「スワッピング入門」妻が見知らぬ男に犯される時

山田さとし

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第一部「レイプ」

第一章1 不条理なプロローグ

冷たい汗が滲む。
見開いた映見の瞳には怯えの影が宿っていた。

アスファルトの一本道の先に山が見える。
緑の背景に浮かんだ白い建物は、さっきまでいた病院だった。
友人を見舞った帰り道、久しぶりの会話を思い出しながら歩くのを楽しんでいた。
初秋の空はクッキリと晴れ渡り、気持ちの良い風が髪を揺らす。

『良かった・・・。
思ったより、元気そうだった・・・』

ホッとした気持ちを確かめたくて、帰りは駅までタクシーを使わずに歩くことにしたのだ。
東京から2時間以上もかかる郊外のK市は、平日の午後では人通りも殆ど無かった。

駅の近くのメインストリートまで、爽やかな気持ちのまま小さな旅を楽しんでいたのに。
一軒のパチンコ店の前を通り過ぎた瞬間、ゾクリとした視線を感じた。
若者二人が歩道に座り込み、ジッと映見の方を睨み付けていた。

反射的に嫌悪感に包まれた映見は歩調を速め、駅への道を急いだ。
ヒールの乾いた音が人気の無い通りに響くと、返って怖さが増すような気がした。
そして、振り向いた時に更なる不安が湧き上がってきたのだ。
ニヤついた顔が二つ、並んで近づいてくる。

(まさか・・・?)
明らかに映見の後をつけてきたとしか思えなかった。

「はぁっ・・・」
自分の吐息を耳にし、不安が現実味を帯びてくる。

逃げなければ・・・。
ドラマのワンシーンがよぎる。

まさかとは思うが、白昼にも関わらず閑散とした駅前の静けさは恐怖を煽るには十分過ぎるほどだった。
何か東京の自宅までついて来られそうな不安が浮かぶ程、不気味だった。

茶髪とロンゲ。
いかにもというヤンキーな二人組みは、平日の昼間からパチンコをするヤクザな雰囲気をかもし出していたからだった。

(だから・・・)
一旦、脇にあった路地に入り、迂回したルートをたどってみたのだ。

(いる・・・)

大通りの交差点に出た後、そっと振り返ると二人の姿を見つけた。
足を速め、一直線に駅を目指す。

「あっ・・・」
ロータリーにいた一台きりのタクシーを見つけ、ホッとしたのもつかの間、客を乗せないまま走り出してしまった。

他には車も人もいない。
念のため、見上げた階段の端に人影が見えた。

二人の内で茶髪の方だ。
目立つから直ぐにわかる。

(いやっ・・・)
反射的浮かんだ映像は、人気の無いプラットホームだった。

田舎の駅特有の風景は同時に無法地帯の如く危険に感じる。
現に今日、電車を降り立った時も、不良じみた数人の学生がベンチでタバコを吸い、たむろしていた。

注意する駅員等もいなく、映見をジロジロ見る視線が怖かったのを覚えている。
膨らむ悪い想像に映見は戸惑いながら辺りを見回した。

そばにある女子トイレに飛び込もうとしたが、隣の大きなステンレスの扉に目がいった。
身障者専用トイレの扉は頑丈そうで、この中に入り、カギをかければ安全な気がした。
一瞬、迷ったが、飛び込むように中に入った。
重い引き戸を閉めた瞬間、ドッと汗が噴出してきた。

「はぁっはぁっ・・はぁっ・・・」
震える指でカギをかけ、扉の取手をつかんだまま荒い息を吐いていた。

手洗いの鏡に不安そうな自分が映っている。
(少し、時間をつぶした方がいいみたい・・・)

東京へ戻る特急電車の発車時間までまだ30分以上もあった。
ここは鍵もかかり安全だし、身障者の人が利用する可能性も少ないだろう。
バックから化粧道具を取り出し、ルージュを引きなおしながら鏡の中の自分を改めて見つめた。

(少し、やせたかしら・・・)
あどけなさが残る表情はまだ十代のようで、瑞々しい肌を保ってはいたが、最近の睡眠不足気味で元気が無かった。

(裕君・・・)
夫の顔を思い出しながら、ここ数日続いている悩みにため息を漏らした。

『なぁ、いいだろう?そろそろ・・・』
映見の機嫌を伺う表情は、まるで少年のようだった。

『だって・・・』

『大丈夫だって。頼むよぉ・・・』
妻の不安をかき消そうと、強い口調で懇願する。

『映見だって、凄くノリノリだったじゃん?』

『・・・・』
うつむく映見に苛立ちながらも、執拗に説得を続ける裕太には確信があった。

妻がセックスの快感に目覚めたことが、これからの二人の人生を大きく変えることを。

夫婦生活は2年目なのに、倦怠期を迎えていた。
年齢は若いとはいえ、大学からの付き合いは7年以上になる。

ミス・キャンパスに選ばれたこともある映見は、今でもアイドルのようで美しい。
それでも、長い恋人時代と清いセックスを好む性格は、若い男にとって退屈に感じるものだった。

(それが、あの日から・・・)

バックをしめる音がパチンと鳴った。
改めて覗く鏡に、あの時のシーンが浮かび上がる。
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