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マツヲ。

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184:この世界が俺にデレてきた

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 とたんに教室内は、パレルモ様に向かってあいさつをする声でさわがしさを増す。
 俺も例外ではなく、リオン殿下にひとこと断りを入れて、カイエンにかかえられたままのパレルモ様のもとへと走り寄っていく。
 その後ろには、さりげなくセブンもつづいていた。

「パレルモ様!!」
「よっ、テイラーもおはようさん!パレっちはオレが連れてきてやったぜ!!」
 俺の声に反応して、カイエンが笑顔のままにあいさつをかえしてきて、そしてそんな彼にかかえられたままのパレルモ様がこちらを向く。

「おはよう、テイラー!」
 ずいぶんと久しぶりに、パレルモ様のお顔を見たような気がする。
 しかもそれは、満面の笑みでいろどられている。

「おはようございます、パレルモ様。今朝もおむかえにあがれず、申し訳ありませんでした!」
 そして、いきおいよくあたまを下げる。

 まずはお詫びから、きちんと伝えないと。
 こちらにもそれなりに事情があったにせよ、俺にとっての義務であるパレルモ様のお世話が、このところ不十分になってしまっていたのは事実なんだし。

「うぅん、別にいいよ!今日はカイエンくんがお部屋までむかえに来てくれたんだもん!」
 本来の貴族の様式とはことなるにせよ、俺の謝罪はこころよく受け入れられた。
 そのことにホッとしてしまう。

 そうして、ゆっくりとあたまをあげれば、カイエンにおろしてもらったパレルモ様はすぐにほかのクラスメイトたちによって取り囲まれ、朝のあいさつを受けお手ふりタイムへと突入していた。
 やっぱりその横顔には、実に楽しそうな笑みが浮かんでいる。

 俺の記憶にある最後に見たパレルモ様の姿は、査問会で俺が無罪を勝ち取ったときのあの寂しげな姿だったから、よけいにそれが心に沁みた。
 俺の力だけじゃ、こうはできなかったハズ……!!

「あぁ、ありがとう、カイエン……っ!」
 なんだろうな、胸がいっぱいになるというか、うれしさがこみあげてきて鼻の奥がツンとなる。

「ちょっ?!泣くなって、テイラー!?」
「泣いてないし!」
 そうは言いつつも、視界がにじんでいるのが自分でもわかった。

 そんな俺のあたまに、そっとカイエンの大きな手がのせられる。
「頼むから、泣くなよ~!オレにできることをかんがえたら、これしかなかったからさぁ」
「悪い、心配かけて……」
 涙声になるこちらをなだめるように、ぎこちない手つきでなでられた。

 うん、甘やかされてんなぁ、俺。
 本来ならテイラーなんて、ゲームの本編にはほとんど背景同然の存在感でしか登場しない当て馬系悪役モブにすぎないのに、こんなふうにだれかに気をかけてもらえるなんて、思ってもみなかった……。
 なんというか、妙にこそばゆい。

 なにしろカイエンは、元々のキャラクター設定からして朝が苦手で、自身の付き人に起こされようともどうしても起きられなくて、遅刻ギリギリの駆け込みになることのほうが多いというのにさ。
 それが今朝はきちんと起きて、わざわざパレルモ様をむかえに行って、登校させてくれたんだ。

 今カイエンが言った『オレにできることをかんがえたら、これしかなかった』って───これって、俺のためにできることをかんがえてくれたんだって、うぬぼれてもいいんだよな……?

 だって、いくらカイエンがこれまでパレルモ様とは良好な関係だったとしても、今まで一度も部屋までむかえに行くなんてことはなかったし、 もちろん原作のシナリオにだってヒロイン相手ですらしたことがないことだった。
 それは相手がどうのというより、カイエンのスタンスによるものだ。

 カイエンと言えばファンからは髪色にかこつけた『赤ワンコ』から転じて『バカワンコ』なんて呼ばれるくらい、人懐っこいキャラクターではある。
 だれとでも親しく接することができる代わりに、その実、一線を引いていて、プライベートの時間だとかにだれかが侵食してくることをひどく嫌う。

 だから朝の登校時間は、絶対に自分のペースで教室まで来られるギリギリの時間をねらうんだ。
 それこそ廊下でぶつかったなんてハプニングがあったからこそ、ヒロインをお姫さま抱っこして運ぶなんてイベントが、特別あつかいの第一歩になるわけだし。

 それをふまえてかんがえてみれば、いかに今朝のこれが特別なことかがわかる。
 苦手な朝に必死に起きて、始業時間に間に合うようにパレルモ様の部屋までむかえに行ってくれたこと。
 そしてなにより、その機嫌をとって連れ出してくれたこと、それがどれだけ俺にとって助かることだったか!

 仮に今朝、俺が部屋までむかえに行ったところで、パレルモ様をこうして教室まで無事に連れてくることなんてできなかっただろう。
 ましてこんな機嫌のよい状態にするなんて、どうやったってムリだ。

 でも、比較的元からパレルモ様と仲のよかったカイエンが、あるいは自分ならそれができるとわかったうえで、この役目を買って出てくれたのだとしたら。

 少なくとも今の俺にとって、パレルモ様と仲たがいをしているみたいな状況は命の危機的意味でもマズイわけで、必死にカイエンがそのフォローをしてくれたのは、本当に助かることだったんだ。

「ほら、カイエンも信頼できる仲間だろ?」
 そっと背中を支えるように手をまわすセブンにはげまされ、よけいにうれしくて涙腺がゆるみそうになる。

 そういえばセブンも、最初から今日はパレルモ様が登校するって言っていたっけ。
 ならこれは、皆で話し合って決めた役割分担だったのかもしれない。
 クソ、みんないい子たちすぎるだろ!!

「うん、そうだな……本当にありがとう!」
「あああ、ホラ、泣くなって!むしろうれしいなら笑ってくれよ?!」
「うん、うん……ありがとうカイエン……それにリオン殿下とセブンも」
「へへっ、どういたしまして」

 セブンによって背中をさすられ、袖口で適当にぬぐおうとした涙は、リオン殿下によって、そっとハンカチでぬぐわれる。
 不格好な泣き笑いの顔を向けた俺に、カイエンたちは最高の笑顔をかえしてくれた。

 あぁもうこの皆の笑顔、貴重すぎんだろ!
 だってもう、原作のゲームではこんなに豪華なスチルなんて、見たことないからな?!
 リオン殿下とセブンがおなじ画面にいることですらあり得ないし、ましてカイエンまでそこに加わるとか!

 いきなり世界がデレてきたとしか思えないこの状況に、俺はとまどいを隠しきれずにいた。
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