婚約者が茶会に恋人を連れてきたので、結婚させてあげました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)

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作戦会議




 翌日。私はサロンで父とミハイルと共に、茶を飲んでいた。

 陽光が差し込み、白いレースのカーテンが揺れる。

 父がカップを置き、ため息をついた。

「王家と公爵家が謝ってきたのだが」

 ミハイルが眉を寄せた。

「どうしたんです?」

「どうしても『婚約破棄はやめてくれ』とな。
 なぜかと聞くと、王女とジークを引き離すには、うちと婚約しているのがいいからと」

 ミハイルの琥珀色の瞳が大きく見開かれた。

「バカな! そんな理由で婚約を打診してきたのですか!」

 父は肩をすくめ、王女とジークがなぜ婚約できないのかを説明した。

 ──彼らは、幼馴染で相思相愛だった。

 2人は婚約を希望していたが、王女の下には一回りも離れた王子が1人いるだけ。
 ジークも妹が2人という兄弟構成。

 つまり互いに跡取りである。

 仮にエーベルハルト公爵を妹が継ぐにしても、ジークが王配になるには家の力が弱い。

 エーベルハルト家は没落しかけているのだ。

 ミハイルは深く息を吐いた。

「身勝手じゃないですか」

「まあ、うちからの持参金も目当てだろう。貧窮してるからな」

 父の言葉に、私は思わず口を開いた。

「だったら王女の側室になれば?」

 父は苦笑した。

「すると正室は、公爵家か王族出身に限られる。
 年が近くて婚約者がいない公爵家か王家の者などいないだろう」

「そっか」

 私はカップを持ち直し、静かに茶を口に含んだ。
 渋みが舌に広がる。

 ミハイルが低くつぶやいた。

「王家に止められると婚約破棄しにくいな……」

 貴族の婚姻には王の許可がいる。  

 ジーク以外の伴侶は認めないと言われたら、一生結婚できない。

 ミハイルは形のいい瞳を細め、静かに言った。

「この先、向こうがどう出るかわかりませんが──結婚してしまった場合、どうやって早急に離婚するかも一緒に計画していかなければなりませんね」

 私は素直に思ったことを口にした。

「それなら専門家に相談した方がいいんじゃない?」

「外に漏れたら困るから、確実な人を」

 ミハイルの声は穏やかだが、言葉は鋭い。  

 父が腕を組み、少し考え込んだ。

「うーん、そうだな。
 俺は軍法には明るいが民事は苦手だしな。
 よし、顧問弁護人を呼んでくれ」



 しばらくして、顧問弁護人がやってきた。
 落ち着いた身なりの中年で、書類の束を抱えている。

「結婚して、すぐ離婚ですか……。
 相手に重大な過失か犯行の証拠があればできます。
 例えばそうですね、新郎が新婦を階段から突き落とすとか」

 私は思わず眉をひそめた。  

 ミハイルが、すぐに口を挟む。

「それだと王宮騎士団の管轄だから、揉み消される可能性が」

 父が顎に手を当てた。

「白い結婚で無効にすればいいのでは?」

「そちらの方が、お嬢様の経歴に傷が付きにくいですね」

 弁護人は、うなずいた。

 ミハイルは少しだけ表情を曇らせた。

「しかし……エーベルハルト公爵令息が強引なことをしたら、どうするのです?」

 父は即答した。

「最初から別居でいいだろう。
 具体的に──結婚してから何年で、無効届が出せるんだ?」

「決まりはありませんよ。
 翌日でも出そうと思えば出せます」

 一同、驚愕した。  

 ──翌日でもいいの?

 私は弁護人の言葉に首をかしげた。

「3年ではないのですか?」

 弁護人は書類を整えながら穏やかに答えた。

「ああ、それは"子供ができなかった場合に離婚できる"というのが3年なのです。
 そちらの法律と混同されているのでは?」

 父が目を丸くした。

「3年だと思ってたなぁ」

「大抵の方は世間体を気にしたり、両家の事情を考慮して、すぐに無効にしないのですよ。
 だから混同されやすいのです」

 なるほど、と私は心の中でうなずいた。  

 ミハイルが、ほっと息をついた。

「これで万一、結婚してしまった場合でも大丈夫ですね。
 安心しました」

 その後、私たち3人は婚約破棄の方法について徹底的に相談した。  

 書類の準備、証拠の作り方、王家への対応──話し合いは多岐にわたった。


 やがて弁護人が帰り、部屋には父とミハイルと私だけが残った。

 父は椅子に深く腰掛け、腕を組んだ。

「しかしなあ、婚姻無効だと持参金が帰ってくるだけで、向こうはダメージないな」

 私は銀砂色の髪を指先で払いつつ、静かに言った。

「うーん、公の場で騒ぎを起こして貰えば?
 そうすれば相手の落ち度で婚姻無効になったとハッキリするし、エーベルハルト家は、もう誰にも相手されなくなる」

 ミハイルが少し考え、穏やかな声で続けた。

「持参金も目当てなら、返さなきゃいけなくなるのは痛手なのでは?
 むしろ先に渡して使わせてから、一括返還請求するのがいいかもしれませんよ」

 父は目を細め、口角を上げた。

「それも面白いな」

 その声には、戦場で敵の弱点を見つけたときのような鋭い愉悦があった。

 ミハイルは、落ち着いた声で言った。
 
「計画のためにも領地経営を頑張りましょう」

 父が、ぽりぽりと頬をかいた。

「え、なぜ」

「家は裕福な方ですが、領地面積の割合で言うと豊かではありません」

 父は、ますます困ったように頭をかいた。

 ミハイルは淡々と続ける。

「例え公の場で彼らが失態しても、王家が圧力をかけたり証人を買収するかもしれませんよ」

 父は目を細めた。

「確かに」

「だから領地収入を増やして、買収された人を買収し返すぐらい稼いだ方が良いのです。
 まして、これから王と公爵相手にするのですから」

 私は、苦笑した。

「そうは言っても、我が家は代々脳筋で、経営には疎いのよ」

 ミハイルは穏やかに微笑んだ。
 整った顔立ちが柔らかく緩む。

「だからこその僕でしょう」





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