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そして、また──
祖父vs初孫
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俺は今、いつもの座敷で孫の前に寝そべっておる。さっきまでは居間で横になっていたのだが掃除機をかける間だけ座敷に行ってくれと言われ移動した。
「じーじ、じーじ」
「どうした天道?」
仰向けになっている俺の顔をぺちぺち叩く孫。おのれ、心地良いではないか。
「ちゅっ」
「むおっ」
天道は突然俺のおでこにキスした。驚いてる間にもさらに繰り返し追撃を浴びせかけてくる。
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ」
「やめよ。何故俺にキスをする?」
慌てて両手で掴み、顔の上に持ち上げた。すると天道は「じーじじーじ」と余計に楽しそうにはしゃぎ出す。高い高いでもされてると思ったか。
待てよ? そういえば歩美めがよくこやつに「ちゅー」と口で言いながらキスしている。さてはあれを真似たか。
「天道よ、そういうのはもっと大事な時のために取っておくがよい。お前はあやつに似て愛らしい顔立ちだからサービスしすぎるといらぬ誤解を招く」
「?」
うむ、まあ一歳ではまだわかるまいな。とはいえ、オレは甘くないぞ。
「少し座りなさい」
「あう?」
起き上がり、あぐらをかいて膝の上に座らせる。顔は仏壇の方へ。そこには俺の両親とこやつの三人目の祖父・雨道殿の遺影がある。
「天道よ、お前の名は歩美の実父・雨道殿からもらったものだ。一字違うがな。俺はこの御仁を尊敬しておる。死の間際まで大切な人の身を案じておったそうだ。己の死を目前にしてまでそういう風に考えられるのは、すごいことなのだぞ」
親父もそうだった。対向車が突然宙を舞って突っ込んで来るという悲惨な事故で死んだ俺の親父は、助手席のお袋に覆い被さるようにして亡くなっていたという。最後まで妻を守ろうとしたのだ。
「俺は、お前にもそういう男になってほしい。無論、いざとなったら自分の命を捨てろと言っておるわけではないぞ。大切な誰かのために生きられる強い男になってほしいという意味だ。お前の父のようにな」
無限は大きく成長した。義理の息子となったあやつも今や俺の自慢の一つ。
「だから俺はお前を甘やかさん。強く大きく育て。お前の父のように広い心で、お前の母のように逞しく、人間を愛せる人間になれ。きっとできるはずだ」
「じーじ、じーじ」
膝の上でもぞもぞ姿勢を入れ替え、俺の腹にもたれかかる姿勢になった天道はそのまますやすや寝入ってしまった。全く話を聞いておらん。
だが、それで良い。今はまだ、食べて遊んで寝ろ。それがお前の仕事だ。
「ふう……」
腹に天道を乗せたまま再び仰向けになる。やはりまだ痛い。ちょっとした力仕事だったのだが、あの程度のことで腰を痛めるとは俺も老いたな。
いや、まだまだ。せめて、この初孫が大きく成長するのを見届けるまで耄碌できん。
などと気張ってはみたものの疲れがあったのだろう、腹に感じる温もりに誘われいつの間にか眠ってしまった。
そこへ──
「あらあら、こんなところで二人揃って寝ちゃって」
【お疲れ様です、大塚さん】
妻の声と、どこかで聞いた覚えのある青年の声が耳に響く。俺は夢うつつのままこんな幸福がずっと続けば良いと願った。
初孫と 微睡む午後に 幸願い
お前に誇ってもらえるじーじになれるよう、俺もさらに精進する。
さしあたり、起きたら一緒に本屋へ行くか。
(Next→じーじでも勝てない?)
「じーじ、じーじ」
「どうした天道?」
仰向けになっている俺の顔をぺちぺち叩く孫。おのれ、心地良いではないか。
「ちゅっ」
「むおっ」
天道は突然俺のおでこにキスした。驚いてる間にもさらに繰り返し追撃を浴びせかけてくる。
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ」
「やめよ。何故俺にキスをする?」
慌てて両手で掴み、顔の上に持ち上げた。すると天道は「じーじじーじ」と余計に楽しそうにはしゃぎ出す。高い高いでもされてると思ったか。
待てよ? そういえば歩美めがよくこやつに「ちゅー」と口で言いながらキスしている。さてはあれを真似たか。
「天道よ、そういうのはもっと大事な時のために取っておくがよい。お前はあやつに似て愛らしい顔立ちだからサービスしすぎるといらぬ誤解を招く」
「?」
うむ、まあ一歳ではまだわかるまいな。とはいえ、オレは甘くないぞ。
「少し座りなさい」
「あう?」
起き上がり、あぐらをかいて膝の上に座らせる。顔は仏壇の方へ。そこには俺の両親とこやつの三人目の祖父・雨道殿の遺影がある。
「天道よ、お前の名は歩美の実父・雨道殿からもらったものだ。一字違うがな。俺はこの御仁を尊敬しておる。死の間際まで大切な人の身を案じておったそうだ。己の死を目前にしてまでそういう風に考えられるのは、すごいことなのだぞ」
親父もそうだった。対向車が突然宙を舞って突っ込んで来るという悲惨な事故で死んだ俺の親父は、助手席のお袋に覆い被さるようにして亡くなっていたという。最後まで妻を守ろうとしたのだ。
「俺は、お前にもそういう男になってほしい。無論、いざとなったら自分の命を捨てろと言っておるわけではないぞ。大切な誰かのために生きられる強い男になってほしいという意味だ。お前の父のようにな」
無限は大きく成長した。義理の息子となったあやつも今や俺の自慢の一つ。
「だから俺はお前を甘やかさん。強く大きく育て。お前の父のように広い心で、お前の母のように逞しく、人間を愛せる人間になれ。きっとできるはずだ」
「じーじ、じーじ」
膝の上でもぞもぞ姿勢を入れ替え、俺の腹にもたれかかる姿勢になった天道はそのまますやすや寝入ってしまった。全く話を聞いておらん。
だが、それで良い。今はまだ、食べて遊んで寝ろ。それがお前の仕事だ。
「ふう……」
腹に天道を乗せたまま再び仰向けになる。やはりまだ痛い。ちょっとした力仕事だったのだが、あの程度のことで腰を痛めるとは俺も老いたな。
いや、まだまだ。せめて、この初孫が大きく成長するのを見届けるまで耄碌できん。
などと気張ってはみたものの疲れがあったのだろう、腹に感じる温もりに誘われいつの間にか眠ってしまった。
そこへ──
「あらあら、こんなところで二人揃って寝ちゃって」
【お疲れ様です、大塚さん】
妻の声と、どこかで聞いた覚えのある青年の声が耳に響く。俺は夢うつつのままこんな幸福がずっと続けば良いと願った。
初孫と 微睡む午後に 幸願い
お前に誇ってもらえるじーじになれるよう、俺もさらに精進する。
さしあたり、起きたら一緒に本屋へ行くか。
(Next→じーじでも勝てない?)
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