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「奥方様がお怒りなのかもしれません。ようやくお休みになれたところを邪魔してしまいましたので」
「そ、それは大変申し訳ございません。おい、早く門を開けてお通ししろっ!」
ああ、ダメだ。誘拐犯に良いように使われてしまった。もう一度蹴るべきか、と体勢を整えようとしたところで、今度は馬の嗎が聞こえてきた。
「な、何だお前たち……」
「ジョセ村、自警団の者です。行方不明になっている者を探しています」
外から聞こえた声に、メイベルはすかさず足を振り上げ壁を蹴った。
―――ガンっ!
「今の……」
「侯爵家の奥方様です。こんなところで足止めを食らってお怒りなんですよ」
すかさず誘拐犯がとりなす声が聞こえ、メイベルはその声に被せるようにまた壁を蹴った。
―――ガン、ガンっ!
「ほら……ですから早く門を……」
「違うだろう」
ヒタリと耳を打った声に、メイベルはハッと顔を上げた。低く、僅かに呻りが混じったあの声は。
「中にいるのは誰だ?」
「ですから侯爵家の奥方様だと……」
「違うな」
「何を根拠に……」
「俺は、お前の匂いを知っている。そして、そこでコソコソ逃げようとしている男のものもな」
クロードの言葉に、バタバタと足音が聞こえる。外の様子が分からず、メイベルの心臓はバクバクと大きな音を立てる。
次いで、馬車の扉がガタリと音を立てた。
「メイベル、離れてろ」
中にいるのがメイベルであることを確信している声。力強いクロードの言葉に従い、メイベルはクラリアに覆い被さった。
―――バキッ、バキバキッ!
大きな音を立てながら、馬車が揺れる。背後から差し込んできた光に目を向けるが、眩しくて目が開けられない。すると、大きな影が光を遮った。
「メイベル……っ」
ドアを破壊したクロードが、馬車の中へと乗り込み、メイベルの頬に触れた。すぐさまメイベルの拘束を解いた彼は、横たわっているクラリアの縄も解いていく。
「クラリアは……」
「少し熱があるな。すぐ医者に見せよう」
外套でクラリアの身体を包み、クロードは外で待つ同僚に彼女を預ける。そのまま馬車を出るのだろうと、クロードの後を追っていたメイベルは、突然振り返った彼に抱き寄せられた。
「……間に合って良かった」
絞り出すような声と共に吐き出された吐息。心なしか、抱きしめてくれる腕が震えている気がした。
「ごめんなさい……」
また心配させてしまった。自由になった腕を伸ばして抱き付くと、腰を抱く腕にさらに力がこもる。だが、苦しくないのは、抱き潰さぬよう気遣ってくれているからだと分かり、メイベルは嬉しくなった。
「そ、それは大変申し訳ございません。おい、早く門を開けてお通ししろっ!」
ああ、ダメだ。誘拐犯に良いように使われてしまった。もう一度蹴るべきか、と体勢を整えようとしたところで、今度は馬の嗎が聞こえてきた。
「な、何だお前たち……」
「ジョセ村、自警団の者です。行方不明になっている者を探しています」
外から聞こえた声に、メイベルはすかさず足を振り上げ壁を蹴った。
―――ガンっ!
「今の……」
「侯爵家の奥方様です。こんなところで足止めを食らってお怒りなんですよ」
すかさず誘拐犯がとりなす声が聞こえ、メイベルはその声に被せるようにまた壁を蹴った。
―――ガン、ガンっ!
「ほら……ですから早く門を……」
「違うだろう」
ヒタリと耳を打った声に、メイベルはハッと顔を上げた。低く、僅かに呻りが混じったあの声は。
「中にいるのは誰だ?」
「ですから侯爵家の奥方様だと……」
「違うな」
「何を根拠に……」
「俺は、お前の匂いを知っている。そして、そこでコソコソ逃げようとしている男のものもな」
クロードの言葉に、バタバタと足音が聞こえる。外の様子が分からず、メイベルの心臓はバクバクと大きな音を立てる。
次いで、馬車の扉がガタリと音を立てた。
「メイベル、離れてろ」
中にいるのがメイベルであることを確信している声。力強いクロードの言葉に従い、メイベルはクラリアに覆い被さった。
―――バキッ、バキバキッ!
大きな音を立てながら、馬車が揺れる。背後から差し込んできた光に目を向けるが、眩しくて目が開けられない。すると、大きな影が光を遮った。
「メイベル……っ」
ドアを破壊したクロードが、馬車の中へと乗り込み、メイベルの頬に触れた。すぐさまメイベルの拘束を解いた彼は、横たわっているクラリアの縄も解いていく。
「クラリアは……」
「少し熱があるな。すぐ医者に見せよう」
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「……間に合って良かった」
絞り出すような声と共に吐き出された吐息。心なしか、抱きしめてくれる腕が震えている気がした。
「ごめんなさい……」
また心配させてしまった。自由になった腕を伸ばして抱き付くと、腰を抱く腕にさらに力がこもる。だが、苦しくないのは、抱き潰さぬよう気遣ってくれているからだと分かり、メイベルは嬉しくなった。
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