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追い込まれるナタリー
侍女が抱えてきた大きな箱を見て、私は思わず息を吐いた。
求婚から1ヶ月。
アレクシスからの贈り物が途切れた日は、1日もない。
箱を開ける侍女の顔は、半ば呆れ、半ば楽しそうだった。
「またアレクシス様から贈り物です。
もうお部屋に入りきりません。
この1ヶ月プレゼント攻撃が凄いですね」
私は、はにかみながら扇子で頬を隠した。
──恥ずかしい……。
「衣装室のドレスを寄付して、スペースを空けてちょうだい」
「はいはい。お嬢様が幸せそうで何よりです」
侍女が笑いながら部屋を出ていくと、すぐに執事が姿を見せた。
「アレクシス卿がいらっしゃいました。
応接室に、ご案内しております」
胸が、わずかに跳ねた。
落ち着け、エヴァ・リュミエール。
私は深呼吸し、応接室へ向かった。
応接室の扉を開けると、アレクシスが立ち上がった。
「お待たせしました」
「いや、突然来て悪かった。
今日は、お願いがあるんだ」
お願い──?
嫌な予感がする。
「何かしら?」
「進めてた僕との婚約を取りやめて、エドモンの后になってくれないか」
ガシャン!
お茶を運んできたメイドが、カップを落とした。
私も、心の中で同じ音を立てた。
「し、失礼しました!」
慌てて片付けるメイドを横目に、私はアレクシスを見つめた。
「それがアレクシスの決めたことなの?」
「そうだ」
青い瞳は揺れていない。
嘘をついているのではない。
私は、ゆっくりと息を吸った。
「いいでしょう。なって差し上げるわ。
──ただし正室よ」
「わかってるさ」
アレクシスは微笑んだ。
その笑みは、どこか誇らしげだった。
胸が痛む。
心の中で、そっと息を吐いた。
2カ月ぶりに離宮を出た。
雪景色を眺めながら王宮に到着。
出産を終えた体は本調子じゃないけれど、母として王女の生誕祝いパーティーに出ないわけにはいかない。
なのに──
夫であるエドモンは、迎えにも来なかった。
私は侍女に支えられながら、ふらつく足で大広間へ向かう。
眩しいシャンデリア。
豪華なドレスを着た貴族たち。
私を値踏みするような視線。
準主役のはずなのに、歓迎されてない空気……。
義父であるガゼル・ラシェル王が立ち上がり、場が静まった。
「大切な報告がある。
リュミエール公爵令嬢、前へ」
エヴァが進み出る。
シルバーブロンドの髪が光を受けて輝き、まるで本物の王妃みたいだった。
王の声が響く。
「王族として前言撤回することは誠に心苦しいが──
この度、彼女がエドモンの正妃になることに決定した。
ナタリーは側室となる」
頭が真っ白になった。
──え、側室? 聞いてない……。
パラパラと、嫌そうな拍手が起きる。
「王太子殿下は、ナタリー妃殿下を『唯一』と仰った責任を、どうするのです?
国を乱した責任を負わないなど、あり得ません」
重鎮である老侯爵が、そう言った。
私の胸が、ぎゅっと締めつけられる。
エヴァが向き直る。
「それに関して説明させていただきます。
私はこれから1年、正室を務めさせていただきます」
1年──
会場に、ざわめきが広がる。
「その間にナタリー妃殿下が、側室としての教養とマナーを身に付ければ、側室のまま。
もし身に付けられなければ、王太子殿下は臣籍降下。
私は離縁し、次の王の妃となります」
私は息を呑んだ。
いつの間に私の人生が、勝手に決められてたの?
「なるほど。どう転んでも、リュミエール公爵令嬢が王妃なのですな。
まあ妥当ではないか」
老侯爵が頷いたのを皮切りに、次々意見が出る。
「産まれた王女をリュミエール公爵令嬢の養子にし、ナタリー妃殿下には愛妾になっていただくべきでは?」
「本来、妃教育が終わった者を妃とするのに、妃になってから教育を受けるのはおかしいのでは」
「それを言うなら”直系王族の花嫁は純潔でなければならない”という慣例も無視されている。
1年という期間は甘いのでは?」
どれも私を否定する声ばかり。
唇を噛んで、涙を堪える。
エヴァが口を開いた。
「ならば──ナタリー妃殿下が教育を完了できなかった場合、王太子殿下には一代限りの男爵となっていただくのは、どうでしょう」
「なっ……」
王が驚きの声を上げる。
貴族たちは、むしろ納得したように頷いた。
「妥当だ。公爵家との婚姻を破った責任は重い」
「国益にならない平民を”唯一”と宣言した以上、処罰は必要。
王家の威信を守るためにも必要な措置だろう」
「リュミエール公爵令嬢は、寛大すぎるくらいだ」
私は震える手で、ドレスの裾を握りしめた。
どうして──
どうして私は、こんなに責められなきゃいけないの?
エドモンは、どうして隣にいないの?
私は王太子妃なのに……。
頭がぐらぐらする。
王が困ったように眉を寄せた。
「しかし、それは──」
そこへ、若い議員が進み出た。
黒髪をきっちり撫でつけた、いかにも堅物そうな男爵だ。
「元はと言えば、王太子妃は伯爵令嬢以上という決まりです。
出自、純潔、適正──3つの王子妃の条件を破り、公爵家との縁談を一方的に壊し、”唯一妃”と宣言しながらまた反意した。
これらは王家の威信を地に落とし、貴族社会の序列を軽んじ、国を乱す行為です。
王太子殿下に咎めがないほうが異常だ」
そんなこと……嫁ぐまで知らなかったのに……。
私と子供は、どうなるの?
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