エリート妻色情飼育―性奴隷は人妻にかぎる―

山田さとし

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第二部 企み

第六章 社長室

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結婚式からさかのぼること数ヶ月前。

※※※※※※※※※※※※※※※
20●2年2月5日 PM 3:30


「オヤジはいるかい・・・?」
社長室の前室になっている秘書室の扉を開けて入ってきた悟に、主席秘書の伊藤裕子は戸惑った声を出した。

「い、今・・接客中ですが・・・」
何時もながらノックもせずに入って来る専務に対して、眉を潜める表情で咎めるのだが瞳は笑っていた。

「接客ぅ?嘘つけっ・・・」
イタズラな目で言う悟に、裕子は思わず表情を崩しながらも声を潜めた。

「でもっ・・取り込み中です・・・」
秘書の思わせぶりな顔に、悟は呆れた声を出した。

「好きだな、オヤジも・・・。
とに角、オヤジから呼ばれたんだ。
早く通してくれ・・・」

悟の言葉に、ため息をついた裕子は仕方なさそうにインターホンのスイッチを押した。

「社長、専務がお見えですが・・・」
スピーカー越しに幸造のアクの強い声が聞こえてきた。

「うん、通してええで。
もう、用は済んださかいにな・・・」

肩をすくめる裕子に片目を閉じた悟が微笑んでいると社長室の扉が開き、化粧の濃い若い女が秘書の制服である紺色のスーツの襟を正しながら足早に過ぎ去っていった。

「し、失礼します・・・」
首筋まで顔を真っ赤にして走っていく様を見届けた二人は、再び目を合わすとニヤリと笑った。

幸造の秘書は何人もいるが、裕子を含めて全て若くて美人ばかりであった。

尤も回転も速く、入社して半年もいない。

幸造が行きつけの高級バーで知り合った女等を連れてくるからだ。
気に入った女は愛人として囲い、性格や態度が悪かったりした女は大金を出してクビにした。

幸造の愛人は何人もいたが、それも一年もしない内に多額の手切れ金を渡し常時入れ替えているのだった。

勿論、事務系の男の秘書は数人別な社屋にいるのだが、身の回りの世話やお茶くみ等は飲み屋上がりの女で用は足りるので趣味として雇っている。

各地の支店等に飛びまわって忙しい幸造にとって、本社の社長室にいる間こそ安らぎの時なのであった。

しかし裕子だけは五年前にまともに入社した才媛で、美しく品のある顔やプロポーションは社内でも群を抜いていた。
有能な秘書である裕子だけには、幸造は大事な情報管理の仕事を常に任せている。

六十を越えて尚、精力絶倫の男は全国に君臨する秋元薬局の総帥である。
唯一の趣味である女に関しては飽きる事を知らず、暇を見つけては新しい女を漁っていた。

「何しとんのや、早よ入らんかいな・・・」
一代で叩き上げた男の関西弁は迫力があった。

小さな薬屋から身を起こし、中途半端な薬局やスーパーを踏み潰すようにのし上がってきたのだった。

「はいはい・・今行きますよ・・・」
面倒臭そうな声を出しながら専務の悟が入っていく。

そのスマートな容姿は自信にみなぎり、ニヒルな表情と共に女性社員の憧れの的である。
しかし三十を越える年になっても未だ独身で、仕事一筋といった感じであった。

父親である社長の女遊びに時折、付合う程度で浮いた噂は聞かれない。
裕子も美しい瞳を潤ませながら、その後ろ姿を見送るのであった。

「この子、どうや・・・?」
幸造は大ぶりで重厚なマホガニーの机の上に、固い表紙の物を投げつけるように置いた。

何時もいきなり本題に入る。
悟は苦笑しながら手に取った。

化粧と汗の混じる息苦しい匂いが部屋に充満していた。
スキンヘッドに脂汗を滲ませながら、それでもスッキリした表情で一人息子の悟を見る幸造であった。

「ほう・・・」
悟は珍しく驚きを表情に見せて声を出した。

「美人やろ・・・?」
嬉しそうに息子の顔を覗き込んでいる。

確かにそうだ、と思った。

長く艶やかな髪はナチュラルにウェーブがかかっている。
澄んだ眼差しは、何ものにも汚されていない天使の表情を連想させる。

大きな瞳は見ている者全てに希望を与えるかの如く、愛らしい輝きを秘めていた。
美しいというには余りにも平凡すぎる表現ではあったが悟の頭には、まずその言葉しか浮かんでこないのであった。

「そうですね、それで・・・?」
悟の顔は父の期待に反して、何時もの冷静な表情に戻っていた。

「それでて、お前・・・」
息子の口から出る冷たい言葉に一瞬絶句した幸造であったが、直ぐにニヤリと顔を崩した。

「見合いに決まっとるやないか・・・」
そんな事は十分承知している悟は、氷のような表情で言葉を返した。

「僕にはムダですよ、お父さん・・・」

丁寧な口調の中にも強い意思を感じさせる。
幸造は大きくため息をつくと、力なく声を出した。

「そやな、そう言うと思ぉたわ・・・」
父親の寂しそうな顔に悟は労わるように言った。

「そんなに言うのなら、
オヤジが貰えばいいじゃないか・・・」

「あ、あほぉっ・・・」
息子の冗談に顔を真赤にして怒った幸造であったが、直ぐに遠くを見るような眼差しで声を出した。

「女房は、もうコリゴリや・・・」

父親の言葉が悟の心にしみた。
そして悟の脳裏に妖しい女の表情と、切なく細い声が蘇るのだった。
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