午前十時を過ぎたなら ―義父との秘密が始まる―

山田さとし

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第一部 恵の選択

第四章 二人きりのコーヒータイム2

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【啓介と同居 二ヶ月目】 
【20●1年2月15日 AM10:30】

ダイニングで。

※※※※※※※※※※※※※※※

啓介はカップ越しに恵の身体を辿っている。
この少々どころか、かなり気の強い息子の嫁は暫らく見ない内に、女らしい身体つきになっていた。

武と同居する動機の一つに息子達の中で一番気の合う事であったが、別の理由としては恵であった。
三人の嫁の中でも群を抜いて器量が良く、芯もシッカリしていて気が利いている。

ただ、女系家族で育ったらしく、啓介のような古いタイプの亭主関白が嫌いなようであった。

それでも残りの一生を共に過すとすれば、少々気が強くても他の上辺だけは優しくて自分の財産を狙っているような兄嫁達よりも数段マシに思えるのである。

恵には裏表が無いように感じられた。
幾多の事業を成功させた啓介には人の本質を見抜く力があるのだ。

武にしてもオットリした性格ではあるが、優しく妻を大事にしているのを的確に読み取っていた。
それならば仲良くして嫌われないように振舞えばいいではないかと思うのだが、そうはいかないのである。

武からもタバコ等、他の細かい事を注意はされていたのだが、余り素直にきいて息子達に主導権を握られるのは嫌であった。
貧しい身から裸一貫で財産を築き上げた自分としては、聞き分けの良い老人にはなりたくない。

そんな事になれば生きる気力も無くしてしまうだろうと思っている。
そう、妻を亡くした時のように。

今でも不思議に思うのだ。
当たり前のように存在していた妻がいないのである。

何もする気が起きず一時、本当に自分は死んでしまうのかと思った。
妻の一周忌が終わった朝、目を覚ますと何か言いようの無い寂しさに襲われた。

妻の魂自体も消えていってしまったようで、一人でいるのが恐くなったのである。
事業が忙しく、よく遊びもした。

だが、妻が死ぬ直前まで「営み」は続いていたのだ。
啓介はいわゆる「絶倫」であった。

年をとっても自分の背中に爪を立てる妻を愛おしく思っていた。
それが妻を亡くしてからは殆ど遊びもせず、呆然と暮らしていた。

このままでは生きていても仕方が無いと、第二の人生を歩く事を決意したのである。

金ならあった。
残りの人生を気楽に生きようと思った。

ただ、一人では寂しかったのである。
誰かと一緒に生活をしたかった。

一人きりの家で年老いていきたくは無い。
でも、自分の弱い心も見せたくはなかった。

それでわざと強がりに見せるため、同居する条件として家を買ってやる事にしたのだ。

そう、金で愛情を買うように。

恵が自分を嫌っている事は十分知っていた。
口調は丁寧なのだが、心の底では避けている。

啓介は、それはそれで都合が良いと思った。
武が言っていた恵の嫌いな振るまいを止めないのには、まだ理由があるのだから。

恵が魅力的すぎるのである。

しかも、どことなく初恋の人と似ていた。
初めて見た瞬間、ドキリと胸が鳴ったほどだった。

だからだろうか。
わざと感心のない素振りをみせた。

息子の武に「胸が小さい」など余計なことも言った。
本当は小ぶりながらも、形の良いシルエットをみせる恵のバストは好みだったのに。

妻の葬式以来の再会を楽しみにしていた啓介は、良い意味で期待を裏切られる。
精一杯のオシャレをして住宅展示場にあらわれた恵は、まるで天使のように思えた。

初めて会った時はギスギスした印象であったが、良い意味で年齢を重ねて艶と丸みが出ていた。
性格がキツク馬鹿正直に思い込むたちなのであろうが、人生経験豊富な啓介にとっては返って新鮮な魅力を感じるのである。

同居を始めてからも、啓介は意識的にぶっきらぼうな態度をとった。
初めから媚びるように機嫌をとって、逆に気持ちが引かれるのが怖かったからだ。

それに初恋の人に想いを重ねてしまう恵が眩しく感じていることを、悟られたくはなかった。
夕食の時でも息子と話す内容が恵の嫌いな卑猥なものと知りながら、あえて選んでいたのだ。

幼い頃、憧れた優等生の女子への態度のように。
嫌われるのが解かっていても、何となく意地悪をしてみたくもなるのだ。

視界の端で捕らえる恵の表情を焼き付け、自分の部屋に持ち帰る。
一人になり、その愛らしい顔を思い浮かべるのだ。

恵の半月型の瞳が心に入ってくる。
形の良いプックリとした唇がそそる。

眉をひそめる表情を美しいと思った。
日を重ねる毎に思いが強くなってくる。

そんな想いに堪らず外へ遊びに行ってしまう。
まさか息子の嫁に手を出す事は無いのだろうが、その気持を隠すかの如くわざと無遠慮に卑猥な話をする啓介であった。

まるでそう、イタヅラ小僧のように。
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