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女神ホーラの祝福を受け、宇宙に新たなる「絆と調和の法則」が確立されてから数年。ウルフルムたちが守り抜いた世界は、かつてないほどの平和と繁栄を謳歌していた。異なる種族や文化が交流し、新たな技術や芸術が花開き、人々の笑顔が絶えることはなかった。
しかし、その輝かしい平和の裏側で、宇宙の深淵から、静かに、しかし確実に、新たな「歪み」が生まれ始めていた。
天空の聖域。星々が間近に迫るその場所で、アウストラは日夜、星々の運行を観測し続けていた。近頃、彼女の星詠みは、奇妙な波動を捉えるようになっていた。それは、かつてウルフルムたちが死闘を繰り広げ、そして打ち破ったはずの、サラシエル、ノクス、カイロスといった強敵たちの力と酷似していながらも、どこか空虚で、魂の感じられない、冷たい模倣品のような波動だった。
「ホーラ様……これは、一体……?」
アウストラは、傍らに佇む時間を司る女神ホーラに、不安げな表情で問いかけた。
「星々が囁いています……。過去の災厄が、再び世界を覆おうとしている、と。しかし、その力は、かつてのものとは似て非なる……まるで、誰かが悪意をもって、その記憶を呼び覚まそうとしているかのようです」
ホーラは、その神々しい瞳を閉じ、しばし宇宙の声に耳を澄ませた後、重々しく口を開いた。
「……アウストラ、あなたの星詠みは、真実の一端を捉えています。しかし、それは単なる過去の災厄の再来ではありません。むしろ、その『模倣』……あるいは、『歪んだ写し鏡』とでも言うべきものです」
ホーラは、アウストラに語り始めた。遥か昔、この宇宙が創造される以前の物語を。
「この宇宙が生まれる遥か昔……多くの宇宙が生まれ、そして消えていく中で、ただ一人、その全ての興亡を見つめ続けてきた存在がいました。それは、自らを『原初の芸術家』と名乗り、宇宙の創造と破壊そのものを、自らの芸術作品として捉える、孤独で、そして強大すぎる力を持つ女神……」
「原初の芸術家……?」
アウストラは、息を飲んだ。そんな存在のことは、どんな古文書にも記されていなかった。
「彼女は、かつて自らが創造した宇宙が、あまりにも早く、そして無残に滅びゆく様を目の当たりにし、深い絶望と孤独に心を閉ざしてしまいました。そして、彼女は決意したのです。二度と失うことのない、永遠に変わらない、完璧な『美』を創造することを。そのために、彼女は、様々な宇宙の『記憶』――特に、最も輝かしく、そして最も絶望的な戦いの記憶――を収集し、それらを元に、自らの理想とする、永遠の芸術作品を創り上げようとしているのかもしれません」
ホーラの言葉は、アウストラに戦慄を覚えさせた。もしそれが真実ならば、ウルフルムたちのこれまでの戦いもまた、その女神の「収集対象」となっていた可能性がある。
「では……今、私たちが感じているこの不吉な波動は……その女神が、私たちの世界の記憶を元に、新たな『作品』を創り出そうとしているということなのですか……?」
「おそらくは……。彼女にとって、ウルフルムたちの戦いは、非常に『魅力的』な素材だったのでしょう。光と闇、希望と絶望、そして仲間たちとの絆……。それらは、彼女の歪んだ美学を刺激するには十分すぎるほどだったのかもしれません」
ホーラの瞳には、深い憂慮の色が浮かんでいた。
「もし、彼女が本格的にこの世界に干渉し始めた場合……それは、これまでのどんな脅威よりも、予測不可能で、そして厄介なものとなるでしょう。なぜなら、彼女の目的は、世界の支配でも破壊でもなく、ただ自らの『芸術』を完成させることだけなのですから……」
時を同じくして、王国の最古の書庫の奥深く。エルネスト魔術師団長とアルドリスは、一枚の古びた羊皮紙に描かれた、不可解な設計図のようなものと格闘していた。それは、星の民の遺跡から偶然発見されたもので、未知の言語と記号で埋め尽くされている。
「この紋様……どこかで見たことがあるような……」
アルドリスは、羊皮紙の一角に描かれた、歪んだ螺旋のような紋様に、言いようのない嫌悪感を覚えた。
「そして、この記述……『魂の複製』、『記憶の再構築』……『永遠なる模倣』……? エルネスト様、これは一体……?」
エルネストは、険しい表情で羊皮紙を見つめていた。
「……分からぬ。だが、もしこの記述が真実ならば……何者かが、過去の存在、あるいは出来事を、寸分違わぬ形で『模倣』し、そしてそれを意のままに操ろうとしている可能性がある。そして、その技術は、我々の知るどんな魔法や科学をも遥かに超越している……」
エルネストの脳裏に、アウストラからもたらされた不吉な星詠みの報告が蘇る。
「まさか……アウストラ殿が危惧されていた『歪み』とは……このことなのか……?」
世界の平和の裏側で、静かに、しかし確実に、新たな脅威の胎動が始まっていた。それは、ウルフルムたちの輝かしい勝利の記憶そのものを汚し、そして世界を永遠の「模倣」の悪夢へと引きずり込もうとする、孤独な創造主の歪んだ渇望だった。
そして、その最初の兆候は、ウルフルム自身の心の中に、静かに、しかし確実に忍び寄っていた――。
彼の日常に潜む、微かな違和感と、言いようのない虚無感として。
しかし、その輝かしい平和の裏側で、宇宙の深淵から、静かに、しかし確実に、新たな「歪み」が生まれ始めていた。
天空の聖域。星々が間近に迫るその場所で、アウストラは日夜、星々の運行を観測し続けていた。近頃、彼女の星詠みは、奇妙な波動を捉えるようになっていた。それは、かつてウルフルムたちが死闘を繰り広げ、そして打ち破ったはずの、サラシエル、ノクス、カイロスといった強敵たちの力と酷似していながらも、どこか空虚で、魂の感じられない、冷たい模倣品のような波動だった。
「ホーラ様……これは、一体……?」
アウストラは、傍らに佇む時間を司る女神ホーラに、不安げな表情で問いかけた。
「星々が囁いています……。過去の災厄が、再び世界を覆おうとしている、と。しかし、その力は、かつてのものとは似て非なる……まるで、誰かが悪意をもって、その記憶を呼び覚まそうとしているかのようです」
ホーラは、その神々しい瞳を閉じ、しばし宇宙の声に耳を澄ませた後、重々しく口を開いた。
「……アウストラ、あなたの星詠みは、真実の一端を捉えています。しかし、それは単なる過去の災厄の再来ではありません。むしろ、その『模倣』……あるいは、『歪んだ写し鏡』とでも言うべきものです」
ホーラは、アウストラに語り始めた。遥か昔、この宇宙が創造される以前の物語を。
「この宇宙が生まれる遥か昔……多くの宇宙が生まれ、そして消えていく中で、ただ一人、その全ての興亡を見つめ続けてきた存在がいました。それは、自らを『原初の芸術家』と名乗り、宇宙の創造と破壊そのものを、自らの芸術作品として捉える、孤独で、そして強大すぎる力を持つ女神……」
「原初の芸術家……?」
アウストラは、息を飲んだ。そんな存在のことは、どんな古文書にも記されていなかった。
「彼女は、かつて自らが創造した宇宙が、あまりにも早く、そして無残に滅びゆく様を目の当たりにし、深い絶望と孤独に心を閉ざしてしまいました。そして、彼女は決意したのです。二度と失うことのない、永遠に変わらない、完璧な『美』を創造することを。そのために、彼女は、様々な宇宙の『記憶』――特に、最も輝かしく、そして最も絶望的な戦いの記憶――を収集し、それらを元に、自らの理想とする、永遠の芸術作品を創り上げようとしているのかもしれません」
ホーラの言葉は、アウストラに戦慄を覚えさせた。もしそれが真実ならば、ウルフルムたちのこれまでの戦いもまた、その女神の「収集対象」となっていた可能性がある。
「では……今、私たちが感じているこの不吉な波動は……その女神が、私たちの世界の記憶を元に、新たな『作品』を創り出そうとしているということなのですか……?」
「おそらくは……。彼女にとって、ウルフルムたちの戦いは、非常に『魅力的』な素材だったのでしょう。光と闇、希望と絶望、そして仲間たちとの絆……。それらは、彼女の歪んだ美学を刺激するには十分すぎるほどだったのかもしれません」
ホーラの瞳には、深い憂慮の色が浮かんでいた。
「もし、彼女が本格的にこの世界に干渉し始めた場合……それは、これまでのどんな脅威よりも、予測不可能で、そして厄介なものとなるでしょう。なぜなら、彼女の目的は、世界の支配でも破壊でもなく、ただ自らの『芸術』を完成させることだけなのですから……」
時を同じくして、王国の最古の書庫の奥深く。エルネスト魔術師団長とアルドリスは、一枚の古びた羊皮紙に描かれた、不可解な設計図のようなものと格闘していた。それは、星の民の遺跡から偶然発見されたもので、未知の言語と記号で埋め尽くされている。
「この紋様……どこかで見たことがあるような……」
アルドリスは、羊皮紙の一角に描かれた、歪んだ螺旋のような紋様に、言いようのない嫌悪感を覚えた。
「そして、この記述……『魂の複製』、『記憶の再構築』……『永遠なる模倣』……? エルネスト様、これは一体……?」
エルネストは、険しい表情で羊皮紙を見つめていた。
「……分からぬ。だが、もしこの記述が真実ならば……何者かが、過去の存在、あるいは出来事を、寸分違わぬ形で『模倣』し、そしてそれを意のままに操ろうとしている可能性がある。そして、その技術は、我々の知るどんな魔法や科学をも遥かに超越している……」
エルネストの脳裏に、アウストラからもたらされた不吉な星詠みの報告が蘇る。
「まさか……アウストラ殿が危惧されていた『歪み』とは……このことなのか……?」
世界の平和の裏側で、静かに、しかし確実に、新たな脅威の胎動が始まっていた。それは、ウルフルムたちの輝かしい勝利の記憶そのものを汚し、そして世界を永遠の「模倣」の悪夢へと引きずり込もうとする、孤独な創造主の歪んだ渇望だった。
そして、その最初の兆候は、ウルフルム自身の心の中に、静かに、しかし確実に忍び寄っていた――。
彼の日常に潜む、微かな違和感と、言いようのない虚無感として。
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