黒曜の誓い、竜を狩る者たち

ンヴ

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絶望的な状況の中、ルナの言葉は俺たちの心に再び闘志の火を灯した。そうだ、諦めるわけにはいかない。仲間がいる、そして希望の光となるルナがいる。

「総員、フォーメーションを組め! アイスゴーレムの進攻を食い止めつつ、氷の魔女を叩くぞ!」
ガランが、力強い声で号令を飛ばした。その目には、もはや迷いの色はなく、ただ勝利への渇望だけが燃え盛っている。

俺たち蛮族討伐隊の隊員たちは、即座に陣形を組み、迫り来るアイスゴーレムの群れに立ち向かう。ザナックの剣が唸りを上げ、ゴーレムの氷の装甲を砕く。他の隊員たちも、弓や槍、斧を駆使し、一歩も引かずに戦い続ける。

エルネストは、魔術の詠唱を開始し、炎の壁や雷の槍を召喚して、ゴーレムの進路を妨害する。彼の魔術は強力だが、相手の数が多すぎる。

そして、俺とルナは、氷の魔女と対峙していた。
「ウルフルム、わたし、頑張るから!」
ルナは、調和のオーブを胸に抱きしめ、その小さな体から精一杯の白い光を放っている。その光は、氷の魔女の放つ絶対零度の冷気を和らげ、俺たちの体力を少しでも温存させようとしていた。

「ああ、頼む、ルナ! 俺が、必ず奴を止める!」
俺は、レプリカの力を再び高め、氷の魔女に猛攻を仕掛けた。しかし、彼女の氷の魔術はあまりにも巧妙で、なかなか決定打を与えることができない。彼女は、まるで氷原そのものが意思を持ったかのように、自在に氷を操り、俺の攻撃をいなし、そして反撃してくる。

「無駄な足掻きを……。お前たちの熱情など、この永久凍土の前には儚く消え去るのみ」
氷の魔女は、冷ややかに言い放つ。その瞳には、一切の慈悲も同情もない。ただ、邪神への揺るぎない忠誠心だけが映し出されている。

戦いは熾烈を極めた。アイスゴーレムは倒しても倒しても次々と現れ、隊員たちの疲労はピークに達しつつあった。エルネストの魔力も、徐々に底をつき始めている。

(このままでは、ジリ貧だ……! 何か、打開策を……!)

俺は、焦りを覚えながらも、必死に活路を探していた。その時、ふと、ルナの放つ白い光が、氷の魔女の作り出す氷の壁に触れた瞬間、その氷がわずかに溶け、亀裂が入るのが見えた。

(これだ……! ルナの光は、邪悪な力だけでなく、氷そのものに対しても有効なのかもしれない……!)

「ルナ! 君の光を、もっと強く、氷の魔女に向けて放ってくれ!」
俺は叫んだ。

「え……? でも、わたし、攻撃する力は……」
ルナは戸惑っているようだった。彼女の力は、基本的に癒しや浄化、そして防御が主であり、直接的な攻撃力は高くない。

「いいんだ! 君の光が、奴の氷の力を弱めるはずだ! 俺が、その隙を突く!」

「……わかった!」
ルナは、俺の言葉を信じ、その小さな体に宿る全ての力を振り絞り、眩いばかりの白い光を氷の魔女に向かって集中させた。

その光は、まるで太陽の奔流のように、氷の魔女の作り出す氷の盾や氷の鎧を溶かし始めた。氷の魔女の顔に、初めて焦りの色が浮かぶ。

「小賢しい真似を……! だが、この程度で、我が氷の力が……!」
氷の魔女は、さらに強力な冷気を放ち、ルナの光を押し返そうとする。

しかし、ルナは諦めなかった。彼女の瞳には、仲間を守りたいという強い想いが宿っている。その想いが、彼女の力をさらに増幅させていく。

「今だ、ウルフルム!」
ガランの叫び声が響いた。見ると、隊員たちが決死の覚悟でアイスゴーレムの壁をこじ開け、氷の魔女への道を切り開いてくれていた。

「みんな……!」
俺は、仲間の想いを胸に、ルナの光が作り出した一瞬の隙を突き、氷の魔女の懐へと飛び込んだ。

「おのれえええっ!」
氷の魔女は、咄嗟に氷の槍を生成し、俺を貫こうとする。

しかし、俺はそれを紙一重でかわし、レプリカの力を込めた剣を、氷の魔女の胸元――その魔力の源であるかのように輝く、青白い宝石が埋め込まれた首飾り――目掛けて、力いっぱい振り下ろした!

キィィィン!

甲高い金属音と共に、俺の剣は首飾りの宝石を砕き割った。
その瞬間、氷の魔女の体から、絶叫と共に強大な冷気が噴き出し、洞窟全体を凍てつかせるかのような衝撃波が走った。

「ぐあああああっ!」
俺は、その衝撃波に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。意識が遠のいていくのを感じる。

(やったのか……? これで……)

薄れゆく意識の中で、俺は見た。
宝石を砕かれた氷の魔女の体が、まるで雪のように、サラサラと崩れ落ちていくのを。
そして、彼女の顔には、ほんの一瞬だけ、苦痛でも怒りでもない、どこか解放されたような、穏やかな表情が浮かんだように見えた。

やがて、氷の魔女の姿は完全に消え失せ、洞窟には静寂が戻った。
アイスゴーレムたちも、主を失ったためか、動きを止め、ただの氷の塊へと変わっていた。

「ウルフルム! しっかりしろ、ウルフルム!」
誰かが俺の名を呼ぶ声が聞こえる。温かい光が、俺の体を包み込む。

俺がゆっくりと目を開けると、そこには、心配そうに俺の顔を覗き込むルナと、ガラン、ザナック、そしてエルネストの姿があった。

「……勝ったのか……?」
俺は、かすれた声で尋ねた。

「ああ、お前のおかげだ、ウルフルム。そして、ルナ、君の力も素晴らしかった」
ガランが、力強く頷いた。

「よかった……本当に、よかった……」
俺は、安堵のため息をついた。

氷の魔女を倒したことで、洞窟の奥へと続く道が開かれた。俺たちは、疲弊した体に鞭打ち、最後の力を振り絞って、邪神が封印されたという祭壇を目指した。

そして、ついに、俺たちは祭壇の間へと辿り着いた。
そこは、巨大な氷の結晶でできたような、荘厳な空間だった。そして、その中央には、禍々しい黒いオーラを放つ巨大な石碑が鎮座していた。これが、邪神の封印か……。

石碑の周囲には、負の魔力が渦巻き、空気が重く淀んでいる。この魔力が、王国各地で異常現象を引き起こしていたのだ。

「ルナ嬢、頼む。君の力で、この邪神の怨念を鎮めてくれ」
エルネストが、ルナに懇願するように言った。

ルナは、こくりと頷き、祭壇へと歩み寄った。そして、調和のオーブを胸に当て、静かに祈りを捧げ始めた。
彼女の体から、再び清浄な白い光が溢れ出し、邪神の封印石碑を包み込んでいく。

すると、石碑から放たれていた黒いオーラが、徐々に白い光に浄化されていくのが見えた。負の魔力も薄れ、重く淀んでいた空気が、少しずつ澄んでいく。

その光景は、まさに奇跡のようだった。
ルナの純粋な祈りと、調和のオーブの力が、古代の邪神の強大な怨念を鎮めていくのだ。

どれくらいの時間が経っただろうか。
やがて、石碑から完全に黒いオーラが消え失せ、代わりに、穏やかで清らかな光が放たれるようになった。邪神の怨念は、完全に浄化されたのだ。

「やった……! これで、王国は救われる……!」
エルネストが、感極まったように声を震わせた。

ガランも、ザナックも、そして他の隊員たちも、言葉にならない感動と安堵の表情を浮かべていた。

ルナは、祈りを終え、ふらりとよろめいた。俺は、すぐに彼女を支える。
「ありがとう、ルナ。君は、本当にすごいよ」

「ううん……みんなが、一緒にいてくれたから……」
ルナは、疲れた表情の中にも、達成感に満ちた笑顔を浮かべていた。

こうして、俺たちの長く困難な任務は、ついに終わりを告げた。古代の邪神の怨念は鎮められ、王国は滅亡の危機から救われたのだ。

しかし、俺たちの心の中には、新たな疑問も生まれていた。
氷の魔女が最期に見せた、あの穏やかな表情は何だったのだろうか。
そして、邪神とは、一体何だったのだろうか。

俺たちの戦いは、まだ終わらないのかもしれない。
この世界には、まだまだ多くの謎と、そして未知の力が眠っているのだから。

だが、今はただ、この勝利を喜び、そして仲間たちとの絆を確かめ合いたい。
俺は、ルナの小さな手を、再び強く握りしめた。
彼女がいれば、どんな困難も乗り越えられる。
そんな確信が、俺の胸にはあった。
そして、俺たちの物語は、これからも続いていく――。
希望の光と共に。
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