上 下
4 / 20

4

しおりを挟む
お父様が私のほうを見て手招きしている。


(行くしかないわよね……)


一歩、また一歩と近づくと、あの日見た”ローレンス様”ではないとわかってくる。後ろをついてきているリリアンは無表情で、もはや自分の仕事に集中しているようだった。

お父様はローレンス様に私を紹介した。
「娘のジュリエッタです。恥ずかしがり屋でしてね、失礼しました。ローレンス様が来るのを待ち望んでいたんですよ」

ローレンス様はこちらへ目を向けた。

「そうでしたか。僕も楽しみにしてたんですよ。はじめましてジュリエッタ。ローレンスといいます。これからよろしくね」

明るい声だった。
ローレンス様はとても柔らかい雰囲気を持っていて、笑顔に優しいオーラが溢れていた。言葉の穏やかさがそのまま人格に現れているかのようで、丁寧な振る舞いをする人である。

「はじめましてローレンス様。ジュリエッタと申します。今日はお越し下さいましてありがとうございました」

私はなんとか平静を装って挨拶した。内心は、あの日見た”ローレンス様”でないという動揺が蠢いていて、目もまっすぐ見ることができなかった。

「緊張しているのかな? 大丈夫だよ。いきなり婚約って言われてびっくりしているよね。僕も徐々にジュリエッタを知っていけたらと思っているし、最初は気楽に話すことから始めようよ」

お父様が私を恥ずかしがり屋だと紹介してくれたおかげで、なんとかそういう性格としてこの場を切り抜けられそうだった。

ローレンス様は最大限の気遣いを見せているのに、私が応えられないのがもどかしかった。ローレンス様は前評判どおりとても良さそうな伯爵様だった。身分が高いのに気取ったところがなく、親しみやすい。

それなのになんなのだろう……。この失望感。自分でこんな気持ちになっているのが嫌すぎる。



昼食会の席にローレンス様を案内した。
私は招いている側なのに、椅子へエスコートまでしてもらった。ローレンス様は私の家族へ感謝の言葉を繰り返し述べていて、使用人への礼も怠らなかった。


「……少し……失礼します」


私はリリアンに目配せをして、いったん席を離れた。
ついてきたリリアンと、自分の部屋へ戻った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

『そうぞうしてごらん』っていうけどさ。どうしろっていうのさ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:596pt お気に入り:94

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:23,111pt お気に入り:1,556

政略結婚の相手に見向きもされません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:546pt お気に入り:4,399

隻腕令嬢の初恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,995pt お気に入り:101

処理中です...