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殺気立ったアランが玄関で執行官を怒鳴りつけるも、執行官はたびたび咳払いをしながら、淡々と令状を示した。


「アラン君。ごほん。財産没収の命令が出ているのだよ。素直に従うしかないのだよ。ごほん」


「うるせえ! 帰れ! 大工もやめさせられたのに、このうえ金までなくなったらどうやって生きていけってんだ!? 浮浪者になるしかなくなるだろうが!」


煮えくり返っているアランとは対象的に、咳払いが癖の執行官は無表情で答える。


「ごほん。だから今日は奴隷船の商人マクシミリアンを連れて来ているのだよ。彼に任せておけば仕事は一生あるし、食うにも困らないのだよ。ベランジェール伯爵夫人のお計らいなのだよ。喜べ。ごほん」


「あほか? 奴隷なんか誰がなるものか! 俺をさっさと組合に復活させろ。奴隷が欲しいなら代わりにヴァネッサを連れて行け。あのクソ女に俺はハメられたんだ」


執行官は軽くため息をついた。


「わかっていないようだね、アラン君。ごほん。君にはもう市民権がないも同然なのだよ。君の悪評はすでに街中に知れ渡っているし、どうせこのまま長屋にいても、犯罪に手を染めるだけなのだよ。すぐに暴力を振るって他人を困らせ、他人を利用し反省もしないゴミクズは、奴隷船がお似合いだと思うがね? ごほん」


「なんだとこの野郎!」


アランは執行官に殴りかかろうとしたが、執行官の後ろに控えていた弓隊に足を射られ、うずくまった。


「ぐっ、うっ……痛えよ……。マジで射るやつがあるか……。謝るよ。謝るから、許してくれよ、頼むよ……」アランは抵抗を断念し、懇願するようにして執行官の膝にしがみついた。執行官は一度咳払いをした後、アランの頭をサッカーボールのように蹴り飛ばした。「ぶへえええ!」と叫んだアランの前歯が飛んだ。


「おいおい、この男はいちおう”商品”だよ! それくらいにしといてくれ、ムッシュー!」


商人マクシミリアンが少し離れたところで執行官に呼びかけた。マクシミリアンは人間離れした青白い顔、カマキリのような長い手足、鳥肌が立つような甘酸っぱい声を持っている。

執行官が後ろを振り返る。ニコニコしたマクシミリアンは、気持ちよさそうに寝ている豚の背中に座ってタバコを吹かしている。


「マクシミリアン。ごほん。こんな暴れ馬を船に載せても大丈夫なのかね?」


「ひひひ。調教が必要だね。いらないと思ったら海に捨てるだけだよーん。なんせ伯爵夫人の御公認。原価がかかってない! ああ! 原価ゼロ! 素晴らしい響き! トレーーーービアン!」


「ごほん。伯爵夫人の恨みを買ったら怖いのだよ。ごほん」


マクシミリアンの手下たちがアランを捕縛し、外にむき出しになるよう馬車の荷台にくくりつけた。マクシミリアンは側近から専用の鉄棒を受け取ると、アランの額に焼き印を押した。「ぐああああああ」という鈍い叫び声が辺りに響き渡った。

野次馬たちが続々と集まる中、マクシミリアンは「ごきげんよう」と爽やかな笑顔で群衆に挨拶し、放心状態のアランを連れ去って行った。街中の人たちから恨みを買っていたアランは、道中で石や汚物を投げつけられたのであった。
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