歩美ちゃんは勝ちたい

秋谷イル

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高校生編

大塚家vsカガミヤ

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 夏休み中盤。家族旅行で東京までやって来た私達は、めちゃめちゃでっかい高層ビルを見上げてポカンと口を開いていた。
「こ、これがカガミヤ本社……」
 周りもビルだらけだけど、一際大きい。高さもさることながら幅が広い。田舎から来た私達には圧巻のボリューム。しかも全面ガラス張り。いったい何千枚のガラスが使われてるんだろ……。
「初めて来たけど、すごいわねえ」
「流石は世界でも指折りの会社だ」
 ママと父さんも感心しきり。え~と、家電に映画に音楽にゲーム機に、最近は保険なんかもやってるんだっけ?
 私、そんな会社を経営する一族の血を引いてるんだな……今まであんまり意識したことなかったけど、ちょっと緊張してきた。
 ちなみに今回時雨さんはいない。どうしても外せない用があるそうな。なので招待され新幹線でやって来た私達のことは会社の人が案内してくれている。
「ささ、こちらが正面玄関となっております」
「あ、はい」
 父さんよりずっと年上のおじいちゃん。なのに軽快な足取り。名前は平野さん。さっき駅で迎えてくれてからずっと笑顔の優しそうな人。
 自動ドアをくぐると広い玄関ホール。少し進んだ先に駅の改札機みたいなものがあってフロアを仕切っている。ドラマなんかで見たことあるけど大きい会社では本当にああいうのが設置されてるんだ。
「こちらのカードで通れます」
 ポケットから取り出した白いカードを配る平野さん。表面にはよく見るカガミヤのロゴ、銀色の炎でが形作る“カガミヤ”の文字以外何も印刷されていない。ICチップも見当たらないけど、どうやって識別するの?
「見えないバーコードだろう」
「なにそれ?」
「特殊な印刷技術でこういったものにプリントするのだ。目に見えない分デザインを損なわん。お札の透かしのように偽造防止の役割も果たす」
「なるほど」
 流石父さん、元家電メーカー社員。
「社長から伺いましたが、大塚さんは以前ブラックホールにお勤めだったとか」
「ええ、恥ずかしながら……」
 渋い顔になる父さん。前にいた会社は色々悪いことをしてるのが明るみになって潰れてしまったんだとか。父さんは悪事には全く関わってなくて、むしろ過酷な職場環境に苦しめられてた被害者だったんだけどね。
「お人柄も聞いておりますよ。どうです、今度は我が社で働いてみませんか?」
「いえ、今の職場が気に入っておりますので」
 多分冗談なのに真面目に返答する父さん。平野さんはいっそうにこやかな笑顔。
「そうですか。残念ですが、そういうことなら諦めます。いやなに、面白そうな方なので一緒に働いてみたいと思っていただけでして、お気になさらず」
「はあ……」
「なんだか、ちょっと変わった方ね……」
 こっそり耳打ちするママ。たしかに。
 まあ、父さんも変わり者だと思うけどね。車を運転しなくていいからって今回は和装で来たし。周りの人が「なんだあの極道……」って目でチラ見してるよ。
「父さん、もっと明るい色を着た方がいいかも」
「何故だ?」
「それなら演歌の人って思われるじゃん?」
「必要か?」
 眉をひそめる父さん。その時、腕の中で正道が暴れ出した。
「つまんない!」
「こら、おとなしくせんか」
「ははは、すまないね坊や。すぐに楽しいところへ連れて行ってあげるよ。しかし、その前に少しばかり余興があります。皆さん驚くと思いますが、どうか冷静に」
「はい?」
 よくわからないことを言いながら自分のカードでセキュリティを通過する平野さん。首を傾げながら後に続いた私は次の瞬間、予想外のメロディーを耳にした。

 パパパ パーパーパーパー パッパパー!

「うわっ、なに!?」
「ぬうっ、〇ァイナルファ〇タジー!?」
「レベルアップした時の曲!」

 驚く私達の頭上、二階へ続くエスカレーターの上に見知った顔が登場する。

「ふはははははははははははははははははははは! よく来たな歩美! そして大塚家の皆さん! 歓迎しよう!」
「雫さん!?」
 雫さんの登場と同時に三階まで吹き抜けになっているフロアの内周に楽器を持った人達が次々に姿を現す。

 チャーラーチャラー チャーチャチャーチャチャーチャ チャーチャーチャーラリー♪

 さらに普通の社員さんだと思っていた人達まで急に集まって踊り出した。
「ようこそカガミヤへっ! 歓迎します、大塚家ご一行様ぁ~っ!」
「フラッシュモブ!?」
「まさか我等のためだけにオーケストラやダンサーを雇って……?」
「いやいや」
 ママと父さんの呟きに頭を振る平野さん。
「皆、当社の社員ですよ。この日のために練習していました」
「暇なの!?」
「はははは! これも業務の一環だ!」
 雫さんは高笑いと共に空中に身を投げ出し、体操選手も真っ青の空中七回転半ひねりを決めて華麗に着地。そして社員の皆さんのダンスに参加していった。誰一人、社長自らの奇行に疑問を抱く様子は無い。
「へ、変な会社……」
 私、こんなとこを経営してる一族の血を引いてるんだな……さっきとは別の意味でたじろいだ。



「いいぞ歩美、実にキレの良い動きだった! いっそ卒業後はうちへ就職しないか?」
「お、お断りします……」
 突然のスカウトに息を切らしつつ返答。そんな私を見てきゃっきゃきゃっきゃはしゃぐ柔。
「ねーね、もういっかい!」
「ええっ!?」
 踊ってねーねって言うから頑張ったばかりだよ! 思ったより長いし即興で合わせるの大変だったからクタクタ。少し休ませて!
 すると平野さんが助け船を出してくれた。
「お嬢さん、上に行けばもっとたくさん楽しいものがありますよ」
「たのしいもの?」
「二階から三階にはキッズ向けのアミューズメント施設が入っております。きっとご満足いただけるでしょう。詳しくはこちらをどうぞ」
「ありがとうございます」
 差し出されたパンフレットを受け取り、顔を綻ばすママ。
「あら、柔の大好きなア〇パンマンのミュージアムがあるみたい!」
「む? 正道よ、ジュードーファイブにも会えるぞ」
「「いきたい! いきたい!」」
 双子の声が唱和した。
「よーし、そう言うと思ったぞ! それでこそ甲斐がある! 早速行こう! 諸君、よくやってくれた! 通常業務に戻ってよし!」
「はい!」
 雫さんの声に応え満足気な顔で解散するダンサーとオーケストラの皆さん。本当にここの社員なんだ。
「本当に色々あるわ、ちょっとした遊園地ね。歩美もごらんなさい」
「へえ、どれどれ?」
 感心するママからパンフレットを渡され目を通す私。なるほど面白そう。子供なら絶対喜ぶよここ。四階も丸ごとカガミヤの新製品を体験できる施設になってるらしい。大人も十分楽しめる。
「しかし、カガミヤ本社にこんな施設があるなど初めて聞いたな」
 前職からの習慣で今も業界の情報をチェックしている父さんは首を傾げた。そうだよね、こんなところがあったらもっと知られてて良さそうなもんだよ。なんで今まで聞いたことが無かったんだろ? 東京に来る前に買ったガイドブックにも載ってないし……。
「それはそうだろう、まだオープン前だからな!」
「へっ?」
「社長の発案で今日のため一年前から秘密裏に改装を進めていたのです。皆様はこれらの施設のお客様第一号ですよ」
「今日は貸し切りにしてある! 思う存分楽しんでくれ! 夏ノ日家も招待してあるから、もうすぐ来るはずだ!」
「あっ! あゆゆーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
 本当にジャストタイミングで友美が走って来た。
 私は再びポカンとしながら駆け寄って来た友美を抱き上げ、周囲を見回す。この大きなビルの二階から四階までが我が家のために作られたレジャー施設?
「いやはや、トチ狂った金銭感覚だわ」
「時雨さんが心配するわけだよね」
 苦笑しつつ合流したのは美樹ねえと友にい。二人は経緯をあらかじめ聞いていたらしい。
「安心しろ! 明日からは一般に開放する! 元は十分に取れるさ! ふははははははははははははははははははははははははははは!」
 雫さんは友樹を肩車して再び豪快に笑った。

 カガミヤの 女社長は 桁外れ

「ちなみに時雨さんがいないのは、お小言を言われないようにと社長が仕事を押し付けて追い払ったからです」
「なるほど……」
 あの人がいないと歯止めが効かなくなるんだろう。私達はこの日、雫さんの全力接待で存分にもてなされるうちそう思った。カガミヤグループにとって時雨さんの存在は欠かせないものなんだと。
 だって雫さんだけだと何をやらかすか予測できないもん。
 あ、でも、子供達はたしかに大喜びだったし、開発中の最新ゲーム機を体験できたのも最高だった! 次世代機はあんなに進化するんだね! 絶対買う!
「買わんでもプレゼントするぞ?」
「甘やかさない」
 ぴしっと雫さんを叩くママ。この二人も、ずいぶん仲良くなったもんだ。
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