シャム猫

９１

じゃあなって去っていったはずの人に、二階で再会。

失念。

声をかけられたのが、ここに来たばっかりの時だったら、帰る訳ないよね。

なるべく、顔を見られないように、二人を盾にしながら、横を通った。

やっぱり、まだ疑いの目で見られている感じがするんだよね。

被害妄想かもしれないけど、用心しておいた方がいい。


それにしても、来る前に、皆に白雪って呼んでもらうようにお願いしておいて、正解だった。

本当に良かったよ。

じゃなかったら、先輩に名前を呼ばれた時点で、完全にアウトだった。


そして、ジョエル。

あれからノリノリで、恋人を演じてくれている。

助かるっちゃ助かるんだけど、はっきり言って、恥ずかしい。

優しく肩や腰を引き寄せ、耳元で話しかけられたり、愛おしそうに見つめては、こめかみや頬にＫＩＳＳをしてくる。

本当に愛されていると、勘違いしそうだ。

恐ろしい人！

唇に指を這わせ、「ＫＩＳＳしていい？」って聞かれた時、咄嗟に、「ここじゃ嫌」って可愛らしく言えた自分を褒めてやりたい。

ちなみにその後、「残念、後でね」って、色気のある顔で返され、コクンと頷いて、恥ずかしくて涙目になったのを抱きすくめられ、ジョエルの胸に顔をうずめるまでがワンセットだった。

もし、自分に彼女が出来ても、決してジョエルの様に、堂々と振る舞えないなと、完全に男としての敗北を悟った。

学ぼうと思っていたのに、全然参考にならない。

日本人には、ハードルが高過ぎる。


そんなこんなで、せっかくの巨大オルゴールの演奏も、集中して聴く事なんて出来なかった。