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88:改変された世界への抵抗を開始する日
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ブレイン殿下は、アルカイックスマイルを浮かべたまま、付き人さんの手により仕上げられた俺を見下ろしてくる。
いや、本当に見ているだけで照れそうになるから、人を好きになるって恐ろしい。
……というより、美形怖い、なのか……?
「シャツを私のサイズにしてしまうと、首もとがゆるんで、キミの色気が駄々もれになってしまうからね。余計な虫が寄ってきてしまうし、キスマークもつける場所を気にしないといけないし」
早くも、聞いたことを後悔しそうなことを言われている気がする。
───そうだ、この人、わりとオープンスケベなタイプだった……!!
じゃなきゃ、昨日の国王様や王妃様も同席するような夕食会の場で、堂々とご兄弟での猥談なんてしないよな?
「でも、ふだんのカーディガンを着ているキミも変にボディラインが出ない分、清楚でかわいいし、それに袖が長い分には袖口に手が隠れ気味になるから、キミのかわいらしさを存分に引き出してくれるし、実にイイと思う!」
「…………………」
あー、いわゆる『萌え袖』ってヤツな?
それで上はベストじゃなくてカーディガンにしたと。
若干ブレイン殿下を見る目が、冷たい視線になってしまったような気がするけれど、それも仕方ないだろ。
こんなふうに堂々と男の欲望全開にしてくるとか、なにかんがえてんだか!?
「それで、そのピアスはあらためて周囲への牽制をね、しとこうかと思って。『キミは私のモノだ』ってことを」
だから、ピアスは外に出るときは必ずつけるようにと耳もとにささやくついでに、かすめるようなキスをほっぺたに落としていく。
「っ!」
本当に、そういうところ、ズルいと思う。
たった今キスされたほっぺたに手を添えてうつむく俺は、きっとまた真っ赤な顔になっているんだろう。
まわりにはブレイン殿下の付き人さんたちがいっぱいいて、失礼がないように不躾な視線が飛んでくることはないけれど、少なくとも己の主人の動向にはだれよりも気を配っていると思う。
だからたぶん、今のキスにも気づかれている。
これだけ甘い雰囲気出しといて、偽装の恋人ですなんて、今さらだれも信じないだろうな……。
俺だって、できることなら偽装ではなく、大手をふって『本当のことです』って言えるようにしたいと思うからこそ、現状をどうにかしたいって思ったんだ。
この世界で生きるひとりの人間として、できるかぎりの人事を尽くそう。
───そう、心に決めた。
「まぁ、キミが紫を身につけたところで、だれにも文句は言わせないつもりだけどね?だってほら、昨晩の夕食会で布石は打ってきたからね」
にこにこと機嫌よさげに笑うブレイン殿下に、ほんの少しだけあたまが痛くなる。
「なにしろ、校長と理事長にはキミが私のかわいい恋人だと主張しておいたわけだし、トップをおさえておけば個別の教師への説明は省けるし、生徒なんて言わずもがなだ。勝手にウワサを広めてくれるだろうよ。ならばもう、校内への周知は済んだようなものだろう?」
なんだろう、これって『外堀を埋められている』気がするのは気のせいじゃないよな??
「まぁ、少しは信じてもらえるように、がんばります……」
だから俺は、そうこたえるしかなかった。
「ワガママ言っちゃって、すみません。俺が頼んだお仕事だったんで、どうしても進捗確認だけはしておきたくて……」
「かまわないよ、キミと少しでもいっしょにいられる時間が増えるなら、歓迎だ」
まわりには、チラホラと人影があるからなのか、ブレイン殿下はゲロ甘モードのスイッチが入ったままだった。
学校へ行く前に、自分の部屋の改装が完了したか様子を確認しに行きたいと言った俺につきあって、ブレイン殿下もいっしょに来てくれている。
おかげでいるハズのない王子様が一般貴族フロアにあらわれたと、朝から寮内のザワめきがとんでもないことになっていた。
一応ノックをしてからドアをあけてなかをのぞきこめば、そこは思ってた以上にキレイに仕上げられていた。
というより、本邸の自室と遜色ない気がするのは気のせいだろうか?
だって、昨日俺が見たのは、ボロっちい漆喰の壁と古めかしいランプと燭台しかなくて薄暗く、なかば朽ちた木の床や木製家具の置かれた部屋だったけど……。
目の前の部屋は、まるでちがうものになっている。
天井からは、華美ではないけれど、うまく光の反射を利用して室内を明るく照らし出す最新式のシャンデリアがぶら下がり、ボロかったハズの漆喰の壁は、白地に植物柄の描かれた壁紙を上から貼って巧妙に隠されていた。
壁がくずれかけていた箇所は主に下のほうだったから、木の板を並べてツートンデザインにし、これで補強と目隠しを兼ねているんだろう。
据え付けの家具類は一度木材の表面をみがいてツヤを出し、取っ手や飾り枠なんかは新しいものにつけ替えられている。
ベッドや窓枠なんかにしても、おなじだ。
木のフレームを生かしつつ、さりげない飾り枠を追加して補強している。
一応全部、ボロくなってた箇所の補強のためであって、ただ派手にしたわけじゃないといいわけが立つ範囲におさめてくれたのは、正直助かった。
というか、全部すごくセンスがいい。
改装後のベッドを見れば、マットレスの上にはパリッとしたシーツが敷かれ、ふかふかの布団がかけられている。
そのカバーだとか、壁紙だとか家具だとかにところどころ使われているのは、家紋のカラーのモスグリーンで、それが白地にほどよいアクセントを加えている。
みがきあげられた家具や床の木材は、経年変化で色味の落ちついてきたオークみたいで、軽く飴色に近い。
それらが合わさると、なんとも清潔感はありつつも、落ちついた雰囲気となる。
今回派遣をお願いした、うちの実家経営の商会所属の大工さんたちは、たしかないい仕事をしてくれたようだ。
こりゃチップも弾まないとな。
そんな成果に、うれしくなってくる。
心なしか、となりに立つブレイン殿下も楽しげに室内を見まわしている。
どうやらお眼鏡にかなったらしい。
いい部屋だね、とつぶやいていた。
そのセリフに、俺はますますうれしくなってくる。
だってこれはまちがいなく俺にとっての朗報で、改変への抵抗が成功した勝利の証にちがいなかったから。
よし、今のところはまだ後手にまわってはいるけれど、改変された事象にも、この世界の住人がとり得る手段でもあらがえるってことが証明されたんだ……!
それは俺にとっては、希望の光でもあった。
いや、本当に見ているだけで照れそうになるから、人を好きになるって恐ろしい。
……というより、美形怖い、なのか……?
「シャツを私のサイズにしてしまうと、首もとがゆるんで、キミの色気が駄々もれになってしまうからね。余計な虫が寄ってきてしまうし、キスマークもつける場所を気にしないといけないし」
早くも、聞いたことを後悔しそうなことを言われている気がする。
───そうだ、この人、わりとオープンスケベなタイプだった……!!
じゃなきゃ、昨日の国王様や王妃様も同席するような夕食会の場で、堂々とご兄弟での猥談なんてしないよな?
「でも、ふだんのカーディガンを着ているキミも変にボディラインが出ない分、清楚でかわいいし、それに袖が長い分には袖口に手が隠れ気味になるから、キミのかわいらしさを存分に引き出してくれるし、実にイイと思う!」
「…………………」
あー、いわゆる『萌え袖』ってヤツな?
それで上はベストじゃなくてカーディガンにしたと。
若干ブレイン殿下を見る目が、冷たい視線になってしまったような気がするけれど、それも仕方ないだろ。
こんなふうに堂々と男の欲望全開にしてくるとか、なにかんがえてんだか!?
「それで、そのピアスはあらためて周囲への牽制をね、しとこうかと思って。『キミは私のモノだ』ってことを」
だから、ピアスは外に出るときは必ずつけるようにと耳もとにささやくついでに、かすめるようなキスをほっぺたに落としていく。
「っ!」
本当に、そういうところ、ズルいと思う。
たった今キスされたほっぺたに手を添えてうつむく俺は、きっとまた真っ赤な顔になっているんだろう。
まわりにはブレイン殿下の付き人さんたちがいっぱいいて、失礼がないように不躾な視線が飛んでくることはないけれど、少なくとも己の主人の動向にはだれよりも気を配っていると思う。
だからたぶん、今のキスにも気づかれている。
これだけ甘い雰囲気出しといて、偽装の恋人ですなんて、今さらだれも信じないだろうな……。
俺だって、できることなら偽装ではなく、大手をふって『本当のことです』って言えるようにしたいと思うからこそ、現状をどうにかしたいって思ったんだ。
この世界で生きるひとりの人間として、できるかぎりの人事を尽くそう。
───そう、心に決めた。
「まぁ、キミが紫を身につけたところで、だれにも文句は言わせないつもりだけどね?だってほら、昨晩の夕食会で布石は打ってきたからね」
にこにこと機嫌よさげに笑うブレイン殿下に、ほんの少しだけあたまが痛くなる。
「なにしろ、校長と理事長にはキミが私のかわいい恋人だと主張しておいたわけだし、トップをおさえておけば個別の教師への説明は省けるし、生徒なんて言わずもがなだ。勝手にウワサを広めてくれるだろうよ。ならばもう、校内への周知は済んだようなものだろう?」
なんだろう、これって『外堀を埋められている』気がするのは気のせいじゃないよな??
「まぁ、少しは信じてもらえるように、がんばります……」
だから俺は、そうこたえるしかなかった。
「ワガママ言っちゃって、すみません。俺が頼んだお仕事だったんで、どうしても進捗確認だけはしておきたくて……」
「かまわないよ、キミと少しでもいっしょにいられる時間が増えるなら、歓迎だ」
まわりには、チラホラと人影があるからなのか、ブレイン殿下はゲロ甘モードのスイッチが入ったままだった。
学校へ行く前に、自分の部屋の改装が完了したか様子を確認しに行きたいと言った俺につきあって、ブレイン殿下もいっしょに来てくれている。
おかげでいるハズのない王子様が一般貴族フロアにあらわれたと、朝から寮内のザワめきがとんでもないことになっていた。
一応ノックをしてからドアをあけてなかをのぞきこめば、そこは思ってた以上にキレイに仕上げられていた。
というより、本邸の自室と遜色ない気がするのは気のせいだろうか?
だって、昨日俺が見たのは、ボロっちい漆喰の壁と古めかしいランプと燭台しかなくて薄暗く、なかば朽ちた木の床や木製家具の置かれた部屋だったけど……。
目の前の部屋は、まるでちがうものになっている。
天井からは、華美ではないけれど、うまく光の反射を利用して室内を明るく照らし出す最新式のシャンデリアがぶら下がり、ボロかったハズの漆喰の壁は、白地に植物柄の描かれた壁紙を上から貼って巧妙に隠されていた。
壁がくずれかけていた箇所は主に下のほうだったから、木の板を並べてツートンデザインにし、これで補強と目隠しを兼ねているんだろう。
据え付けの家具類は一度木材の表面をみがいてツヤを出し、取っ手や飾り枠なんかは新しいものにつけ替えられている。
ベッドや窓枠なんかにしても、おなじだ。
木のフレームを生かしつつ、さりげない飾り枠を追加して補強している。
一応全部、ボロくなってた箇所の補強のためであって、ただ派手にしたわけじゃないといいわけが立つ範囲におさめてくれたのは、正直助かった。
というか、全部すごくセンスがいい。
改装後のベッドを見れば、マットレスの上にはパリッとしたシーツが敷かれ、ふかふかの布団がかけられている。
そのカバーだとか、壁紙だとか家具だとかにところどころ使われているのは、家紋のカラーのモスグリーンで、それが白地にほどよいアクセントを加えている。
みがきあげられた家具や床の木材は、経年変化で色味の落ちついてきたオークみたいで、軽く飴色に近い。
それらが合わさると、なんとも清潔感はありつつも、落ちついた雰囲気となる。
今回派遣をお願いした、うちの実家経営の商会所属の大工さんたちは、たしかないい仕事をしてくれたようだ。
こりゃチップも弾まないとな。
そんな成果に、うれしくなってくる。
心なしか、となりに立つブレイン殿下も楽しげに室内を見まわしている。
どうやらお眼鏡にかなったらしい。
いい部屋だね、とつぶやいていた。
そのセリフに、俺はますますうれしくなってくる。
だってこれはまちがいなく俺にとっての朗報で、改変への抵抗が成功した勝利の証にちがいなかったから。
よし、今のところはまだ後手にまわってはいるけれど、改変された事象にも、この世界の住人がとり得る手段でもあらがえるってことが証明されたんだ……!
それは俺にとっては、希望の光でもあった。
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