27 / 96
5-4
しおりを挟む
もし知り合いだったら悪いな、と思ったものの、彼女のホッとした様子を見て助けられたことに安堵した。そして、ジャケットのシミ取りを申し出た彼女に自然と頬が緩んだ。消極的なわりに、律儀で、そのためなら簡単に折れる事はしない。会場に入る前に友人らしき女性を手助けしていたことからも、気配りができる女性なのが分かる。そして何より、シミ取りペンを手に、真剣な様子でシミ抜きする姿がツボだった。
歳を聞けば、彼女から距離を置かれるかと思ったが、反応は上々。他愛もない会話なのに、彼女の弾むような声を聞いているだけで心地よくて、自分の口も滑らかになる。ただ、こちらの勝手な懸念から、勤め先と肩書きに嘘をついたことは気掛かりになった。この嘘がいつバレるか。バレたらどう思われるか、不安で仕方がない。侑李はこの時すでに、彼女に嫌われることを恐れていた。
たった一度会っただけの女性。少し会話しただけなのに、もらった名刺を毎日のように見つめ、プライベートの連絡先を聞かなかったことを心底後悔していた。それだけに、舞い込んだ新しい仕事の相手が彼女の会社だと気付いて期待を抱いた。営業職だと聞いていたから、もしかしたら会えるかもしれない。彼女は営業主任だから、実際来るのは彼女の部下かもしれないが。
そうやって、期待しては打ち消すことを繰り返していたから、彼女の姿を見た時の自分はたぶんこれまでにないアホ面だったかもしれない。その表情を見て嫌われたかと思っていたが、違ったらしい。肩書きを偽ったことも怒っていないと言われて、驚くと同時に嬉しかった。そして、副社長と分かったから仕事の時はそれなりに対応する、と言った彼女にやっぱりかと思う。だが。
「プライベートは別ですから」
そう言って微笑む彼女が眩しく見える。同時に好きな気持ちを再確認して、気付けば彼女に顔を寄せていた。
「では……あなたを気兼ねなく、口説いて構いませんか?」
「口説くんですか?」
「ええ、これまでもずっと口説いていたつもりです」
歳を聞けば、彼女から距離を置かれるかと思ったが、反応は上々。他愛もない会話なのに、彼女の弾むような声を聞いているだけで心地よくて、自分の口も滑らかになる。ただ、こちらの勝手な懸念から、勤め先と肩書きに嘘をついたことは気掛かりになった。この嘘がいつバレるか。バレたらどう思われるか、不安で仕方がない。侑李はこの時すでに、彼女に嫌われることを恐れていた。
たった一度会っただけの女性。少し会話しただけなのに、もらった名刺を毎日のように見つめ、プライベートの連絡先を聞かなかったことを心底後悔していた。それだけに、舞い込んだ新しい仕事の相手が彼女の会社だと気付いて期待を抱いた。営業職だと聞いていたから、もしかしたら会えるかもしれない。彼女は営業主任だから、実際来るのは彼女の部下かもしれないが。
そうやって、期待しては打ち消すことを繰り返していたから、彼女の姿を見た時の自分はたぶんこれまでにないアホ面だったかもしれない。その表情を見て嫌われたかと思っていたが、違ったらしい。肩書きを偽ったことも怒っていないと言われて、驚くと同時に嬉しかった。そして、副社長と分かったから仕事の時はそれなりに対応する、と言った彼女にやっぱりかと思う。だが。
「プライベートは別ですから」
そう言って微笑む彼女が眩しく見える。同時に好きな気持ちを再確認して、気付けば彼女に顔を寄せていた。
「では……あなたを気兼ねなく、口説いて構いませんか?」
「口説くんですか?」
「ええ、これまでもずっと口説いていたつもりです」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる