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平和な日々が続き、かつての戦いの記憶も穏やかな思い出へと変わりつつあったある日。俺、ウルフルムは、ルナと共に、ガラン元隊長が住む隣町を訪れていた。ガランは再婚相手の女性と、その連れ子である孫たちに囲まれ、好々爺として穏やかながらも賑やかな毎日を送っていた。
「よう、ウルフルム、ルナちゃん! よく来てくれたな!」
ガランは、昔と変わらぬ豪快な笑顔で俺たちを迎えてくれた。その顔には、深い安堵と、心からの幸福感が滲み出ている。
俺たちは、ガランの家で、彼の新しい家族と共に温かい食事を囲んだ。孫たちは、俺たちの冒険譚に目を輝かせ、特にルナの癒しの力や、アウストラの星詠みの話に夢中になっていた。
食事が終わり、庭先で夕涼みをしていると、ガランが不意に、真剣な面持ちで俺に切り出した。
「ウルフルム……お前に、一つ頼みたいことがあるんだ」
「何でしょう、ガランさん? 俺にできることなら、何でも言ってください」
「ああ……。実はな、サラシエルの……サラシエルの墓参りに、一緒に行ってくれないか?」
ガランの声は、わずかに震えていた。サラシエル――かつてガランの親友であり、蛮族討伐隊の副隊長だった男。そして、ドラゴンとの戦いで、ガランを庇って命を落とした、俺にとっても忘れられない存在だ。
俺は、驚きと共に、胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。ガランが、サラシエルの墓参りに誰かを誘うなど、これまで一度もなかったことだ。それは、彼にとって、あまりにも個人的で、そして神聖な時間だったはずだから。
「もちろんです、ガランさん。喜んで、ご一緒させていただきます」
俺は、迷いなく答えた。
ルナも、静かに頷いている。彼女もまた、サラシエルの物語をガランから聞いており、その悲劇的な最期に心を痛めていた。
翌朝、俺とルナ、そしてガランは、人里離れた静かな丘の上にある、サラシエルの墓へと向かった。そこは、ガランが一人で手入れを続けてきたのだろう、質素ながらも清掃が行き届き、美しい野の花が供えられていた。墓石には、ただ「サラシエル」という名前だけが、力強い筆跡で刻まれている。
ガランは、墓石の前に静かに膝をつき、目を閉じて手を合わせた。その背中は、いつもの豪放磊落な彼からは想像もつかないほど、小さく、そして寂しげに見えた。
俺とルナも、ガランの隣に並び、静かにサラシエルへの祈りを捧げた。
しばらくの沈黙の後、ガランがゆっくりと口を開いた。
「……サラシエル。お前がいなくなってから、もう随分と時が経ったな……。俺は、お前の仇を討つことだけを考えて生きてきた。だが……ウルフルムやルナ、そして多くの仲間たちのおかげで、俺は、復讐以外の生きる意味を見つけることができたんだ」
ガランの声は、涙で潤んでいた。
「お前が守ってくれたこの命で、俺は、新しい家族と、平和な日々を手に入れることができた。……本当に、感謝している。ありがとう、サラシエル……」
ガランは、そう言うと、墓石を優しく撫でた。その手は、長年の戦いで刻まれた傷跡でゴツゴツとしていたが、その仕草は、まるで壊れ物を扱うかのように、どこまでも優しかった。
その時、ふわりと、温かい風が丘の上を吹き抜けた。そして、どこからともなく、一羽の白い鳥が飛んできて、サラシエルの墓石の上にそっと止まった。その鳥は、まるで何かを告げるかのように、俺たちをじっと見つめ、そして、美しい声でさえずると、再び大空へと羽ばたいていった。
「……サラシエルが、来てくれたのかもしれんな」
ガランが、涙を拭いながら、穏やかな笑顔で言った。
俺も、ルナも、言葉もなく頷いた。
きっと、サラシエルの魂は、今もどこかで見守ってくれているのだろう。そして、ガランが新たな幸せを見つけ、そして俺たちが平和な世界を守り抜いたことを、心から喜んでくれているに違いない。
墓参りを終え、丘を下りる途中、ガランが不意に立ち止まり、俺に向き直った。
「ウルフルム……お前に、これを渡しておきたい」
そう言って、ガランが俺に差し出したのは、古びた革袋だった。中には、ずっしりとした重みを感じる。
「これは……?」
「サラシエルが、生前使っていた剣の柄頭だ。奴は、これを自分のお守りのように大切にしていた。そして……いつか、本当に信頼できる後継者が現れたら、これを託してほしいと、俺に言っていたんだ」
ガランの目は、真剣だった。
「俺に……ですか?」
俺は、戸惑った。サラシエルの形見を、俺が受け取っていいのだろうか。
「ああ。お前こそ、サラシエルの意志を継ぐにふさわしい男だ。お前なら、この柄頭に込められたサラシエルの想いを、きっと理解してくれるだろう」
ガランは、そう言って、革袋を俺の手に強く握らせた。
俺は、革袋の重みを確かめながら、サラシエルのことを思った。彼が生きていたら、今の俺たちを見て、何と言ってくれただろうか。きっと、あの優しい笑顔で、「よくやったな」と褒めてくれたに違いない。
「ありがとうございます、ガランさん。この柄頭……大切にします。そして、サラシエルさんの想いを、決して忘れません」
俺は、深く頭を下げた。
その日、俺の心の中には、新たな決意が芽生えていた。
それは、サラシエルのように、誰かを守るために、そして平和な未来のために、自分の全てを捧げるという、静かで、しかし揺るぎない誓いだった。
邪神の宝石のレプリカが埋め込まれた俺の愛剣の柄頭。そして、サラシエルの形見である、古びた剣の柄頭。二つの柄頭は、まるで互いに呼応するかのように、俺の手の中で確かな重みと温もりを伝えていた。
俺たちの物語は、過去の英雄たちの想いを受け継ぎながら、未来へと続いていく。
そして、その道のりには、きっと、サラシエルのような、かけがえのない仲間たちの魂が、いつも寄り添ってくれているはずだ。
そう信じながら、俺は、ルナと共に、再び歩き始めた。
どこまでも続く、希望に満ちた未来へと――。
「よう、ウルフルム、ルナちゃん! よく来てくれたな!」
ガランは、昔と変わらぬ豪快な笑顔で俺たちを迎えてくれた。その顔には、深い安堵と、心からの幸福感が滲み出ている。
俺たちは、ガランの家で、彼の新しい家族と共に温かい食事を囲んだ。孫たちは、俺たちの冒険譚に目を輝かせ、特にルナの癒しの力や、アウストラの星詠みの話に夢中になっていた。
食事が終わり、庭先で夕涼みをしていると、ガランが不意に、真剣な面持ちで俺に切り出した。
「ウルフルム……お前に、一つ頼みたいことがあるんだ」
「何でしょう、ガランさん? 俺にできることなら、何でも言ってください」
「ああ……。実はな、サラシエルの……サラシエルの墓参りに、一緒に行ってくれないか?」
ガランの声は、わずかに震えていた。サラシエル――かつてガランの親友であり、蛮族討伐隊の副隊長だった男。そして、ドラゴンとの戦いで、ガランを庇って命を落とした、俺にとっても忘れられない存在だ。
俺は、驚きと共に、胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。ガランが、サラシエルの墓参りに誰かを誘うなど、これまで一度もなかったことだ。それは、彼にとって、あまりにも個人的で、そして神聖な時間だったはずだから。
「もちろんです、ガランさん。喜んで、ご一緒させていただきます」
俺は、迷いなく答えた。
ルナも、静かに頷いている。彼女もまた、サラシエルの物語をガランから聞いており、その悲劇的な最期に心を痛めていた。
翌朝、俺とルナ、そしてガランは、人里離れた静かな丘の上にある、サラシエルの墓へと向かった。そこは、ガランが一人で手入れを続けてきたのだろう、質素ながらも清掃が行き届き、美しい野の花が供えられていた。墓石には、ただ「サラシエル」という名前だけが、力強い筆跡で刻まれている。
ガランは、墓石の前に静かに膝をつき、目を閉じて手を合わせた。その背中は、いつもの豪放磊落な彼からは想像もつかないほど、小さく、そして寂しげに見えた。
俺とルナも、ガランの隣に並び、静かにサラシエルへの祈りを捧げた。
しばらくの沈黙の後、ガランがゆっくりと口を開いた。
「……サラシエル。お前がいなくなってから、もう随分と時が経ったな……。俺は、お前の仇を討つことだけを考えて生きてきた。だが……ウルフルムやルナ、そして多くの仲間たちのおかげで、俺は、復讐以外の生きる意味を見つけることができたんだ」
ガランの声は、涙で潤んでいた。
「お前が守ってくれたこの命で、俺は、新しい家族と、平和な日々を手に入れることができた。……本当に、感謝している。ありがとう、サラシエル……」
ガランは、そう言うと、墓石を優しく撫でた。その手は、長年の戦いで刻まれた傷跡でゴツゴツとしていたが、その仕草は、まるで壊れ物を扱うかのように、どこまでも優しかった。
その時、ふわりと、温かい風が丘の上を吹き抜けた。そして、どこからともなく、一羽の白い鳥が飛んできて、サラシエルの墓石の上にそっと止まった。その鳥は、まるで何かを告げるかのように、俺たちをじっと見つめ、そして、美しい声でさえずると、再び大空へと羽ばたいていった。
「……サラシエルが、来てくれたのかもしれんな」
ガランが、涙を拭いながら、穏やかな笑顔で言った。
俺も、ルナも、言葉もなく頷いた。
きっと、サラシエルの魂は、今もどこかで見守ってくれているのだろう。そして、ガランが新たな幸せを見つけ、そして俺たちが平和な世界を守り抜いたことを、心から喜んでくれているに違いない。
墓参りを終え、丘を下りる途中、ガランが不意に立ち止まり、俺に向き直った。
「ウルフルム……お前に、これを渡しておきたい」
そう言って、ガランが俺に差し出したのは、古びた革袋だった。中には、ずっしりとした重みを感じる。
「これは……?」
「サラシエルが、生前使っていた剣の柄頭だ。奴は、これを自分のお守りのように大切にしていた。そして……いつか、本当に信頼できる後継者が現れたら、これを託してほしいと、俺に言っていたんだ」
ガランの目は、真剣だった。
「俺に……ですか?」
俺は、戸惑った。サラシエルの形見を、俺が受け取っていいのだろうか。
「ああ。お前こそ、サラシエルの意志を継ぐにふさわしい男だ。お前なら、この柄頭に込められたサラシエルの想いを、きっと理解してくれるだろう」
ガランは、そう言って、革袋を俺の手に強く握らせた。
俺は、革袋の重みを確かめながら、サラシエルのことを思った。彼が生きていたら、今の俺たちを見て、何と言ってくれただろうか。きっと、あの優しい笑顔で、「よくやったな」と褒めてくれたに違いない。
「ありがとうございます、ガランさん。この柄頭……大切にします。そして、サラシエルさんの想いを、決して忘れません」
俺は、深く頭を下げた。
その日、俺の心の中には、新たな決意が芽生えていた。
それは、サラシエルのように、誰かを守るために、そして平和な未来のために、自分の全てを捧げるという、静かで、しかし揺るぎない誓いだった。
邪神の宝石のレプリカが埋め込まれた俺の愛剣の柄頭。そして、サラシエルの形見である、古びた剣の柄頭。二つの柄頭は、まるで互いに呼応するかのように、俺の手の中で確かな重みと温もりを伝えていた。
俺たちの物語は、過去の英雄たちの想いを受け継ぎながら、未来へと続いていく。
そして、その道のりには、きっと、サラシエルのような、かけがえのない仲間たちの魂が、いつも寄り添ってくれているはずだ。
そう信じながら、俺は、ルナと共に、再び歩き始めた。
どこまでも続く、希望に満ちた未来へと――。
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