10 / 124
第二部 企み
第九章 箱入り娘
しおりを挟む
昨今にはびこる安物の令嬢とは訳が違うのである。
習い事もピアノから日本舞踊まで、あらゆる芸事をこなした完璧な乙女であった。
しかも未だ処女である。
少なくとも父の佐山はそう信じていた。
春香の方も勉強や習い事が好きな性格で、特に男と交際している雰囲気もなかった。
親バカと言われればそれまでであるが事実、親思いの春香に悲しい気持ちにさせられた事はなかったのである。
※※※※※※※※※※※※※※※
そんな佐山の心を見透かすように、幸造は柔和な笑顔を見せて言った。
『まあ、その代わりと言うたら失礼やけど、
我が社一番のホープを紹介するわ。
井上というんやけどT大を出とってな。
親も資産家やで・・・。
自慢やないけどウチの会社には
ようけそんな男がおるのや・・・』
事実、そうであった。
幸造は半ば若い頃の復讐のつもりで、過去に虐められた大手会社の御曹司達をわざと入社させていた。
勿論、遊び呆けたバカ息子は採用しなかったが長引く不況と着実に伸び続ける秋元グループには、優秀な人材が豊富であった。
幸造の復讐とはそういった者達を社員に迎える事によって、支配する優越感を抱く事であった。
井上はその中でもとびきりのエリートで、悟が編成するプロジェクトチームに所属している。
ITを始めとする最先端の技術を取り入れ、秋元グループの中核を担う主力部隊員であった。
『それにやな・・・』
何よりも佐山の気持ちを動かしたのは、幸造から言われた次の提案であった。
佐山の会社の株を破格の値段で買い取ってくれるというのであった。
しかも更に多額の融資を追加してくれるという。
『勿論、乗っ取るつもりやない・・・
悟も役員としてアンタの会社に送るわ。
知っとるやろけど・・・
アイツの経営手腕は大したもんやで・・・』
幸造の言葉に佐山は目を輝かせて頷いた。
『親バカで言うのやないけど、
アメリカに留学さした時も飛び級で卒業して
エムなんたら言う資格も持っとる。
アイツがウチの会社を更に大きくした言うても、
ええ位や・・・』
『た、確かに・・・』
だから婿に欲しかったのである。
『せやけど・・・
当分は結婚する気がない言うからしゃあない。
そんでも仕事が好きな奴やから・・・
アンタの会社も良うなるで。
昔よりもっとな・・・。
井上はいずれアンタの会社を継いでも
十分おつりがくる程、優秀やでぇ。
悟が鍛えとるさかいな・・・』
幸造の言葉に次第に説得された佐山は、今回の見合いを承諾したのである。
良く見れば井上も端整な顔立ちをしており、娘の春香もまんざらでも無さそうである。
考えてみれば幸造と親戚関係になって、窮屈な思いをするよりは良いかもしれない。
佐山は安心した父の顔に戻って、新しく婿になるかもしれない男の話を聞く事にした。
「春香さんは、ご趣味は・・・?」
朴訥な雰囲気で話す井上に、春香は清純な顔に終始笑みを浮かべて聞いていた。
最初は父から隣で座っている秋元グループの御曹司である悟との見合いを、ほのめかされていたのだ。
しかし春香にはハンサムではあるが剃刀のように鋭く冷たい印象のする悟より、温かみのある笑顔を見せる井上の方に好感が持てた。
コロコロ代わる縁談の相手に、自分がまるで父の商売の道具にされているようで嫌な気もしたが、幼い頃から親思いの強い春香にとって最近の父の憔悴を見ていると、何とか自分が役に立てるならと見合いを承諾したのだ。
それでも誠実そうな井上の印象に、春香はホッと胸を撫で下ろすのであった。
二人の雰囲気が解れてくると、他の者は席をはずす事になった。
幸造に対して卑屈に礼を言う佐山を、悟は冷ややかな笑みを浮かべて眺めていた。
愛する一人娘を差出してまでも自分の会社にしがみ付こうとする男に対して、言いようのない嫌悪感を覚えるのである。
そして父と共に企てた残忍な計略を頭に浮かべ、サデスティックな感情をわき上がらせるのだった。
幸造も息子の表情に気付くと、込上げる笑いを隠しながら今別れたばかりの美しい天使を思い出していた。
これから始まる残虐な罠。
汚れを知らぬ清純な天使が、自分達のメス犬として調教されていくのだ。
そんな企みがある事も知らず、春香と井上ははにかむ笑顔を向け合いながら楽しい会話を弾ませるのであった。
習い事もピアノから日本舞踊まで、あらゆる芸事をこなした完璧な乙女であった。
しかも未だ処女である。
少なくとも父の佐山はそう信じていた。
春香の方も勉強や習い事が好きな性格で、特に男と交際している雰囲気もなかった。
親バカと言われればそれまでであるが事実、親思いの春香に悲しい気持ちにさせられた事はなかったのである。
※※※※※※※※※※※※※※※
そんな佐山の心を見透かすように、幸造は柔和な笑顔を見せて言った。
『まあ、その代わりと言うたら失礼やけど、
我が社一番のホープを紹介するわ。
井上というんやけどT大を出とってな。
親も資産家やで・・・。
自慢やないけどウチの会社には
ようけそんな男がおるのや・・・』
事実、そうであった。
幸造は半ば若い頃の復讐のつもりで、過去に虐められた大手会社の御曹司達をわざと入社させていた。
勿論、遊び呆けたバカ息子は採用しなかったが長引く不況と着実に伸び続ける秋元グループには、優秀な人材が豊富であった。
幸造の復讐とはそういった者達を社員に迎える事によって、支配する優越感を抱く事であった。
井上はその中でもとびきりのエリートで、悟が編成するプロジェクトチームに所属している。
ITを始めとする最先端の技術を取り入れ、秋元グループの中核を担う主力部隊員であった。
『それにやな・・・』
何よりも佐山の気持ちを動かしたのは、幸造から言われた次の提案であった。
佐山の会社の株を破格の値段で買い取ってくれるというのであった。
しかも更に多額の融資を追加してくれるという。
『勿論、乗っ取るつもりやない・・・
悟も役員としてアンタの会社に送るわ。
知っとるやろけど・・・
アイツの経営手腕は大したもんやで・・・』
幸造の言葉に佐山は目を輝かせて頷いた。
『親バカで言うのやないけど、
アメリカに留学さした時も飛び級で卒業して
エムなんたら言う資格も持っとる。
アイツがウチの会社を更に大きくした言うても、
ええ位や・・・』
『た、確かに・・・』
だから婿に欲しかったのである。
『せやけど・・・
当分は結婚する気がない言うからしゃあない。
そんでも仕事が好きな奴やから・・・
アンタの会社も良うなるで。
昔よりもっとな・・・。
井上はいずれアンタの会社を継いでも
十分おつりがくる程、優秀やでぇ。
悟が鍛えとるさかいな・・・』
幸造の言葉に次第に説得された佐山は、今回の見合いを承諾したのである。
良く見れば井上も端整な顔立ちをしており、娘の春香もまんざらでも無さそうである。
考えてみれば幸造と親戚関係になって、窮屈な思いをするよりは良いかもしれない。
佐山は安心した父の顔に戻って、新しく婿になるかもしれない男の話を聞く事にした。
「春香さんは、ご趣味は・・・?」
朴訥な雰囲気で話す井上に、春香は清純な顔に終始笑みを浮かべて聞いていた。
最初は父から隣で座っている秋元グループの御曹司である悟との見合いを、ほのめかされていたのだ。
しかし春香にはハンサムではあるが剃刀のように鋭く冷たい印象のする悟より、温かみのある笑顔を見せる井上の方に好感が持てた。
コロコロ代わる縁談の相手に、自分がまるで父の商売の道具にされているようで嫌な気もしたが、幼い頃から親思いの強い春香にとって最近の父の憔悴を見ていると、何とか自分が役に立てるならと見合いを承諾したのだ。
それでも誠実そうな井上の印象に、春香はホッと胸を撫で下ろすのであった。
二人の雰囲気が解れてくると、他の者は席をはずす事になった。
幸造に対して卑屈に礼を言う佐山を、悟は冷ややかな笑みを浮かべて眺めていた。
愛する一人娘を差出してまでも自分の会社にしがみ付こうとする男に対して、言いようのない嫌悪感を覚えるのである。
そして父と共に企てた残忍な計略を頭に浮かべ、サデスティックな感情をわき上がらせるのだった。
幸造も息子の表情に気付くと、込上げる笑いを隠しながら今別れたばかりの美しい天使を思い出していた。
これから始まる残虐な罠。
汚れを知らぬ清純な天使が、自分達のメス犬として調教されていくのだ。
そんな企みがある事も知らず、春香と井上ははにかむ笑顔を向け合いながら楽しい会話を弾ませるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる