黒曜の誓い、竜を狩る者たち

ンヴ

文字の大きさ
74 / 100

74

しおりを挟む
嵐が数日間にわたって吹き荒れ、村全体が不安な空気に包まれていた夜。ウルフルムは、なかなか寝付けずにいた。窓を叩く激しい雨音と、不気味な風の音が、彼の心の奥底にある不安を掻き立てる。ルナもまた、隣で静かに目を覚まし、彼の背中にそっと手を置いた。
「ウルフルム……大丈夫?」
「ああ……少し、嫌な予感がするだけだ」

その時、村の外れから、けたたましい鐘の音が響き渡った。それは、村に危機が迫っていることを知らせる、緊急の合図だった。
「何事だ!?」
ウルフルムは飛び起き、壁に飾ってあった虹色の魂の剣を手に取った。ルナも、すぐに聖なる光を纏い、戦闘の準備を整える。

村の広場へと駆けつけると、そこには信じられない光景が広がっていた。
村の建物の一部が、まるで蜃気楼のように揺らめき、別の時代の、あるいは別の場所の風景と混じり合っている。村人たちの中には、突然、自分ではない誰かの記憶が流れ込んできたかのように混乱し、叫び声を上げている者もいた。
「ここはどこだ……!? 私は誰なんだ……!?」
「私の子供が……私の子供が、見知らぬ姿に変わってしまった……!」

「これは……一体……!?」
ウルフルムは、目の前の異常事態に言葉を失った。

「ウルフルム! ルナちゃん! 大変だ!」
ザナックが、血相を変えて駆け寄ってきた。彼の顔にも、深い困惑と焦りの色が浮かんでいる。
「他の村でも、同じようなことが起こってるらしい! 時間が巻き戻ったり、未来の出来事が現実になったり……まるで、世界中がおかしくなっちまったみたいだ!」

その時、嵐の雲間から、一筋の禍々しい紫色の光が地上へと降り注ぎ、村の広場の中央に、異形の姿をした存在が静かに降り立った。それは、複数の動物の特徴を歪に組み合わせたような体躯を持ち、その瞳は深淵の闇よりもさらに暗く、見る者の魂を凍てつかせるかのような冷たい光を宿していた。

「……ようやく見つけたぞ、『世界の歪みを正す者』ウルフルム。そして、『原初の光の竜』の魂を持つ娘よ」
その存在――ケイロンと名乗る使者は、抑揚のない、しかしどこか威圧的な声で言った。その声は、まるで脳内に直接響いてくるかのようだ。

「お前が……この異変を引き起こしているのか!?」
ウルフルムは、剣を構え、ケイロンを睨みつけた。

「引き起こしている、のではない。これは、必然だ。世界の『調律』が始まったのだ。古の盟約は破られ、新たなる宇宙の法則が生まれようとしている。お前たちは、その過程における、些細な障害に過ぎぬ」
ケイロンは、淡々と告げる。その言葉には、一切の感情が込められていない。

「調律だと……? ふざけるな! これが、お前たちの言う調律だというのか! 人々を混乱させ、苦しめることが!」
ザナックが、怒りを込めて叫んだ。

「感情は、世界の調和を乱すノイズだ。我らが主、『調律者』様は、感情のない、完全なる秩序に満ちた世界を創造されようとしている。お前たちのその矮小な感情も、やがては消え去る運命なのだ」
ケイロンは、その冷たい瞳で俺たちを見据えた。

「そんな世界……俺たちは認めない!」
ウルフルムは、魂の剣を振り上げ、ケイロンに斬りかかろうとした。

しかし、ケイロンは微動だにしない。
「無駄な抵抗だ、ウルフルム。お前には、近いうちに、世界の運命を左右する『究極の選択』が突きつけられるだろう。その選択を誤れば、この世界は、そしてお前が愛する全てのものは、永遠に失われることになる」
ケイロンは、そう言うと、一枚の奇妙な紋章が刻まれた黒いカードをウルフルムの足元に投げ捨てた。カードには、「運命の分岐点――最初の試練:過去の亡霊」とだけ記されていた。

「最初の試練……? これは、一体……」
ウルフルムが戸惑っていると、ケイロンの体がゆっくりと空間に溶け込むように消え始めた。

「待て! ケイロン! どういう意味だ!」
ウルフルムが叫ぶが、ケイロンは何も答えず、完全に姿を消してしまった。

後に残されたのは、混乱する村人たちと、不気味な黒いカード、そして、世界の崩壊が刻一刻と近づいているという、絶望的な現実だった。

時を同じくして、遠く離れた王都のアウストラの元にも、衝撃的な星詠みの結果がもたらされていた。
「まさか……! アトロポスとエコーが……復活を……!? そして、その背後には、やはり『調律者』の影が……!」
アウストラは、戦慄に身を震わせた。

世界の異変は、もはや誰の目にも明らかだった。
ウルフルムたちは、ケイロンが残した不吉なカードと、アウストラからの緊急の連絡を受け、再び過酷な戦いへと身を投じることを決意する。
最初の試練、「過去の亡霊」が待ち受ける場所――それは、ウルフルムにとって、そして仲間たちにとって、最も辛い記憶が眠る、因縁の地だったのかもしれない。
物語は、世界の法則そのものを揺るがす、壮大な戦いの序章へと突入していく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...