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完結編
私達の支え
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──タクシーに乗って海辺までやって来た。悲しいことがあると海を見たくなるのってどうしてなんだろうね。
海を見ていると、鈴蘭さんの瞳を思い出す。あの人なら私の悩みなんて簡単に解決してしまえるんだろうか?
でも何故か怒りそうな気もする。簡単に頼らないでって。優しいけど、優しいだけじゃない。厳しさも併せ持った人だと、そう思うんだ。
「はあ……」
砂浜と道路の境に立つ柵によりかかり、深いため息。今さらながら後悔してる。
やっちゃった。これでもう私達、駄目になるかもしれない。
あいつのことは好きだよ。結婚だってしたい。
でも、こっちの事情を知ってるのにあんなことしたのが許せなかった。ちゃんと話したよね一人前の先生になりたいって。そのためにもうしばらく見守って欲しいって。ママやさおちゃん達だけじゃなく、あいつにも伝えておいたんだ。
なのにプロポーズ。しかもあんな公衆の面前で。勝てたら結婚してくれなんて逃げ場を奪うような条件付き。
──違う違う。きっと、あいつはそんなこと考えちゃいない。馬鹿だから勢いをつけるために選んだ方法だったんだろ。もしかしたら私が喜ぶと思っていた可能性だってある。
ただ、それはそれで腹が立つ。今このタイミングで寿退職なんて望んでるはず無いって、そんなこともわかってくれてないの?
「あいつにとっての私って、なんなんだろ……」
子供の頃はライバルで意地を張り合い、ずっとその延長線上にいて互いになかなか素直になれず、ようやく付き合い始めたらすぐに遠距離。私の勝手で。
それでも無限は文句一つ言わなかった。心が広いからだって思ってたけど、本当にそうなのかな? 実は私のことなんて大して好きじゃないのかも。それとも好きだけど、私が思ってるような好きとは違う?
この顔が好きなだけ? 鏡矢特有の容姿。だったら雫さんや時雨さんだっていいじゃん。雫さんなんか独身だよ、アタックしてみたら?
「あああああああ、もう……っ」
モヤモヤする。イライラする。無限にも、こんな疑心暗鬼に陥っている自分に対しても腹が立つ。今さらどんな顔で戻ったらいいかわからない。家族にも友達にも合わせる顔が無い。
せめてもう少し頭を冷やしていこう。どんどん日が落ちていく。日本に比べたら治安が悪いって言うけど、この時の私にはそんなことを考える余裕も無かった。
「やれやれ、己が身の危険に鈍感なところはいかにも零示の子孫じゃ」
「ついてきてよかった」
「まったくよ。まあ、妾達が傍におる限りたしかに危険はない」
すでに人払いの結界で周囲一帯を覆っておる。妾が許可せん限り誰も結界内には入って来られん。気の済むまでうじうじしておればいい。
恵土と共に長椅子に座る。歩美は一旦放置。試合結果が気になる。すまーとほんを取り出して指紋認証。いちいちボタンを押さなくていいのは便利よな。
「えーと、テレビはどうやって観るんじゃったか」
「これ、このアプリ」
「おお、そうじゃったな。やれやれ、近頃のこの世界は技術の発達が早すぎて理解が追い付かん」
「魔法を使う時は似たような魔方陣を操作してるのに」
「ありゃもっと直感的に操作できるじゃろ」
「これも慣れれば同じ。スイはほとんど使わないから覚えられない」
「お主が使いこなせりゃええわ。どうせいつも一緒におる」
「まあね」
ほほう、あの小僧め勝ちよったのか。抜け殻のようになっておったのに、あの状態からよくまあ。薄いとはいえ人狼の血を引いておるだけのことはある。
ん? おい待て親父殿。お主、何を──
「ほう」
面白い。これは面白いことになりそうじゃ。くふふ、よかろうよかろう、主らには通行許可を与えよう。ついでじゃ、そのへんの連中に暗示をかけて誘導役にしておくか。
おっと、こんな殺風景な場所ではいかん。もう少し華やかさが欲しい。海水を操作して光の反射方向を変えるか。大気中の水分にも干渉して屈折率を……ええい、どかんか雨雲。あっちに行っておれ。
よし、まあこんなもんかの。仕上げに……おや、あんなところにおあつらえ向きの店が出ておる。
「恵土や」
「なに?」
「あっちの方にほれ、屋台が出とるじゃろ。連れて来い」
「どうして?」
「お主さっきから何も観ておらんかったのか? ほれ、どうじゃ面白そうじゃろ? 故にここにあの屋台を引っ張って来い。見た目が華やかになるし役にも立つ」
「たしかに」
「よし、ならば行けい。オーストラリアの娘っ子もメロメロにしてこい」
「らじゃ!」
よしよし、これで後は待つだけ。
さあ人間ども、この妾を楽しませてみよ。
表彰式が始まった。時雨さん達からのメッセージによると位置情報追跡で歩美の居場所は特定できたという。タクシーにでも乗ったのか海辺まで移動しているそうだ。
そして、こちらでは──夫の怒りが頂点に達しようとしていた。
『さあ、今、堂々の三位となった超越寺選手の首にメダルがかけられます』
『おめでとうございます超越寺選手』
『そして次はノア・スコット選手。銀メダル』
『惜しかったですね。超越寺選手に圧勝した時には金メダル確実ではないかと思われましたが』
『木村選手がまさかの底力を爆発させ、終わってみれば完全勝利』
『あの動きは今でも信じられません。まさに蝶のように舞い、蜂のように刺す』
『柔道ではなかなか使われない例えですね』
『そのくらい異質な戦いでした。あ、とうとう木村選手の番です。試合前にとんでもない精神的ダメージを負った木村選手。恋には破れましたが金メダルという栄冠は掴みました。今、首にメダルがかけられます』
『まだ表情は暗いですね。どうか立ち直って欲しいものです』
『金メダリストですよ、これからはモテモテでしょう』
『そういえば、会場を飛び出して行った木村選手の彼女さんはまだ戻って来ていないのでしょうか? もし見てたら戻って来て下さい。木村選手、見事に金メダルですよ! 是非祝福の言葉を! カメラ、念の為に観客席を映して』
『あ、ちょうど切り替わりましたね。って……え?』
夫はしょげ返ったままの無限君を睨み、ついに立ち上がりました。堪忍袋の緒が切れたようです。その姿がスクリーンに、そして全世界のテレビに。
『鬼がいる!?』
「しゃんとせんか! 木村 無限!」
マイク無しでも会場中に響き渡る大音声。予測していた私達はちゃんと耳を塞いでます。大丈夫。それでも頭がわんわんするけど。
やっと無限君が顔を上げました。
「……親父さん?」
「他の選手達に失礼だとは思わんのか!? 頂点に立ったからには堂々としろ! 胸を張り、王者としての貫禄を示せ!」
「……」
少しずつ、少しずつ、虚ろだった目に生気が戻って来る。
「歩美に対してもそうだ! たった一回で諦めるのか? 俺の娘は、君には所詮その程度の女か!」
『えっ!?』
『さ、先程の美女のお父さん!?』
うちの人の怒りの眼差しをまっすぐ見つめ返す無限君。
そして、向こうも怒ったように言い返す。
「違います! 歩美は、歩美は──」
「ならば証明してみせよ! グズグズするな、態度で示せ!」
「はいッ!!」
さあ、始まるわよ。
『えっ、ちょっ、木村選手!?』
『走り出した!?』
そう、止まらないで。
あの子の元まで一直線に走って。
きっと歩美は待っている。
『前代未聞! 前代未聞です木村選手! 五輪会場での決勝戦直前のプロポーズに続いて、今度は、今度は! 表彰式をボイコットしての脱走だ!』
『カメラさん追いかけて! 追いかけて!』
「ふん」
鼻息を吹いた後、皆に立ち上がるよう促す夫。
「後は当人同士に任せる。帰るぞ。木村さん達もご一緒に」
「あ、は、はい」
「是非」
迫力に圧倒されて腰を浮かせる木村さんご夫婦。他の皆も帰り支度を始める。
私は夫にしなだれかかって腕を組んだ。
「おい?」
「ふふ、あなたと結婚して良かったです」
「やめんか。そういうことは帰ってから言うが良い」
「はい。さあ、それじゃあ帰るわよ正道、柔。友美ちゃん友樹くん、忘れ物が無いか確認してね」
──と、そう言って振り返った時だった。うちの子達と友美ちゃん達、そして会場中の目が一点に集まっていることに気が付く。
「きむらのにーちゃんだ」
「あら……」
私は、もう一度夫の顔を見上げた。
「ふふ、せっかくだしここで見ていましょうか」
「そうだな」
夫もまた椅子に座った。そしてニヤリと口の端を持ち上げる。
ほんと怖い顔。世界一素敵だけれど。
「その意気だ。走れ、少年」
海を見ていると、鈴蘭さんの瞳を思い出す。あの人なら私の悩みなんて簡単に解決してしまえるんだろうか?
でも何故か怒りそうな気もする。簡単に頼らないでって。優しいけど、優しいだけじゃない。厳しさも併せ持った人だと、そう思うんだ。
「はあ……」
砂浜と道路の境に立つ柵によりかかり、深いため息。今さらながら後悔してる。
やっちゃった。これでもう私達、駄目になるかもしれない。
あいつのことは好きだよ。結婚だってしたい。
でも、こっちの事情を知ってるのにあんなことしたのが許せなかった。ちゃんと話したよね一人前の先生になりたいって。そのためにもうしばらく見守って欲しいって。ママやさおちゃん達だけじゃなく、あいつにも伝えておいたんだ。
なのにプロポーズ。しかもあんな公衆の面前で。勝てたら結婚してくれなんて逃げ場を奪うような条件付き。
──違う違う。きっと、あいつはそんなこと考えちゃいない。馬鹿だから勢いをつけるために選んだ方法だったんだろ。もしかしたら私が喜ぶと思っていた可能性だってある。
ただ、それはそれで腹が立つ。今このタイミングで寿退職なんて望んでるはず無いって、そんなこともわかってくれてないの?
「あいつにとっての私って、なんなんだろ……」
子供の頃はライバルで意地を張り合い、ずっとその延長線上にいて互いになかなか素直になれず、ようやく付き合い始めたらすぐに遠距離。私の勝手で。
それでも無限は文句一つ言わなかった。心が広いからだって思ってたけど、本当にそうなのかな? 実は私のことなんて大して好きじゃないのかも。それとも好きだけど、私が思ってるような好きとは違う?
この顔が好きなだけ? 鏡矢特有の容姿。だったら雫さんや時雨さんだっていいじゃん。雫さんなんか独身だよ、アタックしてみたら?
「あああああああ、もう……っ」
モヤモヤする。イライラする。無限にも、こんな疑心暗鬼に陥っている自分に対しても腹が立つ。今さらどんな顔で戻ったらいいかわからない。家族にも友達にも合わせる顔が無い。
せめてもう少し頭を冷やしていこう。どんどん日が落ちていく。日本に比べたら治安が悪いって言うけど、この時の私にはそんなことを考える余裕も無かった。
「やれやれ、己が身の危険に鈍感なところはいかにも零示の子孫じゃ」
「ついてきてよかった」
「まったくよ。まあ、妾達が傍におる限りたしかに危険はない」
すでに人払いの結界で周囲一帯を覆っておる。妾が許可せん限り誰も結界内には入って来られん。気の済むまでうじうじしておればいい。
恵土と共に長椅子に座る。歩美は一旦放置。試合結果が気になる。すまーとほんを取り出して指紋認証。いちいちボタンを押さなくていいのは便利よな。
「えーと、テレビはどうやって観るんじゃったか」
「これ、このアプリ」
「おお、そうじゃったな。やれやれ、近頃のこの世界は技術の発達が早すぎて理解が追い付かん」
「魔法を使う時は似たような魔方陣を操作してるのに」
「ありゃもっと直感的に操作できるじゃろ」
「これも慣れれば同じ。スイはほとんど使わないから覚えられない」
「お主が使いこなせりゃええわ。どうせいつも一緒におる」
「まあね」
ほほう、あの小僧め勝ちよったのか。抜け殻のようになっておったのに、あの状態からよくまあ。薄いとはいえ人狼の血を引いておるだけのことはある。
ん? おい待て親父殿。お主、何を──
「ほう」
面白い。これは面白いことになりそうじゃ。くふふ、よかろうよかろう、主らには通行許可を与えよう。ついでじゃ、そのへんの連中に暗示をかけて誘導役にしておくか。
おっと、こんな殺風景な場所ではいかん。もう少し華やかさが欲しい。海水を操作して光の反射方向を変えるか。大気中の水分にも干渉して屈折率を……ええい、どかんか雨雲。あっちに行っておれ。
よし、まあこんなもんかの。仕上げに……おや、あんなところにおあつらえ向きの店が出ておる。
「恵土や」
「なに?」
「あっちの方にほれ、屋台が出とるじゃろ。連れて来い」
「どうして?」
「お主さっきから何も観ておらんかったのか? ほれ、どうじゃ面白そうじゃろ? 故にここにあの屋台を引っ張って来い。見た目が華やかになるし役にも立つ」
「たしかに」
「よし、ならば行けい。オーストラリアの娘っ子もメロメロにしてこい」
「らじゃ!」
よしよし、これで後は待つだけ。
さあ人間ども、この妾を楽しませてみよ。
表彰式が始まった。時雨さん達からのメッセージによると位置情報追跡で歩美の居場所は特定できたという。タクシーにでも乗ったのか海辺まで移動しているそうだ。
そして、こちらでは──夫の怒りが頂点に達しようとしていた。
『さあ、今、堂々の三位となった超越寺選手の首にメダルがかけられます』
『おめでとうございます超越寺選手』
『そして次はノア・スコット選手。銀メダル』
『惜しかったですね。超越寺選手に圧勝した時には金メダル確実ではないかと思われましたが』
『木村選手がまさかの底力を爆発させ、終わってみれば完全勝利』
『あの動きは今でも信じられません。まさに蝶のように舞い、蜂のように刺す』
『柔道ではなかなか使われない例えですね』
『そのくらい異質な戦いでした。あ、とうとう木村選手の番です。試合前にとんでもない精神的ダメージを負った木村選手。恋には破れましたが金メダルという栄冠は掴みました。今、首にメダルがかけられます』
『まだ表情は暗いですね。どうか立ち直って欲しいものです』
『金メダリストですよ、これからはモテモテでしょう』
『そういえば、会場を飛び出して行った木村選手の彼女さんはまだ戻って来ていないのでしょうか? もし見てたら戻って来て下さい。木村選手、見事に金メダルですよ! 是非祝福の言葉を! カメラ、念の為に観客席を映して』
『あ、ちょうど切り替わりましたね。って……え?』
夫はしょげ返ったままの無限君を睨み、ついに立ち上がりました。堪忍袋の緒が切れたようです。その姿がスクリーンに、そして全世界のテレビに。
『鬼がいる!?』
「しゃんとせんか! 木村 無限!」
マイク無しでも会場中に響き渡る大音声。予測していた私達はちゃんと耳を塞いでます。大丈夫。それでも頭がわんわんするけど。
やっと無限君が顔を上げました。
「……親父さん?」
「他の選手達に失礼だとは思わんのか!? 頂点に立ったからには堂々としろ! 胸を張り、王者としての貫禄を示せ!」
「……」
少しずつ、少しずつ、虚ろだった目に生気が戻って来る。
「歩美に対してもそうだ! たった一回で諦めるのか? 俺の娘は、君には所詮その程度の女か!」
『えっ!?』
『さ、先程の美女のお父さん!?』
うちの人の怒りの眼差しをまっすぐ見つめ返す無限君。
そして、向こうも怒ったように言い返す。
「違います! 歩美は、歩美は──」
「ならば証明してみせよ! グズグズするな、態度で示せ!」
「はいッ!!」
さあ、始まるわよ。
『えっ、ちょっ、木村選手!?』
『走り出した!?』
そう、止まらないで。
あの子の元まで一直線に走って。
きっと歩美は待っている。
『前代未聞! 前代未聞です木村選手! 五輪会場での決勝戦直前のプロポーズに続いて、今度は、今度は! 表彰式をボイコットしての脱走だ!』
『カメラさん追いかけて! 追いかけて!』
「ふん」
鼻息を吹いた後、皆に立ち上がるよう促す夫。
「後は当人同士に任せる。帰るぞ。木村さん達もご一緒に」
「あ、は、はい」
「是非」
迫力に圧倒されて腰を浮かせる木村さんご夫婦。他の皆も帰り支度を始める。
私は夫にしなだれかかって腕を組んだ。
「おい?」
「ふふ、あなたと結婚して良かったです」
「やめんか。そういうことは帰ってから言うが良い」
「はい。さあ、それじゃあ帰るわよ正道、柔。友美ちゃん友樹くん、忘れ物が無いか確認してね」
──と、そう言って振り返った時だった。うちの子達と友美ちゃん達、そして会場中の目が一点に集まっていることに気が付く。
「きむらのにーちゃんだ」
「あら……」
私は、もう一度夫の顔を見上げた。
「ふふ、せっかくだしここで見ていましょうか」
「そうだな」
夫もまた椅子に座った。そしてニヤリと口の端を持ち上げる。
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