俺が好きなのはあなただけ〜恋愛初心者は極上男子の腕の中〜

鈴屋埜猫

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 奈月の怪我は、数針縫うことになった。左手の傷はそこまで深くなかったが、右手はパックリいってしまい、結局どちらも包帯ぐるぐる巻き。入院までは必要ないが、痛み止めをもらい、しばらく通院することになった。
 そのことを上司である万里江に連絡したところ、こっぴどく叱られた。そして、この一連の騒ぎから、亜也は被害届を出すと決めた。ずっと謝る彼女に、身体が勝手に動いただけだと笑うと、また泣かれてしまったけれど。
 ともあれ、一件落着。そう思いながら帰路に着いた。が。

「……両手使えないって、不便だ」

 怪我をした直後とのことで、入浴は控えるようにと言われた。でも、汗はかいたのでできれば身体を拭くだけでもしたい、と洗面所に来たもののそこで奈月は途方に暮れた。
 指先は無事なのだけど、親指と人差し指の間が切れているせいで掴んだりする動作が出来ない。ビニール手袋をして濡れるのは防げたとしても、濡らしたタオルが絞れないのだ。困ったな、と思っているとテーブルに置いていたスマホが鳴っているのに気付いた。慌ててリビングへと戻り、スピーカーにして電話に出る。

「はい」

『奈月さん? 今どこ?』

 電話口から聞こえた低い声音に安心感を覚える。侑李とは今日、朝に連絡を取ったきりだった。

「あ……今、家に」

 言いながら、どうしよう、と思う。この手の怪我は報告すべきだろうか。

『そうですか。真壁さんのお見舞いには今日も?』

「ええ……お昼に」

 言ったら心配かけるだろうな、と思いながら返事をしたため、変な間が生まれた。

『……何か、ありましたか?』

侑李の声が若干低くなった気がした。取り繕おうかと思ったけど、上手い言い訳が思いつかない。

『奈月さん?』

「ごめんなさい、ちょっと怪我しました」

 観念して正直に話すことにした奈月は、見えないだろう相手に向かって頭を下げる。すると、しばらく沈黙が降りた。あれ、と思っているとインターホンが鳴った。
 まさか、と思いつつ出てみれば、映し出されたのは息を切らした侑李の姿。

『奈月さん、開けてくれる?』

「はい……」

 夕方、万里江に叱られた時のことを思い出す。オートロックを解除し彼を待つ間、何となく落ち着かなくて部屋の中をウロウロしてしまう。程なくして、玄関のチャイムが鳴らされ、奈月はドアの鍵を開けた。

「奈月さん、怪我って……」

 ドアを開けて入ってきた彼の勢いに押されて一歩後退る。心配そうに眉根を寄せる侑李の前に、包帯ぐるぐる巻きの手を見せた。
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