黒曜の誓い、竜を狩る者たち

ンヴ

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邪神の脅威が去り、アルドレッドが捕縛されてから、数ヶ月の時が流れた。蛮族討伐隊の詰所には、以前のような日常が戻り、隊員たちは日々の訓練と、時折発生する蛮族の小規模な襲撃への対応に追われていた。

ガラン隊長は、邪神に乗っ取られた影響でしばらく体調を崩していたが、持ち前の強靭な肉体と精神力で徐々に回復し、今ではすっかり元の豪放磊落な隊長に戻っていた。ただ、時折、遠い目をして何かを考えているような姿が見受けられ、あの事件が彼の中に深い爪痕を残したことを伺わせた。

そして、ルナ。彼女は、あの一件以来、目に見えて成長していた。以前のような無邪気さはそのままに、どこか落ち着きと、そして自信のようなものが備わってきたように見える。調和のオーブのおかげで、彼女の力は安定し、日常生活で暴走するようなことはなくなった。しかし、あの覚醒したドラゴンの姿を、俺は忘れることができない。彼女の中には、まだ計り知れないほどの力が眠っているのだ。

王宮魔術師団長のエルネストは、約束通り、定期的に専門の魔術師を詰所に派遣し、ルナの力の調査と、制御のための助言を続けていた。彼らは、ルナの力を無理に引き出そうとはせず、あくまで彼女の意思を尊重し、慎重に研究を進めているようだった。そのおかげで、ルナも魔術師たちに心を開き、良好な関係を築いていた。

「ウルフルム、見て見て! 今日は、エルネストさんから新しい魔法を教えてもらったの!」
ある日の午後、ルナが嬉しそうに俺の元へ駆け寄ってきた。

「ほう、どんな魔法なんだ?」
俺が尋ねると、ルナは小さな手のひらを差し出し、そこに意識を集中した。すると、彼女の手のひらから、蛍のような淡い光の粒がいくつも現れ、ふわりと宙に舞い上がった。それは、とても幻想的で美しい光景だった。

「わあ、綺麗だな。これは、何かの役に立つのか?」

「うん! これはね、『癒しの光』って言って、怪我をした人を少しだけ楽にしてあげられるんだって! まだ練習中だから、大きな怪我は治せないけど……」
ルナは、少し照れくさそうに言った。

「そうか……それは素晴らしい力だな、ルナ」
俺は、心から感心した。彼女の力は、破壊のためだけではなく、誰かを癒し、助けるためにも使えるのだ。それは、彼女の優しい心根を反映しているかのようだった。

そんな穏やかな日々が続いていたある日、詰所に一通の書状が届いた。それは、王都のエルネスト魔術師団長からのものだった。

「隊長、エルネスト殿からです」
書状を受け取ったザナックが、ガランに手渡す。

ガランは、封を開け、書状に目を通し始めたが、その表情が徐々に険しくなっていくのが分かった。

「……どうやら、厄介なことになったらしい」
ガランが、重々しく呟いた。

「厄介なこと……ですか?」
俺は尋ねた。

「うむ。書状によれば、最近、王国の各地で奇妙な現象が頻発しているらしい。それは、大地が枯れ、水が涸れ、そして人々が原因不明の病に倒れるというものだ。王宮の魔術師たちが調査した結果、それらの現象は、どうやら強力な『負の魔力』によって引き起こされている可能性が高いという」

「負の魔力……?」
俺たちは、顔を見合わせた。

「そして、その負の魔力は、かつて封印されたはずの、ある古代の邪神の怨念と関係があるのではないかと……エルネスト殿は推測している」
ガランの声が、一層低くなった。

「古代の邪神の怨念……。まさか、アルドレッドが崇拝していた邪神とは、また別の……?」
ザナックが、恐る恐る尋ねる。

「そのようだ。エルネスト殿によれば、その邪神は、かつて世界を破滅寸前まで追い込んだほどの強大な力を持っていたが、当時の英雄たちによって封印されたという。しかし、その封印が、何らかの原因で弱まり始めているのではないか、と……」

「そんな……」
俺たちは、言葉を失った。アルドレッドの事件で、ようやく平和が訪れたと思った矢先に、また新たな脅威が現れるというのか。

「そこで、エルネスト殿は、我々蛮族討伐隊に協力を要請してきた。特に、ルナの持つ『清浄な力』が、その負の魔力を打ち消し、邪神の怨念を鎮める鍵となるかもしれないと考えているようだ」
ガランは、俺とルナの方を見た。

「ルナの力が……?」
俺は、ルナの顔を見た。彼女は、不安そうな表情で俺を見つめている。

「もちろん、これは非常に危険な任務になるだろう。相手は、アルドレッドが復活させようとした邪神よりも、さらに強力な存在かもしれん。ルナを危険な目に遭わせるわけにはいかないという気持ちも、俺にはある。だが……このまま放置すれば、王国全体が取り返しのつかない事態になる可能性もある」
ガランは、苦渋の表情で言った。

「わたし……行きます」
その時、ルナが、はっきりとした声で言った。
「もし、わたしの力でみんなを助けられるなら……わたし、頑張りたいです。ウルフルムやガランさん、そしてエルネストさんが、わたしを守ってくれるって信じてるから」
ルナの瞳には、以前のような怯えはなく、確かな決意が宿っていた。

「ルナ……」
俺は、ルナの成長を改めて感じ、胸が熱くなった。

「……分かった」ガランは、ルナの覚悟を受け止め、力強く頷いた。「ならば、我々蛮族討伐隊は、再び王国のために立ち上がろう。エルネスト殿と協力し、この新たな脅威に立ち向かうのだ!」

「「「応!!」」」
隊員たちの雄叫びが、再び詰所に響き渡った。

こうして、俺たちは、新たな、そしておそらくはこれまでで最も困難な任務に挑むことになった。古代の邪神の怨念、そしてそれを鎮めるというルナの力。俺たちの運命は、またしても大きなうねりの中に飲み込まれようとしていた。

数日後、俺たちは再び王都へ向かった。エルネスト魔術師団長と合流し、邪神の怨念に関する詳しい情報を得るためだ。

王都では、エルネストが待っていた。彼の表情は、以前よりもさらに深刻で、事態の切迫さを物語っていた。

「よく来てくれた、ガラン殿、ウルフルム殿、そしてルナ嬢」
エルネストは、俺たちを迎えると、早速本題に入った。
「邪神の怨念は、我々の予想以上に急速に広まっている。すでに、いくつかの村が完全に死の土地と化してしまった。一刻も早く、その根源を突き止め、封じなければならない」

エルネストによれば、邪神の怨念が最も強く感じられる場所は、王国のはるか北、極寒の地に存在する「嘆きの氷原」と呼ばれる地域だという。そこには、かつて邪神が封印されたとされる古代の祭壇が存在するらしい。

「嘆きの氷原……。そこへ行けば、何かわかるかもしれませんね」
ガランが言った。

「うむ。だが、その場所は極めて危険だ。強力な魔獣が生息しているだけでなく、邪神の怨念の影響で、さらに凶暴化している可能性が高い。そして何よりも……その祭壇には、邪神の怨念を守護する存在がいるかもしれない」
エルネストは、警告するように言った。

「守護する存在……?」

「そうだ。それは、かつて邪神に仕え、共に封印されたと言われる、伝説の『氷の魔女』だ。彼女は、邪神の復活を誰よりも強く望んでおり、封印を解こうとする者を容赦なく排除するという」

氷の魔女……。またしても、新たな強敵の出現だ。

「困難な道のりになるだろう。だが、我々にはルナ嬢の力がある。そして、蛮族討伐隊の勇気と経験もある。必ずや、この危機を乗り越えられると信じている」
エルネストは、俺たちの顔を力強く見つめた。

こうして、俺たちの新たな冒険が始まった。目指すは、極寒の地、嘆きの氷原。そこに待ち受けるのは、古代の邪神の怨念と、伝説の氷の魔女。そして、その鍵を握るのは、小さな竜の少女、ルナの清浄な力。

俺は、隣に立つルナの手を固く握った。
「大丈夫だ、ルナ。俺たちがついている」

「うん!」
ルナは、力強く頷き返した。

俺たちの戦いは、まだ終わらない。
世界の平和を守るため、そして大切な仲間たちと共に未来を切り拓くため、俺たちは何度でも立ち上がる。
その先に、どんな運命が待ち受けていようとも――。
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