【完結】愛されチートの隣の子

マツヲ。

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Ep.17 誤解に基づく危機の襲来

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 どうしよう、どうにかして逃げないと!
 そう思う気持ちとは裏腹に、どうせ逃げきれやしないのだと、なげやりになる気持ちも存在する。
 だって元々ボクは、リュクス様やハルトと二度と会うことはないところへ、逃げ出したいと願っていたのだから。

「へへッ、聞いておどろけ!あの王宮にいる『神子』様の、お気に入りを手に入れたぜ!コイツがいりゃあ、言うことを聞かせ放題だ!」
 かついでいたボクのお尻をなでまわしながら、サイラスは自慢げに胸をそらす。

「あぁ?なに言ってやがる、寝言は寝てから言うんだな」
「そうだそうだー!」
「おいおい、冗談キツいぜ、サイラス!どうやったらオイラたちみたいな底辺の人間が、そんなエライさんの身内と知り合う機会があるってんだよ?」
 当然のようにそれは、冗談だと周囲に受け止められていたけれど。

「あぁん?ウソじゃねーよ、マジな話、コイツは昔から『神子』様がご執心の幼なじみなんだってば!」
「そうそう、いきなり人さらってきて、今度は詐欺でもはじめようってか?」
「ちげぇし!!」
 あいかわらずサイラスの言葉は、信じてもらえていないようだ。

 ……って、そりゃそうか。

 この国に住む多くの人間にとって、貴族なんて特権階級の存在ですら遠く感じているのに、まして王宮のなかなんて完全な別世界だ。
 その王宮のなかでも特に大事にされ、世間の目から隠されているのがハルトなんだ。
 一般の人にとっては、存在することすら疑わしい人物と言っても過言ではない。

「……で、サイラスはどこからその汚ねぇカッコのガキをさらってきたんだ?」
「あのなぁ、コイツはこんなナリしてるが、マジの拾いモンだからな?見て腰抜かすんじゃねぇぞ?」
 たっぷりともったいをつけたサイラスは、ようやく肩からボクを下ろすと、外套を脱がせてきた。

「「おぉっ!お貴族様か?!」」
 とたんにあらわれたボクのプラチナブロンドの髪に、目の前の男たちは食いついてくる。
 リュクス様たちがそうであるように、金や銀の髪は、基本的には貴族の特徴とも呼べるくらいレアなものだから、彼らがそう勘違いするのも無理はない。

「……まぁ、コイツ自体はスラム出身なんだけどな?それより見てみろよ、このツラ」
「んっ」
 背後から抱きつくようにして、サイラスはボクのアゴをとらえて上を向かせると、ついでにもう片方の手で前髪をもちあげた。

「おおお、マジかよ……?!」
「こいつぁ、とんでもねぇ上玉だろ……」
 生ツバを飲み込む音とともに、遠慮のない視線にさらされ、ボクのなかに気まずさが広がる。
 こういう好色さを隠さない目線で見られるのは、どうにも苦手だった。

「どうよ、少しはオレの言うことを信じる気になったか?」
「でも……本当に大丈夫なのか?これだけの上玉だ、どっかの貴族の囲われモンになってるとかじゃ……うかつに手ぇ出して、ソイツを怒らせでもしたら大変なことになるぞ?!」
 にぃっとくちびるをゆがめて笑うサイラスに、しかし周囲の男たちは乗り気にはなっていないようだった。

 ……目の前の男たちは、どう見ても真っ当な仕事をしているとは思えなくて、強請やたかりなんてものもなれているから、てっきりもろ手をあげて賛成するのかと思ったけれど、そうじゃないらしい。
 一応、なにもかんがえずに、目先の欲に流されるバカ、というわけではなさそうだった。

 たとえるなら、それはかつてボクたちが暮らしていたスラムの住人のようなものだ。
 ───当時、スラムに住んでいたボクたちは、自由な生活をしていたといっても、イコールして後ろ楯となるものがまったくいない生活を送っていたということにほかならないわけで。
 はっきり言ってそういう人たちは、圧倒的な組織力を持つ公権力には弱い。

 もし国だの領主だのが推進しようとする施策にとってジャマになるならば、その辺り一帯を焼き払ってしまえばいい。
 たとえそこの住民に死者が出ようと、そもそもがその公的組織から人として認識されていないのだから、向こうは痛くも痒くもないんだろうし。

 今心配を口にした男は、そのことをよく理解してるんだろう。

「だから最初に言っただろ?今王宮にいる『神子』様は、オレの知ってるヤツなんだって。昔なじみのダンジョン近くのスラムで暮らしてたヤツでさ、それこそコイツと長年、おなじ家に暮らしてたんだ!囲われモンっつーことなら、『神子』様本人の囲われモンってことになんだろうよ、なぁロト?」
 そう言ってボクの顔をのぞきこんでくるサイラスに、必死に顔をそむける。

「つれないことすんなよ?昔は何度もからだを求め合った仲じゃねーか?」
「どの口がそれを言うの?勝てそうにないモンスターが出たからって、仲間を犠牲にして、さらにボクの足まで切って逃げた臆病者のクセに!」
 そのせいでボクが、どんな目に遭ったと思ってんだよ!?

「あぁ?!ふざけんなよ!ちょっと甘い顔してやりゃ、調子に乗りやがって!それでもテメェは生き残ってるんだからいいじゃねーか!つーかテメェ、いったいどうやって生き残りやがった?」
 カッとなったサイラスは、ボクの首に腕をまわすようにして、締め上げてきた。

「んんっ、ぐぅ……っ」
 苦しい……息ができない……。
 止めたくても、サイラスのこん棒のように立派な腕に手を添えるのがやっとで、つかむことすら満足にできなくて。

「おい、やべーって、それ以上やったら死んじまうぞ?!」
「チッ!」
 仲間のひとりに止められ、苦々しげな舌打ちとともに解放される。

「ケホッ、ゴホッ……!」
 とたんにボクはその場にくずれ落ちて、盛大にむせた。
 あまりの苦しさにあたまはクラクラとして、視界は生理的ににじんだ涙でぼやけている。

 たぶん、突然暴れだしたサイラスに、彼の仲間もとまどっているにちがいない。
 さっきから『おい、どうする?』『でも逆らうのは……』なんていう小声での相談が、サイラスの怒号の合間に聞こえていた。
 でもそれは、すっかりあたまに血の上ったサイラス本人には届いてなかったらしい。

「それとも、まさか───おまえがオレをアイツらに売りやがったのか!?」
「……なんのこと??」
 あいかわらずキレたままのサイラスの問いかけに、『アイツら』がなにを指しているのかよく理解ができていなくて、ボクもこたえが遅れた。

 そんなボクの態度を見た相手は、勝手に誤解を深めていったらしい。
 カッと目を見開くと、正面にまわりこみ、ボクの胸ぐらをつかんで顔を寄せてくる。

「とぼけやがって!テメェだったのか、オレを王宮騎士団に売りやがったのは!?ふざけんじゃねぇ!!テメェのせいでオレはなぁ!」
 身長や体格差があるせいで、ガクガクとゆさぶられれば、なかば膝立ちのまま、宙吊りに近い状態になる。

「ボクは……なにも知らない……っ!」
 逆上しているサイラス相手に、あのときのことをうまく説明できるとは思えなくて。
 そうこたえることしか、できなかった。

「知らねぇはずねぇだろーが!!テメェのせいで、オレはこんなふうに、落ちるところまで堕ちちまったんだ!責任取れよな?!」
「や……っ、はなして……」
 サイラスの言うそれは、言いがかりもはなはだしかった。

「いいから、こっち来いよ!詫びはテメェのからだで支払ってもらうぜ!」
 なかば引きずられるようにして、床の上から無理やり立たせられ、近くの粗末な木のベッドの上へと投げ出される。

 どうしよう、サイラスは誤解をしているだけなのに……。
 だってあのとき助け出されて気を失ってから、次にボクが目を覚ましたときには、なにもかも終わってたんだから。

 最初に目にしたのは、ボクにすがって泣くハルトの顔で、あの後のことなんて、それ以外にはほとんどおぼえていないくらいなんだ……!
 第一、当時はなにを聞かれたところで、ロクにしゃべれもしなかったくらいだし。
 ボクが逃げ出したサイラスの罪を暴くなんてこと、できたはずがなかった。

「いやぁっ!離して!」
 ジタバタともがいたところで、いかんともしがたい体格差の前には、なんの役にも立ちはしない。
 ベッドの上に押し倒され、上からまたがられてしまえば、その重みで逃げ出せそうもなかった。

「あーもうっ、少しはおとなしくしてろよ!!」
「あぅっ!」
 ゴッと音を立て、コブシで頬を殴られる。
 あまりの痛みに息がつまり、視界がゆれた。

 完全に無防備になったその隙に、必死にサイラスの腕をつかんで止めようとしていたボクの両手はまとめて手首のところでつかまれ、頭上に押しつけられてしまった。
 少しでも体重をかけられてしまえば、もうどうにもならなかった。

「や、ヤダ……ッ!!」
「そんな抵抗じゃ、どうしようもないぜ?」
「あ………いやぁぁっ!!」
 にやりと笑うサイラスが、怖くてたまらない。
 心のなかに絶望が広がっていく。

 その圧倒的な力の差に、今度こそ抵抗するすべを失ったボクは、サイラスによってなかば引き裂かれるようにして、強引にシャツとズボンを脱がされていった。
 そして、下着だけの姿となる。

 ───あたまではわかってるんだ、サイラスにここで無理やり犯されようと、どうせこの身はすでに穢れているんだから、今さらどうってこともないはずなんだって。
 それにハルトの庇護を抜けて、これから先もひとりで生きていこうとするのなら、なんの能力もないボクでは、また身を売る以外に稼ぐ道はないんだろうってことも。

 だから、こんなのなんでもない。
 そう───思えたらよかったのに。

「イヤ……おねが……っ、だれか助けてえぇっ!!」
 ねっとりと肌の上をなでまわす、サイラスのマメだらけの手のひらの感触に怖気立つ。
 泣いたって、だれも助けてくれないのはわかっているのに、気がつけば口からは悲痛な叫び声がこぼれていた。
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