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マツヲ。

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59:理不尽への対抗には、真っ当な改善策で

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 別に移動先の寮の部屋が今現在汚い部屋だとしても、掃除をすればいいだけだし、むしろ同居人がいなくなるのは問題ない。
 問題があるとすれば、ベルに割り当てられる予定だった部屋は、男爵家や騎士爵家向けのひとり部屋のせいで、付き人用の部屋が相当狭いことくらいだ。

 今の部屋は公爵家や侯爵家用の広い部屋で、それの随伴者もふくめてかんがえられているから、付き人用の部屋も広かった。
 原作パレルモ同様、テイラーもわりと実家の裕福さにかまけて付き人の数は多かったので助かっていたけど。
 場合によっては、これを機に人を減らさないといけないかもしれないな。

 ───うん、大丈夫、俺は別に自分のことくらいひとりでできるし。
 これくらいの理不尽なら、きっと問題なく耐えられる。

 それに、どうせパレルモ様の同室となるベルは男の格好をしてはいるけど、結局のところ女子だしな。
 のちに『星華せいか乙女おとめ』となるヒロインとなら、仮にがあったところで問題あるまい。

 だって本来、パレルモ様はヒロインからすれば攻略対象のキャラクターなんだし。
 むしろなかなか結ばれずにアレコレ非合法な策に手を出そうとする原作パレルモを思えば、楽して結ばれてくれれば、それはそれで平和なんじゃないか?

 まぁ、それはさておき。
 幸いにしてこの件は担任の教師も見ている前でやりとりだったこともあり、急きょ荷物をまとめて移動の準備をしてもいいと、その日の授業は免除されていた。
 たとえ寮のなかだけだとしても、引っ越し作業は相当手間だからな。

 まぁ、どちらかと言えば『パレルモくんの迷惑にならないようにしっかりと準備して、早々に出ていくんだぞ!』なんて言われたことをかんがみるに、彼もまたことなんだろうけど。

 つーか担任教師、おまえもか!
 仮にもこの貴族学校で教師を務めるくらいなんだから、魔法耐性だのなんだのと数値が高くてもおかしくないのに、見事に魅了の魔法にかかってやがる。

 あーあ、やってらんねー!
 もうあきれていいのか、怒っていいのかわからないけど、とりあえず胃が痛いのだけはまちがいなかった。
 前にもちょっと思ったけど、これも侵食者による改変の影響なんだよな……?

 つまるところクラスメイトからの『男爵子息のベルにまでやさしくするパレルモ様こそ、おやさしい!』という賞賛をさせるためだけに作られた、ねつ造エピソードだ。
 それのために犠牲にされたのが、テイラーということなんだろう。

 ふつうにかんがえたら、そりゃあもう、理不尽きわまりない。
 パレルモ様の持つ公爵家の力で、ベルのために汚い部屋をキレイにする手配をしてあげるというなら、そりゃ手放しで褒めていいと思うけども。

 今回は俺を追い出して、同室にまねき入れてるだけだもんなぁ……。
 しかもこの場合の俺へのフォローは、まったくなし。
 それならそれで、俺は自分のできることをするまでだけどな?

 だから移動が決まって、いちばんはじめに関係各所から、部屋のクリーニングとあわせて改造に関しても、書面で申請して許可をもらってある。
 さすがにその際に、俺の実家のダグラス伯爵家の名は強くて、男爵家用のひとり部屋ではなく、ちゃんとした広めの伯爵家用ふたり部屋を割り当ててもらえたのは助かった。

 こちらに非はないにもかかわらず理不尽に追い出されたからには、それ以上の理不尽をゆるさないためにも、こっちはとにかく真っ当な手段での改善策、存分にやらせてもらおうじゃないか!

 そうして、実家のダグラス家経営の『なんでもそろう』という例の商会の力をフル活用して、今の魔改造タイムへと突入していた。
 まずやったのは、商会を通じた清掃業のプロの派遣依頼と、部屋に据え付けされている家具類の修繕手配、そしてカスタマイズ可能な備品類の手配だった。

 はじめは部屋を移ることになったと聞いた俺の付き人たちは皆、不安そうな顔をしていたけれど、その横でどんどん魔道具をつかって実家に連絡を入れて、商会に手配を依頼する俺に安心したんだろう。
 すぐに荷物をまとめる準備に取りかかってくれた。

 そんなわけで今の俺は、カスタマイズ中の移動先の元ホコリだらけの汚い部屋あらため、掃除されキレイになった部屋のなかでお茶を飲みながら楽々と、引っ越し準備がととのっていくのを見守っているだけでよかった。

「テイラーぼっちゃん、申しわけねぇけど、夜どおしの作業しても明日の朝までかかっちまいそうだぁ!」
「ちなみに付き人用の部屋のほうは?」
 そのなかでも、修繕だの内装だのを担当する大工のカシラから怯えたようにあやまられ、逆に問いかえす。

「あぁ、そっちは元々据え付けの家具も少ねぇし、軽いメンテナンスでこと足りたから、もうまもなくできらぁ!問題はぼっちゃんの部屋よ。少しでも快適にすごしてもらいてぇからよぉ!どうしても間に合いそうにねぇんだ」
 たぶん前のテイラーだったら、ふざけるなとあたり散らしてたんだろうなぁ……。

「なら、かまわないです。俺ひとりなら、一晩くらいどうとでもなるので」
 笑顔で許可したところで、わかりやすくホッと息をつかれた。

「事故防止のためにも、ちゃんと休憩取りながら作業してくださいね?そのほうが、逆に効率落とさずにできますから」
「おうよ!さすがはぼっちゃん、わかっていらっしゃる!」
「それから夕飯は、あとでこちらに届けさせますから、なにかリクエストあります?」
「おぅ、悪りぃな!うめぇもんなら、なんでも歓迎だ!」

 そんなやりとりをしたところで部屋を出ると、そっと小さく息をつく。
 大丈夫、今のところは、ほかの理不尽なできごとは追加で襲いかかってきていない。

 てっきりブレイン殿下の件で侵食者からの恨みを買ってしまっているだろうから、俺にたいする怒とうの嫌がらせラッシュでもくるのかと警戒していたけれど、どうやら平気だったようだ。
 侵食者によるシナリオ改変で、ベルの肩代わりとしてこのボロい部屋への移動が決まったけど、どうやら向こうの持つ権能の力で改変されたのは、そこまでらしい。

 ホッとしたところで、小腹が空いているのに気がついた。
 ……そっか、朝からずっと引っ越し準備の手配でバタバタしてて、お茶は飲んだけれど、お昼ごはんは食べそこねてたっけ。
 うーん、寮の夕飯にはまだ早いし、一度校内にもどってカフェテリアでも行くか。

 フーッと長い息をつくと、ひとつ伸びをして、寮から校舎に向けてのんびりと移動をはじめたのだった。
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