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人生
しおりを挟む私はずっとこの高校に登校し続けて3年が経とうとしている。思えば何もいいことなどなかった。私の人生の中で空白と言っていい程の人生価値である。
学校ではいつものように、私は周りが仲のいい人同士が楽し気に戯れているのを無視し続ける。ただ自分の椅子に座って独り、周りから「邪魔だ!」と罵声を浴びられながらも椅子を引いて相手が通る道を広げる。そして辺りにいる同級生達にケラケラと笑われそれを耐え忍ぶばかり。
今も帰りの挨拶を待っている間も、同級生の邪魔にならないように椅子を机の方に引いて座りながら時間が経つのを待っている。
授業が始まっては普通に勉強するのだが、わからないことがあっても周りに訊けない。私には友達がいない。そうこの高校では一人も友達がいなかった。自分から仲よくしようと最初は話しかけたが、誰も私に優しくしてくれる人なんていなかった。
今でもその過去が頭からこびりつく様に離れないために、なかなか勇気が出せず周りに気軽に話しかけることが出来ないままだった。そのため勉強はみんなよりも低いことが多い。平均点を超えるか超えないか程度だが、それでもみんなよりだいぶ低い点だ。
自分が通っている高校は偏差値が50よりちょっと上の高校であり、普通な程度であるため中学の頃に普通に成績が良ければ誰でも入れるところだった。だが高校では、全然勉強が出来なくなってしまったのだ。
運動だってろくにできない。いつも自転車通学だったが、そんなことだけでは運動神経がぐーんと伸びるわけでもないし、自転車通学なんてこの高校にはザラにいる。
私には弟がいるが同じ自転車通学であり、運動神経もいい方だ。なぜ同じ血のつながった者でこんなに違うのか。一体どこでこんなにも差が付いたのか。私が何を間違えたのかわからない。
私の高校生活とは、中学の時に比べて人生の低迷期と言えるほどだろう。
なぜこんなにも落ちてしまったのか。私はそんなことがずっとこの3年間のうちに一番考えていたことかもしれない。
私の人生は詰んでしまったという言葉がふさわしい。自分なりにいろいろ頑張ってもこのっ程度であり、こんなにも無能な自分が腹立たしくなったことなんて幾らでもある。どうしていつも上手くいかないんだ。
私は何が原因でこんな人間になってしまったかを解析し続けた。周りから見たら本当にくだらないことだろう。そんなこと気にせず、今を精一杯やればいい。自分で限界を決めず、何事にもチャレンジすればいい。そう思うだろう。
しかし私はそれが出来ないんだ。過去の自分に縋り付いているのだろう。楽しかったころの自分に甘えたいんだろう。勿論過去に縋り付いたところで何も変わらないのは知っている。だけど、自分のメンタルでは過去に縋りつからないとやっていけないというのが大きいのだ。
この高校ではいるかどうかわからないが、人間は今を満足出来なくなったときに「昔に戻りたいなぁ」なんて言い出し、そこから現実逃避をしたがるというのを聞いたことがあ、そんな人がこのクラスにはいるのだろうか。
たぶん私だけだろうな。もし違うならみんな楽しそうに学校なんか来ないだろう。
私が今を精一杯頑張ったところで、自分に誇れるものなんて何もない。こんな自分に何ができるのだろうか。自分はこの世界に必要なのだろうか...。
自転車をゆっくり漕いで、独りいつもの道を通りながら帰る。いつもの一般車道の両端に歩道があり、歩道を通って自転車を走らせる。本当は歩道は走っちゃダメらしいが、何せ道路の幅が細く歩道の方が安全であるためそこを通る。
いつも見かける信号が今日は歩道側が青で、車道側が赤になっていた。私は信号が変わりそうになったので急いで渡った。どうにかギリギリ渡れたのでゆっくり自転車を漕ぐと、今度は目の前に私と同じ高校に通う3人の自転車通学生が横に並んで並走していた。こういうのが本当に面倒だった。勢いよく渡れる隙を見て、間を通ろうとチャレンジしてみたが全然隙が出来なかった。私は諦め、後ろを着いていくように走り出した。すると前の3人が急にブレーキをかけ止まった。
「どうしたん?」
一人の男子高校生が右端の女子学生に話しかけた。
「あ、電話だわ」
そう言ってスマホの電話に出た。
「もしもし?うん、そうだけど?えっ!マジ!お前ら付き合ってたん?」
どうやら友達が彼しか彼女かわからないが電話してきたらしい。
それはいいのだが、なんで止まった状態でも横に並んでいるんだ?避けてくれてもいいのに。
しかし3人はその場でなにやら電話の内容に盛り上がってどいてくれなかった。
「映画行きたーい!連れてって!オッケー!時間教えてね」
私はバカみたいに大声で話す女子高生と二人の高校生の間が少し空いたみたいなのでそこを通ることが出来た。しかし3人とも私に気づかないとは、相手が無神経なのか、私の存在が薄すぎるのかどちらだろうと考えた。
そのうち自分の存在が薄いのだろうと責めていく。そんなことを考えていると余計に精神が重く感じる。自転車を漕ぐ力が無くなっていく感覚に襲われつつも自宅へ向かった。
私はいつもの自転車を留める所に駐輪し、家の玄関のドアを開けた。
ガチャっという音と共に扉をこちらに引き寄せながら家に入っていく。いつもと変わらない動作なのに、いつもよりドアが重く感じた気がした。
「ただいま...」
小さい声でボソッというと、奥から弟と母親が迎えに来た。だが二人とも何やら疲れている様子でこちらに近づいていく。
「杏奈。ちょっと話があるんだけど」
何か怒っているトーンだった。怒声を上げる感じではなく、シリアスな感じが玄関先の廊下から伝わってくる。そこに二人が立つと、さらに重苦しい空間に見えた。
私はリビングに呼ばれ、ソファの方に座るよう命じられた。
「先生から連絡があった。あんた本気で大学目指しているの?今の成績じゃ危ないって自分で分かってんの?あんたもし大学落ちたらどうするか考えてるの!」
「姉ちゃんしっかりしろや」
母親の暗いトーンでだんだん大きくなっていった声が部屋中に響き渡り、一斉に私の耳に伝わってきた。そのあとの関係のないと思われる弟の説教じみた態度にもイライラするが、表情には出さずに堪えた。
「あんたはどうしてそんなにいい加減な子なの?あんた人生に掛っているのよ!あんた姉でしょ!しっかりしてもらわないと困るの!幸平にも姉の立派な姿を見て成長させないと同じ人生を辿るかもしれないじゃない!しっかりしなさいよ!本気で言ってるの!あんたも少しは現実と向き合いなさい!」
「...向き合ってるよ」
向き合ってるよ。過去の自分に縋りつくまいと必死になろうとしてる。
私は塾に行って、家に帰っても受験勉強に励んでいる。学校でも自分なりに何とか頑張ってる。
「母さんはあんたのために言ってるの!」
それは嘘だ。自分が安心したいだけだ。
昔からそうだった。弟にばかり可愛がって自分はとにかく厳しかった。好きなことも好きな物も与えず、ただ親が与えたレール道理に生きないとうるさく言う。
一度言われたことがあるのが「あんたはどうして私たちの言う通りにしないの?うちの子じゃないわそんなの」
と言われたことがある。
すべては弟「幸平」のためなんだろうな。いつも幸平は好きなことが出来る時間も与えられ、好きな物も与えられてきた。私よりもはるかに多い。それで何より私より学校もうまく過ごしている。
だが、私は自力で何とかしろ、自分で考えて自分でやれの繰り返し。そのせいで弟が天狗になって偉そうに振る舞う。
「もうさ、姉ちゃんやる気ないんだろ?どうせ中学の頃いろんなことが出来てたけど、それに甘えて何もしたくなくてさ。受験だって本当はやる気ないんだろ?」
「あんたは幸平にこんなこと言われても何も感じない。恥ずかしいと思わないの?」
「そうだ。今も何も抵抗できないし。姉ちゃんは優しい奴なんかじゃないから。ただの弱虫。ヘタレで一人じゃ何も出来ない無力な奴。現実逃避しまくって精神が弱体化した情けない姉」
私は何も言い返せなかった。というか話を途中で聞くこともしなかった。私はただ頭の中でずっとあることを考え出している。独りになりたい。もしくわどこかへ死にたい。
やがて母からの一言が耳の奥に響き渡った。
「今のあんたなんて必要としてないの!」
そして弟もそのあとに続いて私に言い放った。
「そうだな。お前なんていらねぇ」
私は急に当たりの空気が一気に冷めていく感覚に襲われた。なんだか狭い空間が私を圧迫させるかのように小さくなっていくような。そして目の前にいる二人が遠く感じてくる。物理的にじゃなく、気持ちが離れていく。離されていくの方が正しいかもしれない。そんな気持ちに襲われる。そしてその気持ちは今まで味わったことがない程に私の気持ちを締め付ける。
「もうやめて...」
思わず汗が出始めた。そして胸に手を当て強く握った。
「やめてほしいなら最初からしっかりしておけや」
弟のその言葉がさらに私の壊れそうな精神をボロボロにしていく。もう自分を保っていられなくなった。
そして私はリビングを出ていった。
「だから逃げてんじゃねぇぞ!」
「お父さんにも言うわよ!」
好きにすればいい。私は独りになりたかった。だから自分の部屋に駆け込んでいった。そして布団が敷かれたベッドにもたれ掛かり顔を埋める。私はひたすら泣いた。ここなら誰も邪魔することはないから。
するとドアが開いていたせいで私の部屋に誰かが入ってきた。見上げると幸平だった。
「気持ち悪っ。弱虫が」
そういうと、ばたんっ!と勢いよくドアを閉めた。その時にドアの勢いから出た風圧が私のの顔にあたり、髪がなびいた。ロングの黒髪が私の顔を隠すかのように覆った。
「もう嫌だ...」
ボソッと誰にも聞こえないように言うと、私はカーペットの上に横になった。そして止めようとも止まらない涙がひたすら溢れ続け、カーペットに涙が染み込む。私はその状態のままずっと傷ついた自分を慰めるかのように両腕で上半身を抱きしめる。
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