黒曜の誓い、竜を狩る者たち

ンヴ

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影の教団の首領、ノクス。その出現は、俺たちに絶望と、そしてわずかながらも次なる戦いへの覚悟を突きつけた。彼の背後で不気味に輝く残りの四つの災厄の石碑は、世界の終末が刻一刻と近づいていることを示唆していた。

俺の愛剣の柄頭にはめ込まれた黒曜石のような邪神の宝石のレプリカは、もはや何の力も放っていなかった。ベヒモスとの戦いで、完全にエネルギーを使い果たしてしまったのだ。仲間たちも疲弊しきっており、今の俺たちでは、ノクスに立ち向かうことなど到底不可能だった。

「フフフ……どうした? もう戦う気力も失せたか?」
ノクスは、俺たちの無力な姿を見て、嘲るように言った。その瞳には、絶対的な自信と、獲物を見下すかのような冷酷さが浮かんでいる。

「お前の目的は……何なんだ? 七つの災厄を解放して、この世界をどうするつもりだ?」
俺は、最後の力を振り絞り、ノクスに問いかけた。

「目的だと? そんなものは決まっている。この不完全で、争いに満ちた世界を一度リセットし、新たなる『無』の世界を創造するのだ。そこには、苦しみも、悲しみも、そして喜びさえも存在しない、完全なる調和と静寂が訪れる」
ノクスは、恍惚とした表情で語る。その思想は、あまりにも歪んでおり、常軌を逸していた。

「そんなもの……ただの破壊じゃないか!」
ザナックが、怒りを込めて叫んだ。

「破壊こそが創造の始まりだ。お前たちのような矮小な存在には、この崇高な理念は理解できまい」
ノクスは、ザナックの言葉を鼻で笑った。

「兄さん……いや、アルドレッドは、あなたの駒でしかなかったのですか……?」
アルドリスが、震える声で尋ねた。

「アルドレッドか……。確かに、彼は優秀な駒だった。だが、いささか自己顕示欲が強すぎたな。邪神の宝石の力に溺れ、我らが教団の計画を乱そうとした。まあ、結果として、お前たちのような面白い存在を引きずり出す手助けをしてくれたことには感謝しよう」
ノクスの言葉には、アルドレッドに対する憐憫も、後悔も、一切感じられなかった。ただ、道具として利用しただけだという冷酷な事実だけがそこにあった。

その時、ルナが静かに一歩前に出た。
「あなたは……間違ってる。世界は、悲しいことばかりじゃない。嬉しいことも、楽しいことも、たくさんある。みんなが笑って、一緒にいられる……それが、本当の幸せなんだよ」
ルナの言葉は、純粋で、そして力強かった。その小さな体から放たれる聖なる光は、ノクスの放つ禍々しいオーラを、わずかに押し返しているように見えた。

「フン、小娘の戯言だな。お前のその『光』も、いずれ我が『無』の力の前には消え去る運命だ」
ノクスは、ルナの言葉を一笑に付したが、その瞳の奥には、ほんの一瞬だけ、動揺のようなものがよぎったように見えた。

「さて、そろそろお遊びは終わりだ」ノクスは、再び冷酷な表情に戻ると、手を掲げた。「お前たちには、ここで消えてもらう。そして、私は残りの石碑の封印を解き、我が悲願を達成する」

ノクスの手から、強大な闇のエネルギーが放たれようとした、その瞬間。
俺たちの足元の地面が、突如として眩い光を放ち始めた。そして、その光は、俺たち四人を包み込み、一瞬にして視界を真っ白にした。

「なっ……!? これは……転移魔法……!?」
ノクスが、驚きの声を上げるのが聞こえた。

光が収まった時、俺たちは見知らぬ場所に立っていた。そこは、緑豊かな森の中で、小鳥のさえずりが聞こえる、穏やかな場所だった。先ほどまでの地下迷宮の圧迫感と、ノクスの邪悪な気配は、嘘のように消え失せていた。

「……助かったのか……?」
ザナックが、呆然と呟く。

「一体、誰が……?」
アルドリスも、周囲を見回しながら困惑している。

「みんな、大丈夫……?」
ルナが、心配そうに俺たちの顔を見上げる。

俺は、状況が飲み込めないまま、周囲を警戒した。すると、森の奥から、一人の人物がゆっくりと姿を現した。
その人物は、深い緑色のローブを身に纏い、その顔はフードで隠されていたが、手には自然の力を感じさせる木の杖を握っている。

「……間に合ったようですね」

俺は、朦朧とする意識の中、必死に状況を把握しようとした。先ほどまでの絶望的な光景が嘘のように、今は穏やかな森の木漏れ日が肌を撫でる。ふと、遠くで誰かが自分たちを呼んでいるような、懐かしいような声が聞こえた気がした。

気づけば、俺たちは見知らぬ森の中に横たわっていた。ザナック、アルドリス、そしてルナも、まだ意識がはっきりしない様子だ。

「……ここは……?」
俺が身を起こそうとすると、森の奥から、静かに一人の老人が歩み寄ってきた。深い緑色のローブを纏い、その手には古木の杖が握られている。その瞳は、まるで森の奥深さそのものを映しているかのようだ。

「ようやく目覚められましたかな。ノクスの邪気に当てられ、危ういところでしたぞ」
老人は、穏やかな、しかし威厳のある声で言った。その声には、どこか聞き覚えのあるような響きがあった。もしかしたら、ルナが時折感じ取っていた、森の奥からの呼び声の主なのかもしれない。

「あなたは……一体……? 俺たちを、助けてくれたのですか……?」
俺は、警戒しながらも尋ねた。

「私は、この森の声を聴き、世界のバランスを見守る者。古より、人々は私を森の賢者と呼びます。あなた方がノクスと対峙した時、その強大な負の波動を感じ取りました。そして、あなた方の魂の奥底からの、微かながらも強い『希望』の叫びも……。このままでは世界が真の闇に覆われると悟り、最後の手段として、私の力の及ぶ限りで、あなた方をこの聖域へと転移させたのです」

森の賢者は、ルナの方をじっと見つめた。

「そのドラゴンの乙女の持つ、清浄なる魂と、仲間との絆の力……それこそが、ノクスの『無』の力に対抗できる唯一の鍵となるかもしれません」

「ルナの力が……?」
俺たちは、顔を見合わせた。

「ノクスは、残りの四つの災厄の石碑の封印を解き、世界を混沌に陥れようとしています。それを阻止するためには、あなたたちの力が必要です。そして、そのために、私はあなたたちに試練を与え、さらなる力を授けたいと考えています」
森の賢者は、静かに、しかし力強く言った。

「試練……?」

「はい。この森の奥深くには、古代の精霊たちが眠る聖域があります。そこで、あなたたちはそれぞれの内なる力と向き合い、それを開花させるのです。特に、ウルフルム殿、あなたのその剣に宿るレプリカの力……それは、邪神の力であると同時に、使い方によっては強大な守りの力ともなり得る。その真の可能性を引き出すのです」
森の賢者の言葉は、俺の心の奥底に響いた。邪神の宝石のレプリカ……その真の可能性……。

「そして、ルナ嬢。あなたには、ドラゴンの魂が持つ、さらなる覚醒の道を示しましょう。それは、仲間との絆を、より強固な力へと変えるための道です」

森の賢者の言葉は、俺たちに新たな希望を与えてくれた。ノクスという絶望的な強敵の前に、一度は諦めかけた心に、再び闘志の火が灯る。

「分かりました、賢者様。俺たちは、その試練を受けます。必ず、ノクスを倒し、世界を救ってみせます!」
俺は、力強く宣言した。

ザナックも、アルドリスも、そしてルナも、決意に満ちた表情で頷いている。

こうして、俺たちの新たな修行が始まった。森の賢者の導きのもと、俺たちはそれぞれの力を高めるために、厳しい試練に挑むことになる。

ウルフルムは、邪神の宝石のレプリカの真の力を引き出すために。
ルナは、ドラゴンの魂のさらなる覚醒のために。
ザナックは、不屈の闘志を、より洗練された剣技へと昇華させるために。
そしてアルドリスは、自らの内なる闇と向き合い、それを制御し、光の力へと転換させるために。

影の教団の首領ノクスとの最終決戦に向けて、俺たちは今、新たなる力を求め、未知なる領域へと足を踏み入れる。
七つの災厄の石碑を巡る戦いは、まだ終わらない。
そして、仲間たちとの絆の力が、未来を切り拓く鍵となることを信じて――。
俺たちの、最後の戦いが始まろうとしていた。
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