黒曜の誓い、竜を狩る者たち

ンヴ

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アルドレッドの案内で始まった星詠みの神殿への旅は、予想以上に過酷なものだった。険しい山道はどこまでも続き、鋭い岩肌が剥き出しになった崖や、鬱蒼とした森が我々の行く手を阻む。時折、遠吠えのような獣の声が聞こえ、緊張感を高めた。

ルナは、最初は慣れない長旅に戸惑っていたが、持ち前の明るさと、俺やザナック、そして意外にもアルドレッドの気遣いもあって、次第に順応していった。彼女の小さな体には、やはりドラゴンの血が流れているのか、見た目以上の体力と持久力があるようだった。

「アルドレッドさん、神殿には本当にすごい宝物があるの?」
休憩中、ルナがアルドレッドに無邪気に尋ねた。

「ああ、ルナ嬢。調和のオーブは、あらゆる力を穏やかにし、持ち主に安らぎをもたらすと言われている。君のような特別な力を持つ者にとっては、何よりも価値のある宝物になるだろう」
アルドレッドは、穏やかな笑みを浮かべて答えた。その言葉には、どこかルナを安心させようとするような響きがあった。

俺は、そんな二人のやり取りを、少し離れた場所から見守っていた。アルドレッドという男は、依然として謎めいた部分が多いが、ルナに対しては真摯な態度で接しているように見える。彼の目的が本当に調和のオーブだけなのか、それとも何か裏があるのか……まだ判断はつかない。

数日が経過し、俺たちはついに目的地の山脈の深部へと到達した。そこは、まるで世界の果てのような、荒涼とした風景が広がっていた。空は常に鉛色の雲に覆われ、冷たい風が吹きすさんでいる。

「この先に、星詠みの神殿があるはずです」
アルドレッドが、前方の切り立った崖を指さして言った。崖の中腹には、かろうじて人工的な建造物の一部らしきものが見える。風雨に晒され、ほとんど自然と一体化しているが、確かにそこには何らかの遺跡が存在しているようだった。

「しかし……妙だな」
ガランが、周囲を警戒しながら眉をひそめた。
「これほど重要な遺跡だというのに、警備の類が全く見当たらない。カルト教団の動きはどうなっているんだ?」

「おそらく、彼らもまだ神殿の正確な入り口を見つけられていないのでしょう。あるいは……我々よりも先に内部へ侵入し、待ち構えているか……」
アルドレッドの声には、緊張が滲んでいた。

俺たちは、慎重に崖を登り、神殿の入り口らしき場所へと近づいた。そこには、巨大な石の扉が固く閉ざされていた。扉には、複雑な幾何学模様が刻まれており、古代の文字らしきものも見える。

「これが神殿の入り口か……。しかし、どうやって開けるんだ?」
ザナックが、石の扉を見上げながら言った。

「お待ちください」
アルドレッドが前に進み出て、扉に刻まれた古代文字を注意深く調べ始めた。彼は、懐から小さな手帳を取り出し、何かを照合しているようだ。
「……なるほど。この扉を開けるには、特定の星の配置と、それに呼応する言葉が必要なようです」

「星の配置だと? この曇天では、星など見えんぞ」
ガランが、空を見上げて言った。

「ご心配なく。私の一族は、その星の配置と詠唱の言葉を代々受け継いでおります」
アルドレッドは、自信ありげにそう言うと、石の扉に向かって立ち、静かに目を閉じた。そして、低く、厳かな声で、古代の言葉らしきものを詠唱し始めた。

その詠唱が数分続いた後。
ゴゴゴゴゴ……。
巨大な石の扉が、重々しい音を立ててゆっくりと内側へと開いていった。

扉の向こうには、暗く、そしてひんやりとした空気が漂う通路が続いている。壁には、松明が灯されていた痕跡があり、誰かが最近ここを通ったことを示唆していた。

「やはり……先客がいたようだな」
ガランが、苦々しげに呟いた。

「急ぎましょう。オーブが奴らの手に渡る前に……!」
アルドレッドが、焦ったように言った。

俺たちは、松明に火を灯し、神殿の内部へと足を踏み入れた。通路は迷路のように入り組んでおり、時折、不気味な罠が仕掛けられていることもあったが、アルドレッドの知識と、ガランの経験、そして俺たちの警戒心によって、何とか切り抜けていく。

ルナは、俺のすぐ後ろを、不安そうに、しかししっかりとついてきた。彼女の小さな角が、時折、周囲の魔力に反応するように微かに光るのが見えた。

しばらく進むと、広い空間に出た。そこは、神殿の中央広間のような場所らしく、天井はドーム状になっており、壁には星々や星座を描いたと思われる壁画が残っている。そして、広間の中央には、ひとき почтиも大きな祭壇が設置されていた。

その祭壇の上に、何か丸いものが置かれているのが見えた。それは、淡い光を放っており、周囲の闇をぼんやりと照らしている。

「あれだ……! 調和のオーブ……!」
アルドレッドが、声を震わせながら祭壇を指さした。

しかし、俺たちの喜びも束の間だった。祭壇の周囲には、黒いローブを身に纏った数人の人影が立ちはだかっていたのだ。その手には、禍々しい輝きを放つ杖や短剣が握られている。カルト教団の者たちだ。

「やはり待ち伏せか……!」
ガランが、邪神の宝石を構える。俺とザナックも、それぞれのレプリカを起動し、戦闘態勢に入った。

「ふふふ……よくぞここまで辿り着いた、愚かな者たちよ」
カルト教団のリーダーらしき、ひときわ背の高い男が、嘲るような笑みを浮かべて言った。その顔はフードで隠れていて見えないが、声は粘りつくように不快だ。
「そのオーブは、我ら『終末の暁』教団がいただく。お前たちには、ここで死んでもらう」

「そうはさせるか!」
ガランが叫び、黒いビームを放った。しかし、リーダー格の男は、杖を軽く振るうと、黒い障壁のようなものを出現させ、ビームを容易く防いでしまった。

「無駄だ。我らが邪神様の力の前には、お前たちの力など無力に等しい」
リーダー格の男がせせら笑う。

「邪神様だと……?」
俺は、その言葉に眉をひそめた。邪神の宝石と何か関係があるのだろうか。

「問答無用! かかれ!」
リーダー格の男の号令と共に、他の教団員たちが一斉に襲いかかってきた。彼らは、黒い炎や、毒々しい色の光弾など、邪悪な魔術を操る。

「ルナ、俺の後ろに隠れていろ!」
俺はルナを庇いながら、襲い来る教団員に応戦する。邪神の宝石のレプリカの力は強力だが、相手の魔術も厄介で、なかなか決定打を与えられない。

ガランとザナックも、それぞれ奮戦しているが、敵の数も多く、徐々に押され始めている。アルドレッドは、剣を抜いて戦ってはいるものの、戦闘はあまり得意ではないようで、苦戦している。

「くそっ、こいつら、思った以上に手強い……!」
ザナックが悪態をつく。

その時、リーダー格の男が、ゆっくりとルナの方へ視線を向けた。
「ほう……あれが噂のドラゴンの娘か。なるほど、確かに興味深い力を秘めているようだ。その力、我らが邪神様の糧とするに相応しい」
男の目が、フードの奥で妖しく光る。

「ルナに手を出すな!」
俺は叫び、男に向かって斬りかかった。しかし、男は軽々と俺の攻撃をかわし、逆に黒い触手のようなものを伸ばして俺を拘束しようとしてきた。

「ウルフルム!」
ルナが、悲鳴に近い声を上げる。

その瞬間。
ルナの体から、再びあの眩い白い光が迸った。そして、その光は、俺を拘束しようとしていた黒い触手を焼き尽くした。

「なっ……!?」
リーダー格の男が、驚きの声を上げる。

「みんなを……いじめないでっ!」
ルナの叫びと共に、白い光はさらに勢いを増し、神殿全体を包み込むかのように広がった。その光に触れたカルト教団員たちは、苦悶の声を上げ、次々と倒れていく。彼らの操る邪悪な魔術が、ルナの清浄な光によって打ち消されていくのだ。

「馬鹿な……! 我が邪神様の力が、こんな小娘の光に……!?」
リーダー格の男は、信じられないといった表情で後ずさる。

「今だ、ガランさん!」
俺は叫んだ。

ガランは、この好機を逃さなかった。邪神の宝石から放たれた渾身のビームが、リーダー格の男の胸を貫いた。
「ぐ……ああ……」
男は、断末魔の叫びを上げ、その場に崩れ落ちた。

リーダーを失い、そしてルナの圧倒的な光の力に恐れをなした残りの教団員たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとしたが、ザナックとアルドレッドがそれを許さなかった。

やがて、神殿の中には、俺たちと、そして祭壇の上に静かに輝く調和のオーブだけが残された。

ルナは、荒い息をつきながら、その場にへたり込んでいた。力の消耗が激しかったのだろう。
「ルナ、大丈夫か?」
俺は、ルナの元へ駆け寄った。

「うん……ちょっと、疲れちゃったけど……みんなを守れて、よかった……」
ルナは、弱々しくも満足そうに微笑んだ。

「ありがとう、ルナ。君がいなければ、俺たちは危なかった」
俺は、心から感謝の言葉を述べた。

「さて……」ガランが、祭壇に近づき、調和のオーブを手に取った。「これが、アルドレッド殿の言っていた秘宝か……。確かに、不思議な力を感じるな」
オーブは、ガランの手に収まると、さらに柔らかな光を増したように見えた。

「これで、ルナ嬢の力も安定するはずです」
アルドレッドが、安堵の表情を浮かべて言った。

俺は、ルナと調和のオーブを交互に見つめた。このオーブが、本当にルナの未来を照らす希望となるのだろうか。

しかし、その時、俺は気づいていなかった。
アルドレッドの安堵の表情の裏に隠された、ほんの一瞬の、しかし確かな、冷たい光に。
そして、この星詠みの神殿での出来事が、俺たちの運命を、さらに大きく揺るがすことになる序章に過ぎないということを。
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