黒曜の誓い、竜を狩る者たち

ンヴ

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女神ホーラの介入により、クロノスは浄化され、世界の時間軸は修復されたかに見えた。しかし、アウストラの星詠みは、依然として宇宙の深淵から響く不協和音を捉えていた。それは、単一の脅威ではなく、複数の次元、複数の時間軸に跨る、より巨大な「崩壊の意思」とでも言うべきものだった。

「ホーラ様、この歪みは…カイロスやクロノスとは比較にならないほど広範囲で、そして根源的です。まるで、宇宙そのものが、自らの存在を否定し始めているかのようです」
アウストラは、女神ホーラに報告しながらも、その声に隠せない恐怖を滲ませていた。

ホーラは、静かに頷いた。
「ええ、アウストラ。あれは、宇宙の創造と破壊のサイクルの中で、時折生まれる『大いなる虚無』の波動。かつて、数多の世界を飲み込んできた、究極の災厄です。そして、その波動に呼応するように、異なる次元に封印されていた古の邪神たちが、再び目覚めようとしています」

時を同じくして、アルドリスとセナが、王国の最古の書庫で、一枚の奇妙な星図を発見する。それは、現在のどの星座とも一致しない、未知の星々が描かれたもので、その中心には、禍々しい紋様が刻まれていた。
「これは……『虚無の座標』…? まさか、これが大いなる虚無への道を示すとでも…?」
アルドリスは、その星図に刻まれた古代文字を読み解き、戦慄する。

ウルフルムは、故郷の村で、仲間たちと共に平和な日々を過ごしていた。しかし、彼の心は晴れなかった。クロノスとの戦いで砕け散り、そして仲間たちの絆の力で再生した虹色の魂の剣は、未だ完全な輝きを取り戻せず、彼の力の不安定さを象徴しているかのようだった。
「俺は……本当に世界を守りきれたのだろうか? また、大切なものを失うことになるのではないか……」
過去の戦いの記憶と、新たなる脅威の予感が、彼を苛んでいた。

ルナは、そんなウルフルムの心の揺らぎを敏感に感じ取っていた。彼女の聖なる光は、ウルフルムを優しく包み込むが、その心の奥底にある影までは届かない。
「ウルフルム、大丈夫だよ。私たちは、いつもあなたの傍にいるから」
しかし、ルナ自身もまた、アウストラが語る「大いなる虚無」の存在に、言いようのない不安を覚えていた。

ザナック、カイ、リアラ、リオといった仲間たちも、それぞれの場所で、世界の不穏な空気を感じ取り、再び訪れるであろう戦いの予感に身を引き締めていた。

ある夜、世界各地の空に、突如として禍々しい紫色の亀裂――「虚無の門」――が出現した。そして、その門から、異形の怪物たちが、津波のように溢れ出し、都市や村々を襲い始めた。それらは、かつて戦った歪みの尖兵とは異なり、明確な殺意と破壊衝動を持った、異次元からの侵略者だった。

「ぐあああっ! 助けてくれ!」
「逃げろ! 化け物だ!」
平和に慣れきっていた人々は、なすすべもなく逃げ惑う。

そんな混乱の中、ウルフルムたちの村にも、虚無の門から現れた侵略者たちが迫る。それは、全身を黒曜石のような硬い鱗で覆い、鋭い爪と牙を持つ、凶暴な獣の姿をしていた。

「くそっ! こんな時に!」
ウルフルムは、まだ完全ではない魂の剣を手に、村人たちを守るために立ち上がる。ルナも、聖なる光で応戦する。

しかし、侵略者たちの力は強大で、数も多い。ウルフルムたちは徐々に追い詰められていく。
その時、天から一筋の金色の光が降り注ぎ、侵略者たちを一瞬にして薙ぎ払った。

光の中から現れたのは、純白の鎧を身に纏い、背中に美しい六枚の翼を持つ、神々しい戦士だった。
「我が名は、熾天使ミカエル。女神ホーラ様の命により、あなた方に協力するために参りました」
ミカエルと名乗る戦士は、静かに、しかし力強い声で言った。彼の瞳には、揺るぎない正義の光が宿っている。

ミカエルは、ウルフルムたちに衝撃の事実を告げる。
「大いなる虚無の波動は、宇宙の法則を乱し、異なる次元の境界を曖昧にしています。そして、その虚無の力を利用し、数多の世界を支配しようと企む存在がいます。それは、かつて神々に反逆し、深淵に封印された堕天使――ルシファーです」

「ルシファー……!?」
俺たちは、その名前に戦慄した。それは、あらゆる神話や伝承の中で、最強最悪の敵として語られる存在だ。

「ルシファーは、虚無の門を通じて、自らの軍勢をこの世界に送り込み、そして、やがては自身も降臨しようとしています。それを阻止するためには、虚無の門を閉じ、そしてルシファーの野望を打ち砕かなければなりません。しかし、そのためには、あなた、ウルフルム……あなたのその魂の剣に宿る『調和の力』と、ルナ殿の『原初の光の竜』の力、そして、失われた『古の神器』の力が必要です」

ミカエルは、ウルフルムに選択を迫る。
「ウルフルムよ、あなたは、再び世界を救うための戦いに身を投じる覚悟がありますか? それは、これまでのどんな戦いよりも過酷で、そして多くの犠牲を伴うかもしれません。あるいは、このまま仲間たちと共に、迫り来る滅びを静かに待つという道も……」

ウルフルムは、一瞬、迷いを見せる。また、仲間たちを危険な戦いに巻き込んでしまうのか、と。しかし、ルナの強い眼差しと、仲間たちの信頼の言葉が、彼を奮い立たせる。
「俺は……戦う! この世界を、そして仲間たちを、絶対に守り抜いてみせる!」

ミカエルは、ウルフルムの決意を認め、彼に告げる。
「ならば、まず、失われた三つの『古の神器』を探し出しなさい。それらは、かつて神々がルシファーを封印するために用いたものであり、それぞれが強大な力を秘めています。一つは、『真実を映す盾』。一つは、『万物を断つ剣』。そして最後の一つは、『生命を育む聖杯』。それらを見つけ出し、使いこなすことができれば、ルシファーに対抗する道が開かれるでしょう」

こうして、ウルフルムたちの、堕天使ルシファーと大いなる虚無の脅威に立ち向かうための、新たな、そして壮大な冒険が始まった。
最初の目的地は、「真実を映す盾」が眠るとされる、古代の「鏡の神殿」。
しかし、そこにはすでにルシファーの配下である、強力な悪魔たちが待ち受けていた。

鏡の神殿は、その名の通り、至る所が鏡でできており、現実と虚像が入り乱れる、幻惑的な空間だった。そして、その鏡は、訪れた者の心の奥底にある「偽りの自分」や「見たくない真実」を映し出し、精神を蝕んでいく。

「ウルフルム、お前は本当に英雄なのか? それとも、ただ力を求めるだけの、偽善者ではないのか?」
鏡の中から、ウルフルム自身の声が問いかけてくる。

「ルナ、お前のその優しさは、本当に全ての人を救えるのか? それとも、ただの自己満足に過ぎないのではないか?」
ルナもまた、鏡の中の自分に問い詰められ、苦悩する。

仲間たちも、それぞれが心の奥底に抱えるトラウマや弱点を、鏡によって増幅され、互いに疑心暗鬼になりかける。
ザナックは、自分の力の限界を感じ、焦りから仲間と衝突してしまう。
アルドリスは、兄の影と、自らの闇の力への恐怖に再び苛まれ、孤立していく。
カイとリアラは、それぞれの過去の悲劇を鏡に映し出され、憎しみと絶望に囚われそうになる。
リオとセナは、自分たちの未熟さを突きつけられ、自信を失ってしまう。

「ククク……どうだ、これが真実の姿だ。お前たちの絆など、しょせんは脆いガラス細工のようなものよ」
鏡の神殿の奥から、ルシファーの配下である、妖艶な姿をした悪魔――「虚飾の魔女リリス」の声が響き渡る。

絶望的な状況の中、ミカエルが再びウルフルムたちの精神に語りかけてくる。
「恐れることはありません。鏡が映し出すのは、あくまで可能性の一つ。真実は、あなた方自身の心の中にあります。互いを信じ、そして自分自身を信じるのです」

さらに、遠く離れた場所から、アウストラが星詠みの力で、リリスの幻惑を打ち破るためのヒントを送ってくる。
「リリスの力の源は、神殿の中心にある『虚無の鏡』。その鏡を破壊すれば、幻惑は解けるはずです!」

ミカエルとアウストラの言葉に導かれ、ウルフルムたちは、それぞれが鏡の中の「偽りの自分」と対峙し、それを乗り越えることで、新たな成長を遂げていく。
ウルフルムは、自らの心の弱さを受け入れ、それでもなお仲間を守るという揺るぎない決意を再確認し、魂の剣の輝きをさらに増す。
ルナは、全ての存在を愛し、癒すという「原初の光の竜」としての使命を完全に自覚し、その聖なる光は、鏡の幻惑さえも浄化するほどの力を得る。
仲間たちもまた、互いの弱さを認め合い、支え合うことで、より強固な絆を築き上げていく。

そして、彼らはついに、神殿の中心にある「虚無の鏡」の前に辿り着く。そこには、虚飾の魔女リリスが待ち受けていた。
「フフフ……面白い。まさか、ここまで辿り着くとはな。だが、お前たちの旅もここまでだ!」
リリスは、鏡の力を使い、ウルフルムたちの最も恐れる悪夢を具現化させ、襲いかかってくる。

しかし、今のウルフルムたちには、もはや幻惑は通用しなかった。彼らは、互いを信じ、完璧な連携でリリスの攻撃を打ち破り、そして、ルナの聖なる光と、ウルフルムの魂の剣の一撃が、虚無の鏡を粉々に砕き割った。
鏡が砕け散った瞬間、神殿全体が激しく揺れ動き、何かが解放されたような、あるいは、何かが目覚めたような、不気味な気配が漂う。

虚無の鏡を失ったリリスは、力を大きく削がれ、ウルフルムたちの前に敗れ去る。
「おのれ……! だが、覚えておくがいい……。ルシファー様の計画は、まだ始まったばかりだ……。お前たちは、いずれ真の絶望を知ることになるだろう……」
リリスは、不吉な言葉を残し、闇の中へと消えていった。

リリスが消えた後、神殿の祭壇には、美しい銀色の盾が現れた。それが、古の神器の一つ、「真実を映す盾」だった。その盾は、あらゆる幻惑を見破り、そして持ち主の心の強さを映し出すという。

しかし、盾を手に入れた安堵も束の間、神殿全体が激しく崩壊を始め、そして、空間の歪みから、ルシファー自身が、その圧倒的な威圧感を伴って姿を現した。
「フハハハハ! 見事だ、ウルフルム。最初の神器を手に入れたか。だが、それは全て、我が計画通りだ」

ルシファーは、衝撃の事実を告げる。鏡の神殿の試練も、リリスの出現も、全てはウルフルムたちを鍛え上げ、そして「真実を映す盾」を彼らに手に入れさせるための、ルシファーが仕組んだ壮大な罠だったのだと。
「お前たちのその力、そしてその盾は、いずれ我が計画にとって、なくてはならないものとなるのだ。感謝するぞ、人間どもよ」
ルシファーは、そう言うと、次元の彼方へと姿を消した。

ウルフルムたちは、ルシファーの恐るべき計画の深さと、自分たちが彼の掌の上で踊らされていたという事実に、戦慄する。
そして、女神ホーラから、さらなる衝撃の預言がもたらされる。
「ウルフルム……ルシファーの目的は、三つの神器の力を利用し、大いなる虚無の力を完全に制御し、そして……かつて神々が創造したこの宇宙そのものを、彼自身の望む『新たなる楽園』へと作り変えることかもしれません。そのためには、どちらかの世界の『核』となる存在……ウルフルムか、あるいはルナ、あなた方どちらかの魂が必要となるでしょう」

ウルフルムか、ルナか、どちらかの犠牲。
非情な選択を迫られたウルフルムたちの、本当の戦いが、今、始まろうとしていた。
物語は、さらなる試練と葛藤、そして壮絶な戦いの中、クライマックスへと向かっていく。
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