黒曜の誓い、竜を狩る者たち

ンヴ

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アウストラがもたらした「混沌」の脅威。それは、平和に慣れつつあった俺たちの心に、再び緊張の糸を張り巡らせた。しかし、同時に、仲間たちと共に再び立ち上がることへの、どこか懐かしいような高揚感も感じていた。

数日後、俺の予感は的中した。ザナック、アルドリス、そしてガラン元隊長が、まるで示し合わせたかのように、次々と俺たちの村を訪れたのだ。彼らもまた、アウストラの来訪と、彼女がもたらした不吉な予言を、何らかの形で感じ取っていたのかもしれない。あるいは、世界に漂い始めた微かな異変の兆候を、その鋭敏な感覚で察知したのだろう。

「よう、ウルフルム、ルナちゃん! なんだか、また騒がしいことになりそうじゃねえか!」
ザナックは、昔と変わらぬ豪快な笑顔でそう言ったが、その目には真剣な光が宿っていた。

「アルドリス……それに、ガランさんまで……!」
俺は、かつての仲間たちとの再会に、胸が熱くなるのを感じた。

「ウルフルム殿、アウストラ殿の予言、私も聞きました。もしそれが真実ならば、我々は再び力を合わせる必要があります」
アルドリスは、静かに、しかし決意を込めて言った。

「うむ。俺も、もう年寄りだと思っていたが……どうやら、まだ一肌脱がねばならん時が来たようだな」
ガラン元隊長は、そう言ってニヤリと笑った。あの邪神の宝石が再び握られている。おそらく、この日のために、彼もまた密かに準備を続けていたのだろう。

こうして、かつて世界を救った英雄たちが、再び一つの場所に集結した。目的は、世界の果てから迫り来る、未知なる「混沌」の脅威から、この世界を守り抜くこと。

アウストラは、彼女の「星詠みの力」を使い、混沌が最初にこの世界に干渉するであろう場所を特定しようと試みた。それは、精神を集中し、未来の断片的な映像を読み解くという、非常に困難な作業だった。

数日間、アウストラは飲まず食わずで星々を詠み続けた。その間、俺たちは彼女を静かに見守り、そして、来るべき戦いに備えて、それぞれの心身を鍛え直した。俺は、邪神の宝石のレプリカが埋め込まれた愛剣を手に、かつての感覚を取り戻すように剣を振るい、ルナは聖なる光の力を高め、ザナックは剣技に磨きをかけ、アルドリスは闇と光の調和した力をさらに研ぎ澄ませ、ガランは邪神の宝石の力を再びその身に馴染ませようとしていた。

そして、ついにアウストラが目を開けた。その顔は疲労困憊していたが、その瞳には確かな光が宿っていた。
「……見えました。混沌が最初に現れる場所は……『世界の裂け目』。かつて、原初の虚無が封印されていた、あの終末の荒野です」

「終末の荒野……! やはり、あそこなのか……!」
俺は、息を飲んだ。あの忌まわしい場所が、再び戦いの舞台となるというのか。

「混沌は、世界の裂け目を通じて、この世界にその尖兵を送り込もうとしています。それは、形を持たない、純粋な破壊の意思そのもののような存在……。『虚無の先触れ』と呼ばれる者たちです。彼らを止めなければ、裂け目は完全に開き、混沌そのものがこの世界に溢れ出してしまうでしょう」
アウストラの言葉は、事態の深刻さを物語っていた。

「時間がない。直ちに出発するぞ!」
ガランの号令と共に、俺たちは再び終末の荒野へと向かうことになった。かつては絶望の地だったその場所も、俺たちの手でノクスが倒された後は、少しずつではあるが生命の息吹を取り戻し始めていた。しかし、アウストラの予言が正しければ、その僅かな希望も、再び混沌によって打ち砕かれてしまうかもしれない。

終末の荒野に到着した俺たちは、かつて虚無の祭壇があった場所へと急いだ。そこは、アウストラの予言通り、空間が不安定に揺らめき、まるで異次元への扉が開きかけているかのような、不気味な光景が広がっていた。そして、その裂け目からは、言葉では言い表せないほどの、冷たく、そして底知れない恐怖を感じさせる気配が漂ってきている。

「あれが……世界の裂け目……!」
ザナックが、ゴクリと喉を鳴らす。

「そして……来るぞ!」
アルドリスが叫んだ。

裂け目から、黒い霧のようなものが噴き出し、それが徐々に形を成していく。それは、決まった形を持たず、見る者の恐怖心を映し出すかのように、絶えずその姿を変える、まさに「虚無の先触れ」だった。その数は、一体や二体ではない。次から次へと、裂け目から溢れ出してくる。

「くそっ、なんて数だ……!」
ガランが悪態をつく。

「怯むな! 俺たちが、ここで食い止めるんだ!」
俺は、剣を構え、虚無の先触れたちに向かって叫んだ。

ルナは、聖なる光で俺たちを包み込み、その邪悪な気配から守る。
ザナックとガランは、それぞれの剣を振るい、先触れたちの不定形の体を斬り裂いていく。
アルドリスは、闇と光の力を巧みに操り、先触れたちの動きを封じたり、その存在を希薄にさせたりする。
そしてアウストラは、星詠みの力で先触れたちの弱点を見抜き、的確な指示を俺たちに与える。

俺は、邪神の宝石のレプリカの力を解放し、炎、氷、雷、闇、そして光の属性を融合させた、究極の剣技で先触れたちを薙ぎ払っていく。試練で得た力と、仲間たちとの絆が、俺の剣にさらなる力を与えていた。

しかし、虚無の先触れたちは、倒しても倒しても、次から次へと裂け目から現れる。まるで、無限に湧き出てくるかのようだ。

「このままでは、キリがない……! どうすれば……!」
俺は、焦りを覚えた。

その時、アウストラが叫んだ。
「ウルフルム! 裂け目そのものを攻撃するのです! あの裂け目こそが、混沌がこの世界に干渉するための唯一の通路! それを破壊すれば、先触れたちの供給も断たれるはずです!」

「裂け目を……破壊する……!?」
そんなことが可能なのか?

「危険な賭けです……。裂け目を破壊するほどの力を放てば、あなた自身も無事では済まないかもしれません……。しかし、他に方法はありません!」
アウストラの瞳には、悲壮な覚悟が宿っていた。

俺は、仲間たちの顔を見た。誰もが、傷つき、疲弊しきっている。だが、その瞳には、まだ諦めないという強い光が灯っている。

「……分かった。俺がやる」
俺は、決意を固めた。
「みんな、俺が裂け目を破壊するまで、持ちこたえてくれ!」

「ウルフルム!」
ルナが、不安そうな声を上げる。

「大丈夫だ、ルナ。俺は、必ず戻ってくる。そして、みんなで、またあの村で収穫祭を祝うんだ」
俺は、ルナに力強く微笑みかけた。

そして、俺は、愛剣に宿る邪神の宝石のレプリカの力を、そして森の賢者から授かった精霊の護符の力を、さらに自分自身の魂の力を、全て一つに集約させた。

それは、もはや人間の領域を超えた、神々しいまでのエネルギーの奔流だった。
俺の体は、その強大な力に耐えきれず、悲鳴を上げている。だが、俺は構わなかった。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
俺は、最後の力を込めて、そのエネルギーの奔流を、世界の裂け目へと向かって解き放った!

閃光が世界を包み込み、轟音が大地を揺るがす。
そして、全てが終わった時……。

世界の裂け目は、完全に消滅していた。
虚無の先触れたちもまた、その供給源を断たれ、塵となって消え去った。

後に残されたのは、荒れ果てた大地と、そして……力なくその場に崩れ落ちる、俺の姿だった。

「ウルフルム!」
ルナの悲痛な叫び声が、遠くに聞こえたような気がした。

俺の意識は、ゆっくりと闇の中へと沈んでいった。
だが、不思議と恐怖はなかった。
ただ、仲間たちの温かい笑顔だけが、俺の心の中に浮かんでいた――。
世界の未来は、守られたのだと信じて。
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