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マツヲ。

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3:社畜からゲームのキャラへの転生

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 テイラー・ストゥレイン・ダグラス、妙に長ったらしいそれが、この世界での俺の名前だった。
 悪名高きダグラス伯爵家の次男にして、『星華せいかとき』屈指の悪役ぼっちゃんである、パレルモ・ポット・ライムホルン公爵令息のとりまきのひとりでもある。
 ……要は悪役側のモブだ。

 壁にかけられた大きな姿見の鏡をのぞけば、そこにはやわらかそうな薄茶色の髪に、切れ長の紫の瞳を持つ少年の姿が写る。
 前髪をふたつわけにして、やや長めの毛足を流しているその顔は、10代後半という年のわりには大人びて見えるだろうか?

 ……うん、やっぱり一応ではあるけれど、見おぼえがある顔だ。
 いつもパレルモの背後にいる、影みたいなヤツ。
 それがテイラーというキャラクターを説明するのに、いちばんあっている気がする。

 特にパレルモとは髪と瞳の色がおなじだからなのか、よけいにセット感が強いというか。
 まぁ一応、母親同士が姉妹というのもあって、いとこ同士だから似ているのかもしれないけど。

 でも色味こそ似ているものの、顔の系統はだいぶちがう。
 俺───テイラーはモブらしく、あまり自己主張のないあっさりとした顔立ちなのにたいし、パレルモは幼さの残る天使のようにかわいらしい顔立ちをしている。

 年齢はテイラーよりも3つ年下の、現在10代なかばではあるけれど、たぶんそれよりも幼いくらいに見えるだろう。
 そんなパレルモは、ショタっぽい見た目のわりにやることがエグいんだけどさ。

 テイラーとちがって、パレルモはゲーム内の攻略キャラクターではある。
 ゲーム内では主人公のヒロインに一目惚れをして、かまってほしすぎて、いろいろヤラカすタイプだったけど。
 そのせいで、攻略ルート以外に出てくるときは、なんならバッドエンド要員だったっけ……。

 ……と、それはさておき。
 鏡のなかをじっと見つめたところで、あの作画からそのまま立体化されたような見た目に、『星華の刻』の世界に生きるキャラクターになったという事実が、ジワジワと染みてくる。

 たとえるなら、2.5次元ミュージカルと呼ばれる作品に出てくるキャラクタービジュアルのようだ。
 さすがに髪の毛も目の色も、あの『いかにもカツラでカラコン』な見た目よりかは、もう少し自然になじんだものに見えるけど。

 ただ、ありがたいことにこの世界は乙女ゲーにカテゴライズされる世界だけあって、基本的には登場人物すべてがキラキラしたイケメンもしくは美少女作画のキャラクターしかいない。
 そのおかげもあって、モブとはいえども決して残念なお顔立ちということはなかった。

 なんなら、もとのゲームのシナリオライターだったころの俺の姿からしたら、ずいぶんと若くてイケメンになったと言ってもいいくらいだろ。
 そう思うと、ガラにもなく『女神様、ありがとう!』なんて天に向かって祈りたくなる。

 なにより俺からすれば、もとの年齢から一気に10歳近く若返ってピチピチになったとか、それがいちばんありがたい話だと思う。
 いや、マジで。

 若いと聞くと真っ先に体力あると思いがちだけど、それよりも回復力があるのがいちばん助かるんだよ。
 疲れたと思っても、一晩眠ればそれでまたすぐに元気になれるって、50連勤デスマーチで常に死にかけがあたりまえだった元社畜からすると、めちゃくちゃすげぇことだと感じる。

 と、それはさておき(ふたたび)。

 あれから、どうかんがえてみても夢としか思えない展開に、めっちゃほっぺたをつねったり叩いたりしてみたけれど、ただひたすら赤くなるし痛いだけだった。
 そう、つまりは───どれだけ信じがたいことだとしても、これはまぎれもない現実なんだということだ。

 いやはや、なんの冗談だよ?!って思うだろ!
 自らが開発スタッフとしてたずさわったゲームの世界に入り込むとか、夢じゃなければ俺のあたまがおかしくなってしまったのかと思うしかないくらいの荒唐無稽な話だ。

 たしかに『星華の刻』は人気が出て、さまざまな媒体のソフトとして、これまでもバージョンアップをくりかえしてリリースされてきたし、なんならメディアミックスの話なんかも出ていて、過去にはアニメ化だとかコミカライズだとかもされたし、今度は舞台化もされるなんて話が出ていたけれど。

 それにともなって新規エピソードの追加配信をするとかなんとかで巻き込まれた俺が、連日の残業つづきで疲れはてていたのは事実だ。
 そこで労基法をブッチした、怒涛の50連勤からの3徹なんてものもヤラカシたっけ……。

 俺は今世でテイラーなんだとしたら、前世の俺───やっぱり前世……なんだよなぁ……?
 やっぱり俺は、よくある異世界転生モノのラノベのごとく、社畜として無理をしたあげくに命を落としたとかなんだろうか?
 全然そのあたりの記憶がないんだけども。

 苦しくなかったなら、まぁいいか……なんて思ってしまうのは、それだけこのゲームに思い入れがあるからかもしれない。
 だって目の前に広がるのは、リアル『星華の刻』の世界なんだぞ!?
 あのキャラクターたちが生きている世界に来られるとか、まさに社畜をしたおかげのご褒美タイム!
 それこそ夢みたいじゃないか!

 ……って、思わず興奮しそうになったけど、それくらいテンションがあがる出来事なのは、言うまでもなかった。
 そりゃお仕事ではあったけど、スタッフみんなの夢だの希望だのを一生懸命詰めこんで作ったのが、あのゲームなんだ。
 だからこそ『星華の刻』の世界は、俺にとっては夢の国と言ってもいいわけで。

 どのキャラクターにも愛着があるし、かわいい我が子たちが生きているのをこの目で見られるなら、死んでも悔いはないくらいの気持ちになったってしょうがないだろ。
 これが夢なら、まださめないでほしい。

 どうせなら女神様からの依頼、きっちりこなしてやろうじゃないか!
 なんて、大船に乗ったつもりで気楽にかんがえていた自分は悪くないと思いたい。

 そう、なんで俺がこの世界に呼ばれたのか。
 それをよくかんがえていなかったことを思い知らされたのは、まもなくのことだった───。
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