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*8.ふたたび仮面がはがれ落ちた件。*
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*今回の話はさほどそういう描写はないつもりですが、念のため、まだ最中なのでお気をつけください。
*問題ないという方だけ、スクロールしてどうぞ。
「私は君の存在を、学部や学年がちがえど大学にいたころから知っていたよ。でも君は私のことなど、まったく知らなかっただろう?」
うちの会社と取引をするようになって、はじめて鷲見社長の出身校を知ったくらいだ。
それについては、いいわけのしようもない。
「私ばかりが君のことを気にしてライバルと思っているのに、なのに君からはそう思われていないなんて……こんな滑稽な話があるか!?」
自分にとっての相手は常に先を行く存在なのに、相手にとっての自分はライバルとも認識されていないとしたら。
その虚しさと劣等感とは、心中を察してあまりあった。
もし立場が逆だったら、きっと自分だって鷲見社長のようにこじらせていたはずだ。
だって片想いにも似たその思いは、俺にもおぼえがある。
そうだ、夏希を特別に思っているのにそれが伝わらなくて、もどかしい思いを暴走させてしまう、白幡ルートのバッドエンドのときの自分自身だ。
実際にはきっとこの世界は白幡ルートのハッピーエンドで進行したことになっているから、起きなかったエピソードだけど。
でも、ほかでもない自分自身のことだから、そういう思考回路になるのは理解できた。
自分はこんなにも相手のことを想っているのに、どうして相手はその気持ちとおなじだけのものをかえしてくれない?
そんな思いは、相手に認められたい、ふり向かせたいという気持ちとなって爆発する。
もしそうなら、ある意味で鷲見社長は、もうひとりの俺だ。
ならばここで相手の激情を受け止めるのも、俺の役目なのかもしれない……。
その瞬間、たしかに俺は鷲見社長へと共感し、同情の念が芽生えはじめていた。
ゲームの世界に生きていた鷹矢凪冬也という人物は、これまでにさまざまな奇策を用いて、会社の規模の拡大を図ってきた。
そのなかには、勝つか負けるかわからない、ギャンブルとしか言いようのない策だってあったことだろう。
でもそれは、いくら勝てる見込みがあったとはいえ、現実の世界でとる策にしてはあまりにリスキーだった。
鷲見社長にはまねできないことであったと同時に、今の俺にもまた、決してまねできない策でもある。
───言うなれば、当時の俺が人としておかしかっただけで、その選択をできたことなんて、うらやましがっちゃいけないんだ。
なにしろこれまでの冬也にとっては、おそらく社員なんて会社を動かすための多数ある駒にすぎなかったし、個人とは認識せずに部署ごとに数値化したデータでしか見ていなかった。
なんなら会社の経営ですら、机上で立てた戦略のロールプレイ感覚でやっていただけだ。
そこで働く社員としては、たまったもんじゃないと思う。
それとは反対に鷲見社長は、ずっと社員のことをちゃんとした一個人だと、その存在を認めてあつかってきたはずだ。
彼がふだんどんな社長なのかは、俺がここへ来たときの社員たちのあの歓待ぶりでわかる。
だって会社をかたちづくる社員というのは、そのまま社長の鏡でもあるから。
あんなにあたたかい空気を作り出せる社員がたくさんいるなんて、それだけ鷲見社長が社員のことを思って心をくだいてきたからにちがいない。
残業が多い職場なのに、社員たちの顔色も悪くなく、なにより目が死んでいなかったのも、ポイントが高い。
もしおなじように、うちの会社にだれかを招いたとして、はたしておなじような歓迎ムードが出せるかといったら、きっと無理だろう。
もっとあっさりとしたものになるだろうし、ムダを嫌う風潮で、関係部署の社員しかあつまらなかったかもしれない。
そうだ、それってつまりは───。
「あなたには、人望がある……っ!血をわけた兄弟や、長年支えてきてくれたはずの秘書にすら愛想を尽かされ捨てられた俺では、決して持ち得ない人望が……」
思い出すだけで、胸がキリキリと締めつけられる。
「冬也、くん……?」
鷲見社長から、とまどうような声で問いかけられた。
でも、ぼろぼろとあふれ出す涙は、止めようがなかった。
「俺には、あんたみたいに『人柄が好きだから』なんて言って、利害関係なく助けてくれる相手はいない!」
「だがそんなもの、君の持つ強大なコネクションの前では意味がないだろう?!」
「そんなの、ビジネス上の付き合いだけだ!俺はあんたみたいに相手の気持ちを推し量れないし、自分の気持ちを伝えることすらうまくできないんだ……っ!」
おたがいに、一歩も主張をゆずらない。
特に技術力を見込んでうちの会社から取引をしたいと話をもちかけた相手には、我が社のネームバリューをもってしても、相手が職人気質だった場合、取引口座のあるイーグルスター社をかませなくては応じてもらえないことだってあった。
そんな相手は、皆こぞって『鷲見社長の人柄に惚れたからこそ』と口にする。
それでも前の俺なら、条件さえ満たせば取引に応じてもらえるならそれでいいと、理由なんて気にも留めてなかっただろう。
でも今の俺にとっては鷲見社長の持つ、その人との心からの信頼関係を築ける人望が、なによりもうらやましかった。
「政財界の偉いヤツらが俺に肩入れするのだって、見ていておもしろくて利益になるから、ただそれだけだ。もしこのままうちの会社が破綻したら、きっともう見向きもされない。ヤツらにとっての俺なんて、しょせんは見せもので、イロモノでしかないんだよ!」
気がつけば、すっかり口調が乱れていた。
年齢は鷲見社長のほうが、俺より2つほど年上だ。
だから一応、さっきまでは敬語を使っていたし、一人称だってふだんの『俺』ではなく『私』と言っていたのに、その仮面をかぶりつづけることもできなくなっている。
山下のときといい、すっかり俺は弱くなってしまった。
予定されたゲームのシナリオにあらがい、会社を、社員を守るためにどんな汚名をかぶろうとも、冷徹な社長をよそおいつづけようと決意したはずなのに!
「だから……人の気持ちがわかって、そこまで人から愛されるあんたが、俺にはうらやましくてしかたない……」
つぶやく声は、どんどんと弱々しげなものになっていく。
こんな弱い俺じゃ、なにも守ることなんてできないのに……。
でも、もし俺が鷲見社長のような性格だったら、夏希だってもっと笑顔にしてやれた。
あんな風に冷たい言い方をして泣かせることもなかっただろうし、俺から嫌われているなんて誤解をあたえることもなかったはずだ。
それを思うだけで、不器用すぎた自分が不甲斐なくて、涙はあとからこぼれてくる。
「~~~~っ!!」
そんな俺の姿を見た鷲見社長は、顔を真っ赤に染めて口もとを隠し、うつむきがちに黙り込む。
と、次の瞬間。
「っ!?」
思い切り抱きつかれ、キスをされていた。
それも何度も角度を変えてはまれ、派手なリップ音を立ててキスされる。
やがて顔をあげた鷲見社長は、なにかを決意したかのように精悍な顔つきをしていた。
そしていまだに入れられたままだったそれが、ゆっくりと引き抜かれる。
「ひぁぁ……ッ!」
それにあわせて背すじには甘い刺激が走り抜け、なかに出された白濁がゴプリとあふれ出す。
「───私はずっと、君にたいして劣等感を抱いてきた。どんな大物を前にしても怯えることなく、仕事ぶりもその結果も、なにもかもが完ぺきで付け入る隙すらない神のごとき君を前にすると、なんて自分は矮小なのだろうと落ち込んできた……」
身じたくをととのえながら、今度は鷲見社長からの独白がはじまる。
出た大学はおなじ一流とされる国立大だけど、鷲見社長は経済学部で、こちらは法学部。
もちろん世間一般では卒業の難易度も偏差値も、法学部のほうが高いと言われている。
とはいえ経営者としてならば、経済学部卒の鷲見社長のほうが優れていてもおかしくはない。
なのにいざ社会に出てみれば、『時代の寵児』ともてはやされ、どんな奇策を講じても必ず成功をおさめつづけていったのは、俺のほうだけだった。
似たような策を講じたところで、『しょせんは二番煎じだ』と言われるあげく、なぜか鷲見社長では失敗することだってあった。
そうなればマスコミは、ふだんはこれでもかとヨイショをして持ち上げてきたくせに、よろこんでその失敗をあげつらったことだろう。
そうしたことの積み重ねで、簡単に人の心はすり減っていく。
そんな話をされれば、俺にはどういう顔をして聞けばいいのかわからない。
だってそうだろ?
鷲見社長にすれば『俺という存在自体が気にくわない』、つまりはそういうレベルの話だからだ。
おかげで俺はただ、呆然として相手の顔を見上げることしかできなかった。
*問題ないという方だけ、スクロールしてどうぞ。
「私は君の存在を、学部や学年がちがえど大学にいたころから知っていたよ。でも君は私のことなど、まったく知らなかっただろう?」
うちの会社と取引をするようになって、はじめて鷲見社長の出身校を知ったくらいだ。
それについては、いいわけのしようもない。
「私ばかりが君のことを気にしてライバルと思っているのに、なのに君からはそう思われていないなんて……こんな滑稽な話があるか!?」
自分にとっての相手は常に先を行く存在なのに、相手にとっての自分はライバルとも認識されていないとしたら。
その虚しさと劣等感とは、心中を察してあまりあった。
もし立場が逆だったら、きっと自分だって鷲見社長のようにこじらせていたはずだ。
だって片想いにも似たその思いは、俺にもおぼえがある。
そうだ、夏希を特別に思っているのにそれが伝わらなくて、もどかしい思いを暴走させてしまう、白幡ルートのバッドエンドのときの自分自身だ。
実際にはきっとこの世界は白幡ルートのハッピーエンドで進行したことになっているから、起きなかったエピソードだけど。
でも、ほかでもない自分自身のことだから、そういう思考回路になるのは理解できた。
自分はこんなにも相手のことを想っているのに、どうして相手はその気持ちとおなじだけのものをかえしてくれない?
そんな思いは、相手に認められたい、ふり向かせたいという気持ちとなって爆発する。
もしそうなら、ある意味で鷲見社長は、もうひとりの俺だ。
ならばここで相手の激情を受け止めるのも、俺の役目なのかもしれない……。
その瞬間、たしかに俺は鷲見社長へと共感し、同情の念が芽生えはじめていた。
ゲームの世界に生きていた鷹矢凪冬也という人物は、これまでにさまざまな奇策を用いて、会社の規模の拡大を図ってきた。
そのなかには、勝つか負けるかわからない、ギャンブルとしか言いようのない策だってあったことだろう。
でもそれは、いくら勝てる見込みがあったとはいえ、現実の世界でとる策にしてはあまりにリスキーだった。
鷲見社長にはまねできないことであったと同時に、今の俺にもまた、決してまねできない策でもある。
───言うなれば、当時の俺が人としておかしかっただけで、その選択をできたことなんて、うらやましがっちゃいけないんだ。
なにしろこれまでの冬也にとっては、おそらく社員なんて会社を動かすための多数ある駒にすぎなかったし、個人とは認識せずに部署ごとに数値化したデータでしか見ていなかった。
なんなら会社の経営ですら、机上で立てた戦略のロールプレイ感覚でやっていただけだ。
そこで働く社員としては、たまったもんじゃないと思う。
それとは反対に鷲見社長は、ずっと社員のことをちゃんとした一個人だと、その存在を認めてあつかってきたはずだ。
彼がふだんどんな社長なのかは、俺がここへ来たときの社員たちのあの歓待ぶりでわかる。
だって会社をかたちづくる社員というのは、そのまま社長の鏡でもあるから。
あんなにあたたかい空気を作り出せる社員がたくさんいるなんて、それだけ鷲見社長が社員のことを思って心をくだいてきたからにちがいない。
残業が多い職場なのに、社員たちの顔色も悪くなく、なにより目が死んでいなかったのも、ポイントが高い。
もしおなじように、うちの会社にだれかを招いたとして、はたしておなじような歓迎ムードが出せるかといったら、きっと無理だろう。
もっとあっさりとしたものになるだろうし、ムダを嫌う風潮で、関係部署の社員しかあつまらなかったかもしれない。
そうだ、それってつまりは───。
「あなたには、人望がある……っ!血をわけた兄弟や、長年支えてきてくれたはずの秘書にすら愛想を尽かされ捨てられた俺では、決して持ち得ない人望が……」
思い出すだけで、胸がキリキリと締めつけられる。
「冬也、くん……?」
鷲見社長から、とまどうような声で問いかけられた。
でも、ぼろぼろとあふれ出す涙は、止めようがなかった。
「俺には、あんたみたいに『人柄が好きだから』なんて言って、利害関係なく助けてくれる相手はいない!」
「だがそんなもの、君の持つ強大なコネクションの前では意味がないだろう?!」
「そんなの、ビジネス上の付き合いだけだ!俺はあんたみたいに相手の気持ちを推し量れないし、自分の気持ちを伝えることすらうまくできないんだ……っ!」
おたがいに、一歩も主張をゆずらない。
特に技術力を見込んでうちの会社から取引をしたいと話をもちかけた相手には、我が社のネームバリューをもってしても、相手が職人気質だった場合、取引口座のあるイーグルスター社をかませなくては応じてもらえないことだってあった。
そんな相手は、皆こぞって『鷲見社長の人柄に惚れたからこそ』と口にする。
それでも前の俺なら、条件さえ満たせば取引に応じてもらえるならそれでいいと、理由なんて気にも留めてなかっただろう。
でも今の俺にとっては鷲見社長の持つ、その人との心からの信頼関係を築ける人望が、なによりもうらやましかった。
「政財界の偉いヤツらが俺に肩入れするのだって、見ていておもしろくて利益になるから、ただそれだけだ。もしこのままうちの会社が破綻したら、きっともう見向きもされない。ヤツらにとっての俺なんて、しょせんは見せもので、イロモノでしかないんだよ!」
気がつけば、すっかり口調が乱れていた。
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だから一応、さっきまでは敬語を使っていたし、一人称だってふだんの『俺』ではなく『私』と言っていたのに、その仮面をかぶりつづけることもできなくなっている。
山下のときといい、すっかり俺は弱くなってしまった。
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「だから……人の気持ちがわかって、そこまで人から愛されるあんたが、俺にはうらやましくてしかたない……」
つぶやく声は、どんどんと弱々しげなものになっていく。
こんな弱い俺じゃ、なにも守ることなんてできないのに……。
でも、もし俺が鷲見社長のような性格だったら、夏希だってもっと笑顔にしてやれた。
あんな風に冷たい言い方をして泣かせることもなかっただろうし、俺から嫌われているなんて誤解をあたえることもなかったはずだ。
それを思うだけで、不器用すぎた自分が不甲斐なくて、涙はあとからこぼれてくる。
「~~~~っ!!」
そんな俺の姿を見た鷲見社長は、顔を真っ赤に染めて口もとを隠し、うつむきがちに黙り込む。
と、次の瞬間。
「っ!?」
思い切り抱きつかれ、キスをされていた。
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やがて顔をあげた鷲見社長は、なにかを決意したかのように精悍な顔つきをしていた。
そしていまだに入れられたままだったそれが、ゆっくりと引き抜かれる。
「ひぁぁ……ッ!」
それにあわせて背すじには甘い刺激が走り抜け、なかに出された白濁がゴプリとあふれ出す。
「───私はずっと、君にたいして劣等感を抱いてきた。どんな大物を前にしても怯えることなく、仕事ぶりもその結果も、なにもかもが完ぺきで付け入る隙すらない神のごとき君を前にすると、なんて自分は矮小なのだろうと落ち込んできた……」
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とはいえ経営者としてならば、経済学部卒の鷲見社長のほうが優れていてもおかしくはない。
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似たような策を講じたところで、『しょせんは二番煎じだ』と言われるあげく、なぜか鷲見社長では失敗することだってあった。
そうなればマスコミは、ふだんはこれでもかとヨイショをして持ち上げてきたくせに、よろこんでその失敗をあげつらったことだろう。
そうしたことの積み重ねで、簡単に人の心はすり減っていく。
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