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第四部「不条理な記憶」
第二十章3 不安
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※※※※※※※※※※※※※※※
「いってらっしゃい・・・」
圭子を乗せた車が発進するのを、香奈子は肩先で手を振りながら見送った。
夫が出張中も運転手が迎えに来て、圭子を高校まで送り迎えしてくれるのだ。
「ふぅっー・・・・」
ダイニングに戻り、椅子に座ると大きなため息をついた。
何だか、妙な気分だった。
まだ夢の中にいるようで現実感が無い。
身体がフワフワして宙に浮かびそうだった。
娘と二人きりの朝食も楽しくて、何時になく美味しく食べられた。
ティーカップを取り、まだ残っているレモンティーを口に含む。
甘酸っぱい味が広がる。
「おい・・しい・・・」
何か心に染み透るようだった。
昨日は苦く感じたのに。
「何だか、全然違う飲み物みたい・・・」
誰もいないテーブルでゆっくりと味わっている。
庭から木漏れ日と共に小鳥のさえずりが聞こえてくる。
こんな安らいだ気分は久しぶりだった。
「フフフ・・・」
夢の続きを思い出すたびに笑みがこぼれる。
大きい手だった。
ゴツゴツした指にまとわりつくように、小さな手で握っていた。
『おじちゃんは、だれ・・・?』
幼い声が無邪気に尋ねていた。
口元を歪ませ笑っている男の顔が逆光の中で霞んで見えた。
(えっ・・・?)
心臓がドクンと脈打った。
香奈子の表情から笑顔が消える。
何かがおかしい。
説明のつかない違和感が沸き上がる。
『おじちゃんは・・だれ・・・?』
(誰なの・・・?)
少女の声に疑問が重なる。
濃い霧が晴れていくように記憶が徐々に蘇っていく。
(そういえば・・・)
昨日、誰かに会ったような気がする。
部屋を出て、応接間に向かった。
ドアを開けた瞬間、何か嫌な予感がした。
閉め切ったままの部屋はムッとした息苦しさに覆われている。テーブルの上に飲みかけのコップが二つ置いたままになっていた。
(この部屋で・・・)
何かがあったような気がするのだが、思い出せない。
灰皿にタバコの吸殻が何本も残っている。
焦げ臭い残り香に言い知れぬ不安を感じた。
『おじちゃんは、だれ・・・?』
少女の声が響く。
「あぁ・・・」
逆光で眩しかった顔が少しずつハッキリしてくる。
心臓の鼓動が激しく脈打ち始めた。
「この部屋で・・わたし・・・」
香奈子の顔が恐怖に青ざめていく。
ソファーのかげに衣服を見つけた。
「こ、これは・・・?」
手にとってみるとブラウスは引き裂かれ、ボタンも何個か取れていた。
「あぁっ・・・」
突然、記憶が蘇ってきた。
夢の中で笑っていた男が正体を現したのだ。
「た、竹内・・さん・・・?」
「いってらっしゃい・・・」
圭子を乗せた車が発進するのを、香奈子は肩先で手を振りながら見送った。
夫が出張中も運転手が迎えに来て、圭子を高校まで送り迎えしてくれるのだ。
「ふぅっー・・・・」
ダイニングに戻り、椅子に座ると大きなため息をついた。
何だか、妙な気分だった。
まだ夢の中にいるようで現実感が無い。
身体がフワフワして宙に浮かびそうだった。
娘と二人きりの朝食も楽しくて、何時になく美味しく食べられた。
ティーカップを取り、まだ残っているレモンティーを口に含む。
甘酸っぱい味が広がる。
「おい・・しい・・・」
何か心に染み透るようだった。
昨日は苦く感じたのに。
「何だか、全然違う飲み物みたい・・・」
誰もいないテーブルでゆっくりと味わっている。
庭から木漏れ日と共に小鳥のさえずりが聞こえてくる。
こんな安らいだ気分は久しぶりだった。
「フフフ・・・」
夢の続きを思い出すたびに笑みがこぼれる。
大きい手だった。
ゴツゴツした指にまとわりつくように、小さな手で握っていた。
『おじちゃんは、だれ・・・?』
幼い声が無邪気に尋ねていた。
口元を歪ませ笑っている男の顔が逆光の中で霞んで見えた。
(えっ・・・?)
心臓がドクンと脈打った。
香奈子の表情から笑顔が消える。
何かがおかしい。
説明のつかない違和感が沸き上がる。
『おじちゃんは・・だれ・・・?』
(誰なの・・・?)
少女の声に疑問が重なる。
濃い霧が晴れていくように記憶が徐々に蘇っていく。
(そういえば・・・)
昨日、誰かに会ったような気がする。
部屋を出て、応接間に向かった。
ドアを開けた瞬間、何か嫌な予感がした。
閉め切ったままの部屋はムッとした息苦しさに覆われている。テーブルの上に飲みかけのコップが二つ置いたままになっていた。
(この部屋で・・・)
何かがあったような気がするのだが、思い出せない。
灰皿にタバコの吸殻が何本も残っている。
焦げ臭い残り香に言い知れぬ不安を感じた。
『おじちゃんは、だれ・・・?』
少女の声が響く。
「あぁ・・・」
逆光で眩しかった顔が少しずつハッキリしてくる。
心臓の鼓動が激しく脈打ち始めた。
「この部屋で・・わたし・・・」
香奈子の顔が恐怖に青ざめていく。
ソファーのかげに衣服を見つけた。
「こ、これは・・・?」
手にとってみるとブラウスは引き裂かれ、ボタンも何個か取れていた。
「あぁっ・・・」
突然、記憶が蘇ってきた。
夢の中で笑っていた男が正体を現したのだ。
「た、竹内・・さん・・・?」
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