ネオ・クリーチャー

Aiリアン

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ヒーローになるために

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 私が彼に憧れ始めたのは3年前。
 私も含めたこの世界に生きる人々の居場所が異形の正体不明である怪獣に次々と破壊されていく。悲鳴を上げながらもその場から逃げる人々の群れに私もいた。まるで特撮映画に出てきそうな恐竜とも言えないような姿をした怪獣は容赦なく私たちの町を踏み歩き、建物が破壊され、逃げ遅れた者は下敷きとなり何もかもが死んでいく。私は声も出なかった。恐怖とその場の現実を受け入れられない状況にいた。ただ黙って怪獣の破壊活動を見ていた。自分も逃げ遅れたら死んでしまう。パニックと化したこの場を必死に離れたいがために私は急いで逃げた。信じられない現実の恐怖に呼吸が荒くなっていき身体が酸素を必死に求めながら逃げる。車に乗っていた人も慌てて車から出てみんなが逃げる方向へと走り出す。
 私は死ぬ。あの怪獣に殺される。踏みつぶされて無残な姿となって死ぬ。そう頭の中で考えてしまう。こんな現実がそう簡単に受け入れられない自分もいる。さっきまで平和であったこの町にいきなり映画でしか出てこないと思われる怪獣が目の前に現れ、巨大な地響きを立てながらこちらに近づいていき、耳が痛くなるくらい大きな爆発音や建物が破壊される音が鳴り響く。そして死んでいく人々の光景。たった1分程で現実ではありえないような出来事を見てしまったら誰だって怯えてしまう。
 私たちはもう終わり。もうここで全員死ぬ。私はそう思っていた。そう思うしかなかったのだ。だがその考えが覆されたのだ。あの黒き戦士によって。
 私が目にしたのは、人間なのか怪人なのかわからない謎の全身黒い装甲を身にまとった者が怪獣の方へと向かい刀らしき武器で交戦する。背中にはジェット機の羽らしきものが装着されており、それによって空を飛んでいる。私たちの頭上を飛び回り戦いが繰り広げられる。その光景は映画のスクリーンの中に映るスーパーヒーローが、敵と壮大な戦いを繰り広げるワンシーンのようだ。
 怪獣が頭に付いた巨大な角で黒き戦士にぶつけようとする。しかし、華麗に交わし避け怪獣の後頭部に回り込んだ。そして後ろから左腕についている謎の武器から巨大な高火力の弾を何発も撃った。すると怪獣は見る見るうちに溶岩が投げれていくように身体が溶けていく。そして怪獣は原型を留めることなく溶け切った。
 私はその時から彼を本物のヒーローであると信じたのだ。そして私もあのヒーローのように世界を守る戦士のように戦いたいと願い続け、私はあらゆる武術を学ぶことにした。
 
 そして、私は以前彼と出会った。怪物を操っている女の動きを止めに行った時に。私のヒーローである彼は、人形の姿をした怪物を退治した後にすぐさま消えていった。
 もう一度会いたい。私がその場から女を逃がしたせいで捕まえに行ったのかわからないが、彼を追いかけに私もその場を探した。だが見つからなかった。

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 俺がこうして平和なままの町を見ることができるのは何ヶ月ぶりだろうか。いつもクリーチャーと戦うために装甲を身につけ外に出るが、今日は違う。人が笑顔で誰も傷つかない日常が俺の視界に入る。これが理想だろう。みんなが望んでいることだ。誰もクリーチャーなんていう物騒な存在に襲われることもなければ、使う人もいない。こんな日がいつまでも続いてくれたらいい。俺もそう思う。だが、俺はそう簡単に戦いは終わるとは思えない。この世界には無数にクリーチャーが存在し、俺の知らないところでも今使用し、人々の日常を地獄に変えている。悲鳴、惨劇が起きている。この国だけでもこれまで1万体以上も一人で倒してきた。以前にも行ったがお金など貰っていない。ただ俺はクリーチャーと戦える謎の力がいつの間にかあった。なぜそんな力があるのかわからない。その答えはおそらく俺の記憶にない3年前よりもっと前にあるのかもしれない。5年前の出来事を語るニュースが今も頭によみがえる。しかし5年前のことなどもっとわからない。
 ヒーローにある話で改造された人間なのか、地球外生命体に力を借りたのか、もしくは地球外生命体そのものか。または、異世界からやってきた戦士でこの世界に来た時に記憶を消されるようになったのか、または遠い国からこの国にやってきた戦闘民族の一人でクリーチャーと戦う使命を与えられた存在か。頭の中には数々のヒーローの生い立ちなんかを考えてそれらに当てはまるかを考えていくが、やっぱりわからない。
 俺は何者だ。考えながらも俺は目的地とした場所にたどり着いた。
 とある海が広がる砂場だ。ここは夏になったらサマーイベントで夏祭りが開催され、人々が多数にぎわう夏のスポットだ。なぜ俺がここに来たのか。俺は5年前、ここで目を覚ました。ふと気が付いたときにここにいたのだ。

 俺は海水の冷たさに目を覚まし目を開いた。ゆっくりと起き上がった時に見た光景は夜のとある海辺。びしょ濡れになった衣類が身体に引っ付いて違和感を感じた俺は、急いで海面から離れる。辺りは真っ暗で展望台なんかも見当たらない。そんなところで俺は寝ていた。

 「ここは、一体どこなんだ?俺は何なんだ?なぜ俺はここで」

 だが俺がここに来ていた記憶がない。というよりも自分自身が分からない。まず自分は何者か。俺は何のためにここにいるのか。どういう存在なのか。俺は頭を抱え膝まずいた。

 「俺は、誰だ?誰か教えてくれ」

 だが誰もいなかった。周りには真っ暗で明かりのない海辺であり、あちこちにゴミの残骸が転がっている。それを見続け俺はこの場を離れた。どこかへ行って助けが欲しい。だから俺は、ひたすら歩き続ける。

 やがて俺はいろんな人に助けてもらい、お世話になった。人々がみんな自分のために助け合ってくれた。俺には人間っていうのはみんな助け合うことが一番なのかと思った。困っている人がいればあらゆる手を尽くして助け合う。こんな自分にもお世話になった。海辺の近くの住民、警察や医者、さらには子供たちもみんな俺のために尽くしてくれた。
 やがて俺は旅をすることにした。いろんな場所に行けば自分のことを知っている人に出会うかもしれないから。
 俺が目を覚ましてから1ヶ月後、とある都会町にやってきた時だった。なぜか俺は人混みの中で歩くとき人の肩がぶつかるのだが、みんな肩と肩がぶつかった衝撃が大きいらしく、勢いよく転ぶ人が何人もいた。すいませんと謝るのだが、俺は力を入れているわけではなく、むしろ肩に力を入れるほど意識していないのだ。そんなに俺の肩が強いのか?俺はそういうこともあってか今でもできるだけ人混みの中を歩くのをやめている。
 そして俺が交差点を渡る最中に左方向4メートルくらいの距離に巨大なトラックが煽り運転をしているような動きで交差点に向かってきた。すると俺の視界に入ったトラックが急激にスピードを上げ、勢いよく人混みの中に突っ込もうとする。
 俺はそのスピードから危険を感じ逃げようとした。しかし周りの人たちが一斉に悲鳴を上げバラバラに逃げようとするため俺もその群れに巻き込まれる。どこへ逃げていいかわからない。俺との距離に近づいてきた時だった。トラックが俺に今は知っているスピードのまま突っ込んできた。周りにいた人も巻き込まれていく。俺は完全にトラックのぶつかった衝撃を上半身で感じ、自然に脳内から俺が死ぬことが妄想として出てきた。
 しかし、結果は違った。俺は確かにぶつかった衝撃を感じた。その痛みも感じている。だがなぜか俺は普通に立っていた。怪我もない状態で身体に異常もない。ではトラックの方はどうなのか。
 周りには轢き殺された何人もの人たちが身体から大量の出血状態で倒れている。
 中には腕が変な方向に曲がっている人がまだ意識がある状態でいた。自分の腕を見てその異常な方向に恐怖と痛みから悲鳴を上げている。
 そして、トラックはフロント部分が縦に真っすぐ凹んでおり、完全に原型を留めていない状態で停車していた。そして運転手の男は頭にフロントガラスとぶつかった後のように血を流して前倒し状態でいた。ガラスも大きなヒビに中心部分が細かく割れた跡が残っていた。

 「これって、俺がやったのか?嘘だろ...。俺はただ...」

 そのあとの言葉が出てこなかった。俺はただ...ただ逃げようとしただけなのに。なぜ俺だけ無事だったのか。俺はその事故の場から急いで立ち去った。
 俺は一体何者だ。俺はますますわからなくなった。俺は怪物?それとも人間?ずっとそんなことを考えるようになった。

 そして今もその答えがわからないままだ。なぜ俺にはこんな人間とは違う力があるのか。身体能力、情報処理能力、そのほとんどが他の人間とは明らかに違う。だから確かめたかった。俺が何者なのかを。だが何度もここには来ているのだが、今までわからないままだった。俺は一体どこで生まれ、親は誰で、どういう生い立ちでこの姿になったのか。ヒントが欲しい。だからずっと探している。そしてその答えはここに来るだけじゃわからない。他にも探し方がある。それがクリーチャーとの戦いだ。なぜ俺がクリーチャーと戦えるような存在なのかは不明だが、俺のことを知っている奴がいるらしい。それがあの「エルガ」という男だ。奴がクリーチャーと呼ぶ怪物を操るコントローラーを人々に渡しているらしい。いったい奴と俺とはどんな関係か。まさか血が繋がっているのか?あの男が兄弟?もしくは親友?まるである日本の特撮である「敵に改造され未来の魔王に選ばれてしまった主人公。その宿敵はまさかの親友であるあいつだった!?」みたいな話じゃないか。まさかそんなことが。そして俺はいつかその親友か兄弟かわからない奴と未来をかけた戦いになるんじゃ。俺は、また自分のポジティブ思考で、そんな話あるかっ!と自分に言い聞かせた。だが何としてでも答えを見つけたい。そのために俺は戦う。

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 私の名前を知ってくれていた。それだけでも光栄なことだ。ハルマよ。君には会わせたいお方がいる。それは君と同じ存在であるが、考え方が少々違うみたいで、いずれ対立する可能性も高いかもしれない。だがそれはそれで面白そうだ。だから私からコンタクトを採って私から紹介して差し上げ...
 誰かから電話のようだ。私はスマホを取り出し、相手の連絡先を視界に入れる。
 なんと!言ってるそばからそのお方からの連絡だ。早速私は電話対応を行った。

 「はいもしもし。どうなさったんですか?」

 「エルガ君。忙しいだろうが今話せるかい?」

 「はいもちろん。なんお用件で?」

 「君の以前紹介してくれた『ハルマ君』だったかな?僕と同じの男の子。彼の正体があの黒い戦士っていうのを聞いて本当かどうか確かめたんだ。君の言ってることは間違ってなかったよ。彼と戦ったクリーチャーからデータを見たところ、面白い情報が次々と出てくる。気に入ったよ」

 「それはそれは。こちらこそ彼にはあなたと共感できる友達になれると私は思っています。いよいよ始めるのですね?例の計画」

 「あぁ。その時には彼にも出会えると信じているよ。エルガ君。君にも協力してもらえますよね?」

 「はい、もちろん...。ハルマとの戦いにふさわしい場所も用意出来ています。では...戦場で」

 私は自分でもはしたないと思うくらいのにやけ顔で電源を切った。ハルマ。君が戦わなければいけない相手がこの方だと知るのはいつだろうね。
 それにハルマ。君の正体はあの方にはもうバレている。以前商店街で戦った際に人間の姿をして戦いの邪魔をした奴がいただろう。あいつが戦いのときに君の正体をデータ化してあの方にデータが送信されたのさ。増々気に入ってくれたみたいだ。
 例の計画ももうすぐ始まる。もう君の知ってるクリーチャーとの戦いは終わりさ。すべてはハルマ。君とあの方が出会うためなんだよ。
 私は以前ハルマが現れたあの商店街に到着し、現場の光景をもう一度思い出す。今もクリーチャーと戦った後の残骸が残ったままだった。あちこちの店はつぶれ、細かい破片が地面に散らばり、コンクリートは地震が起きたかのように盛り上がって大きな地割れをしている。さらにはクレーターのような大きな穴があるエリアも存在し、よほど激しい戦いだったことを物語っている。
 私は辺りを見回し続けた。すると私の前に意外な人物が現れた。

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 「また会ったな。クリーチャー売人さんよ。エルガだっけな。クリーチャーの宅配中だったか?今回は誰にクリーチャーを提供した」

 「ハルマ!なんという再開だ。会いたかったよ。君にはいろいろお話がしたい。戦いの話とかね。すっかり有名人の仲間入りしたわけで、今じゃあニュースの引っ張りだこ。君の仕事ぶりには感銘だ。ハッハッハッ」

 「まぁ、俺も今日は運がいい。ここで出会えるとは。誰も邪魔する奴などいない。全部吐いてもらうぞ。強引な手段を使ってでも」

 「君は何のためにクリーチャーと戦ってるのさ?己の正義感?人間社会の平和貢献のボランティア?それともクリーチャーに恨みがあるとか?正義のヒーローになったつもりか知らないが、君はまだ世間では敵としてみなされている。なぜそこまでしてクリーチャーと戦うのさ?言っておくがクリーチャーを操作して人々を襲っているのは『人間』だ。同じ世界で生きている人間だ。人間の意志でやっているんだ。クリーチャーに罪はなく、あるのは人間の方。だけど君はクリーチャーばかり戦う。変な話だ。悪いことを繰り返す奴らばっかり。それでも人間のために戦うってどういう正義感だい?」

 「俺はただ『平和な世界を取り戻す』ために戦っている。人間のためとか自分だけの正義感で戦っているのでもなく、クリーチャーに恨みもない。人間が世界の平和を壊しているのなら、俺はその原因と向き合って生きている。クリーチャーがなくなれば人間がこれ以上馬鹿な真似はできなできない。そしてさせない!そのために戦う。世界を穢す悪は人間そのものだ。しかし人間を殺してしまってはそれは平和とは言わない。だから人は殺したくない。クリーチャーを使った悪行を俺が止める」

 なるほど。そう呟いたエルガは右ポケットから謎のスイッチを取り出した。
 謎のスイッチに危険を感じたハルマは急いで右腕のアイテムを起動させる。すぐ黒い装甲が身体に身に纏われる。

 「俺は平和を取り戻す者だ。ヒーローかどうかは今の俺にも分からない。でも俺のやるべきことがそれなんだ。俺はその役目を必ず果たす!そのためにお前を!」

 「殺すのか?いや、それは君のルールに反するよね。じゃあ私を方で裁くかい?といってもクリーチャーに対する法的処置など存在しない」

 ハルマが猛スピードでエルガの方へ駆け出しスイッチを奪おうとする。だがスイッチはエルガの手で押されてしまった。
 エルガの手からスイッチを奪い取り、エルガの胸ぐらを掴むハルマ。右手にスイッチを持った状態でスイッチを握りつぶした。

 「なんのスイッチだこれは?答えないとちょっと痛い目に遭わせる。いいな」

 「あぁ。これがこの世界のヒーローか。無抵抗な人間に脅し、暴力で解決させる。随分と乱暴ですねぇ。ハルマ。でも、もうじき君にもその天罰が下るでしょう。そのスイッチは」

 するとハルマの背後から何者かが突進してきた。そして吹き飛ばされたハルマは背中の装甲に損傷を与えられた。そのためジェット機能が使用できなくなった。

 「誰だ?って、お前。この前も」

 「また会ったな。ハルマ」

 いぜんいぜんここで戦ったハルマよりも強い謎の人間だった。奴はクリーチャー相手に何度も戦ってきたハルマよりも強力なパワーで襲い掛かってきた。

 「その装甲、弱い。もういらない。今からお前には地獄のような痛みを身体中に覚えさせる。逃げるなら今のうち」

 「そういや、この前もここで会ったっけ?逃げる?俺は一度目にした敵は最後まで逃がさん」

 そしてハルマが右腕に付けたアイテムに違うチップを装填させ「YES」と答えると、人形のクリーチャーと戦った獣の装甲姿に変わった。

 「それも一緒。後で壊す」

 人間の姿をした相手がハルマに言った。

 「その前にお前が誰なのか調べる。なんで人間のくせにそんくせにそんなに強いのか。へたすりゃクリーチャーより強いからこの場で倒しちゃうかもよ」

 「何を言う。お前も同じ存在だ」

 ハルマにはその言葉の意味が分からなかった。この人頭おかしいんじゃないかと思うようになった。
 すると、相手の方からハルマに向かって勢いのあるジャンプと急降下で地面に着地しようとしたが、ハルマはその装甲に生えた翼で飛んで離れる。着地した時地面がクレーターのように大きな穴を空けめり込んだ。
 ハルマは急速に敵の方へ向かい三本の左爪で相手の顔面をえぐるかのように引っ掻いた。皮膚をえぐる感覚が装甲から伝わってきたハルマは確実に相手に致命傷を与えたと確信する。

 「その爪危険。お前は危険だ。オメガ様に怪我を与えてしまう」

 オメガ?誰だそいつは?そんなことを考えているとエルガが言葉を挟んできた。

 「あぁ。言っちゃいます?ここで。サプライズまで黙っておこうと思ったんですが」

 ハルマには訳の分からないからだがだった。とにかくハルマは相手に集中し、凝視した。するとハルマは、相手の人間の姿をした者の顔を見て思わず身体が動かなくなった。まるで機械の顔に上から人工樹皮を被せたようになっている。切れたところから血など出ていない

 「嘘だろ?人間じゃない!?まさか、そんな」

 ハルマは今戦っている相手に問う。

 「だ、誰だよお前!何者だ!」

 すると相手からハルマにとって信じられない言葉が出た。

 「俺は、お前と同じだ」

 「な、何!?」

 「お前も、俺と同じ存在だ」

 「どういうことだ!」

 意味が分からないままのハルマはしつこく問う。

 「教えてやろう。お前と俺は」

 人間と同じ色の皮膚を無理やり剥ぎ取り、ハルマに自分の正体を見せつけた。そして、ハルマに向かって大声で今空中にいるハルマに言った。

 「クリーチャーの最新モデル。『ネオ・クリーチャー』だ」 
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