「スワッピング入門」妻が見知らぬ男に犯される時

山田さとし

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シーズン1(前編)

第二章 久しぶりのデート

「ウーン、気持ちいいー・・・」
大きく伸びをした後、映見は細い腕を絡ませてきた。

「フフフッ・・・」
機嫌のいい妻の表情は本当に可愛いと思う。

「そんなに、嬉しい?」
僕の問いに、とびきりの笑顔を見せて妻は答えた。

「ウン、映画もおもしろかったし、
ショッピングも久しぶりだったもの」

「でも、その割には
何も買わなかったじゃないか?」

「いいの、こうして二人で
お出かけするだけで楽しいんですもの」

無邪気な答えに、僕は期待とほんの少しの後ろめたさを感じた。

「じゃあ、ちょっと休んでいこうか・・・」
僕は何気なくビルの看板を指さして言った。

「いいわ、喉も乾いたし・・・」

雑居ビルにあるエレベーターがタイミング良く開いていて、二人は駆け込んだ。
エレベーターを降りるとすぐ前にドアがあった。

喫茶店にしては見通しの悪いハーフミラーのガラスドアで、『喫茶トレビア』というロゴが素っ気なくレイアウトされていた。

「ここね?」
妻は何の疑いもせずにドアをあけた。

「いらっしゃいませ」

黒服のウェイターが出迎えた時、初めて映見の表情が変わった。

ドアの向こうは閉ざされた狭い廊下が続いているだけで、椅子もテーブルも見えていない。
有線からビートのきいた音楽が流れていた。

「ち、ちょっと・・裕君っ・・・?」

「大丈夫だよ」
不安気にふりかえる映見の身体を押すようにして、僕は前に進んだ。

「こちらの部屋でございます・・・
ブザーを押して頂ければ
オーダーに伺いますが・・・」

「ああ・・・ここで頼むよ、
ホットを二つ・・・」

「かしこまりました」

部屋の中は薄暗かった。
音楽は廊下で聴いたよりも音量が幾分小さく感じた。

暗くてよく見えないけど、部屋はパーティションで囲われているみたいだ。
両サイドには黒いカーテンがかかっていた。
映見の肩を抱いて大ぶりのソファーに座った。

僕は周囲を見回しながら言った。

「へぇー・・・こんなになってるんだ、
意外と広いな・・・」

「意外とって・・・?」

キッと、睨みつける大きな目に僕は両手を合わせて頭を下げた。

「ごめんっ・・
騙すつもりはなかったんだ・・・」

「ここって・・ひょっとすると・・・?」

「そう、同伴喫茶さ・・・」

頭をかきながら言う僕の姿がドアに映っている。
ガラスが鏡になっているみたいだった。

「イヤダ、わたし帰るっ!」

「ち、ちょっと、待てよ」
嫌がる妻の腕を僕は力一杯引き戻した。

「キャッ・・・」

倒れるように身体を預けた映見の身体を両腕で抱きしめた。

「いいじゃないか、
たまには刺激になって・・・」

耳元で囁くと、ようやく抵抗する力が緩んだ。

「もぅー・・突然なんだからぁ・・・」

不服そうな声だったが、それ程怒った様子はない。
僕は安心して笑みを浮かべた。

「だって・・・。
前もって言うと絶対反対すると思ってさ・・・」

「それはそうだけど・・・」

映見は尚も疑わしい目で僕をみながら呟いた。

「ここって・・・
エッチな事、する所でしょう?」

「そう・・・いやかい?」

ニヤニヤする僕の鼻をつまんで妻は言った。

「裕君のスケベッ」
顔をしかめた後、柔らかな身体を僕に預けてきた。

「でも、許してあげる・・・」
フッと吐いた息が僕の腕にかかる。

「焼鳥屋さんでエッチな本を読まれるよりは
ましだもの・・・」

「あ、あれは・・・」
僕が言いかけた言葉を遮るようにノックが鳴った。

「ど、どうぞ・・・」
映見は慌てて離れると座り直した。

「ホットコーヒー二つ、お持ちしました。」
素早くテーブルに置くと、音も無くウェイターは部屋を出て行った。

「うーん、さすがだ・・・」
僕は妙に感心してしまった。

「客が気まずくならないよう
気を使ってるんだな・・・」

「何、感心してるのよ」
映見はカップを取ると、何も入れずブラックのまま一口すすった。

「あら、こんな店にしては美味しいわ・・・」

睫毛で作ったカーブに、ほんのり湯気が漂っている。
薄闇の中で見る彼女は、妻というよりは別の違う女性に感じた。
場所が場所だけに妖しく思えてしまう。

「コーヒーを飲んだら、帰りましょうね」

「ええっ?そ、そりゃないよぉ・・・」
目を丸める僕に当然の口調で言う。

「当たり前じゃない・・イヤよ、私・・・」
頬を膨らませている。

「だって・・・
お金がもったいないじゃないか」

「そんなの知らないわよ、
絶対イヤですからね。
もし、人に聞かれたら・・・」

その時、BGMの音楽が止まった。

『あ・・んんっ・・あっあっ・・あはぁ・・・』
なまめかしい息づかいが聞こえてくる。

それも一人の声では無かった。
男や女の何人もの声が重なっている。

「イヤ・・だ・・・」
顔を真っ赤にした妻は、不安そうに天井のスピーカーを見上げている。

僕達の他にも客がいるのだろうか。
時々わざとこうして音楽を止め、店内の営みの声を聞かせて興奮をあおるらしい。

『ああっ・・ん・・も、もっとぉ・・・』
現に刺激的な声に僕の身体は素直に反応していた。

(こ、これだよ・・・)
僕は嬉しかった。

何か乱交パーティーをしているような雰囲気じゃないか。
妻とのありきたりのセックスには、もう飽き飽きしていたんだ。

映見が何と言おうと絶対ここでセックスをしてやる。
まあ、そこまでいかなくても二人で、そこそこ楽しんだっていいじゃないか。

夫婦なんだから。

きっと興奮するぞぅ。
ラブホテルと違って声だって、まる聞こえになってしまいそうだし。

ドアの鏡に映る僕達の姿も妙にエッチに感じる。
ここなら映見だって普段とは違う反応をするに違いない。

もしかして、フェラチオもしてもらえるかも。

僕の訴えるような表情に映見は喉を鳴らした。
どうやら本気だって、悟ったらしい。

「こいよ・・・」
引き寄せるまま身体を預けたが、それでも身をよじらせている。

「ち、ちょっと待ってよ・・・」
泣き出しそうな顔になっている。

「イヤよ、イヤイヤ・・・」
目尻から涙が滲んでいる。

僕はむなしく力を緩めた。
倦怠感が僕の身体を覆う。

(やっぱり、ダメか・・・)
僕はウンザリした。

何時までたっても子供じみている。
こんなに、お膳立てをしたのに。
色々研究して、一番面白そうな店を選んだのに。

僕の苦労なんか何も考えてやしない。
何か腹が立ってきた。

このまま僕達は一生、ノーマルで正常位しか知らない夫婦で過ごすんだ。
そして僕は妻に飽きて、何時かきっと浮気をするだろう。

(ようし、それなら不倫でも何でも
してやろうじゃないか・・・)

怒りと共に立ち上がろうとした瞬間、目の前が急に明るくなった。
正確に言うと、黒いカーテンの向こう側に照明がついたのだ。

「キャッ・・・」
映見が小さく叫んだ。

それもその筈である。
カーテンの向こうが透けて見えているじゃないか。

メッシュの生地はこの部屋と同じレイアウトになっているソファーやテーブルをぼんやり浮かび上がらせていた。

何のことはない。
一つの部屋をシースルーのカーテンで区切っているだけなのだ。

「こ、これじゃあ
隣の人に丸見えじゃない・・・」

「あ、ああ・・・」

見上げる不安げな表情に、あいまいに頷いた。
雑誌の記事で前もって知ってはいたけど、いざ目の当たりにして僕もさすがに驚いていた。

ガチャリと音がすると人影が映った。

「では、ごゆっくり・・・」
ウェイターは僕達に言った同じ口調を繰り返し、去っていった。

「あら、嬉しい・・
先客がいらっしゃるわ・・・」

女の囁く声が聞こえた。

「シッ・・・邪魔しちゃ悪いよ」
男の声が遮ると二つの影は重なりながら、正面のソファーに座った。

クスクスと忍び笑う声が聞こえてくる。
店内のBGMは再び変わり、ロック音楽を流していた。

「で、出ようよぉ・・裕君・・・」
甘えた声が首筋をくすぐる。

「あ、ああ・・・」
僕は躊躇していた。

夢にまで見ていたシチュエーションが今、現実になったのだ。
目の前に会ったこともない他人のカップルがいる。

彼等にも僕達の姿が見えている筈だ。
こんな興奮する事があるだろうか。

このまま帰ったんじゃあ、一生後悔するだろう。
映見の性格だと二度と誘いには乗ってこない筈だから。

「ねえったらぁ・・・」
目の前にいる人達の手前、強く言えないのか懇願するように囁いてくる。

「わ、わたし・・・」

映見の声を遮るように向かいの部屋のドアが開き、ウェイターが入ってきた。
カチャカチャと食器を置く音がする。

「では、ごゆっくり・・・」
彼が出たと同時にBGMが再び変わった。

『あんっあんっ・・んっんっんっんっ・・・』
『おおっ・・す、凄いっ・・い、いいよぉ・・』

僕達は二人同時に顔を真っ赤にした。

互いの顔は見なかったから分からないけど、多分そうだと思う。
二人の心臓の鼓動が強く感じるからだ。

「あら、凄いわね・・・」
隣の部屋の女が言った。

「興奮する?」

「んふふふふ・・・」
忍び笑いが暫く続いた。

明らかにこちらを意識しているようだった。

「お隣り・・・・動かないわね・・・」

「シッ・・こういう所、初めてかも・・・
そっとしておこうよ・・・」

「そうね・・・」
声が止むと同時に曇った音が聞こえた。

映見の肩がピクリ、と動いた。
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