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第一部 プロローグ
第一章 ヴァージンロード
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20●2年9月20日 AM 9:00
荘厳なオルガンの音色が教会の聖堂に響き渡っている。
人々のざわめきが静かになるにしたがって、聞きなれたメンデルスゾーンの結婚行進曲のメロディーが始まり、重そうな扉から漏れた眩しい光りと共に花嫁のシルエットが姿を見せた。
「わぁー・・・」
「綺麗・・・」
ため息ともつかぬ歓声は当然、春香一人が独占するものであった。
キリッと真横に走った濃い眉。
大きな瞳を蔽う長い睫毛。
彫りの深い表情は春香の鼻を高く見せる。
形の良い唇は弾力がありそうに細かな皺を見せてプックリと膨らんでいる。
スレンダーな身体に似合わぬ豊満なバストと同様に、尖った顎と対称的なふっくらとした頬は血色もよく輝いていた。
透通る肌を包む純白のウェディングドレスが清純な花嫁を演出する。
長く艶やかな黒髪は束ねられ、細いうなじを隠すように薄いベールが銀の王冠に止められて顔を覆っている。
はにかむ如く俯いた顔は頬をほんのりバラ色に染め、ヴァージンロードの赤い絨毯を慎重に歩いていく。
花嫁の父の手に添えられた、しなやかな指は白い手袋におおわれている。
もうすぐ誓いの儀式と共に祭壇で待ちうける花婿の手によって、指輪がはめられるのを静かに待っているのだった。
緊張気味に見守る花婿の井上克巳は甘いマスクから白い歯を零し、春香の美しさに見とれていた。
(き、綺麗だ・・・。
本当にこんな美しい人が、
僕の妻になってくれるのだろうか?)
心の底から幸せな気持ちが湧き上がってくる。
今更ながら、この清純な乙女の心を射止めた事を神に感謝したい気持ちであった。
そして春香を紹介してくれた社長へも。
花婿が勤める会社の社長である秋元幸造はイギリス仕立てのダブルの礼服が暑いのか、しきりにハンカチで額の汗を拭いていた。
いや、六十を過ぎても尚、精力絶倫の男は元々汗っかきで脂性の顔から何時もネットリとした汗を吹き出しているのだった。
頭に白髪が目立ち始めると潔くスキンヘッドにした。
その分若く見えて、とても今年で六十二歳とは感じられない。
尤も煩悩未だ覚めやらぬ男は全国にとどろく秋元薬局のチェーン網を更に伸ばすべく、精力的に働き続けていた。
隣に座る専務である一人息子の悟と共に。
今年三十二歳になる悟は何処か冷めたような表情で父を巧みに補佐していた。
情報通信技術をいち早く取り入れ、インターネット販売や駅の構内にも積極的に出店してシェアを益々拡大していった。
花婿の井上は悟の直属の部下でT大出身のバリバリのエリートである。
尊敬する悟の元で将来を嘱望される若者だった。
そんな男に娘を嫁に贈る事を誇らしげに思う春香の父、佐山道明は幸造に向けて感謝の気持ちを込めた眼差しを送っている。
老舗の卸問屋の社長である佐山は幸造から多額の資金援助も受けており、仲人も幸造の紹介で県知事にしてもらうという名誉に、溢れる程の恩を感じていた。
「汝は一生、
この女を妻として愛する事を誓いますか?」
聖職者の服を身にまとった神父が柔和な笑みを浮かべながらおごそかに尋ねる。
「誓います・・・」
上気した顔で元気良く花婿が答える。
「汝は一生、
この男を夫として愛する事を誓いますか?」
「誓います・・・」
花嫁が幾分顔を俯かせながら声を出した。
大きな瞳が潤んでいる。
「病める時も苦しい時も
二人は姦淫を犯す事も無く、
一生を添い遂げる事を誓いますか?」
【誓います・・・】
二人の声が重なる。
聖堂に響き渡った声に幸造の濁った目が一瞬光った。
鋭い眼光は花嫁の美しい眼差しを捕らえて放さない。
悟には春香の俯いた顔が赤く染まったような気がした。
ライス・シャワーと歓声が降り注ぐ中、幸せ一杯の花嫁と花婿は腕を組みながら教会を出ていく。
今日の主役達を中心に記念写真が撮られ、秋晴れの空を一番(つが)いの小鳥達が二人を祝福するかの如く舞っていた。
「春香さん・・・」
嬉しそうに覗き込む花婿に、はにかむように白い歯を零す春香であった。
荘厳なオルガンの音色が教会の聖堂に響き渡っている。
人々のざわめきが静かになるにしたがって、聞きなれたメンデルスゾーンの結婚行進曲のメロディーが始まり、重そうな扉から漏れた眩しい光りと共に花嫁のシルエットが姿を見せた。
「わぁー・・・」
「綺麗・・・」
ため息ともつかぬ歓声は当然、春香一人が独占するものであった。
キリッと真横に走った濃い眉。
大きな瞳を蔽う長い睫毛。
彫りの深い表情は春香の鼻を高く見せる。
形の良い唇は弾力がありそうに細かな皺を見せてプックリと膨らんでいる。
スレンダーな身体に似合わぬ豊満なバストと同様に、尖った顎と対称的なふっくらとした頬は血色もよく輝いていた。
透通る肌を包む純白のウェディングドレスが清純な花嫁を演出する。
長く艶やかな黒髪は束ねられ、細いうなじを隠すように薄いベールが銀の王冠に止められて顔を覆っている。
はにかむ如く俯いた顔は頬をほんのりバラ色に染め、ヴァージンロードの赤い絨毯を慎重に歩いていく。
花嫁の父の手に添えられた、しなやかな指は白い手袋におおわれている。
もうすぐ誓いの儀式と共に祭壇で待ちうける花婿の手によって、指輪がはめられるのを静かに待っているのだった。
緊張気味に見守る花婿の井上克巳は甘いマスクから白い歯を零し、春香の美しさに見とれていた。
(き、綺麗だ・・・。
本当にこんな美しい人が、
僕の妻になってくれるのだろうか?)
心の底から幸せな気持ちが湧き上がってくる。
今更ながら、この清純な乙女の心を射止めた事を神に感謝したい気持ちであった。
そして春香を紹介してくれた社長へも。
花婿が勤める会社の社長である秋元幸造はイギリス仕立てのダブルの礼服が暑いのか、しきりにハンカチで額の汗を拭いていた。
いや、六十を過ぎても尚、精力絶倫の男は元々汗っかきで脂性の顔から何時もネットリとした汗を吹き出しているのだった。
頭に白髪が目立ち始めると潔くスキンヘッドにした。
その分若く見えて、とても今年で六十二歳とは感じられない。
尤も煩悩未だ覚めやらぬ男は全国にとどろく秋元薬局のチェーン網を更に伸ばすべく、精力的に働き続けていた。
隣に座る専務である一人息子の悟と共に。
今年三十二歳になる悟は何処か冷めたような表情で父を巧みに補佐していた。
情報通信技術をいち早く取り入れ、インターネット販売や駅の構内にも積極的に出店してシェアを益々拡大していった。
花婿の井上は悟の直属の部下でT大出身のバリバリのエリートである。
尊敬する悟の元で将来を嘱望される若者だった。
そんな男に娘を嫁に贈る事を誇らしげに思う春香の父、佐山道明は幸造に向けて感謝の気持ちを込めた眼差しを送っている。
老舗の卸問屋の社長である佐山は幸造から多額の資金援助も受けており、仲人も幸造の紹介で県知事にしてもらうという名誉に、溢れる程の恩を感じていた。
「汝は一生、
この女を妻として愛する事を誓いますか?」
聖職者の服を身にまとった神父が柔和な笑みを浮かべながらおごそかに尋ねる。
「誓います・・・」
上気した顔で元気良く花婿が答える。
「汝は一生、
この男を夫として愛する事を誓いますか?」
「誓います・・・」
花嫁が幾分顔を俯かせながら声を出した。
大きな瞳が潤んでいる。
「病める時も苦しい時も
二人は姦淫を犯す事も無く、
一生を添い遂げる事を誓いますか?」
【誓います・・・】
二人の声が重なる。
聖堂に響き渡った声に幸造の濁った目が一瞬光った。
鋭い眼光は花嫁の美しい眼差しを捕らえて放さない。
悟には春香の俯いた顔が赤く染まったような気がした。
ライス・シャワーと歓声が降り注ぐ中、幸せ一杯の花嫁と花婿は腕を組みながら教会を出ていく。
今日の主役達を中心に記念写真が撮られ、秋晴れの空を一番(つが)いの小鳥達が二人を祝福するかの如く舞っていた。
「春香さん・・・」
嬉しそうに覗き込む花婿に、はにかむように白い歯を零す春香であった。
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