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「喜べ、ジュリエッタ。お前の婚約者はローレンス伯爵となった。とてもお優しいということで評判だ」
お父様にこう言われたとき、あまりにも突然のことで頭の整理がつかなかった。
「あの……お父様……私はもう結婚しなければならないのですか?」
私の煮え切らない態度にいらだったのか、お父様は眉間にシワを寄せた。
「そうだ。去年すでにお前は結婚できる歳になっていたのだし、遅いくらいだ。よかったな。ローレンス伯爵がお前を受け入れてくれるなんて」
私はそもそも貴族社会のことはほとんど知らないに等しいし、ローレンス伯爵という方の名前も知らなかった。
でもこの婚約はお父様が決めたことで、たとえ私がこの場で拒否したところでどうにかなるものでもなさそうだった。
「わかりました。ローレンス様とはいつ会えるのですか?」
お父様は私が受け入れた様子を見て満足そうに笑った。
「来月会えるぞ。顔合わせをして、その後本格的に結婚へ向けた準備となる。リリアンに、お前の身の回りを整えるよう言っておいたから、怠ることのないようにな」
お父様の後ろに控えていたリリアンが私に会釈する。リリアンはお父様が信頼する女使用人で、私とは今まであまり関わりがなかった。そんなリリアンと一緒にいる時間が増えるのは嬉しかった。
「よろしくね! リリアン」
「……はい、お嬢様……よろしくおねがいします……」
小声で返事したリリアンは、やはり明るい性格ではなさそう。でも、お父様からの信頼もあついから、きっと仲良くなれるわ。
婚約を知らされてから、私は準備を始めた。
よく晴れた日の午後、リリアンと街へ出かけた。
化粧品や洋服などを一緒に見て回った。
「リリアン、これなんてどうかしら?」
「そうですね……お嬢様は赤色が好きですものね。この赤色のドレスも買って、向こうの白色のドレスも買いましょうか。初対面には白がおすすめです」
思っていたよりリリアンがしっかり受け答えをしてくれるから、楽しかった。当たり前だけど、ただの無口な使用人ではない。
「なんで初対面は白のほうがいいの?」
リリアンは微笑みながら、
「初対面のときはつつましい色で、大人しい雰囲気を出すほうがよいのです。特にローレンス様の家は保守的でして……」
と、少し恐縮して説明してくれた。
なるほど……。そうか、結婚するんだもんね。自分の好きな服を買いに来たんじゃないものね……。
「わかったわ。教えてくれてありがとう」
私は普通の声色で言ったつもりだったけど、リリアンは私の顔を見るやいなやすぐに店内を歩き回った。
「これなんて、どうでしょう!」
リリアンは、赤色の宝石があしらわれた首飾りを手にのせていた。とても輝いていて美しく、赤色の色具合も私好みだった。でも……派手じゃない?
リリアンは私の首にその首飾りをつけながら、
「白いドレスを着つつも、お嬢様の好きな赤色も取り入れましょう! アクセントになりますし、これで完璧です」
と張り切った声だった。
鏡の前に立つと、地味な白のドレスと派手めな赤の首飾りが、想像以上に調和していた。
「リリアン、とってもいいわよ! これにするわ!」
リリアンも嬉しそうに笑った。
私もリリアンにお返しをしたくなった。
「あなたも好きな物を一個買いなさい」
「いえ……遠慮させていただきます。今日はお嬢様の買い物に来たわけですし、それにわたしなんかが……」
リリアンは縮こまって後ずさりしている。
「いいのよ! どうせお父様からは好きなように買ってきたらいいと言われているんだし。私もあなたが好きなものを買うほうが気楽でいいわ」
困った顔をするリリアンだったけど、
「かしこまりました……。ありがとうございます!」
と喜んでいた。
その喜び方が、まるで子どもがプレゼントしてもらうときのようで、可愛かった。
リリアンはスカーフが好きなようで、吟味しつつも手早く決断した。
二人で店を出た。
するとちょうど同じタイミングで、正面にあった別の洋服店から使用人らしき男性が出てきた。
彼は後ろを振り返ってこう言った。
「ローレンス様。お足元をお気をつけください。参りましょう」
お父様にこう言われたとき、あまりにも突然のことで頭の整理がつかなかった。
「あの……お父様……私はもう結婚しなければならないのですか?」
私の煮え切らない態度にいらだったのか、お父様は眉間にシワを寄せた。
「そうだ。去年すでにお前は結婚できる歳になっていたのだし、遅いくらいだ。よかったな。ローレンス伯爵がお前を受け入れてくれるなんて」
私はそもそも貴族社会のことはほとんど知らないに等しいし、ローレンス伯爵という方の名前も知らなかった。
でもこの婚約はお父様が決めたことで、たとえ私がこの場で拒否したところでどうにかなるものでもなさそうだった。
「わかりました。ローレンス様とはいつ会えるのですか?」
お父様は私が受け入れた様子を見て満足そうに笑った。
「来月会えるぞ。顔合わせをして、その後本格的に結婚へ向けた準備となる。リリアンに、お前の身の回りを整えるよう言っておいたから、怠ることのないようにな」
お父様の後ろに控えていたリリアンが私に会釈する。リリアンはお父様が信頼する女使用人で、私とは今まであまり関わりがなかった。そんなリリアンと一緒にいる時間が増えるのは嬉しかった。
「よろしくね! リリアン」
「……はい、お嬢様……よろしくおねがいします……」
小声で返事したリリアンは、やはり明るい性格ではなさそう。でも、お父様からの信頼もあついから、きっと仲良くなれるわ。
婚約を知らされてから、私は準備を始めた。
よく晴れた日の午後、リリアンと街へ出かけた。
化粧品や洋服などを一緒に見て回った。
「リリアン、これなんてどうかしら?」
「そうですね……お嬢様は赤色が好きですものね。この赤色のドレスも買って、向こうの白色のドレスも買いましょうか。初対面には白がおすすめです」
思っていたよりリリアンがしっかり受け答えをしてくれるから、楽しかった。当たり前だけど、ただの無口な使用人ではない。
「なんで初対面は白のほうがいいの?」
リリアンは微笑みながら、
「初対面のときはつつましい色で、大人しい雰囲気を出すほうがよいのです。特にローレンス様の家は保守的でして……」
と、少し恐縮して説明してくれた。
なるほど……。そうか、結婚するんだもんね。自分の好きな服を買いに来たんじゃないものね……。
「わかったわ。教えてくれてありがとう」
私は普通の声色で言ったつもりだったけど、リリアンは私の顔を見るやいなやすぐに店内を歩き回った。
「これなんて、どうでしょう!」
リリアンは、赤色の宝石があしらわれた首飾りを手にのせていた。とても輝いていて美しく、赤色の色具合も私好みだった。でも……派手じゃない?
リリアンは私の首にその首飾りをつけながら、
「白いドレスを着つつも、お嬢様の好きな赤色も取り入れましょう! アクセントになりますし、これで完璧です」
と張り切った声だった。
鏡の前に立つと、地味な白のドレスと派手めな赤の首飾りが、想像以上に調和していた。
「リリアン、とってもいいわよ! これにするわ!」
リリアンも嬉しそうに笑った。
私もリリアンにお返しをしたくなった。
「あなたも好きな物を一個買いなさい」
「いえ……遠慮させていただきます。今日はお嬢様の買い物に来たわけですし、それにわたしなんかが……」
リリアンは縮こまって後ずさりしている。
「いいのよ! どうせお父様からは好きなように買ってきたらいいと言われているんだし。私もあなたが好きなものを買うほうが気楽でいいわ」
困った顔をするリリアンだったけど、
「かしこまりました……。ありがとうございます!」
と喜んでいた。
その喜び方が、まるで子どもがプレゼントしてもらうときのようで、可愛かった。
リリアンはスカーフが好きなようで、吟味しつつも手早く決断した。
二人で店を出た。
するとちょうど同じタイミングで、正面にあった別の洋服店から使用人らしき男性が出てきた。
彼は後ろを振り返ってこう言った。
「ローレンス様。お足元をお気をつけください。参りましょう」
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