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宇宙がその産声を上げる遥か以前、絶対的な無が支配する空間に、0秒という瞬きの間もなく、原初神ユードゥグ・スルークは誕生していた。その姿を正確に捉えた者はいない。一説には、観測可能な宇宙に存在する全素粒子よりも夥しい数の目が、不定形の肉塊からあらゆる方向を睨みつけていたという。丸く裂けた口には鋭利な歯が並び、手足は存在しない。しかし、最も一般的な伝承では、ユードゥグ・スルークはただひたすらに巨大な、不定形の肉塊であったとされる。
ユードゥグ・スルークは、三億年という長大なる時間にわたり、ただただフケを出し続けた。そのフケが凝り固まり、意思を持った存在こそが、神エンヴィルであった。エンヴィルに性別という概念はなかった。やがてユードゥグ・スルークは自らが産み出したエンヴィルと交配し、アズーという新たな神を誕生させた。
平穏は長くは続かなかった。些細な口論が発端となり、ユードゥグ・スルークとエンヴィルは激しく衝突する。エンヴィルは、その不定形の体から繰り出された想像を絶する力でユードゥグ・スルークの額を殴りつけた。その衝撃で、ユードゥグ・スルークの脳の前頭葉部分が吹き飛んだ。そして、その飛び散った前頭葉から、神アンブイレが誕生したのである。エンヴィルもアンブイレも、基本的にはユードゥグ・スルーク同様、不定形の肉塊の姿をしていたが、神としての権能ゆえか、望めばほとんどあらゆるものに姿を変えることができた。
アンブイレには、次に起こる事象を予知する能力が備わっていた。ある時、アンブイレはユードゥグ・スルークに戦慄すべき予言を告げる。
「ユードゥグ・スルークよ、汝が別の神と交わりて産む子が、汝に大いなる災厄をもたらすであろう」
この予言に恐れおののいたユードゥグ・スルークは、自らの子であるアズーを躊躇なく丸呑みにしてしまった。
しかし、アズーを呑み込んだことでユードゥグ・スルークは激しい吐き気に襲われ、胃の内容物を全て吐き出した。その嘔吐物から、三つの存在が生まれ出た。すなわち、人類、肉塊、そしてアズーの変異体である。
アズーの変異体は、ユードゥグ・スルークの体内で激しく損傷しており、その肉体はもはや崩壊寸前であった。変異体は最後の力を振り絞り、自らの脳髄だけを取り出すと、残りの肉体を捨てた。そして、新たな肉体を創造し、神アズラースとして再生を遂げた。一方、アズーの変異体の抜け殻となった肉体は完全に死滅し、その残滓から宇宙、銀河系、そして時の門という三つの偉大なる存在が誕生した。中でも時の門は、過去と未来を自由に行き来できるという、世界の理を揺るがしかねない途方もないものであった。
アズラースは、自らの誕生の経緯、そしてアンブイレの予言によってアズーが味わった苦難を深く憂いていた。また、エンヴィルがユードゥグ・スルークのフケから生まれたという、やや不名誉な出自にも同情を覚えていた。アズラースは決意した。これらの悲劇の連鎖を断ち切るために、時の門を潜り過去へと飛んだ。
アズラースはまず、予言をする前のアンブイレに接触し、未来を語らぬよう懇願した。次に、ユードゥグ・スルークと喧嘩をする前のエンヴィルに会い、争いを避けるよう説得した。アズラースは、アンブイレとエンヴィルに、彼らの生まれ方を変える代償として、世界の理の一部となり、ほぼ不滅の存在となることを提案し、両者を納得させた。
このアズラースの介入は「AZS後」と名付けられ、世界の法則に大きな変化をもたらした。アズー、エンヴィル、アンブイレは、特定の親から生まれるのではなく、ユードゥグ・スルークが誕生してから三億年という時間が経過すると、世界の法則によって自然発生的に誕生するようになった。そして、この改変を行ったアズラース自身もまた、全ての記憶を保持したまま、新たな世界の理の中で再び生まれることとなった。
AZS後の世界で、アズーは一体の神を誕生させた。しかし、その神は知能を持たず、ただ存在するだけの無能な神であり、「神の成れの果て」と囁かれた。
その後、アズラースは精力的に活動し、多くの神々を創造した。イゲムノシ、ハマヴァーン、プトー、グムゥ、モンティゴンの五柱である。
プトーは、性別の有無や同性同士であっても交配を可能にする神。グムゥは、異形なる怪神や怪物の祖。モンティゴンは、グムゥが生み出した怪神や怪物を収容するための怪物だけの惑星「モン」を創造した神であった。イゲムノシとハマヴァーンについては、後に詳述する。
プトーとハマヴァーンは、それぞれの目的を胸に時の門へと足を踏み入れた。ハマヴァーンは、後に誕生する人類の祖と戦うために過去へ。プトーは、ユードゥグ・スルークが誕生した直後の、まだ定まらぬ世界そのものに干渉し、あらゆる存在が無性別でも同性でも交配可能な世界を構築するために、原初の時代へと旅立った。
さらにアズラースは、かつてユードゥグ・スルークの嘔吐物から生まれた「肉塊」が、将来的にユードゥグ・スルーク自身になる可能性を危惧した。そこで再び時の門を使い、その肉塊に細工を施した。万が一、この肉塊がユードゥグ・スルークになったとしても、フケを出さないようにするためである。
さて、アズーの変異体が死滅した際に生まれた三つの存在の一つ、人類。その最初の個体は、後に人類の祖にして帝王と呼ばれるガウィであった。ガウィは誕生直後から、人類の存在を脅威と見なした神ハマヴァーンと熾烈な戦いを繰り広げることとなる。ガウィは瞬く間に屈強な青年の姿へと成長し、戦い続けた。両者ともに死ななかったが、ハマヴァーンはガウィに対し、「子を成すごとに、その子は弱体化する」という呪いをかけた。
ガウィは三人の子を儲けた。長男ガアス、次男ギウス、三男グライである。
ガアスは「超越人」となり、時の門を扱える力を得た。彼は次期帝王として、アギロとウルムをもうける。
ギウスは「超人」であり、通常の人間では到底敵わない力を持った。彼はカリシアン(後の帝王、ガアスの弟子)とギリアをもうける。
グライは「人間」であり、最も数が多い種族となった。彼はヒュマスという一人息子をもうけた。
約二十年後、ヒュマスはマンディールとアスナを誕生させる。マンディールはギリアの弟子となり、五千年後には約七十億人もの末裔を持つ偉大な祖先となる。
アギロが子孫を残してから千年後、その末裔ラーガイが誕生した。ギリアが子孫を残してから千年後にはギクシが、マンディールが子孫を残してから千年後にはマドロートが生まれた。
そんなある時、超越人であるラーガイは、例の「肉塊」を発見する。ラーガイはこの肉塊に何か特別な力が秘められていると感じた。彼は超越人でありながら、種族による差別を嫌う公正な性格の持ち主であったため、超人である友人ギクシに相談を持ち掛けた。ギクシもまた、ラーガイ同様に差別を嫌う高潔な人物であり、この肉塊に宿る未知の力を感じ取った。ギクシは自らの力を使い、一ヶ月もの時間をかけて肉塊に知能を授けた。
そしてギクシは、人間の友人であるマドロートにもこの肉塊について相談した。マドロートもまた、彼らと同じく差別を憎む心優しい人間であった。肉塊に知能が芽生えたことを知ったマドロートは、一年という歳月をかけて、肉塊に様々な知識を教え込んだ。
彼ら三人が、この知恵ある肉塊の処遇について話し合っていた、まさにその時だった。肉塊が突如として言葉を発し、自らを「ユードゥグ・スルーク」と名乗ったのだ。マドロートはそのような名前を教えた覚えはなく、ましてや原初神ユードゥグ・スルークに関する知識など一切与えていなかった。この事実に、ギクシは戦慄した。この肉塊こそ、この世界の始まりの神、原初のユードゥグ・スルークなのではないか、と。
ギクシはその考えをラーガイに伝えた。ラーガイも納得し、ユードゥグ・スルークと名乗る肉塊を、0秒地点…世界の始まりの場所へ送り届けるべく、時の門の中へと入れた。
こうして、アズラースがかつてフケを出さないように細工した肉塊は、時を超え、ラーガイ、ギクシ、マドロートによって育てられ、原初神ユードゥグ・スルークとして、世界の始まりに君臨することになったのだ。
アギロが子孫を残してから一万年後、末裔ルーガが誕生。カリシアンの子孫からは一万年後にラクリスが。マンディールの子孫は一万年後には約七十億人にまで膨れ上がっていた。アスナの子孫からは一万年後にリガが生まれた。
ここで、アズラースが生んだ五柱神の一柱、イゲムノシについて説明せねばなるまい。グライの子孫である人間たちは、ハマヴァーンの呪いにより、どれほど子孫が繁栄しようとも、どれほどの努力や苦労、勉学を重ねようとも、通常は超人や超越人になることはできなかった。その不憫な運命を哀れんだイゲムノシは、グライの子孫とその末裔が生まれる際、彼らが持つ「遺伝子」というものに干渉した。イゲムノシの力により、約一億分の一という極めて低い確率ではあるが、遺伝子に突然変異が起こるようにしたのである。これにより、人間の中からも稀に強大な力を持つ者が現れる可能性が生まれた。
時は流れ、人間リガは神童と呼ばれるほどの才覚を持っていた。頭脳明晰な彼は科学者となったが、この世界に対して深い悲観を抱いていた。研究所の所長として数々の世界的な科学賞を受賞しながらも、彼の心には常に一つの想いが渦巻いていた。それは、人間がいかに努力しようとも、超人や超越人には決して勝てないという絶望的な現実であった。
そんなある日、リガは核爆弾を製造しうる理論を発見する。
「これを使えば、人間でも超人や超越人に対抗できるかもしれない。いや、あるいは勝てるかもしれない…!」
リガの心に黒い炎が灯った。彼は超越人への対抗手段として核爆弾を開発し、雇ったパイロットに、超越人たちが多く住む街の中心部へ投下するよう命じた。核爆弾の恐ろしさを知らないパイロットは、何の疑いもなく任務を引き受け、遂行した。
街の中心部に落とされた核爆弾は、凄まじいエネルギーを放ち爆発しようとした。その瞬間、不吉な予感を察知していた超人ラクリスが、その超人的な力で爆発を強引に抑え込んだ。しかし、それは一時しのぎに過ぎず、ラクリスが爆発を止め続けられる時間は、残り一時間程度であったと言われている。
絶体絶命の窮地に、偶然通りかかった超越人ルーガが現れた。彼は爆発の規模が街全体を壊滅させるほどのものであると判断し、ラクリスが抑えている核爆発を消滅させるため、自らの命を賭して、地球が消滅しないギリギリの力で自爆した。
ルーガの自己犠牲による莫大なエネルギーの奔流から、新たな存在が誕生した。その名は「アー」。ラクリスがテレパシーのようなもので感じ取ったその真名は、「ア」を無限回繰り返すというものであったが、「省略してアーではダメか」と問いかけたところ、それもまた真の名前であると感応したため、この世界では「アー」という呼称が一般的となった。
アーの姿を見た者は誰もいない。しかし、ラクリスが感応したアーの姿は、素粒子そのものであり、この世の全てであり、そしてそれ以外の何かでもあったという。ラクリスが感じ取ったところによれば、アーは誕生後すぐに時の門に入り、0秒地点へと向かったとされている。
話は少し遡るが、実はルーガにはルドライアという子供がいた。ルドライアは若くして世界を一人で冒険している最中、かつてアズーが生み出したあの「無能な神」を発見していた。ルドライアがその神に触れた瞬間、両者は融合し、ルドライアは神へと昇華した。
後にルドライアは、時の門が悪用されれば世界が破滅的な事態に陥ると危惧し、自ら「時神ズヴォ」として、時の門の門番となった。時神ズヴォは、時の門に入ろうとする神や超越人などを阻止する役目を担い、この世界のほとんどの神々よりも強大な力を持つと言われている。ズヴォの存在により、神々でさえも、容易には時の門を通過できなくなったのであった。
原初の神々の誕生から、幾星霜。創造と破壊、介入と循環を繰り返し、世界は新たな秩序と、未だ見ぬ未来への胎動を続けていた。時の流れは、時神ズヴォの見守る門の向こうで、今日も静かに、そして確実に刻まれていくのであった。
ユードゥグ・スルークは、三億年という長大なる時間にわたり、ただただフケを出し続けた。そのフケが凝り固まり、意思を持った存在こそが、神エンヴィルであった。エンヴィルに性別という概念はなかった。やがてユードゥグ・スルークは自らが産み出したエンヴィルと交配し、アズーという新たな神を誕生させた。
平穏は長くは続かなかった。些細な口論が発端となり、ユードゥグ・スルークとエンヴィルは激しく衝突する。エンヴィルは、その不定形の体から繰り出された想像を絶する力でユードゥグ・スルークの額を殴りつけた。その衝撃で、ユードゥグ・スルークの脳の前頭葉部分が吹き飛んだ。そして、その飛び散った前頭葉から、神アンブイレが誕生したのである。エンヴィルもアンブイレも、基本的にはユードゥグ・スルーク同様、不定形の肉塊の姿をしていたが、神としての権能ゆえか、望めばほとんどあらゆるものに姿を変えることができた。
アンブイレには、次に起こる事象を予知する能力が備わっていた。ある時、アンブイレはユードゥグ・スルークに戦慄すべき予言を告げる。
「ユードゥグ・スルークよ、汝が別の神と交わりて産む子が、汝に大いなる災厄をもたらすであろう」
この予言に恐れおののいたユードゥグ・スルークは、自らの子であるアズーを躊躇なく丸呑みにしてしまった。
しかし、アズーを呑み込んだことでユードゥグ・スルークは激しい吐き気に襲われ、胃の内容物を全て吐き出した。その嘔吐物から、三つの存在が生まれ出た。すなわち、人類、肉塊、そしてアズーの変異体である。
アズーの変異体は、ユードゥグ・スルークの体内で激しく損傷しており、その肉体はもはや崩壊寸前であった。変異体は最後の力を振り絞り、自らの脳髄だけを取り出すと、残りの肉体を捨てた。そして、新たな肉体を創造し、神アズラースとして再生を遂げた。一方、アズーの変異体の抜け殻となった肉体は完全に死滅し、その残滓から宇宙、銀河系、そして時の門という三つの偉大なる存在が誕生した。中でも時の門は、過去と未来を自由に行き来できるという、世界の理を揺るがしかねない途方もないものであった。
アズラースは、自らの誕生の経緯、そしてアンブイレの予言によってアズーが味わった苦難を深く憂いていた。また、エンヴィルがユードゥグ・スルークのフケから生まれたという、やや不名誉な出自にも同情を覚えていた。アズラースは決意した。これらの悲劇の連鎖を断ち切るために、時の門を潜り過去へと飛んだ。
アズラースはまず、予言をする前のアンブイレに接触し、未来を語らぬよう懇願した。次に、ユードゥグ・スルークと喧嘩をする前のエンヴィルに会い、争いを避けるよう説得した。アズラースは、アンブイレとエンヴィルに、彼らの生まれ方を変える代償として、世界の理の一部となり、ほぼ不滅の存在となることを提案し、両者を納得させた。
このアズラースの介入は「AZS後」と名付けられ、世界の法則に大きな変化をもたらした。アズー、エンヴィル、アンブイレは、特定の親から生まれるのではなく、ユードゥグ・スルークが誕生してから三億年という時間が経過すると、世界の法則によって自然発生的に誕生するようになった。そして、この改変を行ったアズラース自身もまた、全ての記憶を保持したまま、新たな世界の理の中で再び生まれることとなった。
AZS後の世界で、アズーは一体の神を誕生させた。しかし、その神は知能を持たず、ただ存在するだけの無能な神であり、「神の成れの果て」と囁かれた。
その後、アズラースは精力的に活動し、多くの神々を創造した。イゲムノシ、ハマヴァーン、プトー、グムゥ、モンティゴンの五柱である。
プトーは、性別の有無や同性同士であっても交配を可能にする神。グムゥは、異形なる怪神や怪物の祖。モンティゴンは、グムゥが生み出した怪神や怪物を収容するための怪物だけの惑星「モン」を創造した神であった。イゲムノシとハマヴァーンについては、後に詳述する。
プトーとハマヴァーンは、それぞれの目的を胸に時の門へと足を踏み入れた。ハマヴァーンは、後に誕生する人類の祖と戦うために過去へ。プトーは、ユードゥグ・スルークが誕生した直後の、まだ定まらぬ世界そのものに干渉し、あらゆる存在が無性別でも同性でも交配可能な世界を構築するために、原初の時代へと旅立った。
さらにアズラースは、かつてユードゥグ・スルークの嘔吐物から生まれた「肉塊」が、将来的にユードゥグ・スルーク自身になる可能性を危惧した。そこで再び時の門を使い、その肉塊に細工を施した。万が一、この肉塊がユードゥグ・スルークになったとしても、フケを出さないようにするためである。
さて、アズーの変異体が死滅した際に生まれた三つの存在の一つ、人類。その最初の個体は、後に人類の祖にして帝王と呼ばれるガウィであった。ガウィは誕生直後から、人類の存在を脅威と見なした神ハマヴァーンと熾烈な戦いを繰り広げることとなる。ガウィは瞬く間に屈強な青年の姿へと成長し、戦い続けた。両者ともに死ななかったが、ハマヴァーンはガウィに対し、「子を成すごとに、その子は弱体化する」という呪いをかけた。
ガウィは三人の子を儲けた。長男ガアス、次男ギウス、三男グライである。
ガアスは「超越人」となり、時の門を扱える力を得た。彼は次期帝王として、アギロとウルムをもうける。
ギウスは「超人」であり、通常の人間では到底敵わない力を持った。彼はカリシアン(後の帝王、ガアスの弟子)とギリアをもうける。
グライは「人間」であり、最も数が多い種族となった。彼はヒュマスという一人息子をもうけた。
約二十年後、ヒュマスはマンディールとアスナを誕生させる。マンディールはギリアの弟子となり、五千年後には約七十億人もの末裔を持つ偉大な祖先となる。
アギロが子孫を残してから千年後、その末裔ラーガイが誕生した。ギリアが子孫を残してから千年後にはギクシが、マンディールが子孫を残してから千年後にはマドロートが生まれた。
そんなある時、超越人であるラーガイは、例の「肉塊」を発見する。ラーガイはこの肉塊に何か特別な力が秘められていると感じた。彼は超越人でありながら、種族による差別を嫌う公正な性格の持ち主であったため、超人である友人ギクシに相談を持ち掛けた。ギクシもまた、ラーガイ同様に差別を嫌う高潔な人物であり、この肉塊に宿る未知の力を感じ取った。ギクシは自らの力を使い、一ヶ月もの時間をかけて肉塊に知能を授けた。
そしてギクシは、人間の友人であるマドロートにもこの肉塊について相談した。マドロートもまた、彼らと同じく差別を憎む心優しい人間であった。肉塊に知能が芽生えたことを知ったマドロートは、一年という歳月をかけて、肉塊に様々な知識を教え込んだ。
彼ら三人が、この知恵ある肉塊の処遇について話し合っていた、まさにその時だった。肉塊が突如として言葉を発し、自らを「ユードゥグ・スルーク」と名乗ったのだ。マドロートはそのような名前を教えた覚えはなく、ましてや原初神ユードゥグ・スルークに関する知識など一切与えていなかった。この事実に、ギクシは戦慄した。この肉塊こそ、この世界の始まりの神、原初のユードゥグ・スルークなのではないか、と。
ギクシはその考えをラーガイに伝えた。ラーガイも納得し、ユードゥグ・スルークと名乗る肉塊を、0秒地点…世界の始まりの場所へ送り届けるべく、時の門の中へと入れた。
こうして、アズラースがかつてフケを出さないように細工した肉塊は、時を超え、ラーガイ、ギクシ、マドロートによって育てられ、原初神ユードゥグ・スルークとして、世界の始まりに君臨することになったのだ。
アギロが子孫を残してから一万年後、末裔ルーガが誕生。カリシアンの子孫からは一万年後にラクリスが。マンディールの子孫は一万年後には約七十億人にまで膨れ上がっていた。アスナの子孫からは一万年後にリガが生まれた。
ここで、アズラースが生んだ五柱神の一柱、イゲムノシについて説明せねばなるまい。グライの子孫である人間たちは、ハマヴァーンの呪いにより、どれほど子孫が繁栄しようとも、どれほどの努力や苦労、勉学を重ねようとも、通常は超人や超越人になることはできなかった。その不憫な運命を哀れんだイゲムノシは、グライの子孫とその末裔が生まれる際、彼らが持つ「遺伝子」というものに干渉した。イゲムノシの力により、約一億分の一という極めて低い確率ではあるが、遺伝子に突然変異が起こるようにしたのである。これにより、人間の中からも稀に強大な力を持つ者が現れる可能性が生まれた。
時は流れ、人間リガは神童と呼ばれるほどの才覚を持っていた。頭脳明晰な彼は科学者となったが、この世界に対して深い悲観を抱いていた。研究所の所長として数々の世界的な科学賞を受賞しながらも、彼の心には常に一つの想いが渦巻いていた。それは、人間がいかに努力しようとも、超人や超越人には決して勝てないという絶望的な現実であった。
そんなある日、リガは核爆弾を製造しうる理論を発見する。
「これを使えば、人間でも超人や超越人に対抗できるかもしれない。いや、あるいは勝てるかもしれない…!」
リガの心に黒い炎が灯った。彼は超越人への対抗手段として核爆弾を開発し、雇ったパイロットに、超越人たちが多く住む街の中心部へ投下するよう命じた。核爆弾の恐ろしさを知らないパイロットは、何の疑いもなく任務を引き受け、遂行した。
街の中心部に落とされた核爆弾は、凄まじいエネルギーを放ち爆発しようとした。その瞬間、不吉な予感を察知していた超人ラクリスが、その超人的な力で爆発を強引に抑え込んだ。しかし、それは一時しのぎに過ぎず、ラクリスが爆発を止め続けられる時間は、残り一時間程度であったと言われている。
絶体絶命の窮地に、偶然通りかかった超越人ルーガが現れた。彼は爆発の規模が街全体を壊滅させるほどのものであると判断し、ラクリスが抑えている核爆発を消滅させるため、自らの命を賭して、地球が消滅しないギリギリの力で自爆した。
ルーガの自己犠牲による莫大なエネルギーの奔流から、新たな存在が誕生した。その名は「アー」。ラクリスがテレパシーのようなもので感じ取ったその真名は、「ア」を無限回繰り返すというものであったが、「省略してアーではダメか」と問いかけたところ、それもまた真の名前であると感応したため、この世界では「アー」という呼称が一般的となった。
アーの姿を見た者は誰もいない。しかし、ラクリスが感応したアーの姿は、素粒子そのものであり、この世の全てであり、そしてそれ以外の何かでもあったという。ラクリスが感じ取ったところによれば、アーは誕生後すぐに時の門に入り、0秒地点へと向かったとされている。
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後にルドライアは、時の門が悪用されれば世界が破滅的な事態に陥ると危惧し、自ら「時神ズヴォ」として、時の門の門番となった。時神ズヴォは、時の門に入ろうとする神や超越人などを阻止する役目を担い、この世界のほとんどの神々よりも強大な力を持つと言われている。ズヴォの存在により、神々でさえも、容易には時の門を通過できなくなったのであった。
原初の神々の誕生から、幾星霜。創造と破壊、介入と循環を繰り返し、世界は新たな秩序と、未だ見ぬ未来への胎動を続けていた。時の流れは、時神ズヴォの見守る門の向こうで、今日も静かに、そして確実に刻まれていくのであった。
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