黒曜の誓い、竜を狩る者たち

ンヴ

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星詠みの神殿での激闘を終え、俺たちはカルト教団「終末の暁」の脅威を退けることができた。そして何よりも、目的であった「調和のオーブ」を手に入れることができた。ルナの消耗は激しかったが、休息を取れば回復するだろう。今は、このオーブが彼女の力を安定させるという希望に、皆が胸を撫で下ろしていた。

「アルドレッド殿、多大な助力、感謝する」
ガランが、調和のオーブを慎重に革袋にしまいながら、アルドレッドに礼を述べた。

「いえ、こちらこそ。皆様のお力添えがなければ、オーブを手にすることは叶いませんでした」
アルドレッドは、深々と頭を下げた。その表情は、達成感と安堵に満ちているように見える。

俺たちは、神殿を後にし、再び険しい山道を下り始めた。帰路は、行きよりも幾分か足取りが軽かった。それは、目的を達成したという安堵感だけでなく、ルナの未来に対する期待感も含まれていたからだろう。

数日後、俺たちは無事に詰所へと帰還した。留守を預かっていた隊員たちは、俺たちの無事な帰還と、調和のオーブの入手を喜び、詰所は祝賀ムードに包まれた。

早速、ガランは調和のオーブをルナに試してみることにした。作戦室に集まった俺たちの前で、ルナは緊張した面持ちでオーブを手に取る。
オーブは、ルナの手に触れた瞬間、ひときわ強い、しかし優しい光を放ち始めた。その光は、ルナの全身を包み込み、まるで彼女の魂と共鳴しているかのようだ。

「どうだ、ルナ? 何か感じるか?」
ガランが、固唾を飲んで尋ねる。

ルナは、しばらく目を閉じていたが、やがてゆっくりと目を開けた。その瞳は、いつもよりもさらに澄み切って輝いているように見える。
「うん……なんだか、体の中が、すごく穏やかになったみたい……。今まで、うまくコントロールできなかった大きな力が、静かに……優しくなった感じ……」
ルナは、驚きと喜びが入り混じった表情でそう言った。

「本当か!?」
俺たちは、思わず声を上げた。もし本当にオーブがルナの力を安定させたのなら、これ以上の朗報はない。

「試してみよう。ルナ、少しだけ、力を出してみてくれるか?」
俺は、ルナに促した。

ルナは、こくりと頷き、両手を前に突き出した。そして、意識を集中する。
すると、彼女の手のひらから、柔らかな白い光が放たれた。それは、以前のような爆発的な力ではなく、穏やかで、しかし確かなエネルギーを持った光だった。光は、部屋の隅に置かれていた訓練用の的を包み込み、的は少しも揺らぐことなく、ただ温かい光に満たされた。

「すごい……! 力を、コントロールできている……!」
ザナックが、感嘆の声を上げる。

俺も、その光景に目を見張った。以前のルナなら、力を放てば的が粉々になっていたかもしれない。しかし、今の彼女は、明らかに力を制御し、その強弱を調整できている。

「これなら……!」
ガランの顔にも、安堵と喜びの色が浮かぶ。

「ありがとう、アルドレッドさん! このオーブのおかげだよ!」
ルナは、アルドレッドに向かって満面の笑みで礼を言った。

「いやいや、これもルナ嬢自身の力があってこそだ。オーブは、ほんの少し手助けをしたに過ぎない」
アルドレッドは、謙遜しながらも満足そうに微笑んでいる。

調和のオーブは、確かにルナの力を安定させ、彼女に新たな可能性をもたらしたようだった。これならば、王宮の魔術師たちも、ルナの力をより安全に調査し、理解することができるだろう。

その夜、詰所ではささやかな祝宴が開かれた。アルドレッドも招待され、隊員たちと酒を酌み交わし、旅の労をねぎらい合った。ルナは、疲れていたのか早めに眠りについたが、その寝顔はとても穏やかで、見ている俺たちも幸せな気持ちになった。

しかし、その祝宴の最中、俺はふとした違和感を覚えた。
アルドレッドの態度が、どこか不自然なのだ。彼は、周囲と談笑してはいるものの、その目は時折、鋭い光を宿し、何かを探るように室内を見回している。そして、その視線は、しばしばガランが肌身離さず持っている邪神の宝石へと注がれているように感じられた。

(まさか……アルドレッドの本当の目的は、調和のオーブではなく……邪神の宝石なのか……?)

そんな疑念が、俺の心に芽生え始めた。だが、確証はない。考えすぎかもしれない。アルドレッドは、我々に多大な貢献をしてくれた恩人だ。彼を疑うなど、失礼極まりないことだ。

俺は、その疑念を振り払うように、酒を呷った。

祝宴が終わり、隊員たちがそれぞれの寝床へと戻っていく中、俺は一人、作戦室に残って考え事をしていた。やはり、アルドレッドの様子が気になる。

その時、作戦室の扉が静かに開き、アルドレッドが入ってきた。
「ウルフルム殿、まだ起きておられたのですか」
アルドレッドは、穏やかな笑みを浮かべている。

「ええ、少し……。アルドレッドさんも、眠れないのですか?」

「私も、長年の目的が達成され、少々興奮しているのかもしれません」
アルドレッドはそう言うと、テーブルの上に置かれていた地図――星詠みの神殿の地図――を手に取った。
「この地図も、もう役目を終えましたな」

彼は、感慨深そうに地図を眺めていたが、ふと、何かを思い出したように俺の方を向いた。
「ウルフルム殿、実は、もう一つ、あなたにお話ししておきたいことがあるのです」

「俺に……ですか?」

「はい。それは、邪神の宝石についてです」
アルドレッドの目が、再びあの鋭い光を宿した。

俺は、ゴクリと喉を鳴らした。やはり、彼は邪神の宝石に何か関心があるのだ。

「邪神の宝石は、確かに強大な力を秘めています。しかし、その力はあまりにも危険で、持ち主の魂をも蝕むと言われています。ガラン殿ほどの傑物であっても、いつその力に飲み込まれるか……」
アルドレッドの声が、低く響く。

「何を言いたいのですか?」
俺は、警戒しながら尋ねた。

「邪神の宝石には、対となる存在があると言われています。それが、先ほど手に入れた調和のオーブです。オーブは、邪神の宝石の暴走を抑え、その力を浄化する力を持っている可能性があるのです」

「浄化……?」

「はい。もし、二つのアイテムを正しく組み合わせることができれば、邪神の宝石の危険な力を無害化し、より安全な形でその恩恵だけを受けることができるかもしれません。それは、ガラン殿にとっても、そして世界にとっても、大きな福音となるでしょう」
アルドレッドは、熱っぽく語る。

「しかし、その組み合わせ方は非常に難しく、下手をすれば両方の力が衝突し、大惨事を引き起こす可能性もあります。私の一族は、その方法についても研究を重ねてきましたが、まだ完全には解明できていません」

「では、どうすれば……」

「そこで、ウルフルム殿にお願いがあるのです。どうか、私に邪神の宝石を預けていただけないでしょうか。私が、責任を持ってその力を調査し、調和のオーブとの最適な組み合わせ方を見つけ出します。もちろん、危険な実験はいたしません。あくまで、安全な範囲での調査です」
アルドレッドは、真剣な表情で俺に懇願してきた。

俺は、困惑した。邪神の宝石を預ける……? それは、ガランの命とも言えるものを、見ず知らずの男に託すということだ。いくら彼が調和のオーブの入手に貢献したとはいえ、それはあまりにも危険すぎる。

「それは……俺の一存では決められません。ガランさんに相談しなければ……」

「ガラン殿は、おそらく反対されるでしょう。彼は、邪神の宝石の力を手放すことを恐れているはずです。しかし、このままでは、いつか必ず悲劇が起こります。それを未然に防ぐためには、今、決断するしかないのです」
アルドレッドは、俺の目をじっと見つめて言った。その眼差しには、有無を言わせぬような強い力が込められている。

俺は、迷った。アルドレッドの言うことにも一理あるのかもしれない。邪神の宝石の危険性は、俺も十分に認識している。もし、本当にその力を浄化できるのなら……。

しかし、その時、俺の脳裏に、神殿でのアルドレッドの一瞬の冷たい目が蘇った。
そして、もう一つの疑問が浮かび上がった。

なぜ、彼はこの話を、ガランではなく、俺にしてきたのだろうか……?

「アルドレッドさん……一つ、お聞きしてもよろしいですか?」
俺は、意を決して尋ねた。

「何でしょう?」

「あなたは……なぜ、そこまでして邪神の宝石の力を浄化しようとするのですか? あなたの一族は、代々星詠みの神殿の伝説を追い求めてきたと言っていましたが、邪神の宝石のことも、同じように代々研究してきたのですか?」

その問いに、アルドレッドの表情が、ほんのわずかに強張ったように見えた。
「それは……我が一族の悲願だからです。かつて、我々の一族は、邪神の力によって大きな悲劇に見舞われました。その過ちを繰り返さないために……」

その言葉は、どこか空々しく聞こえた。

俺は、確信した。
この男は、何かを隠している。そして、その目的は、決して純粋なものではない。

「お断りします」
俺は、きっぱりと言った。
「邪神の宝石は、ガランさんのものです。俺が勝手にあなたに渡すことはできません」

アルドレッドの顔から、穏やかな笑みが消えた。
そして、代わりに、冷酷な、氷のような表情が浮かび上がった。

「……そうですか。残念です、ウルフルム殿。私は、あなたなら理解してくれると思ったのですが……」
その声は、もはや以前のような温かみはなく、底知れない闇を感じさせた。

「あなたは……一体何者なんですか?」
俺は、警戒しながら問い詰めた。

アルドレッドは、ゆっくりと懐に手を入れた。そして、そこから取り出したのは……禍々しい輝きを放つ、黒い短剣だった。それは、星詠みの神殿でカルト教団員が使っていたものと、よく似ていた。

「私は……『終末の暁』を導く者。そして、邪神様の力を、この世に再び解き放つ者だ」
アルドレッドは、そう言って、邪悪な笑みを浮かべた。

やはり……! 彼は、カルト教団の仲間だったのだ!
調和のオーブの入手も、全ては邪神の宝石を奪うための罠だったのか!

「なぜ……!? あなたは、俺たちを助けてくれたじゃないか!」
俺は叫んだ。

「ふふふ……あれは、ほんの余興ですよ。あなたたちの信頼を得て、油断させるためのね。まさか、本当にあの小娘がオーブの力で安定するとは、少し計算外でしたが……まあ、それもまた一興」
アルドレッドは、嘲るように言った。

「許さない……!」
俺は、邪神の宝石のレプリカを起動しようとした。

しかし、アルドレッドの方が早かった。
彼が黒い短剣を振るうと、俺の足元から黒い鎖のようなものが現れ、瞬く間に俺の体を縛り上げた。

「ぐっ……!?」
身動きが取れない。

「さて、ウルフルム殿。あなたには、少し眠っていてもらいましょうか。邪魔が入ると面倒ですからね」
アルドレッドは、そう言うと、短剣の柄で俺の鳩尾を強く打ち据えた。

「う……あ……」
強烈な衝撃と共に、俺の意識は急速に遠のいていく。

薄れゆく意識の中で、俺はアルドレッドが作戦室を出ていくのを見た。
彼の向かう先は……おそらく、ガランの部屋だ。

まずい……! ガランさんが危ない……!
そして、ルナも……!

俺は、必死に抵抗しようとしたが、体は言うことを聞かず、闇の中へと沈んでいった。
アルドレッドの裏切り。それは、蛮族討伐隊にとって、かつてないほどの危機を意味していた。
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