ここは弊社のゲームです~ただしBLゲーではないはずなのに!~

マツヲ。

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 この学校の保健室の主と言ったら、『』しかいない。
 目の前のブレイン殿下とおなじく、『星華せいかとき』の隠れ攻略キャラでもあるセラーノ・デルソルだ。

 彼はボサボサの深緑の髪と糸目が特徴的な、この学校の保健医だった。
 本来なら、メインの攻略キャラたちとうまくいかないヒロインをはげまし、場合によってはさっき俺が言ったような『惚れ薬』なんていうお助けアイテムをくれたりするサポートキャラのような立ち位置にいる。

 しかし改変の進んでしまったこの世界でのセラーノは、少年愛に満ちた───なんなら満ちすぎていて犯罪指数がかなり高めな変態医者と化していた。
 それこそ、こうして生徒のなかでも危険人物認定されてしまうくらいには、その変態度合いは熟成が進んでいる。

 原作セラーノは小柄で物腰おだやか、困ったときに頼れるやさしげな青年のはずなのに!!
 この世界線での彼は───とにかくやたらと人を解剖したがる、実験好きなマッドドクターという仕様になっていた。
 なんていう魔改造だよ?!

 けれど悲しいことに、この世界が侵食されて奪われた権能『物語創作者ストーリークリエイター』により、すでにさかのぼっていろいろなエピソードの改変が行われてしまっているわけで。
 その一環だとはいえ、まぎれもなく今のこの学校の保健室の主は危険人物だった。

 ブレイン殿下に言われるまでもなく、少なくとも消灯間際に会いたい人物でないことだけはたしかだった。
 でも、そうすると詰む。

 だって現在も俺は、服すら着られずにいるあげく、ロクに動けない状態だ。
 そんな無様な俺の姿を、ニヤリと口もとを笑いのかたちにゆがめたブレイン殿下が見下ろしてくる。

「さて、キミの面倒は、私が責任を持ちましょうかね」
 そう言いながらも、かいがいしく服を着せてくれている。
 その手つきがときおり妖しく肌のうえをなでまわしているような気がするのは、たぶん気のせいだ───いや、気のせいだと思いたい。

「い、いえ、本当に遠慮しま……うわぁっ!」
 そして無事に服を着せてくれたと思ったら、気がついたら相手の肩に担がれていた。
 自分でも一瞬なにが起きたのか、理解が追いついてくれなかったんだけど。

 しかもブレイン殿下は、そのままふつうに歩き出すものだから、俺のあたまはすっかり混乱におちいっていた。
 いや、だって、この人はこの国の王子様で、ゲームの隠れ攻略キャラのひとりで。
 たいする俺は、ただの伯爵家の次男だし、たんなるモブにすぎないのに。

「で、殿下!?重いですよね?!せめてだれかほかの人に頼んだほうが……っ!」
 こういうとき、ふつうなら従者に担がせるもんだろ!?
 なんでこの人自ら、俺なんかを担いでるんだ?!

「こら、暴れない。落ちちゃうでしょうが」
「いや、だって……」
 これがまだパレルモ様なら小さいし軽いし、なにより王家ともゆかりの深い公爵家のご子息だから、まだわかる。

 でも俺だぞ?
 体型も標準的で、特別やせているわけでもなんでもなくて。
 身長だって平均か、ややそれよりも高いくらいはあるのに……。

「言ったでしょう、『最後まで責任を取る』って」
 だからって、王族に担がれて運ばれるとか、逆ならともかく、申し訳なさすぎて気が遠くなりそうだ。

「それでも殿下の手をわずらわせてしまうと思うと、申し訳なさが先立つと言いますか……」
 ひとことであらわすならば、『恐縮です』だな。

「………キミは、この抱きあげかたを───横抱きにしないことを怒らないのかい?」
「え……??」
 どういう意図の質問なんだろうか、それ。

 横抱き───それって、いわゆる『お姫さま抱っこ』のことだよな?
 そうしないと怒るって……そりゃ貴族のご令嬢ならそうかもしれないけど、俺男だしな……。

「肩に担ぐほうが、腕への負担も少ないですし、持ち運びには便利ですよね?」
 特別気にするほどのことではないと思うんだけど……。
 発言の意図がつかめずに、しかし思ったことを口にすれば、相手はしばし無言になった。

 あれ、なんか受けこたえに失敗でもしたんだろうか?
 でも合理性をかんがえたら、なにひとつまちがえてないし、今の俺のこたえにしても決して不敬にはあたらないはずだ。

「そもそも俺を横抱きにするのとか、無理があると思いませんか?ご令嬢とはちがって身長もありますし、足とかあたまが余って持ちにくそうと言いますか……」
 それになにより、ぶっちゃけはずかしすぎて死ねるから勘弁してほしいと思うしな。

「キミはおもしろいことを言うね。私のまわりでは、あまり見ないタイプだ」
「殿下とは身分差がありますから、そういう意味で、あまりまわりに居ないのは、まちがいないでしょうね」
 むしろ前世のことをふくめると、気持ちのうえではほぼ平民だしな!!

「私のまわりの人たちからは『ロマンチックじゃない』だとか、『人を荷物あつかいするなんて失礼すぎる』だとか怒られたんだけどね?」
 ため息をつきながら、しみじみとつぶやく姿は、どこか哀愁がただよって見える。

「そりゃそうでしょう、殿下のようなきらびやかな方を前にしたのなら、ふつうは夢を見ますから」
 隠れキャラとはいえ、乙女ゲーの攻略キャラクターのひとりなんだ、女性たちからロマンチックなことを求められる存在なのは当然だろう。

「ふぅん?ちなみに今のキミの率直な思いは?」
「おそれ多すぎて、いっそ荷物は荷物らしく台車で運ばれたいです」
 だって、そっちのほうが、運ぶ人が重さを感じないで済むじゃん?

「プッ!アハハ、なにそれ!自分から『荷物』って……!」
 そう思ってのことだったのに、盛大に吹き出された。
 しかも、まったく笑いが止む気配もない。

「いいね、おもしろい!キミは……そばにいて飽きないタイプだ」
「えっ??」
 待ってくれ、このセリフ───!!?

 聞きおぼえがあるそれに、視線がさまよう。
 だって、それはヒロインがブレインルートを進めたときの最初にある『お弁当イベント』で聞けるセリフじゃなかったっけか!?

 全然ちがう展開のはずなのに、いったいどうして??
 けれど、その疑問にこたえられるような存在は、残念ながらこの場にはいなかった。
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また、内容もサイレント修正する時もあります。
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