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35:この展開は、腐向けすぎます
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保健室から教室までの道のりは、意外と遠い。
それもこれもムダに広い中庭と、お城のような造りの校舎がいけないんだけど。
いや、でも『心ときめく最強のファンタジー系恋愛シミュレーションゲーム』と銘打った『星華の刻』の舞台なんだから、それくらいこだわらなきゃダメだとスタッフ一同で盛りあがった結果、白い壁にあざやかな水色の三角屋根と尖塔とを組み合わせたような、『いかにも』なデザインの校舎になったのだから仕方ない。
シナリオライターとしてそこに参加していた俺の場合は、当時彼女たちの熱意を止めきれなかったから、ある意味で自業自得というものだった。
───まぁ、結果的にビジュアルだけは満点の、乙女心をくすぐるデザインにはなったのだから、ゲーム的にはいいのかもしれないけれど。
「それにしても、遠いな……」
思わず口をついて愚痴がこぼれる。
保健室からは階段をあがり、中庭を見下ろす回廊をまわりこんでいかないと教室までたどりつけない仕組みとか、校舎を使う側からすると不便すぎて、本当に設計したヤツ今すぐ出てきてあやまれ!って思う。
でも、ここから見下ろす景色は、あのゲームのなかの世界なんだよなぁ。
そう思うと、やっぱりワクワクしてきて、つい足を止めてしまう。
そよそよと流れる風も気持ちいいし、もうちょっとだけここにいてもいいよな……?
校庭は広大な幾何学模様を描く植込みに囲まれていて、いわゆるフランス式庭園に近いデザインだった。
その分中庭は自然豊かで、大きめの池やそれにかかるレンガ造りの橋、なだらかなラインを描く丘に、葉を繁らせる木々と、いわゆる自然を生かすイギリス式庭園の様相を呈していた。
もちろんほかにも貴族学校のお約束、バラ園だとか温室だとか、噴水付きの花畑なんかもある。
中庭もふくめたそれらのなかには、やはり乙女チックなデザインの、半球状の屋根を持つガゼボが点在しているのもお約束だろう。
この学校に通うご令嬢たちが、そこでお茶会を開くのもゲーム内でのお約束だったからな!
こうして見てると、なんだか巨大な植物園だとかテーマパークにいるみたいで、それだけでもふつうに楽しくなってくる。
あー、なによりそれがリアル『星華の刻』の世界ってだけで、心おどるな!
何時間でも見ていられるかもしれない、なんて思っていたら。
「おや、こんなところにいたんですね?教室にはいないようだったので、探しましたよ」
ふいに背後からかけられた声は、とてもなじみのある、艶のある声だった。
「ブレイン殿下……?」
ふりかえった先には、今の俺とおなじ服装をしたブレイン殿下が立っていた。
少し袖が余りがちな俺とくらべると、やっぱり本人にあわせて仕立てられただけに、きれいな着こなしだ。
クソ、やっぱり何度見てもカッコいいな!?
「なにを見ていたんです?」
そして俺の横まで歩いてくると、いっしょになって中庭をながめる。
「これといってなにもない、ですよね……?」
ふしぎそうに首をかしげる姿に、俺は苦笑をかえす。
「そりゃ、ぼんやりと庭を見ながら『いい風だな』って思ってただけですからね」
会社にカンヅメでシナリオ書いてた身からすると、こういう緑は目に染みるんだよ。
というか、めちゃくちゃ癒される。
「ふぅん、そんなものですか。それより……気のせいか、ずいぶんと制服の着方が乱れているようなんですけれども。まさか脱がされたりなんて、していないですよね?」
さりげなく横に立つとこちらの腰にエスコートをするように手を添えてくるブレイン殿下がグッと顔を近づけてのぞきこんできた。
ヒェ、近い近い!!
つーか、至近距離からのイケメンとか、めっちゃ顔圧高いから!
うぅ、まぶしい!
「いや、あの、今日うちの学年は体育の授業がありまして……」
「知ってるよ、キミが授業を見学していたことも、ボールにあたって保健室にかつぎ込まれたこともね」
だけどあっさりと、俺のセリフをさえぎってその先まわりをする。
知ってるなら、聞くなよな?!
こちとら、ボンヤリしてたせいで顔面ボールキャッチをしたとか、しかもそれでぶっ倒れたとか知られるの、もうスゲーはずかしいんだからな!?
「そうだね、その保健室で───そんな制服が乱れるようなことをセラーノとしてたのかな?」
「え?いや、特になにもないですけど……」
気のせいか、その薔薇色の瞳が剣呑な光を帯びたように見えた。
その光に気圧されたように後ずされば、腰にまわした手で引き寄せられ、退路をふさぐように壁とのあいだに閉じ込められる。
うわ、もう片方の手は壁についてるとか、これっていわゆる『壁ドン』じゃん?
「……だれかさんのせいで寝不足だったんで、少し昼寝をしてきたのと、お茶を出されて飲んできたくらいですから」
「それで、なにを話してきたんだい?」
俺のこたえを信用していないのか、さらに質問が重ねられる。
相手は笑顔のはずなのに、なぜだか背すじがひんやりする。
なんか知らないけど、怒ってないか??
今の短いやりとりのなかに、怒らせるような要素なんてあったっけ?
「昨日のこと、お詫びされてただけです。ブレイン殿下のことも、止められなくてゴメンって……」
「そのお詫びをするのに、なぜキミが制服を脱ぐ必要があったんだろうね?」
なかば食い気味に問いかけてくるブレイン殿下は、まぎれもなく不機嫌になっていた。
ん?あれっ??
これはひょっとして、なんかセラーノとの仲を誤解されてたりするのか?
いや、でもそれじゃまるでブレイン殿下が嫉妬でもしてるみたいじゃん!
───それともあれか、実はブレイン殿下も改変の影響を受けていたりするのか?
この世界を侵食した腐女子さんは、てっきりパレルモ総受け一択なんだと思ってたけど、実はブレラノもお好みだったんだろうか!?
なんて思っていたら。
「キミが話してくれないなら、からだに直接聞くしかないかな?」
ニィッと凶悪な笑みを浮かべたブレイン殿下が、俺のネクタイへと手をかけた。
「え?ちょっと待って!?」
シュルリと引き抜かれ、シャツのボタンへと手がかかり、あっという間にはずされていく。
はあぁぁ!!?
なんなんだよ、その同人的腐向け展開は?!
突如として降りかかってきた災難に、思わず心のなかで改変者にたいする愚痴が爆発しそうだった。
それもこれもムダに広い中庭と、お城のような造りの校舎がいけないんだけど。
いや、でも『心ときめく最強のファンタジー系恋愛シミュレーションゲーム』と銘打った『星華の刻』の舞台なんだから、それくらいこだわらなきゃダメだとスタッフ一同で盛りあがった結果、白い壁にあざやかな水色の三角屋根と尖塔とを組み合わせたような、『いかにも』なデザインの校舎になったのだから仕方ない。
シナリオライターとしてそこに参加していた俺の場合は、当時彼女たちの熱意を止めきれなかったから、ある意味で自業自得というものだった。
───まぁ、結果的にビジュアルだけは満点の、乙女心をくすぐるデザインにはなったのだから、ゲーム的にはいいのかもしれないけれど。
「それにしても、遠いな……」
思わず口をついて愚痴がこぼれる。
保健室からは階段をあがり、中庭を見下ろす回廊をまわりこんでいかないと教室までたどりつけない仕組みとか、校舎を使う側からすると不便すぎて、本当に設計したヤツ今すぐ出てきてあやまれ!って思う。
でも、ここから見下ろす景色は、あのゲームのなかの世界なんだよなぁ。
そう思うと、やっぱりワクワクしてきて、つい足を止めてしまう。
そよそよと流れる風も気持ちいいし、もうちょっとだけここにいてもいいよな……?
校庭は広大な幾何学模様を描く植込みに囲まれていて、いわゆるフランス式庭園に近いデザインだった。
その分中庭は自然豊かで、大きめの池やそれにかかるレンガ造りの橋、なだらかなラインを描く丘に、葉を繁らせる木々と、いわゆる自然を生かすイギリス式庭園の様相を呈していた。
もちろんほかにも貴族学校のお約束、バラ園だとか温室だとか、噴水付きの花畑なんかもある。
中庭もふくめたそれらのなかには、やはり乙女チックなデザインの、半球状の屋根を持つガゼボが点在しているのもお約束だろう。
この学校に通うご令嬢たちが、そこでお茶会を開くのもゲーム内でのお約束だったからな!
こうして見てると、なんだか巨大な植物園だとかテーマパークにいるみたいで、それだけでもふつうに楽しくなってくる。
あー、なによりそれがリアル『星華の刻』の世界ってだけで、心おどるな!
何時間でも見ていられるかもしれない、なんて思っていたら。
「おや、こんなところにいたんですね?教室にはいないようだったので、探しましたよ」
ふいに背後からかけられた声は、とてもなじみのある、艶のある声だった。
「ブレイン殿下……?」
ふりかえった先には、今の俺とおなじ服装をしたブレイン殿下が立っていた。
少し袖が余りがちな俺とくらべると、やっぱり本人にあわせて仕立てられただけに、きれいな着こなしだ。
クソ、やっぱり何度見てもカッコいいな!?
「なにを見ていたんです?」
そして俺の横まで歩いてくると、いっしょになって中庭をながめる。
「これといってなにもない、ですよね……?」
ふしぎそうに首をかしげる姿に、俺は苦笑をかえす。
「そりゃ、ぼんやりと庭を見ながら『いい風だな』って思ってただけですからね」
会社にカンヅメでシナリオ書いてた身からすると、こういう緑は目に染みるんだよ。
というか、めちゃくちゃ癒される。
「ふぅん、そんなものですか。それより……気のせいか、ずいぶんと制服の着方が乱れているようなんですけれども。まさか脱がされたりなんて、していないですよね?」
さりげなく横に立つとこちらの腰にエスコートをするように手を添えてくるブレイン殿下がグッと顔を近づけてのぞきこんできた。
ヒェ、近い近い!!
つーか、至近距離からのイケメンとか、めっちゃ顔圧高いから!
うぅ、まぶしい!
「いや、あの、今日うちの学年は体育の授業がありまして……」
「知ってるよ、キミが授業を見学していたことも、ボールにあたって保健室にかつぎ込まれたこともね」
だけどあっさりと、俺のセリフをさえぎってその先まわりをする。
知ってるなら、聞くなよな?!
こちとら、ボンヤリしてたせいで顔面ボールキャッチをしたとか、しかもそれでぶっ倒れたとか知られるの、もうスゲーはずかしいんだからな!?
「そうだね、その保健室で───そんな制服が乱れるようなことをセラーノとしてたのかな?」
「え?いや、特になにもないですけど……」
気のせいか、その薔薇色の瞳が剣呑な光を帯びたように見えた。
その光に気圧されたように後ずされば、腰にまわした手で引き寄せられ、退路をふさぐように壁とのあいだに閉じ込められる。
うわ、もう片方の手は壁についてるとか、これっていわゆる『壁ドン』じゃん?
「……だれかさんのせいで寝不足だったんで、少し昼寝をしてきたのと、お茶を出されて飲んできたくらいですから」
「それで、なにを話してきたんだい?」
俺のこたえを信用していないのか、さらに質問が重ねられる。
相手は笑顔のはずなのに、なぜだか背すじがひんやりする。
なんか知らないけど、怒ってないか??
今の短いやりとりのなかに、怒らせるような要素なんてあったっけ?
「昨日のこと、お詫びされてただけです。ブレイン殿下のことも、止められなくてゴメンって……」
「そのお詫びをするのに、なぜキミが制服を脱ぐ必要があったんだろうね?」
なかば食い気味に問いかけてくるブレイン殿下は、まぎれもなく不機嫌になっていた。
ん?あれっ??
これはひょっとして、なんかセラーノとの仲を誤解されてたりするのか?
いや、でもそれじゃまるでブレイン殿下が嫉妬でもしてるみたいじゃん!
───それともあれか、実はブレイン殿下も改変の影響を受けていたりするのか?
この世界を侵食した腐女子さんは、てっきりパレルモ総受け一択なんだと思ってたけど、実はブレラノもお好みだったんだろうか!?
なんて思っていたら。
「キミが話してくれないなら、からだに直接聞くしかないかな?」
ニィッと凶悪な笑みを浮かべたブレイン殿下が、俺のネクタイへと手をかけた。
「え?ちょっと待って!?」
シュルリと引き抜かれ、シャツのボタンへと手がかかり、あっという間にはずされていく。
はあぁぁ!!?
なんなんだよ、その同人的腐向け展開は?!
突如として降りかかってきた災難に、思わず心のなかで改変者にたいする愚痴が爆発しそうだった。
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