魔性の女に幼馴染を奪われたのですが、やはり真実の愛には敵わないようですね。

Hibah

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エリザベスとイザベラがバチバチにやり合った舞踏会から数日が経った。

オスカーの母親ナディアがお茶会を開くとのことで、しきりに誘われたエリザベスは参加することにした。気が進まなかったものの、小さい頃から我が子のように可愛がってくれているナディアの好意を無下にはできなかった。オスカーとの関係がうまくいっているときにはナディアに会うのもウキウキするが、オスカーに疎まれている最近では、会いにくいというのが正直な気持ちだった。

青々と色づく芝生の上で、白いテーブルがお茶会の豪華な品々を魅せていた。テーブルはおとぎ話に出てくるかのような網目の装飾がなされていて、湾曲した脚が絶妙なバランスを取っている。テーブルの上には香り高いダージリンや芳醇なアッサム、甘さたっぷりのカプチーノが温かい気泡と共に注がれ、所狭しと並べられていた。加えて、チョコレートケーキやフルーツタルトなど色とりどりのお菓子がお皿の上を鮮やかに彩り、午後の陽光に照らされていた。

「いらっしゃい、エリザベス。元気?」

エリザベスは、ナディアが微笑みながら指差した彼女の隣の席に、少し緊張しながらも落ち着いて歩み寄り、ゆっくりと腰を下ろした。自分を温かく迎え入れてくれるナディアの顔を見つめ、エリザベスは安心して微笑み返した。自分とオスカーとの関係の悪化は、ナディアに関わりがないことだと言い聞かせた。もしかしたらオスカーから何か聞いているかも知れないが、それが女性どうしの友人関係に影響するとは思えなかった。エリザベスにとってナディアは第二の母親のような人で、オスカーとうまくいっていない今だからこそ、むしろナディアという”母親”を頼りたいという心持ちがしていた。

「はい、元気です。ナディア様もお元気そうで何よりです」

ナディアは、エリザベスの声がいつもより小さいことに気がついた。心なしか、顔がやつれているようにも見える。

「オスカーのことで迷惑かけて……ごめんなさいね」

庭の花々へ目をやっていたエリザベスは、はっとしてナディアのほうを向いた。すでにお見通しなのだと思うと、どんなふうに話を進めていけばいいのかわからなかった。まさかオスカーの母親の前でオスカーの愚痴を言うわけにもいかない。でも、エリザベスの頭の中はオスカーのことでいっぱいだった。ナディアといるのにオスカーの話を避けるというのもおかしな話で、やはりオブラートに包む前提ではあっても、今の気持ちを相談しようと考えたのだった。

「いえいえ……私はただオスカーのことが心配で……」と言いつつ、エリザベスはまた顔をそらして「別にオスカーが誰を好きになろうが、自由です。でも……イザベラだけは……慎重に考えてほしいなって……」

ナディアはエリザベスが真剣に息子のことを考えてくれているのが嬉しかった。そしてエリザベスのような幼馴染が身近にいながら、その愛情に気づかない息子の鈍感さに頭を抱えた。

「わたしからもオスカーには言ったのよ。イザベラはやめときなさいって。だけどこういうときって、皮肉なものね。ダメと言えば言うほど、本人が意固地になっちゃう」

「わかります。私、最近オスカーに避けられるようになっちゃって……。前みたいに気軽に話せないんです」

「そうだったのね……。エリザベスがこんなに心配してくれているのに、あの子ったら……」

エリザベスは少し安心した。オスカーは母親にも忠告されていて、イザベラとの関係を喜ばれていない。この状況がエリザベスにとって心強かった。

「ナディア様。突然ですが私は最近になってようやく……オスカーのことを本気で愛していると自覚しました。今まであった幼き好意とは、まったく別のものです」

エリザベスは、立ち込める霧を払い除けるかのようなまなざしで、ナディアをまっすぐ見つめて言った。ナディアはその力強さに驚いたが、それはオスカーに対するエリザベスの愛を知らなかったからではなく、あえて言葉として伝えてくるエリザベスの振る舞いに彼女の成長を感じたからである。

「わたしも、あなたとオスカーが結ばれてほしいと思っているわ……」

ナディアはエリザベスとオスカーの結婚に賛成だったが、オスカーの父フレドリックは反対だった。フレドリックは王女に狙いを定め、政治的に奔走していた。王家の血筋を取り込むことで、家の権力強化に結びつけたかったのである。

エリザベスも高貴な身分の女性であったが、それだけではすんなり結婚できないことを彼女自身が認めていた。だからこそ、二人の間に愛情があるという事実が強みだと捉えてきた。しかし、今やそれも土台からぐらついていて、エリザベスは自分の長年積み上げてきた愛情が無に帰するような気がしたのだった。

「愛とは何なのでしょう? 報われずに終わる愛の記憶は、どのように仕舞っておけばいいのでしょう? 親が決めた相手としか結婚できないのなら、それまでに出会う大切な人は、自分にとって何なのでしょう?」

エリザベスは込み上げてきた涙を目尻から流さないよう、必死に耐えていた。ナディアはそんな彼女を見て言葉に窮した。かつての自分と彼女を重ね合わせ、悲しい恋が繰り返される貴族社会を憂いた。

「愛とは何か……難しい話ね。わたしも結婚する前、恋しい人がいたわ。だからエリザベスの気持ちもわかるつもりよ」

エリザベスはとうとう涙を流し、両目を拭った。ナディアの思いやりの言葉に感謝するようにしてうなずくと、鼻をすすった。

「ナディア様は、どのようにして乗り越えたのですか?」

ナディアは「どうだったかな」とはにかみながら、過去の思い出に自分の身を置き、湿気を帯びた風に揺れる紅茶を見つめた。

「わたしは結婚してすぐに子どもができたの。子育てや社交界の付き合いで、あっという間に時間が過ぎたわ。あなたとオスカーが赤ん坊だったときですら、まるで昨日のことのよう」

ナディアはそう言うと、紅茶を口にした。ティーカップを手に持ったまま、視線を落とし、静かな調子で続けて言った。

「自分に何ができるのか。そればっかり考えて、必死だったかしら。妻になったと思ったら、すぐ母親になっちゃったの。初めてづくしの毎日だったから、しっかりしなくちゃって感じで――」

エリザベスはナディアの言葉にじっと耳を傾けた。



(自分に何ができるか……か……)



紅茶を口に運びながら、エリザベスの視線は遠くの空に投げかけられ、白く輝く積乱雲とその影に溶けていった。そんなとき、記憶の底から、これまで自分がオスカーに対してどれだけの愛情を示してきたのかという疑問が湧いてきた。過去の舞踏会を思い返すと、自分から積極的にオスカーに接した記憶がほとんどない。それどころか、オスカーが自分への関心を見せないとき、ドロドロとした不満が心の中で渦巻いていた。オスカーから何を得られるかに目を向けすぎてしまい、彼への愛情を見失っていたのではないか。エリザベスはそのように最近の行動を振り返ると、彼に何も与えられていない自分に初めて気づいたのであった。
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