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マツヲ。

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111:無事決着……とはいかないもので

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「なにを言ってるんだ、おまえは?テイラーを断罪するシナリオだと?」
 リオン殿下が、不信感もあらわにたずねかえす。
 そりゃ、今みたいに叫ばれたら、気になるよな?

「……ってことは、あんたの知り合いがテイラーをハメようとした犯人ってことなのか?だれなんだ、そいつは!?」
 セブンも微妙に殺気立ちながら、一歩前に出る。
 どうしよう、あまりメタ発言をされるのは、いただけない。

 ブレイン殿下にしたって、口には出さないけれど、あきらかにベルにたいして警戒を強めているみたいだし。
 たぶん、聞き耳をしっかり立てているところを見るに、ベルがうかつな発言をしたら、こちらにまで飛び火してきそうで怖いな……。

「こたえろ、ベル・パプリカ!」
「そうだ、あんたには説明する義務がある!」
 リオン殿下につづいて、セブンまでもが声を荒らげてたたみかける。

「うるさい、うるさい、うるさいっ!!あなたたちはただ、パレくんを愛でていればよかったのに!!」
 でもそれは、残念なことに、ベルの心には届かなかったらしい。

 ……たぶんそれは、俺が改変を正しはじめる前の世界なら、ありえないことではなかったのかもしれないけれど。

「テイラーなんてパレくんの『影』のクセに!影が光かがやく天使ちゃん本人より目立つなんて、まちがってんだよ!自分がただの悪役モブだって、わきまえろよな?!」
 そして今度は、ベルは怒りをまっすぐに俺に向けてきた。

「……先ほど忠告したにもかかわらず、まだキミは私のかわいい恋人を侮辱する気かい?」
 その瞬間、俺の肩にまわされた手にグッと力が入り、ベルからの視線をさえぎるように、ブレイン殿下のからだの影に隠される。

「はぁ?テイラーなんて見るからに悪役モブ顔してるし、姑息で小心者の卑怯なヤツじゃん!黙ってパレくんの代わりに断罪されて、消えていればよかったんだ!パレくんの身代わりになったって、本望だろ?!」
 それはゲームのリオンルートを中心に、悪辣のかぎりを尽くした原作パレルモの話だろうに。

「…………………」
 ぶちギレているベルを見るブレイン殿下は、目を細め、これ以上ないくらい冷たい視線を投げかけていた。

「───ベル・パプリカを退席させなさい」
 校長からの指示で、すぐに入り口付近から警備員が複数人駆け寄ってくる。
 そしてすばやくベルを押さえつけて、拘束する。

「離せ!たんなるモブが気やすく僕に触れるんじゃない!」
「うるさい、おとなしくしろ!」
 警備員はやすやすと取り押さえられているベルを見る周囲の目は、ひたすらに冷たかった。

 本当なら、俺もベルのもとへと駆け寄って、問いただしたいことがいっぱいある。
 おまえはいったい何者なのか、とか。
 だれが『物語創作者シナリオライター』の権能を奪ったヤツなのか、とか。
 でも、それらをこの場でたずねてはいけないような、そんな気がした。

「離せってば!僕は『星華せいか乙女おとめ』の力を持つヒロインだぞ!?そんなふうに雑にあつかわれていい存在じゃない!!」
「黙れ、おまえのようなヤツがその名を口にすることこそ、おこがましい!」
 恐るべき力で警備員の拘束をふりほどくと、両手をふりまわして威嚇するベルと、警備員たちとのつかみ合いがはじまる。

 いったいベルの小さなからだのどこに、そんな力があったのかと言いたくなるような抵抗だった。
 けれど警備員のひとりが、ふたりがかりでようやくつかまえたベルの首に警棒をあてたとたん、糸が切れたようベルはその場にくずれ落ちた。

「懲罰房へ」
「ハッ!」
 険しい顔をした校長から、なにやら物騒な気配のする指示を受け、警備員がベルをかついで退出していく。

「大丈夫だったかい?」
「は、はい……」
 先ほどまでの氷のように冷たい視線から一転して、こちらを気づかうようなやさしげ目にもどったブレイン殿下に、するりとほっぺたをなでられる。

 今のベルの態度は、本当のことを知らなければ、ショックのあまりに気が触れてしまったようにしか見えないけれど。
 でも俺にとっては、なによりも重要な証言をふくんだものだった。

 なにしろさっきのベルの口走ったセリフは、『僕はたしかに、テイラーを断罪するシナリオにしたって聞いた』だぞ!?
 人からそれを聞いたという伝聞系のその発言は、この世界に侵食し、『物語創作者シナリオライター』権限を奪ったヤツがほかにいるんだってことにほかならないと思う。

 ───つまり、犯人はこの場にいないクラスメイトってことになるわけだ!

 だって、もしこの場に彼……もしくは彼女がいたのだとしたら、きっとベルが劣勢になった時点で、即座にシナリオの改変を行っていたハズだから。
 でもいつものあの、機械で合成したみたいな声は、最後まで聞こえてこなかったから。

 てことは、この場にはいなかったってことになるハズだろ?
 それに、なんとなくでしかないけれど、その犯人もきっと、パレルモ様の魅了の魔法の影響を受けていないような気もするし。

 そんなふうにモヤモヤとかんがえごとをしていたからだろうか、ブレイン殿下がじっとこちらを見つめているのに、なかなか気がつかなかった。

「顔色は、問題なさそうだね」
「えっ?あ、あぁ、はい、ご心配ありがとうございます」
「それはよかった、心配していたからね。キミはこのところ、よくふさぎ込んでいるようにも見えたから……」

 指先でこちらの前髪を梳きながら、耳にかけてくるブレイン殿下は、少し寂しそうな笑みを浮かべる。
 うっ、この顔をされると弱いんだよな……。

「あの、本当に大丈夫なのでっ!」
「……本当に?」
「はい、本当です!」
 首をかしげながらたずねてくるのに、いきおいよく首をたてにふってうなずきかえした。

「───そうか、それはよかった。ならには、ちょっとくわしく話を聞かなければならないと思っていたんだよね」
「え……?」
 にっこりと笑いかけてくるブレイン殿下からは、なんとも言えない圧がにじみ出る。

 これ、なんか絶対ヤバいヤツだろーーっ!?
 なんか、この笑顔、むしろめちゃくちゃ怒ってるよな??
 けれど腰が引けそうになったところで、ひょい、と肩にかつがれる。

「うわっ!」
「えっ、ちょ……っ!?」
「さぁて、それじゃあいっしょに帰ろうか?」
 俺を肩にかついだままブレイン殿下は、リオン殿下の腕をつかむと、歩き出した。

「あ、兄上!?なにを……っ?!」
「うん?くわしいことは、私の部屋で話そうね」
 それは有無を言わせないだけの圧力のにじむセリフだった。
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