当て馬系ヤンデレキャラから脱却を図ろうとしたら、スピンオフに突入していた件。

マツヲ。

文字の大きさ
9 / 55

*9.相手からの新たなフラグが立った件。*

しおりを挟む
*今回もさほどキツくはないと思いますが、事後描写がありますので、念のため注意喚起です。
*大丈夫なかたは、スクロールしてどうぞ。






 鷲見わしみ社長にとっての冬也とうやは、そこにいるだけで己のプライドを無意識に傷つけつづけてくる相手だった。
 だからこうして無理やり犯し、その尊厳を傷つけることで、自らの尊厳の回復を図ったのだと言われたら、悲しいことにその気持ちを理解できてしまう。
 だってそれは、立派な代償行動だ。

 でもだからこそ、今さっきのキスとその感情とが結びつかない。

 感きわまったみたいに何度も角度を変えつつ、くちびるをはんできた情熱的なそれは、まるでいとおしいと思ったときのキスにも感じられて。
 ふつうはそこまで激しい恨みを持つ相手に、そんな感情、芽生えるはずがないのに……。

「───ただ、今の君は変わった。私にとっては手が届きそうで決して届かない、まぶしい存在だったはずの君が今、はじめてかわいらしく見える。ちゃんと私とおなじ人間だったんだって、そう思えてきた」
「鷲見社長……?」
 そして額に落とされたキスは、ふしぎと甘やかなものだった。

「冬也くん、私は君のことが……っ!」
 と、そのとき。
 プルルル……
 内線の着信を告げる音が、微妙に緊迫した空気が流れる室内に鳴り響く。

 いまだにこちらは執務デスクのうえに押し倒されて手首をそのスタンドライトへとくくりつけられたままで、あからさまに事後の気配をただよわせた裸体をさらしている。
 俺の様子を見て逡巡した鷲見社長は、しかしすぐにデスクの上で鳴る電話の受話器を持ちあげた。

「───あぁ、私だ。なに、そうか、そのままつないでくれ……はい、鷲見です。いつもお世話になっております」
 どうやら電話の相手は商談相手のひとりだったようで、そのまま打ち合わせを進めていく鷲見社長の顔は、すっかりいつものビジネスマンとしてのものにもどっていた。

「───つぅ……」
 ようやく人心地がついて、小さくため息をつけば、固い執務デスクのうえで無理な体勢を強いられていたからだ中が、ズキズキと痛んだ。
 むろん、無理やり受け入れさせられたそこには、なんとも言えない違和感があった。

 またもや泣いてしまったせいで、顔はぐちゃぐちゃになっているだろうし、なによりなかへとぶちまけられた相手の欲望の残滓が、どろりとあふれだしてきて、冷えてきているのも気持ち悪かった。
 でも両手首が縛られているせいで、身を起こすことはおろか、自分ではどうすることもできないまま、相手の通話が終わるのを黙って見守るしかなかった。

 状況としては、この社長室の防音性能をかんがえたら、いくら声をあげたところで外には聞こえない可能性もあるし、ついでに社員なら自社の社長のことをかばうかもしれない以上、ここで騒ぐのは得策ではないとは思う。
 あいかわらず自分が拘束されたままだし、もし外部に助けを呼ぶなら、今の電話の最中に声をあげるのがベストだったはずだ。

 ただ、なんとなくそれをするのはためらわれた。
 ひょっとしたら、今の俺の判断は甘かったかもしれないけれど。

 でも、本来なら社会的な成功者で、だれに引け目を感じる必要もない鷲見社長をゆがめてしまったのは、まちがいなく自分のせいだ。
 その意識が、こちらの被害を訴える気持ちを相殺していた。
 もやもやとした思いをかかえているうちに、やがて鷲見社長はあいさつをして受話器を置いた。

 その目には、いつものような理知的な光が宿っている。
 さっきまではつりあがり、険しい表情を作っていたその目もとも、今は少しタレ気味な愛嬌のある元の様子にもどっていた。

 ───でも、正直なことをいえば怖い。

 今まで見たこともないほどの、暴力的な鷲見社長の一面が垣間見えた今回のできごとで、すっかりとその恐怖がからだに刻み込まれてしまっていた。
 そのせいで相手がそばにいるというだけで心臓は激しく脈打ち、こらえきれないふるえが走ってしまっていた。

「すまない、鷹矢凪たかやなぎ社長!今夜の私はどうかしていた……あやまって済む問題ではないだろうが、『慰謝料を』というのなら、可能なかぎり誠意をもって応じたいと思う」
 鷲見社長と目が合えば、先に口を開いたのは相手からだった。

 いくらカーペット敷きとはいえ、床に直接土下座をしてこちらを見上げ、今にも泣きそうな顔であやまる様子からは、うわべを取りつくろうだけではない心からの謝罪の気持ちがにじんで見えた。
 そして俺がためらいがちにうなずくのを見ると、すぐにこちらに駆け寄り、手首を縛っていたネクタイをほどいてくれる。

 ようやく自由になった手を引き寄せ、目をつぶって荒い息をくりかえし、なんとか心臓をなだめようとすれば、目尻にたまっていた涙が、ふたたびツゥッと流れていった。
 大丈夫、次に目を開くときにはいつもの『冷静で冷徹な社長・鷹矢凪冬也』としての仮面をかぶるんだ……。

「……いえ、どうやら私も冷静ではなかったようです」
 ようやく落ちついてきてくれた脈拍に、ホッと息をつくと、ゆっくりと身を起こしてそうこたえる。
 とはいえ、若干声はふるえてしまっただろうか。

 あぁ、我ながらひどい見た目だ。
 最初に付けられた鎖骨のあたりのキスマークはハッキリと紅く、その存在を主張しているし、きちんとセットされていたはずの髪はおたがいに乱れ、それに縛られていた手首もすれてところどころ血がにじんで赤くなっていた。

 相手の欲望をぶちまけられたそこからは、立ち上がった拍子にあらためて白濁した粘液がツゥッと流れ出し、内ももをぬらす。
「っ?!」
 その気持ちの悪さとからだの痛みとで、一瞬ふらつきそうになった。

 あからさまな事後の様子を見せているであろう俺は、さらに目もとには涙を流したあとがある。
 それが同意のうえの行為でなかったことは、一目瞭然だった。
 ふたたび視覚からも突きつけられた現実に、目の前が暗くなりそうだった。

 とっさに見ていられなくて、ボタンのはずされたままのシャツをかきあわせ、ぎゅっとにぎりしめる。
 いちどは落ちついたと思ったはずの心臓はふたたびバクバクと早鐘を打ちはじめていたし、鷲見社長にたいする警戒心も完全にはとけないでいた。

「ひどい顔色だ……」
「えっ……?」
 スッと頬に手を添えられ、とっさに肩が大仰なまでにハネた。

 そんな過剰とも言える俺の反応に、失礼だといきどおることもなく、鷲見社長は深々とあたまをさげてくる。
「本当にすまないことをした……いくらカッとなったからとはいえ、決してゆるされることではなかった」
 そしてすばやく壁にかけていたジャケットからハンカチを取り出すと、室内の洗面台でぬらして差し出してきた。

「その、私が出したものだけに、自分が処理をすべきなのだが……今は私が君に触れてはいけないかとも思う」
「ありがとう、ございます……」
 そのハンカチで泣き腫らした目もとに押しあてれば、ひんやりとして気持ちよかった。

「服もシワになってしまったな……その、替えの服もなくはないんだが、私と君とではサイズがちがうだろうし……」
 たしかにスポーツマン体型の鷲見社長と俺とでは、身長もちがえば、首の太さから胸板の厚さ、腕の太さまでちがう。

 ふだんからオーダーメイドの服を着なれている冬也がオーバーサイズの服を急に着て出ていけば、ここでナニがあったかなんて、口にしないでも伝わってしまう。
 それだけは避けたい事態だ。

「けっこうです。私もこんなことをされたなんて、他人に知られたくはないですし……」
「『』か……本当に申し開きのしようもない!」
 そうして気まずそうに目をそらしながらも、拾いあげた服を差し出してくる鷲見社長の横で、追加で差し出されたティッシュでからだを伝う粘液をぬぐうと、服を着て身じたくをととのえていく。

「……それにしても意外でした。あなたはいつでも人あたりがよくて、笑顔だったから……そこまで私のことをうとましく思われていたなんて、まったく気づいていませんでした。無神経な私の言動で、さぞお心を痛めてきたのでしょう?」
 その気まずい沈黙に耐えきれなくなって、先に口を開いたのは俺のほうからだった。

「いや、そのそれは……っ!たしかにさっきまではそうだったかもしれないけど、今はちがう!私は、君のことが……っ!」
 目もとを赤く染め、あわてたように言う鷲見社長を見ていると、あんなことをされたあとだというのに、なぜか心の底から憎むことができないでいる。

 だって鷲見社長は、ある意味で夏希なつき白幡しらはたとおなじ、ゲームのなかのキャラクターである鷹矢凪冬也という人物によって苦しめられた被害者でもあるわけで。
 そこは同情こそすれど、なんて身勝手な、と糾弾しようとは思いにくい。

 本当に、我ながらほだされたものだ。
 前の冬也だったら、絶対にかんがえられないことだ。
 でも、鷲見社長には、そうさせてしまうだけの、不思議な魅力があった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】奪われて、愛でられて、愛してしまいました

  *  ゆるゆ
BL
王太子のお飾りの伴侶となるところを、侵攻してきた帝王に奪われて、やさしい指に、あまいくちびるに、名を呼んでくれる声に、惹かれる気持ちは止められなくて……奪われて、愛でられて、愛してしまいました。 だいすきなのに、口にだして言えないふたりの、両片思いなお話です。 本編完結、本編のつづきのお話も完結済み、おまけのお話を時々更新したりしています。 本編のつづきのお話があるのも、おまけのお話を更新するのもアルファポリスさまだけです! レーシァとゼドの動画をつくりました!(笑) もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

処理中です...