当て馬系ヤンデレキャラから脱却を図ろうとしたら、スピンオフに突入していた件。

マツヲ。

文字の大きさ
27 / 55

27.酔っぱらいをあしらうつもりが、シクッてしまったらしい件。

しおりを挟む
 ふすまを開けてこの部屋に入ってきた、3人の見慣れぬ男たちに内心焦りが生じそうになる。
 もちろん、それを顔には出さないというか、むしろめったなことでは出ないのだけど。

 でもどう考えても、このあと彼らに絡まれるのは目に見えていた。
 なにしろ、ここはBLゲームのスピンオフの世界であると推測される以上、いろんな意味で油断は禁物だった。

 あらためて闖入者たちを見る。
 年齢は俺とそう変わらないようにも見えるけれど、実際にどうなのかは微妙なところだ。
 いずれも髪型をセットし、吊るし売りの安物ではなさそうな、きちんと体型に合ったスーツを身にまとっていることから、それなりに金まわりのいい人物であることは知れる。

 けれど、いかんせん彼らの品性を疑いたくなるくらいには、乱れた姿をしていた。

 もちろん呼気がアルコールくさいのは言うまでもないとして、顔どころか、ゆるめたYシャツの首もとから見える範囲まですべてが真っ赤に染まっていた。
 そんな彼らの様子をひとことであらわすならば、泥酔まぎわといったところだろうか?

 深い色味と艶のあるネクタイはだらしなくゆるめられ、形のよいジャケットのボタンは開けっぱなしになってシルエットがくずれてしまっている。
 ていねいにアイロンをかけられているYシャツも、残念ながらその裾がきちんとしまわれていない。
 おかげでせっかくの仕立てのよいスーツが、その良さを生かしきれていなかった。

「どうもこんばんは~!飲んでますかぁ~!?」
「っ!?」
 いきなり親しげに後ろから肩に手を置きながら、顔をのぞきこむようにしてあいさつされる。

 とたんに、鼻先に強いアルコール臭を感じた。
 顔をしかめなかっただけ、俺はよく耐えたと思う。
 ……まぁ、いつものポーカーフェイスのおかげではあるのだけど。

 そして俺の肩に手をかけてきた男は、酒匂さかわ先生の許可を得る前に、さっさとこちらの左隣に腰かけてきた。
 しかも右隣には、残りのふたりが陣取ってくる。

「あの……?」
 なんなんだこれは、俺の忍耐力を試すイベントだったのか?!
 そんな気持ちを必死に覆い隠して、作り笑いを浮かべる。

 けれどそんな俺に、なにを勘ちがいしたのか、両脇からぴったりとくっつかれるようににじり寄られ、さらに不快感は増していく。
 よりによって、なんでこんなふうに張りつかれなくてはいけないのか、舌打ちをしたい気分だった。

「紹介するよ、冬也とうやくん。彼らは知人の息子さんたちでね」
 若干眉根が寄りそうになったのを必死にこらえて無理やり笑みを作ると、酒匂先生が彼らを紹介してくる。
 その様子に、やはり……と察する。

 俺の知るかぎりで酒匂先生は、もとより礼節を重んじるタイプの人種だった。
 どんな相手だろうと、まずは自分からも最低限の礼儀は尽くさないと気が済まないし、もちろんそれを相手にも求めるタイプだ。

 だからそれが守られない場合、その相手は容赦なく嫌われ、切り捨てられる。
 彼らはその点で、先ほどから酒匂先生の神経をことごとく逆なでしているようにしか見えなかった。

 それを不快ながらもゆるしているなんて、よほどその知人とやらに恩を感じているんだろうか?
 それとも、逆に売りたい恩でもあるのか……。
 つい、そんなことを勘ぐってしまう。

「どうも~、はじめまして、鷹矢凪たかやなぎ社長?ささ、まずはお近づきのしるしに、一献どうぞ!」
 そして3人の男たちは持参したお銚子から、俺のお猪口へと熱燗を注いでは、次々に名乗っていく。
 そのたびにひとくち飲んでは、手持ちのお銚子から返杯をする。

「いやー、鷹矢凪社長はなかなかイケる口ですね」
「先生方こそ」
 ここら辺は、だいたいの接待ではお約束のやりとりだ。
 実際、冬也は酒にも強いのだけど。

「あらためまして、鷹矢凪冬也です。皆さまのメディアでのご活躍は、常々拝見しております。お会いできて光栄です」
 瞬時に思い出した情報の断片を整理しながら、無難なあいさつをかえした。

 それにしても───彼らの名前には聞き覚えがある気がしていたけれど、どうやら最近テレビ露出もそれなりにある、二世議員たちだったらしい。

 たしか、俺の左隣を陣取るのは『イケメンすぎる議員』みたいなことを言われているホストくずれのようなヤツで、右隣はぶっちゃけ系おバカ発言で話題になっているヤツと、世間知らずなお坊っちゃまキャラで売っているヤツ、だっただろうか……?

 実際、主婦層だの若者層だのと、ふだん政治とは遠い層からの支持があるらしい彼らは、テレビ映えするからという理由もあって、バラエティ系情報番組を中心に引っぱりだこになっていた。

「いやはや、天下の鷹矢凪社長が我々をご存じとは、恐悦至極ですな!」
「いえいえ、皆さまそろって市井で人気の方々ですから」
 ホストくずれみたいな男が、大仰なポーズであいさつをしてくるのに、おなじくリップサービスでかえす。

「いや~、それにしても写真で見るよりも、はるかにホンモノは美人さんッスねぇ!しかもなんかイイニオイするし!!」
 今度はおバカ発言の男が、こちらの首すじに顔をちかづけながら、ニヤニヤと笑いを浮かべてふざけたことをぬかしてくる。

「私のような若輩者は、せめて爽やかさくらいは売りにしなくてはいけませんから」
 そこは必死にこらえ、ほどよく冗談で切りかえした。
 男にたいして『美人』などと褒められたところで、この世界観をかんがみるに、恐怖にも近い不快感しか湧いてこないというのに。

「その様子は、さながら『麗人』といったところでしょうか?」
 お坊っちゃまキャラで売っている男は、セリフこそていねいな口調ながら、しかし早口で聞きとりにくい声色はねっとりとして、滑舌が悪い。
 なんというか、キャラクターを作り込みすぎたキモヲタみたいな感じがした。

「フフ、お上手ですね」
 けれどそれもまた、うまいこと愛想笑いでごまかしておく。
 なんとかうまくかわせているだろうか?

 次々とお酌をしてくる彼らからの薄笑いを浮かべた顔と、なめまわすような視線が、ひどく不快にまとわりついてくる。
 あぁ、どう見てもコイツらはゲスだ。

 ───なぜこんなヤツらだというのに、一般人からの人気があるのだろうか?
 心のなかで、そっとグチる。

 そういえば……と、さらに追い討ちをかけるような彼らの素行の悪さを思い出す。
 週刊誌にスクープされそうになるたびに、大物議員である彼らの親たちが金をバラまいて、うやむやにしてきたのだとかなんとか。
 この話をしてくれたのは、たしか秘書仲間から聞いたとか言っていた白幡しらはただったか……。

 必死に脳内にある彼らにまつわる情報を引き出してみれば、案の定、見た目を裏切らない残念すぎる相手だった。
 油断をすれば、ついげんなりしそうになる表情を、必死につくろって引きしめる。

「いやぁ、それにしても皆さまそろってお若いですね」
 そして彼らの年齢は、たぶん俺とはひとまわり近くちがうはずだ。
 もちろん、彼らのほうが上だ。

 なのに第一印象では俺とそう変わらない年齢に見えたわけで。
 ある意味で『とても若く見える』というわけだ。

 一般的には、実年齢より若く見えるというのは褒め言葉だ。
 だけどこの場合、かなり若く見られるのは『幼い』───つまり『人として成熟できていない』ということでもあり、ビジネスの世界においては決して褒め言葉とはかぎらなかったりもするのだが……。

「いやぁ、お若いだなんて照れちゃうなぁ!」
 なのに俺のセリフを額面どおりに受け取ったホストくずれの男は、照れくさそうに身をくねらせる。

「じゃあ、ここは若いもの同士、もっと親交を深めちゃいますか!」
「いいですよね、酒匂先生?!」
「……あぁ、かまわんよ」
「え……っ?」

 おバカ発言男とお坊っちゃまキャラの男が便乗してきたのに、まさか酒匂先生が乗るとは思わなかった。
 ひょっとしたらコイツらといっしょに飲みたくなかっただけで、ていよく厄介な酔っぱらいどもを押しつけられただけなのかもしれないけれど。

「君たちはゆっくりと楽しんでくれたまえ……それじゃ冬也くん、またな?」
「あの、酒匂先生……っ!?」
 これ幸いとばかりに席を立たれ、しかし両脇を固められていた俺は、見送ることもできないままにその場へと置いていかれた。

 ウソだろ、冗談じゃない!
 そう口に出せたらよかったのに……。

「じゃー、あらためて乾杯~~!!」
「「カンパ~イ!!」」
「は、はぁ……」
 結局自分も帰りたいとは言える雰囲気ではなく、相手のノリといきおいと実年齢差に押し切られ、それから何杯か杯をかさねてしまった。

 きっと、ゲーム本編の冬也ならば、うまいこと言って切り上げられていただろうに。
 つい、ここがスピンオフのゲームの世界ならばと警戒を強めるあまりに、強硬に断ることもできなくて。
 それが致命的なミスだと気づかされたのは、そのすぐあとに急激な酔いがまわってきたからだった。

「あ、れ……?」
 おかしいな、なんだかフワフワとする。
 軽くあたまをふっても、全然スッキリと晴れなくて。

 どうやらこれは想像し得るかぎりで、いちばんヤバいかたちでイベントが進行してしまっているのではないだろうか?
 そう気づいた俺は、思わず奥歯を噛みしめたのだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...