入った袋がモゴモゴ動き始めた。なんとなくうるさく感じたから、私は蹴りを入れた。するとすぐに大人しくなった。

こうして私は、ベンジャミンとガーネットを地下室で飼い始めた。ベンジャミンがいつか私の愛に気づき、私を求める日が来ると信じて。
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