当て馬系ヤンデレキャラから脱却を図ろうとしたら、スピンオフに突入していた件。

マツヲ。

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41.思った以上に深く踏み込まれた件。

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 いくら造作のととのった顔とはいえ、これまでならばアレクの顔なんて、なんとも思っていなかったはずなのに、なにを今さらときめいているのだろう?

 ───いや、そんなのは考えるまでもなかった。

 だってこたえはすぐにわかってしまう、アレクがひどく難解な俺のセリフの意味を正しく理解してくれたからだってこと。
 長年俺に仕えてきてくれた白幡しらはたですら、正しく読み取ることができなかったというのに。
 ジワリ、とその事実が心に沁みる。

 たとえるならば、だれにも言語の通じない異国で突然、流暢な母国語を話せる相手に出会ったようなものだ。
 そんなもの、ホッとするに決まってる。
 そんならそんな言葉じゃ済まないくらい、うれしくて頼りたくなってしまうだろう。

「……あぁ、そのとおりだ。すまない、せっかく心配してくれたというのに、俺はこんな言い方しかできないんだ。直そうとはしているつもりなんだが……」
 気がつけば、よそおうことを忘れて、すなおに謝罪の言葉を口にしていた。

「っ!?おどろいたな……キミがそんなに殊勝な態度を見せるとは……」
「悪かったな、いつもの態度が傲岸で」
 口では悪態をつくのに、厳しい顔を保てない。
 気がつけば、かすかながらもほほえみが浮かんでいた。

 あぁ、そうか……こういうことだったのか。
 今ならあのころのアレクの気持ちが、よくわかる気がする。
 はじめて出会ったときのこと、やたらともったいぶった言いまわしをするアレクに、まどろっこしいとばかりに、『本心を隠すな』と告げてずばりと切り込んだっけ。

 本心を言い当てて、だからちゃんと自分の気持ちを言葉にしろって説教したことは、記憶の奥底に眠っている。
 当時の自分は、本当に『なんて面倒くさい男だ』としか思っていなかったのだけど。

 いつだって本心を隠して、利口に立ちまわりつづけてきたアレクにとってのそれは、どれほどの衝撃的な出来事だっただろうか?
 想像するのは、そうむずかしいことではなかった。

 久しぶりに再会して、アレクからの執着を冷静に分析していたときは、どこか一般論として『そういうこともある』としか思っていなかったけれど、こうして我が身に起きてみれば、はじめて実感がわいた。
 誤解をされず、正しく己を理解してもらえるということが、こんなにもうれしくて心をゆさぶられることだなんて。

 いやでも理解してしまった───理解させられてしまった。

 固く閉ざされていた、俺の心の扉が開かれた気配を感じたんだろう。
 アレクはくちびるにフッと笑いを刷くと、よそ行きの顔を作る。

「すまない、久しぶりに会えたトーヤと昔話に花を咲かせたいから、しばらくふたりっきりにしてくれないか?」
 そのよそ行きの顔のままに、ふりかえって夏希なつきたちのほうに問いかけた。

「……え、えぇ、わかりました。それじゃ兄様、またあとでね」
「あぁ」
 なにかしらそこに不自然さのようなものを感じたんだろうか、若干こちらを気にしながらも、しかしふたりはアレクからのお願いにすなおに従う。

 と言っても白幡だけは、なにかもの言いたげな表情を浮かべていたけれど。
 しかし結局は口にすることはせず、黙ってそのまま出ていった。
 まぁ直前の俺の雰囲気からすれば、決して悪い雰囲気ではなかったように見えているだろうしな。

「さて、と……コーヒーでも飲むかい?たしか好きだったよね?」
「結構だ。なにが『旧交を温めたい』だ、こんな突然あらわれたかと思ったら、問答無用で人を監禁するなんて、いったいどういうつもりだ!?」
 夏希たちが出ていったとたん、さわやかさが失せ、一気に胡散臭さを増したアレクの笑顔に悪態をつく。

 きっと、ここからが本題だ。
 俺がバッドエンドの凋落コースを歩まないためにも、ここで選択肢を誤るわけにいかない。
 そう気合いを入れて、どんな話が飛び出すのかと身がまえた瞬間。

「キミが欲しかったからだよ、トーヤ」
「え……?」
 苦しそうに眉根を寄せ、あまりにも切なげにささやかれたアレクのセリフに、ふたたび俺の脳みそはフリーズした。

 いやいや、いくらなんでも『俺を欲しい』からとか。
 そのためだけに、有名企業の社長を誘拐するのは、さすがにリスクが高すぎる気がするのは、俺の気のせいだろうか?
 なんというか、いかにもBLゲーム的な理由がすぎる。

「それで、こんなところに閉じ込めたくらいで、俺が手に入ったと思えたか?」
「少なくとも物理的には」
 俺からの挑発的な問いかけに、しかしアレクは余裕のある笑みを浮かべてこたえてきた。

 それは、あながちまちがえてはいないと思う。
 たしかにこんなふうに手枷をつけられた状態じゃ、自力で逃げ出せるとは思えないし。
 そもそも俺は、ここがどこなのかも知らないくらいなんだ。

「いくら俺を閉じ込められたところで、いつまでもここにいられるわけじゃないだろ、アレクは。俺以上に忙しく世界を飛びまわっているんだから」
 だから、早く飽きて解放してくれないものかと期待を込めて、そんなツッコミを入れる。

 彼のビジネスにおけるフットワークの軽さは、世界的にも知られた話だ。
 そんなアレクだからこそ、『中国出張のついでに日本寄る』なんていう荒業がカマせるのだろう。
 だけど。

「そうでもないさ。忙しいと言っても、たんに移動距離が長いだけだよ。自社以外にまで働きに出ているキミなんかよりも、よほどワタシは楽をしていると思うけどね」
 そんな揶揄にたいしてかえされたのは、予想もしない内容だった。

「っ!?まさか、知ってたのか……」
「そりゃ、キミに関することだからねぇ」
「ってことは当然、どこに通っているのかも知ってるってことだよな?」
「あぁ、イーグルスターカンパニーだね?」

 ───正直、おどろいた。
 そりゃアレクのことだから、さりげなく俺の動向くらいは知っていそうというか、会社がメインバンク破綻の影響を受けて大変だったことくらいは知っているんじゃないかと思っていたけれど、まさかそこまで把握しているとは思わなかった。

「しかし……ミスター鷲見わしみに先を越されるとは思わなかった。てっきりヤツは、キミにたいするコンプレックスをこじらせているだけで、なにもできない腑抜け野郎だと思っていたのにな……」
 それどころかアレクは、さらに踏み込んだ発言をする。

「……アレクと鷲見社長の接点なんてあったのか?なんだかやたらと鷲見社長のことに詳しいじゃないか」
 つい、その違和感が口をついて出てしまう。
 鷲見社長にたいする評価が、まるで近くで見てきたみたいな言い方なのに引っかかったというべきか。

 だってそうだろう?
 世界に名だたる石油王の息子のアレクと、極東にある小国の新興企業の社長にすぎない鷲見社長とでは、仕事のからみがあるとも思えない。
 俺だって、たまたま大学生時代の留学先で同級生だったからこそ、こうして気安く話せているだけで……。

「っ、そこを疑問に思うくせに、キミはずいぶんと察しがわるいな?!」
 なのに、アレクときたら突然赤面したかと思ったら、照れたように大声をあげる。
 どういうこと、なんだ……?

「いや、だって鷲見社長とアレクとの接点なんて仕事では思いつかないし。アレクが興味を持つなんて、めずらしいな」
 アレクのことだから、よほど気に入っているとかなんだろうか?

「ちがう!ミスター鷲見になんて興味はない!ワタシが見ていたのはトーヤ、キミだけだ!!」
「えっ?」
 ちょっと待て、なんでアレクはそこで耳まで真っ赤にして照れているんだ。

「学生時代からずっと、キミだけを想いつづけてきた。あのころから己の信念を持ち、だれにも屈することなく堂々とふるまうキミがまぶしくて、ずっと焦がれてきたんだ!」
「っ!?」
 それは、想像以上にまっすぐな告白だった。

「離れたところにいても、キミのことをずっと想っていたよ。だからこそ知りたいんだ、キラキラと光輝くダイアモンドのように強く美しいキミが、時おり見せる『怯え』のようなものの理由が……その原因を作ったヤツを、ワタシは決してゆるさない!!」
「それ、は……」
 というよりも俺からすれば、痛いところを突かれた気分だった。
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