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108:徐々に広がるよろこびの輪

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 ようやく俺にかけられた嫌疑が晴れた、その事実が、じわじわと染みてくる。
 それは、ただ身の潔白が証明されたというだけではなかった。

 だってこれは、この世界に侵食して『物語創作者シナリオライター』の権限を奪ったヤツによって故意に仕掛けられた冤罪劇だったんだから。
 それを権能の力に一切頼ることなく、この世界の住人がとり得る手段でもって、正面から打ち破れたということでもあった。

 この1勝は大きい。
 これで相手の権能の力の限界が、己の推測どおりだったということが証明されたようなものだ。
 それはなにかと言えば───。

 ひとつ、シナリオ改変の力で、ゲーム本編にはないイベントを起こすことができる。
 ひとつ、そのイベントの登場人物や展開までは決められる。

 そして、もうひとつ。
 これがいちばん重要なことだけど───そのイベントの結末までは、決めることができない。
 これって現に生きている人の気持ちを、いきなり上書きしたりするほどの能力はないってことだろ?

 なんてかんがえていたら。

「やったな、テイラー!」
「アイツら相手に、全然負けてないんだもんな、スゲーかっこよかったぜ!」
「ありがとう!」
 証人席にいたセブンとカイエンがそばに走り寄ってきて、両手でハイタッチを交わす。

「オレ、ろくに証言できなかったけど、テイラーが潔白だって証明されて、ホントよかったよ」
 そのいきおいのままに、ガシッと肩を組まれながら、笑顔のカイエンに言われた。

「いやいや、居てくれるだけでも十分心強かったよ」
 てっきりカイエンは、パレルモ様のほうにつくものだとばっかり思ってたから。
 だからこそ、こちら側の席にかけて、なにかあったら俺のために証言しようとしてくれたってこと自体が、ものすごくありがたかった。

「あぁ、あんたはすごいがんばってた、えらいぞ」
「うん、ありがとセブン」
 そう言って、少し照れ気味に俺のあたまをなでてくるセブンがかわいい。

 すっかり最初に俺があたまをなでてしまってから、褒めるときやなぐさめるときは、これになったんだよな。
 ……ちょっと、うちの子すなおすぎないか?!
 ヤバい、かわいすぎるだろ、これっ!!

「なぁなぁセブン、オレはオレは?」
「………大したことはしてないだろ、あんた。それよりテイラーから離れろ」
 じゃれついてくるアホワンコを、ピシピシとはじきながら適当にあしらうセブン。

 あれ……?
 これって、もとの世のなかの腐女子さん垂涎な、生身の『カイエン×セブン』というヤツでは?
 セブン関連じゃ、そこのカップリングがいちばん人気だったもんな。

 まぁ、仕方ない。
 なんたってうちの子は、ツンデレさんでかわいい子だからな!
 ……なんて、親バカ全開にしていたら。

「ちぇー、セブンってばノリが悪いな~」
「うるさい、いいから離れろってば」
 セブンの少し幼さをのこしたほっぺたをつつきながらくちびるをとがらせるカイエンの腕を取ると、セブンが物理的に俺とカイエンを引きはがしにかかってきた。

 こういうとき、セブンの力の強さを実感する。
 俺よりも小柄なのに、たぶん俺ではどうしようもないカイエンの腕を、軽々とはずしてるんだもんな?

「……まったく、弱そうに見えて意外と芯は強いんだな、ダグラスは」
 ふたりには乗り遅れたものの、ゆっくりとこちらに歩いてやってきたリオン殿下からも声をかけられた。

「リオン殿下も、このたびは大変お世話になりました。どうもありがとうございます」
 ふたりに巻き込まれるようにして、もみくちゃにされながらも深々とあたまを下げれば、微妙な顔がかえってくる。

 あれ……なんか、かえし方シクッたかな?
 そう思ったとき、ふとリオン殿下の手がモゾモゾとあげようとしてはおろしているような、そんな動きをしているのに気づいた。
 なるほど、そういうことか。

「あの……ご無礼でなければ、リオン殿下ともハイタッチで勝利を祝いたいんですけれど、いかがですか?」
「っ!いいのか!?」
 さりげなく水を向ければ、リオン殿下はパァッと音がしそうなほどにうれしそうな顔になる。

「はい、お願いします」
 なんだかこうして見ると、年相応というよりも幼い感じがして、弟を見守るようなほほえましい気持ちになるな……。
 かすかにほほえみを浮かべてお願いすれば、ハッとしたように相手は顔を引きしめていた。

「やったな、ダグラス!」
「はい、リオン殿下!」
 パシッ
 軽く音を立てて、片手を打ち合わせる。

 あらためてしたそれは、どこか気はずかしくて、むずむずする。
 今はまだ、おたがいの距離感をうまくつかめていない感じとか、なんていうか、『青春』してんなぁ……って。

 だって、リオン殿下とは長らく冷戦状態にあったからな、俺。
 それが魅了の魔法が解けてフラットになって、そしてなぜだか好感度があがって、こうして積極的に味方をしてくれるようになるなんて、数日前まではかんがえもつかないことだった。

 ───でも、それも悪くない。
 今日のことは、きっと大人になってあとから思いかえしたときに、キラキラとかがやいている、かけがいのない思い出になるんだろうって思うから。
 なんたって、学生時代っていうのは、そういう特別な期間だもんな!?

 充足感とともに、押し寄せてくる感動にうちふるえていた、そのときだった。
 例によって、最初に気づいたのはセブンだったけど。

「あ、紫殿下……」
「えっ、ブレイン殿下?」
 セブンのつぶやきに、首の向きをあわせて見れば、立会人席を飛び出して、ちょうどこちらにブレイン殿下が駆け寄ってくる姿が目に入った。

 それに気づいたセブンたちが、俺のまわりから離れた次の瞬間。
「っ!」
 ガバッと両手を広げて抱きつかれた。
 ぐぇ、ちょっと待って、若干力が強いです……!

「ちょっとブレイン殿下、力強すぎ───」
「私に相談もなく、なんて無茶をするんだ、キミは!」
 苦情を口にしようとしたところに、さらにキツく抱きしめられる。

「あの、苦しいですってば……って、え……っ?」
 いまだに尾を引く、勝訴に浮かれるフワフワした気持ちのままにあらためて苦情を口にしたところで、ブレイン殿下がふるえているのに気づいた。
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